2018年12月19日,神戸地方裁判所姫路支部で,わんずまざー保育園に対し,同園を利用していた園児及び保護者に約103万円を支払うよう命じる判決が言い渡されました。この訴訟には,姫路市内の5か所の法律事務所に所属する弁護士5名が関わっており,当事務所からは私が代理人に就任しました。
本件は,2017年3月,姫路市の認定こども園「わんずまざー保育園」(同年末に廃園)で,給食のおかずがスプーン一杯だけなどの劣悪な保育が行われていたことが大きく報道され,社会に衝撃を与えた事件につき,園を利用していた園児と保護者が,園長に対して,慰謝料や園に支払った入園料・保育料等の支払を求めた裁判です。保育実態が明らかになった後,大半の保護者は示談しましたが,原告夫婦は,元園長が反省の態度を示さず,説明責任を果たさないままでは示談できないと考え,訴訟提起しました。
しかし,元園長は,3回にわたって期日が指定されたにもかかわらず,書面を提出することも裁判所に出頭することもしないという無責任な対応に終始し,判決言い渡し期日を迎えたのでした。
裁判所は,わんずまざー保育園において,40人の定員に対し,私的契約児等を加えた70人超の園児を在籍させる一方,保育士を架空配置して架空のシフト表を姫路市に提出したり,35~45食程度の不十分な給食しか発注していなかったりしていたという劣悪な保育実態を認めた上で,支払い済みの保育料等相当額の賠償を命じました。
さらに,園児に提供した保育の具体的な内容な態様は,認定こども園に求められる保育の水準をはるかに下回り,自己の利益追求のため,園児の健康,安全,発育を蔑ろにするものであって,一歩間違えれば重大な事故が発生してもおかしくない危険を発生させ,適切な保育を受けることができる利益を侵害したと判断して,園児に対し50万円の慰謝料を支払うよう命じました。この慰謝料額は,金額が低額に抑えられる傾向にある裁判実務において,高額なものと評価でき,裁判所も本件保育園の劣悪な保育状況を厳しく断罪したものと考えられます。
被告の元園長は,判決後,賠償を命じられた金額を支払い,判決は確定しました。
本件は,幼児教育の在り方に一石を投じる重要な事件であり,勇気をもって訴訟提起にまで踏み切った園児のご両親に敬意を表したいと思います。
弁護士 土居由佳