/ 2

コロナ予備費12兆円、使途9割追えず 透明性課題

【イブニングスクープ】

(更新)
think!多様な観点からニュースを考える
野崎浩成さん他2名の投稿野崎浩成ロッシェル・カップ鈴木亘

政府が新型コロナウイルス対応へ用意した「コロナ予備費」と呼ばれる予算の使い方の不透明感がぬぐえない。国会に使い道を報告した12兆円余りを日本経済新聞が分析すると、最終的な用途を正確に特定できたのは6.5%の8千億円強にとどまった。9割以上は具体的にどう使われたか追いきれない。国会審議を経ず、巨費をずさんに扱う実態が見えてきた。

12兆円余りをおおまかに分類すると、医療・検疫体制確保向けの4兆円に次いで多いのが地方創生臨時交付金として地方に配られた3.8兆円だ。同交付金をめぐってはコロナ問題とこじつけて公用車や遊具を購入するなど、疑問視される事例もある。自治体が予備費を何に使ったかまで特定するのは難しい。

政府は4月下旬にまとめるガソリン高などの物価高対策に、2022年度予算のコロナ予備費(5兆円)の一部を充てる構えだ。仮にコロナ問題と関係の薄いテーマにコロナ予備費が使われれば、予備費の本来の趣旨に反する恐れが強い。

通常、政府は年金の支給など特定の政策を目的にした歳出を細かく積み上げて予算案をつくり、国会審議を経て出費できるようになる。その例外が予備費だ。金額だけあらかじめ計上しておき、使い道は政府の閣議だけで決められる。

政府は最近は年5000億円程度の予備費を準備し、災害など不測の事態に備えることが多い。だが、コロナが広がった20年春以降の20年度補正予算で9.65兆円という異例の規模の予備費をコロナ向けと銘打って創設。21年度と22年度の当初予算と合わせ3年で総額20兆円弱に達した。

そのうち12兆3077億円は実際に執行し、国会に使い道を報告した。日本経済新聞は国会提出資料や省庁への取材で何に使われたか詳細に解明しようと試みた。各省庁や自治体が予備費を具体的に何に使ったか、最後まで確認できるものは3つの政策項目、計8013億円だけだった。

予備費の最終的な使い道がつかみにくいのは、予備費を割り振られた省庁が当初予算や補正予算などすでにあるお金と予備費を混ぜて管理するケースが多いからだ。会計検査院でさえコロナ関連をうたう巨額の予算がどう使われたかの全体図はつかめていない。

例えば、厚生労働省がワクチン接種の体制づくりへ自治体に配る補助金だ。ほかの経費と分別管理しておらず、予備費がどの自治体に行ったかまでは分からない。ワクチン購入費のように「企業との秘密保持契約の関係で公表できない」(厚労省)項目もある。

予備費3119億円を振り向けた観光需要喚起策「Go To トラベル」は感染拡大でストップした。追加投入した予備費を上回る額が使われず、約8300億円が滞留しているとみられる。

コロナ禍のような危機に際し、柔軟で機動的に使える予備費にも意義はある。ただ、国内総生産(GDP)の数%に相当する巨大な予算を国会審議を経ずに執行できる仕組みは透明性に懸念が残る。乱暴な使い方をけん制する意味でも、外部から適切にチェックできる体制が本来必要だ。

一橋大の佐藤主光教授は「今の仕組みでは事業ごとの費用対効果だけでなく、コロナ予算の正確な規模すら検証できない」と指摘。歳出膨張への危機感が広がっても抑制する道具が欠けているとして「お金に色をつけて追跡するには、公会計のあり方自体を見直す必要がある」と話す。

イブニングスクープ
翌日の朝刊に掲載するホットな独自ニュースやコラムを平日の午後6時頃に配信します。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

  • この投稿は現在非表示に設定されています

    (更新)
    (0/300)
  • 野崎浩成のアバター
    野崎浩成東洋大学 国際学部教授
    ひとこと解説

    こうした負担を背負う次世代を思えば、憤りしかありません。社会保障費などの非裁量的支出増加が余儀なくされる中で、テーマ的裁量的予算は各省庁の権益争奪の対象となる構図は避けられません。会計検査院や今回の日経の切込みなどに依存したガバナンスモデルには限界があります。 予算執行状況についての妥当性を、透明度の高いディスクロージャーを求めたうえで、(後年度の概算要求上の制約や、問題ある執行を実施した責任者の処遇など)必罰のルール付けを行うことで、相応の抑制効果が期待できると思います。

    この投稿は現在非表示に設定されています

    (更新)
    (0/300)
  • ロッシェル・カップのアバター
    ロッシェル・カップジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング 社長
    分析・考察

    危機の際に政府が予算を緊急に動かす必要があるのは否定できません。それができなければ、急に発生する問題に対処するのは難しくなります。でありながら、政府は納税者に対する責任として、どのように予算を使っているのかを明確にする義務があります。それができていないのは非常に残念です。英語のslush fund(裏金)という言葉が頭に浮かびます。

    この投稿は現在非表示に設定されています

    (更新)
    (0/300)
  • 鈴木亘のアバター
    鈴木亘学習院大学経済学部 教授
    分析・考察

    予備費の使途が追えていないのはゆゆしき問題だが、6月の決算報告までにはもう少し時間がある。ここは決算に関わる参議院事務局(国)、総務省(地方)、会計検査院、内閣官房行革本部などに最後まで頑張ってもらうしかない。ただ、コロナ対策予算は、病床確保の補助金や雇用調整助成金など、使途は分かっていても、それが果たして適切に支出されたかどうかが分からないものも多い。例えば、病床確保については幽霊病床の存在が指摘されてきたが、厚労省は未だにきちんとした調査を行っていない。また、雇用調整助成金もゾンビ企業などに無駄に使われていないか調査すべきである。国会でコロナ関係予算を網羅的に評価する機会が必要ではないか。

    この投稿は現在非表示に設定されています

    (更新)
    (0/300)

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

国費解剖

財政が悪化する中、危機対応や経済成長を名目に膨らむ歳出には無駄が潜んでいます。不透明な国費の使われ方を解剖します。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません