コロナ禍がじわじわと広がり始めた2020年春、古賀詩穂子さん(30)は東京の会社をやめ、地元の愛知に戻った。
夢は、自分の本屋を開くこと。その前にお金をためるか、本屋さんで働こうかな。そんなことを考えつつ、スマホで物件を探しては妄想を膨らませた。
資金や場所のあてがあったわけではない。でも、ある大家に出会い、人生が急展開。21年1月、名古屋市に本屋をオープンさせた。
交通の要衝としてにぎわう金山総合駅から歩いて5分ちょっと。「TOUTEN BOOKSTORE」はひっそりとした沢上商店街の中にある。
ガラスの引き戸を開け、かすかに音楽が流れる店内を歩くと、ゆったりと並べられた本のひとつひとつに目がとまる。壁際の本棚以外は背が低く、広い空間に植物の緑が映える。本屋というよりも、センスが良い、本好きの友人の家に来たような気持ちにもなる。
古賀さんは愛知県大府市で生まれ育った。昔から本屋好きだったが、出版取次会社に入って営業のために毎日通うようになり、さらに魅力に気がついた。たくさんの情報が集まってきて、毎日少しずつ変化がある。ほどよく放っておかれる感じも心地よい。
連載「解決!さかさま不動産」
「さかさま不動産」のウェブサイトには物件を探している人の情報が掲載され、それを見た大家が貸してみたい相手を選び、交渉に入ります。三重県桑名市のベンチャー企業「On―Co」が手がけるサービス。貸し手と借り手が逆転する従来の不動産賃貸ビジネスとは異なったやり方に注目が集まっています。入居者たちの物語を紹介します。
気になっていた物件、偶然の再会
「本屋になりたい」との気持…