2022年、映画業界では『ONE PIECE FILM RED』、『トップガン マーヴェリック』『すずめの戸締まり』と、興行収入100億円を突破する大ヒットが3本も出た。コロナショックから回復傾向にある中、作品のポテンシャルが口コミでの拡散につながり、ロングランヒットになっている映画がある。インド映画の『RRR』だ。
『バーフバリ』シリーズを生み出したS.S.ラージャマウリ監督の最新作。舞台となるのは1920年、英国植民地時代のインド。イギリス総督に連れ去られた村の娘の奪還のため、首都デリーに潜伏しているゴーンド族のリーダー・ビーム(NTR Jr.)と、ある“大義”を胸に秘め、英国政府に忠誠を誓う警察官ラーマ(ラーム・チャラン)の出会いと友情、それぞれの戦いからの共闘という胸熱なストーリーが、怒とうのアクション、ダンスとともに描かれる。
10月21日の公開から2ヶ月で累計動員約30万人(12月26日までの67日間)、興行収入4.5億円を突破。配給会社ツインによると「弊社が配給した作品では、これまで韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の3億1000万円が最大のヒット作だったのですが、それを大きく超えました」と同社の古田雄揮さん。さらに、『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995年、日本公開は98年)の興収4億円を超え、『RRR』が日本で最もヒットしたインド映画になった。100億円越えの作品に比べたら、4億円なんて大したことないと思うかもしれないが、日本ではなかなかヒットに恵まれないインド映画で、4億円も稼ぐことがどれほど異例なことか。
■作品のポテンシャル
日本で公開される以前から、本国インドでは今年No.1の国内興行収入をあげる大ヒット。米国などでは劇場公開以外にもNetflixで配信され、『ドクター・ストレンジ』のスコット・デリクソン監督が「楽しかった」、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督が「Totally dig it.(完全にのめり込んだ)」とツイートしたり、『アベンジャーズ/エンドゲーム』を手がけたルッソ兄弟のジョー・ルッソが「『RRR』のアクションは誰しもがすごい!と熱狂できる。物語の中心にあるのは深く重厚な友情の物語。言葉の壁を越え、世界中の人が共感できる作品だ」とコメントし、ハリウッドのクリエイターたちが絶賛している映画として話題に。
劇中曲の「NAATU NAATU(ナートゥ ナートゥ)」にのせて、主演の2人が目を疑うような超高速キレキレダンスを披露するシーンは、視覚的にも聴覚的にも中毒性があり、2人を真似したダンス動画やリアクション動画が、世界中のSNSでバズった。
こうした“前評判”もあってか、日本でもオープニングから3日間の記録は、同じS.S.ラージャマウリ監督の『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』のオープニング興収の約4倍の出だしだった。2週目、3週目と前週比の成績を上回り、普通なら客足が落ちる3週目にして全国映画動員ランキング(興行通信社調べ)10位に初登場。そのまま3週連続ランクインを果たした。
■『バーフバリ』による地ならし
成功要因として、配給会社ツインの古田さんは、『バーフバリ』シリーズのヒットにより、地ならしができていたことを挙げる。
「監督の前作『バーフバリ』シリーズも配給したのですが、1作目の『伝説誕生』は限定的な公開でした。続く『王の凱旋』は国際版に加え、完全版、IMAX版を公開し、東京・新宿ピカデリーでは1年間のロングランで興収3億円だったんです。そこで醸成された熱いファンが、『バーフバリ』シリーズの監督の最新作ということで、『RRR』も観に来てくれることを見込んで、今回は209館、IMAXを入れると240館で上映することができました。
これによって、口コミを見たお客様が、すぐに見に行ける環境を整えられた、というのは非常に大きなことだった思います。さらに、IMAXの評判が良くて、満席が続出し、“観たいのに観れなかった”という飢餓感が、“これは絶対に観たい”というモチベーションアップにもなった。そして、何より映画が素晴らしい。買い付けた私たちですら、初めて観た時は度肝抜かされました。鑑賞した満足度も良かったということで、口コミの拡散につながり、これだけの興収になったんじゃないか、と思います」
■口コミの拡散
本作の宣伝を担当したマンハッタンピープルの原悠仁さんによると、「パブリシティとして、テレビの情報番組で紹介してもらうというのが効果として大きいのですが、売り込みに行っても、『インド映画? 大人数で踊るやつでしょ』みたいな反応で、なかなか取り上げてもらうのは難しい状況でした。そんな中、試写を観てくださったメディアの方は、反応が一変したんですよね。作品の力を実感しました。タイミングとしては、公開後でしたが、『ZIP!』や『あさイチ』『王様のブランチ』で紹介していただき、2週目、3週目の数字の伸びにいい影響を与えてくれたのではないかと思っています」
ソーシャルメディアに向けては、「口コミの起爆剤になれば、と吉本興業の芸人さんに試写を観てもらったり、吉本興業本社前にある新宿天然温泉 テルマー湯とタイアップしたりしました。チョコレートプラネットの長田庄平さんやゲームクリエイターの小島秀夫さんなどが自身のSNSで熱心に紹介してくだいました」とのこと。
ツインの古田さんは「テレビやインフルエンサーの影響力もさることながら、SNSの書き込みを見ていると、映画をご覧になった方、一人ひとりが、純粋に友達とか周りの人に広めてくださっている。長年配給をやってきた者でもあまり経験することがない現象が起きていました」と、改めて口コミのパワーを実感したという。
YouTubeチャンネル「オリコン洋画館」で公開していた同映画の予告編や本編クリップにも、「観ました!」という報告とともに、「バーフバリクラスのおもしろさ、感じました。すぐ観に行ってください」「マジで気が狂うほど面白かった」「一心不乱のエンターテインメント! これを劇場で観ない人は損する」「下手すりゃ最近の映画では、『トップガン マーヴェリック』に次ぐ出来かも」などと、熱い書き込みが多数見られた。
「すごく面白いものを観た」と、誰かに言わずにはいられない。その熱気の拡がりは上記に記した数字にも明らかで、各劇場とも新作映画の公開のため一度は終了したIMAX上映の復活や上映の延長、そして極音上映など、各映画館が持つラージフォーマットでの上映を継続しており、つまるところ“映画館で観るべき映画”としての作品のポテンシャルに帰結するのだった。
「配給する映画はどれもヒットを狙って、作品の魅力を伝える努力をしているのですが、映画と観客の関係性は一筋縄ではいかないのが現実です。そんな中、今年でいうと『トップガン マーヴェリック』と『RRR』は、作品そのものが素晴らしかったということに尽きるんじゃないかと思います」と古田さん。原さんも「インド映画だろうがなんだろうが、本当に面白い映画は、世界中の人が面白いと認めてくれる。それを『RRR』は証明してくれたと思うんです」と語っていた。
先日発表された「第80回ゴールデングローブ賞」では、『RRR』が作品賞(非英語作品)と、劇中歌「NAATU NAATU(ナートゥ ナートゥ)」でオリジナル歌曲賞にノミネート(授賞式は現地時間2023年1月10日)。ニューヨーク映画批評家協会賞ではS.S.ラージャマウリ監督が監督賞を受賞し、夢のオスカー(アカデミー賞)獲得への期待も高まっている。賞レースが本格化する年明け後も、『RRR』の快進撃は続きそうだ。
★YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」
『バーフバリ』シリーズを生み出したS.S.ラージャマウリ監督の最新作。舞台となるのは1920年、英国植民地時代のインド。イギリス総督に連れ去られた村の娘の奪還のため、首都デリーに潜伏しているゴーンド族のリーダー・ビーム(NTR Jr.)と、ある“大義”を胸に秘め、英国政府に忠誠を誓う警察官ラーマ(ラーム・チャラン)の出会いと友情、それぞれの戦いからの共闘という胸熱なストーリーが、怒とうのアクション、ダンスとともに描かれる。
10月21日の公開から2ヶ月で累計動員約30万人(12月26日までの67日間)、興行収入4.5億円を突破。配給会社ツインによると「弊社が配給した作品では、これまで韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の3億1000万円が最大のヒット作だったのですが、それを大きく超えました」と同社の古田雄揮さん。さらに、『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995年、日本公開は98年)の興収4億円を超え、『RRR』が日本で最もヒットしたインド映画になった。100億円越えの作品に比べたら、4億円なんて大したことないと思うかもしれないが、日本ではなかなかヒットに恵まれないインド映画で、4億円も稼ぐことがどれほど異例なことか。
■作品のポテンシャル
日本で公開される以前から、本国インドでは今年No.1の国内興行収入をあげる大ヒット。米国などでは劇場公開以外にもNetflixで配信され、『ドクター・ストレンジ』のスコット・デリクソン監督が「楽しかった」、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督が「Totally dig it.(完全にのめり込んだ)」とツイートしたり、『アベンジャーズ/エンドゲーム』を手がけたルッソ兄弟のジョー・ルッソが「『RRR』のアクションは誰しもがすごい!と熱狂できる。物語の中心にあるのは深く重厚な友情の物語。言葉の壁を越え、世界中の人が共感できる作品だ」とコメントし、ハリウッドのクリエイターたちが絶賛している映画として話題に。
劇中曲の「NAATU NAATU(ナートゥ ナートゥ)」にのせて、主演の2人が目を疑うような超高速キレキレダンスを披露するシーンは、視覚的にも聴覚的にも中毒性があり、2人を真似したダンス動画やリアクション動画が、世界中のSNSでバズった。
こうした“前評判”もあってか、日本でもオープニングから3日間の記録は、同じS.S.ラージャマウリ監督の『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』のオープニング興収の約4倍の出だしだった。2週目、3週目と前週比の成績を上回り、普通なら客足が落ちる3週目にして全国映画動員ランキング(興行通信社調べ)10位に初登場。そのまま3週連続ランクインを果たした。
■『バーフバリ』による地ならし
成功要因として、配給会社ツインの古田さんは、『バーフバリ』シリーズのヒットにより、地ならしができていたことを挙げる。
「監督の前作『バーフバリ』シリーズも配給したのですが、1作目の『伝説誕生』は限定的な公開でした。続く『王の凱旋』は国際版に加え、完全版、IMAX版を公開し、東京・新宿ピカデリーでは1年間のロングランで興収3億円だったんです。そこで醸成された熱いファンが、『バーフバリ』シリーズの監督の最新作ということで、『RRR』も観に来てくれることを見込んで、今回は209館、IMAXを入れると240館で上映することができました。
これによって、口コミを見たお客様が、すぐに見に行ける環境を整えられた、というのは非常に大きなことだった思います。さらに、IMAXの評判が良くて、満席が続出し、“観たいのに観れなかった”という飢餓感が、“これは絶対に観たい”というモチベーションアップにもなった。そして、何より映画が素晴らしい。買い付けた私たちですら、初めて観た時は度肝抜かされました。鑑賞した満足度も良かったということで、口コミの拡散につながり、これだけの興収になったんじゃないか、と思います」
■口コミの拡散
本作の宣伝を担当したマンハッタンピープルの原悠仁さんによると、「パブリシティとして、テレビの情報番組で紹介してもらうというのが効果として大きいのですが、売り込みに行っても、『インド映画? 大人数で踊るやつでしょ』みたいな反応で、なかなか取り上げてもらうのは難しい状況でした。そんな中、試写を観てくださったメディアの方は、反応が一変したんですよね。作品の力を実感しました。タイミングとしては、公開後でしたが、『ZIP!』や『あさイチ』『王様のブランチ』で紹介していただき、2週目、3週目の数字の伸びにいい影響を与えてくれたのではないかと思っています」
ソーシャルメディアに向けては、「口コミの起爆剤になれば、と吉本興業の芸人さんに試写を観てもらったり、吉本興業本社前にある新宿天然温泉 テルマー湯とタイアップしたりしました。チョコレートプラネットの長田庄平さんやゲームクリエイターの小島秀夫さんなどが自身のSNSで熱心に紹介してくだいました」とのこと。
ツインの古田さんは「テレビやインフルエンサーの影響力もさることながら、SNSの書き込みを見ていると、映画をご覧になった方、一人ひとりが、純粋に友達とか周りの人に広めてくださっている。長年配給をやってきた者でもあまり経験することがない現象が起きていました」と、改めて口コミのパワーを実感したという。
YouTubeチャンネル「オリコン洋画館」で公開していた同映画の予告編や本編クリップにも、「観ました!」という報告とともに、「バーフバリクラスのおもしろさ、感じました。すぐ観に行ってください」「マジで気が狂うほど面白かった」「一心不乱のエンターテインメント! これを劇場で観ない人は損する」「下手すりゃ最近の映画では、『トップガン マーヴェリック』に次ぐ出来かも」などと、熱い書き込みが多数見られた。
「すごく面白いものを観た」と、誰かに言わずにはいられない。その熱気の拡がりは上記に記した数字にも明らかで、各劇場とも新作映画の公開のため一度は終了したIMAX上映の復活や上映の延長、そして極音上映など、各映画館が持つラージフォーマットでの上映を継続しており、つまるところ“映画館で観るべき映画”としての作品のポテンシャルに帰結するのだった。
「配給する映画はどれもヒットを狙って、作品の魅力を伝える努力をしているのですが、映画と観客の関係性は一筋縄ではいかないのが現実です。そんな中、今年でいうと『トップガン マーヴェリック』と『RRR』は、作品そのものが素晴らしかったということに尽きるんじゃないかと思います」と古田さん。原さんも「インド映画だろうがなんだろうが、本当に面白い映画は、世界中の人が面白いと認めてくれる。それを『RRR』は証明してくれたと思うんです」と語っていた。
先日発表された「第80回ゴールデングローブ賞」では、『RRR』が作品賞(非英語作品)と、劇中歌「NAATU NAATU(ナートゥ ナートゥ)」でオリジナル歌曲賞にノミネート(授賞式は現地時間2023年1月10日)。ニューヨーク映画批評家協会賞ではS.S.ラージャマウリ監督が監督賞を受賞し、夢のオスカー(アカデミー賞)獲得への期待も高まっている。賞レースが本格化する年明け後も、『RRR』の快進撃は続きそうだ。
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2022/12/29