「どんなこともつらかったら頼っていい」に救われた

大山:私自身、双子はめちゃくちゃかわいいし、双子でよかったとは思うんですけど。「(子育て)がいっぺんに終わるから、楽だよね」と言われたりすると、「そんなことない」とつらくなってしまうお母さんもいると思います。もちろん悪気があって言ったのではないことはわかっていますが……。

私は、産後、自治体の産後ケア事業にとても助けられました。産後ドゥーラさんが自宅に来てくれて、育児や家事をサポートしてくれたり、体のケアをしてくれるのです。多胎児の家庭は、サポートを受けられる期間が長いこともありがたかったですね。

一方で、SNSでつながった多胎児のお母さんの中には、子どもの夜泣きで悩んでいる方もいました。皆さんの声を聞くうち、「うちの子たちは夜泣きもないし、自分はそこまで大変じゃないのに助けてもらっていいのかな」と言う気持ちになってきたんです。あるとき「産後ドゥーラさんをもっと大変な家庭に派遣してもらった方がいいんじゃないかと思う…」と、打ち明けました。すると、産後ドゥーラさんが「大山さんには大山さんのつらさがあって、人と比較するものではありませんよ。どんなことでもつらかったら頼っていいんです」と言ってくださって、気持ちがとても楽になりました。

新生児のころは二人いっしょに抱きかかえることもできたけれど、1歳過ぎると難しいと大山さん。写真提供/大山加奈
 

今西:そうですね。特に産後1ヵ月以内の母親には、濃厚なサポートが必要です。僕は、大阪にある大学病院の新生児科の医師として働いてきましたが、そこでは赤ちゃんが病院に1泊するのに、自治体から補助金が出て3千円で泊まれるのです。産後の女性があまりにも育児に疲れてたら、赤ちゃんの方を預かってお母さんを救いましょうと、そのためのサポートです。補助がなければ通常は1泊3万円です。この差は大きいですよね。3万円では利用を諦めてしまう人が多いと思います。

大山:私も入院前に産後のケア施設を調べましたが、躊躇する値段で、とても利用できませんでした。自治体の産後ドゥーラさんの支援があって本当に助かりました。

今西:「母子手帳をただ渡して、二人の親なんだからあなたが頑張りなさいよ」ではなく、やはり、行政なり国の実質的なサポートというのは必要ですね。産後ケア事業は、自治体ごとの運営に任されているので地域差がどうしても出てきてしまう。「頑張れ!」と応援するだけでは、母親は楽になれませんから、そこは手厚く支援が届くようにして欲しいですよね。同時に、男性の育児参加も上げていきたいですね。

大山:今西先生は、お医者様だから育休を取るのは難しかったんじゃ…。

今西:僕は取りましたよ。新生児科医だから、小児科医だからと言って育児が得意なわけではない。それは、自分自身が育児休暇をとってわかったことで、僕ら医師こそ取らなきゃいけないと感じています。今の新入社員の男性の8割は、もう会社が育児休業を取れるかどうかという視点を持って会社を選んでいる。もうそういう時代なんですね。家事や育児にちゃんと関わっていれば、生活に必要なものが何がどこに置いてあるかがわかる。歳をとってから、家で自分の居場所がなくなるなんてことはないですね。仕事をする上でも、時間内にテキパキできるようになった実感はありますね。

今西さんの三女が入院されたときの病室での写真。白衣が今西さん。写真提供/今西洋介 今西さん。
育休もしっかり取った今西さん。こちらも笑ってしまう三女さんとの素敵な写真。写真提供/今西洋介
※1:産後ケア事業とは、産後ケアを必要とする出産後1年を経過しない女性および乳児に対して、心身のケアや育児のサポートなど(産後ケア)を行い、産後も安心して子育てができるようにサポートする事業のこと。訪問型とショートスティ型、短期入所型がある。多胎児家庭ではサービスの利用時間が長く設定されていることが多い。運営は各自治体が行う

※2:産後ドゥーラとは、家事・育児・母親サポート、産後ケアについての知識・経験を活かした民間資格保有者のことをいう