味醂@ts36kb上り坂をものともせずに疾走する兄に憧れて、絶対自分も同じコースを走ると決めていた。来年こそは。四年間、ずっと諦められなかった。 手元のスマートフォンから実況と中継が流れる。分かっていただろう、常に比べられてしまうことは。別の競技に進む道だっていくらでもあったはずだ。午前7:17 · 2023年1月2日890 件の表示19 件のいいね
味醂@ts36kb·1月2日返信先: @ts36kbさん何度も言った。俺の後だけを追う必要なんてどこにも無いと。それでもアイツはひたすらに頑固で、道を変えずにここまで来てしまった。しかも、大して得意でもない坂道にこだわって。 俺は、兄貴と同じ世界が見たいんだよ。そう呟いたときの真っ直ぐな瞳を、俺は一生忘れないだろう。18
味醂@ts36kb·1月2日今年もアイツが走ることはない。年末の時点でそう決まっていた。それでもどこかで願う自分がいて、OB解説の依頼を断ってしまった。もしアイツが走ることになったとき、目の前で見ていられるようにと。 走ることになったと弟から連絡を受けたのは、前日の夜だった。18
味醂@ts36kb·1月2日内々ではもっと前から算段が決まっていたのだろうが、確定してから言いたかったからとホテルから電話をかけてきたのだ。 あまり長く話はしなかった。待ってると一言だけ、伝えられればそれでよかった。どんな結果になろうとも、もう見届けることしか兄ちゃんにはできないから。18
味醂@ts36kb·1月2日ゴールの数百メートル手前、ラストスパートがよく見える場所で中継を聴く。ここで毎年、お前は精いっぱい声を上げて俺を応援してくれた。 お前がここで姿を見る一番最初のランナーは、毎年俺であってほしかった。姿を見つけてぱっと明るい表情を見せる一瞬を、なぜか毎年鮮明に見つけることができた。18
味醂@ts36kb·1月2日お前の声は、いつもよく聞こえていた。お前の声が聞こえると、自分でも不思議なほどに足取りが軽くなった。お前の声がなければ、お前がここで待っていてくれなければ、伝説の呼び声など生まれなかっただろう。 ここならよく見えるだろう。よく聞こえるだろう。最初で最後、今度は兄ちゃんが待つ番だ。18
味醂@ts36kb·1月2日ここを通るまでは、まだしばらくかかるだろう。弟が競っている。ここで無理をすると後が辛い。後ろを着いていけるだけでも十分だ。 そう思ったのに、弟は速度を落とさずにぐんぐんと抜いていった。ここで競り勝って抜けるのか、お前は。18
味醂@ts36kb·1月2日伝説の再来か。実況の興奮した声が自分の名前を呼ぶ。区間新が見えてきた。ここで獲ったら、お前は兄ちゃんよりも凄いぞ。まるで俺の声が聞こえたかのように、追走のランナーを突き放していく。 もしかすると、最初に来るんじゃないのか。鼓動が早まっていく。まるで自分が走っているかのようだ。18
味醂@ts36kb·1月2日あと少しで姿が見える所まで来た。しかし、足取りがだいぶ重くなっている。前半で無理をし過ぎたか。このままだと追いつかれるかもしれない。もう少し、あと少しでいいから頑張ってくれ。兄ちゃんが待っているから。18
味醂@ts36kb·1月2日弟の姿が目に入った。疲労が色濃く見えている。ここで失速しなければ、あるいは、ここでラストスパートを決められれば。 「気張れげんやァ!」 大きく声を上げた瞬間、弟が目を見開いたのが分かった。さっきまでとスピードが明らかに違う。いける。そう直感した瞬間、自然と身体が動いていた。18