うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ 作:珍鎮
五限目。昼休みに軽く昼寝でもして心を落ち着けようとしたのに山田がついてきたことでそれが叶わず、俺の欲望は増幅するばかりだった。ビョルルン♡ビッピョロルロパロ♡
「むん」
俺と全く同じ興奮度のサンデーも徐々に頭が茹で上がってきたらしく、待ちかねた彼女は俺の机の上に正座をして授業妨害をしてきている。どいてください。そこにいるとスカートを捲りたくなるので。
「いいよ」
黙っとけお前ちょっと俺の社会的立場を考えてね。雑魚め。
校内ではコイツと直接会話することが出来ないため心の中で言葉を思い浮かべるしかないわけだが、半分くらい錯乱状態にある興奮しきった人間がまともに思考し続けられるはずもなく、こいつとの会話に脳のリソースを割くと授業を受けることが出来なくなってしまうのだ。こまった。交尾の時間。
いいんだ。
あとほんの数時間の辛抱だ。
増幅した欲求の内、今は性欲よりも睡眠欲が勝ってしまっていて正直全く授業に集中できていないが、もう少しで帰れると考えればまだ頑張れる。
ねむ、ねむ。
「じゃあ秋川、この時起きた乱の名前覚えてるか? 先週やったとこだぞ」
「え、あ」
「教科書を見ないで言ってみな」
先生に差されたが完全に舟を漕いでいて何も聞いてなかった。てか日本史の授業でそういう当て方しないでほしい。教科書見て分かる事を見ないで言わせるのどういう流れだよ。
「あー、えっと……大塩平八郎の乱……」
「正解。ちゃんと覚えてるな」
「へへ……」
どうやら当たったらしい。ぶっちゃけ答え分かんねぇよどうしよう平八郎って感じだぜとか考えてたからこれが出てきただけなのだが、奇跡が起きたようだ。
それから少し経って五限目は終わりを迎え、最後の六限は自習という事が明らかになり緊張の糸がブツリと切れて、俺はそのまま机に突っ伏した。
今日は大変だった。
トレセン学園では不可抗力で顔をたくさんの生徒に知られ、絡まれ、性欲を煽られ。
高校に戻ったら質問に次ぐ質問攻めで気力を削がれるとともに眠気を誘われた。もうボロボロである。
ふと後ろを振り向けば、サンデーが教室の後ろのロッカーの上に寝そべって眠っていた。羨ましい。俺もそうしたい。
「じゃあお化け屋敷の内容を考えてこー」
自習の時間を利用して文化祭の計画を進めることになったらしく、いろいろあって仕切り役になった山田がチョークで黒板に書き出している。ちなみに担任は寝てる。おじいちゃんなので体力がない。
「なんかいい案ある人いるー?」
一年の時は大して意見を挙げることがなく、それでも普通に面白いお化け屋敷になったので俺は黙ったままでも大丈夫そうだ。
ようやく休める。
引くほどガチ寝すれば誰も起こそうとは思わないだろう。眠ろう。
「はいはーい! 秋川君に頼んで中央のウマ娘さんに来てもらって、接客とか呼び込みをしてもらったら売り上げ最強だと思いますー!」
お、なんだ、いっちょまえに頼るのか。その意気やよし。
高校生が他校の文化祭を手伝うわけないだろアホか。そもそも来ない……寂しい……。
「だってさ。秋川できる?」
「無理」
「だよね。結局バイト先が一緒なだけだし。呼び込みの方法は後で考えるとして、具体的な驚かし方を先に考えよう」
山田が引っ張らず話題を切り替えてくれて助かった。みんなが期待した眼差しでこっちを見ていたので。
「じゃあまずは──あれ?」
後は寝るだけ、と瞼を閉じようとしたその瞬間に
「チョークどこだろう……あぁ、あったあった」
教室内の誰も気づいておらず、山田自身も一瞬すぎて何も違和感を抱いていないが、度重なるサンデーとのユナイトが影響で平時から動体視力が人間のそれを超越してしまっている俺には見えた。
消えた。
山田の手からチョークが消滅した。
しっかりとその手に握っていた白いチョークが、まさしく瞬間移動してその場から消え失せたのだ。あまりにも一瞬の出来事すぎて、山田は最初から自分はチョークを手に取っていなかったのだと錯覚してしまった。
「……あれ? 何であたしの筆箱にチョークが……?」
隣の席の女子である安心沢さんが小さく呟いた。横に目を向けてみると、彼女の筆記用具入れの中に、先ほど山田が握っていた短い白チョークがブチ込まれていた。
明らかに覚えがない風の言い回しから、彼女が自分でそれを入れたわけではない事は確定的。
てことは山田が持っていたチョークが彼女の筆箱の中に瞬間移動したという事だが──
「怪異の仕業」
サンデーが耳元で囁いた。ですよね。ていうか耳元で小さい声出すのやめてゾクっとするので。ホッ♡少しばかりイグッ♡ テメェもイけよ!記念だぞ!
辟易する。
こんなところに現れる怪異もそうだが、何よりこういった超常現象染みた不可思議な状況を冷静に分析してしまっている自分がなんとなく嫌だ。
「耳、甘噛みしていい?」
ダメに決まってんだろ帰ってからにしてね。
「はむっ」
お前さ。
美しく艶めかしい甘噛み……素敵ですよ♡ 下品なメス!
極論、高校に怪異が出現したこと自体は問題じゃない。
奴らはこの世に存在する普遍の摂理であり、いつどこで現れようと不思議ではなく、以前の夏祭りの時のようなスーパー激強ド派手な広範囲攻撃持ち怪異は万分の一の例外であって、小物を別の場所に瞬間移動させる程度の怪異が出てこようがいくらでも対処できる。
ただ、今回ばかりはタイミングが悪すぎるのだ。
俺はムラムラでねむねむでイライラしており、サンデーも同様。
概念の再構築による欲望の増幅とか、少し前に戦ったばかりだとか、何より自分達の精神が極限状態など悪い条件が重なり過ぎている。
本格的に牙を剥く前に撃退したいところだが──
「うわっ!? ……な、なに? 制汗剤……?」
今度は教壇に立っていた山田の前にスプレー缶が落ちてきた。恐らくクラス内の運動部の誰かのカバンから移動したのだろう。
「もうー、誰だよコレ投げたの? ふざけてる人は顔面白塗りの幽霊役やらせるよー」
「だ、誰も投げてなくね……?」
「急に上から出てきたような……え、なに、こわ……!」
教室がざわつき始めた。流石に目に入る場所で異変が起きれば彼らも黙ってはいられないだろう。
今のを見て思ったが割と危険な怪異かもしれない。
規模自体は小さいが、転送される場所によっては普通に怪我をする。
サンデー、相手の場所の目安はついてるか?
「気配や効果範囲からしてたぶん真上」
この教室の真上……理科実験室か。それなら話が早い。さっさと赴いてぶっ飛ばそう。
席を立つ。
「わっ。秋川、どうしたの……?」
「クソ腹痛いからトイレいってくる」
「そ、そう」
教室を飛び出した。
瞼を鉛のように重くする眠気、下半身を爆裂させてこようとする性欲、それら全てを無視して駆け出す。
「わー!? 今度はバケツが!」
「山っちそこ危ないよ! こっち逃げて!」
「わぷっ……え、何これ」
「ギャーッ!? あたしのブラ!!」
「オレもパンツ消えたァッ!」
教室は阿鼻叫喚だ。早くしないと。
◆
怪異は退けた。俺に呪いを押印したカラスとは別個体の、よくわからんどこにでもいそうな黒い影っぽいやつだったが、レース場に連れ出したらビビって逃げたので大事には至らなかった。
しかし一つだけ問題があった。
奴の持つ転送能力だ。
イタチの最後っ屁なのか単なる能力の暴発なのかは定かではないが、現実世界に戻った瞬間に俺自身が転送されてしまった。
「──わぶッ!!」
叩かれたような衝撃の後、全身が温かい液体で包まれた。
ザブン、と自分が落下したらしい水場の水面から顔を出してようやく状況を理解する。
飛ばされた場所は浴場だ。かなり広い内装を見るに街中の温泉のどこかに突っ込んでしまった可能性が高い。
「……どこだろうな、ここ」
「ん、恐らくトレセン学園の大浴場」
呟くと、ユナイトを解除して俺と同様に水浸しもといお湯浸しになったサンデーが風呂から這い出て説明してくれた。
ここはトレセン学園。
学園にある大浴場を使用できるのは生徒であるウマ娘のみ。
つまり俺はオカルト的存在の仕業で不可抗力的に男子禁制の花園に足を踏み入れてしまったわけだが──
「……二十三時、ね」
相変わらず特殊空間を経由すると時間が吹っ飛んでしまうようだ。怪異の対処に向かったのは午後の二時過ぎだったのに、もう九時間も経過している。
女子たちがイチャイチャしている大浴場に突入してあわやラッキースケベ、とはいかないらしい。
日付が変わる一時間前に共同の浴場を使用するウマ娘などいるはずがなく、偶然にも照明がついたままなだけで大浴場には人っ子一人いなかった。
「きゃー、何で秋川くんがここにー……とかもないのか」
「儚い夢」
正直サンデーがトレセンの大浴場だと説明した瞬間は期待した。これから誰か顔見知りが湯浴みに訪れて、事情を察して他の人にバレないよう匿ってくれたりとか、そんなラブコメっぽい展開をそこはかとなく望んでいた。
現実は残酷だ。ただただ苦労だけして、美味しい展開が一つもなくてとてもかなしい。
風呂場に転送だぞ。この上なく非日常系ラッキースケベに繋がるシチュエーションだろ。教えはどうなってんだ。
「……サンデー、帰ろう」
「うん」
ずぶ濡れのまま歩き始めた。
この状態で発見された場合のリスクなどはもう頭の中からすっぽ抜けている。
もう、ひたすらに疲れた。
食欲も睡眠欲も性欲も限界すぎて逆にもう何もしたくない極限状態に陥っていることが分かる。
「……あれ」
気がついた。
いつの間にか床に突っ伏している。自分が。
「あー……」
何だかもう、いい気がする。
ぶっちゃけここでは誰に見つかってもゲームオーバーというか、奇跡的にやよいが通りがかりでもしない限り俺の人生は終了を迎える。女子校に廊下で倒れている水浸しの男子生徒が『いやコレは怪異っていうオバケのせいで』だとか意味不明なことを宣ったところで、精神的に問題があると断定されて終わりだ。
だが、起き上がれない。
やる気が起きない。
終焉が間近に迫っても焦燥がやって来ない。
「どうしよう平八郎って感じだな……」
瞼が自動的に降りていく。
意識が消えゆく──
「あっ、ゴールドシップ! こちらですわっ!」
◆
えへへー♡ みんな大好き♡ 後で三人に告白しようと思う。サンデーはどう思う?
「……ん」
どうやら少しだけ睡眠を取ることができたらしい。自分でも驚くほど現状の理解が早い。
目が覚めた時はベッドの上。
鼻腔を突く甘ったるい香り。
俺は女子の部屋と思わしき場所のベッドの上に寝転がっていた。
死ぬ気でサンデーが運んでくれたのか、それとも通報されて何やかんやあったのか、なんにせよ寒い廊下で放置されることは無かったようだ。
「……っ」
目は開けたが体は起こさなかった。
部屋の中に誰かいる。スマホを見てたおかげで偶然気がつかれなかったらしい。
「ん? ……気のせいか」
起きたことはバレなかったようだ。今はもう少し様子を見たい。
部屋にいたのは芦毛のウマ娘だったが、あの転びそうなところを助けた彼女ではなく、見覚えのない人物だった。
「あー、もしもし。んだよマックちゃんおせーぞ、補導でもされたか? ……え、いや確かに水浸しだったけど風邪ひいてるとは限らないんじゃ……あー分かったよお粥も買ってくればいいんじゃね。とにかく早く帰ってきてくれよな」
かわいい♡ 電話を終えた芦毛のウマ娘は軽くため息をつき、俺の方へ歩み寄ってきた。
「こいつが秋川葉月、ねぇ……」
割と遠慮なしに頬をペタペタと触ってきた。種付けされたいのか? そこら辺にしておけよセクハラ女がよ。愛すぞ。
「マックイーンもそうだし、ウオッカやライスもお熱になってるっつー男子……こんなヤツのどこが良いんだか」
ほっぺつんつんすんな! もう猶予はあらず。
「…………おい、オメー起きてんだろ」
何を言っているのか分からない。睡眠してる男の頬を無遠慮につつきやがってド変態野郎め。マリーゴールド。
「メジロドーベルだけじゃないぞ。スズカからもお前の話は聞いてる。いや、他の連中も結構話題に挙げてたな。何かちょっとこえーわお前。誰だよ」
なぜ恐れる? なぜ脅威性を感じる? 状況判断が大切だと教えたはずだ。
俺はメジロドーベル、サイレンススズカ、マンハッタンカフェの三人と友人関係にある男子というだけの存在です。怖がらないで抱きしめて。
新しい出会いの予感。クソ淫売がよ!
淫らな夢を見たいから退室してくれる? お前が世話してくれるというのなら話は別だがな。
「……狸寝入りを続けるようならオメーのこと職員にバラすぞ、不法侵入者男」
「こっちは人助けして疲労困憊の極限状態なんだよお姉ちゃん。ほっほっほ♡」
「えっ」
「寝かせてね」
「……」
くそ……マジで決壊しそうだ……テメェのせいだぞこのマヌケ! デカ乳揺らしてセクシーだね♡ 寝るからちょっと黙ってろ。