【独自】死んだ母の年金、偶然知り780万円受給 全国で750万件が宙に
「対象の年金記録があります」。大阪府の60代男性は、パソコン画面に出てきたメッセージに目を疑った。日本年金機構が運営する「ねんきんネット」で、自分の年金記録が持ち主不明となっていないか検索したついでに、亡くなった母親の名前を入れてみた。2016年のことだ。
>>持ち主不明5100万件の一部 年金機構、遺族へ周知せず 「不足なら今後改善」
後日、年金事務所で調べてもらうと、国民年金と、3社分の厚生年金の未統合記録が見つかった。10カ月が経過し、未支給年金と遅延特別加算金の合計約780万円が順次支給された。
母親は出産で教員を退職後、主婦や民間企業勤務で国民年金か厚生年金の保険料を納付。しかし、生前受け取ったのは教員時の共済年金だけ。死後10年以上が過ぎ、ようやくそれが分かった。
男性はさらに調べた。母親の姉の名前を検索すると、またも未統合記録があり、遺族に伝えた。自宅にあった古い老人会名簿で500人ほどの検索も試すと、約40人分の記録が出てきた。大半は死亡者のようだった。「亡くなった人の未支給の年金が放置されているのではないか」。その疑念は確信に変わっていく。
男性は年金事務所に行き、問題解決を促した。ところが「最初はどの職員も、死亡者など宙に浮いた記録を検索できることも知らなかった」。遺族に伝えるようにも訴えたが、「国としてできることはした。名簿関係は自治会から知らせてほしい」と言われた。区役所や自治会に相談しても対応は押し付け合い。前には進まなかった。
国会で取り上げてもらおうと17年から議員やメディアにも情報を送った。その数50カ所以上。本紙「あなたの特命取材班」に届いたのは22年夏だった。
年金記録問題の発覚は07年。国民1人当たりに一つの「基礎年金番号」を割り振って複数の年金制度の記録統合を進めたが、持ち主不明の記録が約5100万件も出てきた。政治責任が問われ、自民党が09年に下野する一因ともなった。
年金機構によると、そのうち約3300万件で持ち主が判明したものの、死亡者分約750万件は未支給のままという。
「残された年金記録問題」だった。
(水山真人)
未支給年金の受給手続き 死亡者の年金受給に結びついていない未統合記録を検索するには「ねんきんネット」への登録が必要。自身のねんきん定期便か、マイナンバーカードが手元にあるとスムーズに手続きできる。
登録後、亡くなった両親や祖父母の氏名やふりがな、生年月日、性別を入力して検索する。インターネットがない場合は、最寄りの年金事務所に相談できる。
記録が見つかれば年金事務所に出向き、記録訂正の手続きを行う。日本年金機構によると、複雑でなければ、その場で見込み額も示され、支払いまでの期間は数カ月という。