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最近ネットでよく見る広告
私がニュースをみたりしていると結構な頻度で挿入されてくる広告がある。
広告に歯磨き業界と書いている。そんな業界があるのかどうかわからないが、どうも口の中に関する事らしいので見に行ってみることにした。
どんな商品なのか
どうもテレビで色々と紹介されていて、芸能人が開発?したものらしい。私はテレビをほぼ観ないので、この方をご存じなかったのだがこの方は薬剤師とか歯科医師とかの免許を所持されている方なのだろうか?だって本気で開発した、と断言しているわけだから。
色々なテレビで紹介された事をウリにしているが、自分は観たことがないので実際に紹介されたのかが検証できない。
サイトにはアンケート結果○○冠達成などという文言が並んでいる。
追記(2022/05/18)
このランキングをつかった広告システムが大変危険かもしれない、ということがNHKのクローズアップ現代にて取り上げられました。
歯磨き粉
どうもこの商品、歯磨き粉のようだ。
効果についても記載されており、医薬部外品で効能には色々とあるようだ。
効能として10個がうたわれている。
①歯を白くする
②煙草のヤニ除去
③口内スッキリ爽快
④歯槽膿漏の予防
⑤歯周病の予防
⑥歯肉炎の防止
⑦虫歯の発生・進行防止
⑧歯石沈着の防止
⑨口臭防止
⑩口内を浄化
これが効能の表示として正しいかどうかは後で検証したいと思うが、だいぶ盛っている印象は否めない。
含有成分
ここまで色々な効能を謳うからには、抗炎症作用がある薬剤やフッ化物、界面活性剤とか色々なものが入っている必要がある、と考えられる。
サイトでは、市販では使用されないPEG400という物を強く推している。
一応全ての成分が載っているサイトを検索した所いくつかみつかった
値段も載っており初回は30g1本で980円と安いが、2回目以降は30g2本で7980円と歯磨剤としては破格に高い。
このサイトをみると
薬効がある成分は
①PEG400:ステイン除去
②ヒドロキシアパタイト:虫歯の発生や進行を予防
③グリルリチン酸2K:歯周病予防
④IPMP(イソプロピルメチルフェノール):殺菌作用
⑤チャエキス:抗菌効果
⑥クマザサエキス:抗菌効果
⑦アロマエキス:保湿効果
と7つのものが入っているようだ。まあ一杯いれたね。
予想していた界面活性剤などは入っていないようだ。
また、虫歯予防として最も効果的と考えられるフッ化物は配合されていない。
歯磨き粉の成分、薬効の表示について
歯磨き粉の成分やその効能については、厚労省が「薬用歯みがき類製造販売承認基準について」という基準を平成27年に厚生労働省医薬食品局長の名前で出しており、さらに令和3年に新基準に改訂されている。当然だがこれについて従う必要がある。
平成27年
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/hamigaki_kijyun.pdf
令和3年
https://www.mhlw.go.jp/content/000797783.pdf
某商品の効能は
①歯を白くする
②煙草のヤニ除去
③口内スッキリ爽快
④歯槽膿漏の予防
⑤歯周病の予防
⑥歯肉炎の防止
⑦虫歯の発生・進行防止
⑧歯石沈着の防止
⑨口臭防止
⑩口内を浄化
の10個であったわけだが、歯周病(歯槽膿漏の予防)と歯肉炎の予防は併記してもよいと厚労省は記載しているが、歯周病の予防と歯槽膿漏の予防は併記してもよいとは書いてない。当然だが、歯槽膿漏は歯周病の昔の呼び方でありイコールの存在と考えて良い。効能をやや盛っていると考えられる。
一番推してきているPEG400については、煙草のヤニ除去の所に記載がある。
イソプロピルメチルフェノールはリステリンなどにも含有されている殺菌成分であり、厚労省の基準では歯肉炎の予防や虫歯の発生、進行防止に適応があることになっている。
グリルリチン酸2Kが歯周病予防らしいが、これはグリチルリチン酸二カリウムの間違いだろう。これに関しても厚労省基準に入っており問題は無い。口臭予防もグリチルリチン酸が担っている。
検索したサイトではヒドロキシアパタイトが虫歯への有効成分という表示だった。しかし厚労省の基準ではヒドロキシアパタイトで虫歯発生、進行予防効果の表記を認めていない。ただし、虫歯発生、進行防止はイソプロピルメチルフェノールが入っていれば効果を謳ってもよいことになっているので、一応問題は無い。
一応色々検索したら公式サイトらしきところを発見した。
そこでは成分名は間違えずに記載されているし、ヒドロキシアパタイトが含有されているような表記がない。
しかし、サイトによっては薬効に関して誤表記が認められることは問題だろう。
とりあえず虫歯に対して最も効果が高いフッ化物が含有されていないため、虫歯対策メインで使う事はお勧めできない。
まあ、そんな人はいないと思うけど。
コクランの虫歯予防は基本的にフッ化物しか扱っていない。エビデンスという点でもやはりフッ化物が最強なのだ。
PEG400
歯が白くなるという広告の推し成分であるPEG400について調べてみよう。
PEGとはポリエチレングリコールの略であり、400は分子量である。
https://www.tenkazai.com/product-sanyo-chemical/peg-400.html
PEG400の歯についての効果について調べてみたが、正直論文をうまく見つけることができなかった。もし論文をご存じの方は是非ご教授お願いしたい。
とりあえず厚労省の基準からすると、ヤニを落とす効果は認定されていると考えられる。ステイン除去と考えてもいいのだろう。
ステイン除去とは歯の表面についた汚れを取ることなので、歯自体を白くする効果はないということに注意すべきである。
歯の表面には汚れがつきやすい。喫煙者で歯の表面がヤニで汚れているような人には結構効果があるかもしれないが、喫煙している訳でもなく、普段からお手入れもよい人ではそこまで効果はないかもしれない。
後は市販では使用されていない、と書いてあるのでそこを調べてみたところ・・・・あっさりと発見
シュミテクト トゥルーホワイトに含有されているのを確認した。この歯磨剤にはフッ化物が含まれており、某商品よりも明確に虫歯予防効果があると考えられる。
ジェルコートFにも含有されている。
さらにルシェロ 歯磨きペーストホワイトにも含有されている。
ルシェロに関しては、商品PRの座談会PDFまで用意されている。
https://www.gcdental.co.jp/clinicalconv/pdf/no157.pdf
ルシェロについても歯を白くすることをアピールしているが、そのために3種類も成分をいれている。PEG400だけの某商品と比べるとこちらの方がよほど落ちそうな気がする(比較する論文がないからわからないが)。
ルシェロにはやや濃度が低いがフッ化物が含有されており、こちらの方が遙かに虫歯の発生と進行に対して効果があると考えられる。
まあ、某商品はフッ素が入ってないことを逆に売りにしている所がある。余分なもの?というのがよく意味がわからない。フッ素って食品にほぼ含まれる成分であり、この人達は余分だからって断食でもしているんだろうか?
ヒドロキシ(ハイドロキシ)アパタイト
実は厚労省の基準には歯を白くする事に対する薬剤の縛りがない。そのため記載した勝ちみたいな可能性がある。
サイトでツルピカな白い歯と記載しており、ヒドロキシアパタイトが歯に対して「ツルピカ」「白い」という効果を与えるような文章が記載されている。
他の商品には配合されていないという記載がここでも認められるが、私達歯科医師にそんな戯れ言は通用しない。そう、あの芸能人は歯が命!で有名になったアパガードに絶対に含まれていることを知っているからだ。
アパガードを公式に売っているサンギのサイトにいってみると確かに薬用成分に配合されている。
また、アパガードに入ってるハイドロキシアパタイトは他の歯磨き粉に含まれるハイドロキシアパタイトとは全く違うから注意するようにと書いている。
https://www.apagard.com/oralpedia/ingredients/details/Vcms4_00000115.html
さらに薬用ハイドロキシアパタイトは1993年に旧厚生省から薬効成分として認可され、3つの作用によるむし歯予防効果が認められています、という記載もある。
もしそれが本当なら、なぜ厚労省の基準のなかに入っていないのだろうか?
なお、アパガードも虫歯に対して効果があると謳っている。
実は配合されている塩化セチルピリジニウムが厚労省の基準をクリアしており、それにより問題は無い。しかし、厚労省が認めていないアパタイトがまるで虫歯を予防するように宣伝しているようにみえるのは私だけだろうか?
ちなみにサンギは一応エビデンスを載せているのだが、多くの論文はかなり古い論文で、最近のはあくまで学会発表に過ぎない。
化粧品・医薬部外品分野に関する論文・学会発表|株式会社サンギ 公式企業サイト
このサイトにアパタイトの歯の色に与える効果についての論文集があった。
上2つは学会発表なので、3つ目の歯科の色彩という雑誌に書かれた論文を入手できないか検索したところ、医中誌はヒットせず。
普通にググっても駄目で論文を入手することは出来なかった。書いてるって事は条件次第では歯は少し白くなるんだろうね。しかし、論文数も少ないし、今の状況でアパタイトで白くなりますよ、とは断言できない。
ちなみにアパガードにもPEG400が配合されているので、某商品が謳う歯を白くする効果は充分持っていると思われる。
話が脱線したが、アパタイト系の歯磨き粉はだいぶ闇が深そうだ。
どちらにしてもアパタイトで虫歯に対する効果を謳う事は厚労省の基準的にはアウトである。
薬機法との絡み
歯科医師
広告サイトに歯科医師も出ている。
実は薬機法では、こういった商品を医師などの専門家が推薦することが禁じられている。
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kenkou/iyaku/sonota/koukoku/siryou.files/R3-slide1.pdf
これは完全に薬機法に抵触しているだろう。
個人の使用体験
また、個人の使用体験談も数多く出ている。
結構サッパリとした感想が多いが、これには訳がある。
使用感を強調すると薬機法に抵触してしまうからだ。
コーヒーの汚れが取れる!とか明確に書いちゃうと使用感を強調することになるので駄目なんだが、それに引っかからないような表記になっている。
まあけど商品をもって歯を見せつけるような写真からは明らかに使用感を強調しているようなイメージを持ってしまうのは私だけだろうか?
また、薬機法には効能効果を保証するような表現を禁止している。
家にいれば芸能級の歯になれる、
○○が開発したあれがすごすぎる!
黄ばみ歯の救世主
などはこの効能効果を保証した表現と考える事も出来るので、この文章は薬機法に違反している可能性が高そう。
高すぎるお値段
某商品は1本30gで4980円(サブスクの場合3980円)であり、歯磨き粉としては破格に高い。
例えば、同じPEG400を含み、さらに他のステイン除外効果のあるものも入っており某商品よりも歯を白くする効果が高い可能性があるルシェロだと100g2本で3200円。1本1600円だから、ルシェロは歯磨き粉の中では結構高い。
それでも比較してみると
某商品は1g166円(サブスク時133円)
ルシェロは1g16円
でルシェロの10倍高い。
入っている成分的にどうやったら10倍も高くなるかがよくわからない。
もしかしたらハイドロキシアパタイトが高いのかも・・・と思って薬用ハイドロキシアパタイト+PEG400が入っているアパガードを見てみたが100g3本で3900円だった。
薬効のある成分だけみたら某商品はルシェロやアパガードと同様の今の1/10程度で売られていてもおかしくはないような気がする
まとめ
1.広告の仕方が薬機法に抵触している可能性が高い
2.薬効成分的に価格が高すぎる
3.サイトによっては他に市販されていない薬効成分が含有などと虚偽の内容がある
私は歯科医師としてフッ化物無配合の歯磨剤が虫歯予防に効果が高いとは思ってはいない。
某商品の虫歯予防効果の主体であるイソプロピルメチルフェノールなんてリステリンにも含まれているわけで、リステリンで毎日含嗽していたら虫歯にならないなんて思わないだろう。
有名人が宣伝しているからってその商品が本当に良いかどうかなんてわからないぞっと・・・。
追記(2022/01/13)
どうもこの商品、購入するとお試しだけ申し込んだはずなのに定期購読になってしまい、高額請求が来た、解約できないなどのトラブルが相次いでいるようだ。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12255039852
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14247106684
購入する際は色々と注意して頂きたい。
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