NFTに取り組んでいる人にさまざまな角度からNFTの可能性をお伺いする本企画。
今回は、古事記や日本神話を元に音楽やボイスドラマ、マンガ、舞台などのエンタメコンテンツを制作しているクリエイターチーム「古事記project」の代表、村上良之さんにお話を伺いました。
元々プロドラマーとして活動されていた村上さんは、副代表でシンガーソングライターのまみよさんと共にバンド活動をスタート。
村上良之さん(左) 、まみよさん(右)
その際に「何か物語になることをやろう」と考えて題材を探した結果、行き着いたのが古事記でした。
その後、古事記をテーマにしたエンタメ制作はまずラジオ番組を持つところから始まり、ラジオドラマにミュージックビデオと、その活動の幅を広げて来られました。
そして現在、古事記projectの活動の一環としてNFTを用いた創作活動にも取り組んでいます。
エンタメにNFTを掛け合わせることで、世間への認知と収益が飛躍的に向上した実績やこれからの展開など、様々なお話しを伺うことができました。
ぜひ最後までお読みください!
エンタメコンテンツ「古事記project」って何?
出典:古事記project
−古事記projectの活動内容について教えてください
古事記projectは2017年にサークルとして始まった団体です。
古事記や日本神話を元に音楽やボイスドラマ、マンガ、舞台などのコンテンツを作ってきました。
現在、チームのメンバーは10人です。メンバーはみな手弁当で作品をつくってコミケで販売するなど、同人活動のような取り組みをしてきました。
これまでに制作した作品は、ミュージックビデオをYouTube上に13作品、ボイスドラマが7作品、マンガは未完成ですが1作品あります。
昨年は2,500万円をかけて舞台を実施し、Yahooニュースにも掲載されました。
その舞台は先日DVD化して販売。また今年の11月24日からは新たな舞台も実施します。
昨年の舞台の様子 出典:斬舞踊公式twitter
※編集長のコイキングも11月25日に舞台を見に行ってきました。
気づいていた、でも乗り遅れたNFTの波
−村上さんがNFTを初めて知ったのはいつ頃ですか
実はかなり早くからNFTのことは知っていました。
日本はおろか、海外でもNFTバブルが起こる前の2020年末頃には一度NFTに関心を持っていた時期があります。
当時、ブロックチェーン事業に取り組んでいる仲間はいましたが、彼らに聞いてもNFTのことはまったくわかりませんでした。
僕自身もブロックチェーンに興味があったわけではなく、仮想通貨も触っていなかったんですよね。
ただ、このNFTというものは僕たちのチャンスになるんじゃないかなと、そういう直感がありました。
この頃の古事記projectは、正直に言ってそこまで売れていないし認知もない。お金も出ていくばかりで、メンバーにも還元できていませんでした。
「何か収入源を作らないといけない」とずっと思っていたところに、NFTの情報をキャッチしたので、まずは僕1人でメタマスク(仮想通貨のお財布)を作るところからやってみたんです。
これまでの活動で作ってきた作品の画像やミュージックビデオをOpenSea(NFTの売買所)に出品してみたんですが、当然まったく売れなくて(笑)
そうこうしているうちにBeeple(約75億円で落札されたNFT作品を作ったアーティスト)の絵や、せきぐちあいみさん(国内外で活躍するVRアーティスト)の作品が売れていることが世間の話題になりました。
Beeple『毎日:最初の5000日』 出典:Artpedia
これを見て「NFTというのはインフルエンサーしか勝たないゲームなんだ」と思い、ここでNFTに取り組むのを一度やめてしまったんです。
これが2021年4月頃までの出来事ですが、そこから時間も経って2022年になり、「そういえばNFTってどうなったんだろう」と思って調べてみたら、すごいことになっていたんですよね。
「やばい!乗り遅れた!」と正直思いました。
調べてみると、ジェネラティブ(コンピューターによって自動生成されたNFTアート)と呼ばれるNFTコレクションが流行り始めていることがわかりました。
加えて、ジェネラティブNFTを作って販売していくにはコミュニティが重要であることもわかったので、ちょうどイケハヤさんのVoicyも聴いていたことから、まずはNinjaDAO(イケハヤ氏がファウンダーを務めるNFTコミュニティ)に飛び込みました。
NinjaDAOの中で何か自分が提供できるリソースがないかと思っていたところ、メタバライブ(NinjaDAOから生まれたメタバースで行うライブイベント)という活動があることを知りました。
そこでメタバライブのスタッフになり、自分自身も古事記projectとしてメタバライブに参加したんです。
−逃してしまったNFTの波に乗ることができたんですね。その後、古事記projectとしてNFTを使った活動につながっていった経緯をお聞かせください
現在、古事記projectのNFTプロジェクトには僕を含めて3人のファウンダーがいます。
僕がメタバライブに出演した際、そのWebチラシを見たかつての仲間(現ファウンダーの1人)から連絡が来て、一緒にNFTをやらないかという話になりました。
実際に会って話をしてみると、もう1人のファウンダーとなる検見川神社の神主さんと一緒に、神社を使ったNFTプロジェクトをやろうとしていることを知りました。
一方、僕たち古事記projectも神社とのつながりが既ににありました。
神社を中心とした地域活性のお仕事をいただいたり、プロモーションムービーを作ったりするなど、行政絡みのクライアントワークをやっていたんです。
お互いに神社を生かした活動というところに目線が向いていたので、すぐに「検見川神社お守りNFT」のプレスリリースを出して動き始めました。
出典:検見川神社お守りNFT
−波に乗り遅れたところから、一気に動き出しましたね。村上さんが「NFTはチャンスになるかもしれない」と感じた理由はなんですか?
「デジタルのイラストが売れている」という事実があることです。
売れるのなら、それが収益源になる可能性があるわけですから、ぜひやりたいなと思いました。
すでに僕たちには神様のイラストのストックがたくさんあったので、NFTにして売るもの自体は持っていました。
「これまでは広告・宣伝のためだけに利用してきたイラストそれ自体がお金になるならば、これはやらないといけない」と思いましたね。
例えば、ボイスドラマのCDジャケットのイラストなんかもそうです。
これまではあくまで「販売しているのはCD」であり、イラストではなかった。
でも、ジャケットのイラスト自体が別個のものとして売れるならば、それをやらない手はないだろうと思ったんです。
古事記projectの3つのNFTコレクション
−古事記プロジェクトとしてNFTをどのように活用しているか教えてください
3つのNFTコレクションを運営しています。
1. こじぷろGODz(KOJIPRO-GODz)
1つめは、僕たちが作る神様のキャラクターデザインをPFP(SNSアイコン等で用いられるNFT)にした「こじぷろGODz(KOJIPRO-GODz)」というシリーズです。
1点物のコレクションとしてこれまでに28作品をリリースし、いずれも即完売しています。
1次販売の最高額は1.6ETH(約32万円)、2次流通も1ETH程度で回っています。
2次流通での最高額は、あの鴨頭嘉人さんが買ってくれた1.8ETHでした。
2. お守りNFT
2つめは「検見川神社お守りNFT」です。
日本テレビのnews zeroや日経新聞からも取材が入り、news zeroでは落合陽一さんも購入してくださったとお話しされていました。
関連記事:【千葉県 検見川神社】「お守り」がNFTに 「ウォレット安全守」「詐欺除御守」「フロアプライス下落時除守」も 「日本文化を世界に」の古事記projectと共同で
3. ジェネラティブNFT「KAMIYO-神代-」
そして3つめが2022年10月29日(土曜)にリリースを控えているジェネラティブNFTの「KAMIYO-神代-」です。
これら全てに共通するスタンスは、NFTを出すことが第一にあるわけではなく、あくまで僕たちのエンタメ事業の一環としてNFTを活用しているという点です。
例えば、ジェネラティブNFTのKAMIYOを出す狙いは、古事記projectの認知向上と仲間づくりです。
その先によりゲーム性の高い要素、例えばキャラクター交換システムの実装や、これまで実施してきた神社toミント(神社に行くことでNFTを発行できる)をゆくゆくは「神社to Earn」まで昇華させることなどを考えており、そこにKAMIYOが必要になってくるという形で絡めることで新しいエンタメを作っていきたいと考えています。
※古事記projectのNFTは人気度、注目度ともに高いため、偽サイトや偽アカウントにご注意ください。ダイレクトメールや不審なアカウントからのメンションには反応せず、公式DiscordコミュニティやTwitter公式アカウント等から発表されるリンクを開くようにしましょう。
古事記project 公式Discord(Discord:NFT界隈でよく使われるチャットツール)
−お守りNFTも非常に斬新なアイデアだと感じました
「詐欺除」「ウォレット安全」「フロアプライス下落除」など、NFT界隈らしい要素があるお守りになっていますが、あれも実はファウンダー同士で飲んでいる場で生まれたアイデアです(笑)
お守りNFTが1年経つと自動的にバーン(焼却)されることで「お焚き上げ」を実現するアイデアなんかは、これはいけるぞと思って興奮しました。
これまでに鴨頭さんや落合さんにも作品を購入いただいたり、先日イケハヤさんと対談させていただいた際にもすごく可能性を感じると言っていただけたりと、今かなり波に乗ることが出来つつあります。
エンタメはweb3からweb2に戻す必要がある
−まずNFTありきで、そこから事業展開を行っていくNFTプロジェクトが多い中、古事記projectはそもそもエンタメ事業があり、NFTはその一環であるという部分が真逆で興味深いですね
これまでは、NFTをきっかけとしてIP(知的財産:エンタメビジネスの核となるキャラクターなど)を作っていく流れが主流でした。
ですが、ここに来て一気に逆のパターンが増えてきたと感じています。
たとえば、AopandaPartyを手掛けるAoUminoさんやしきぶちゃんNFTを手掛けるBUSONさんのように、圧倒的に強いIPをすでに持っている状態でNFTの世界に入ってきているタイプ。
こういった動きを見ると、これまでとは違う流れがNFTの界隈にも来ているんじゃないかなと思います。
ただ、AoUminoさんやBUSONさんと僕たちの違いは、web2での実績です。
彼らはweb2のIPとしてすでに覇権を取っている一方、僕たちは認知もされていなかった。
ですので古事記projectとしては、まずIPとしての認知を取りにいきたいと思っています。
関連記事:10月大注目の激安ミントNFT「AopandaParty」 概要とホワイトリストの入手方法 「あおぱんだ」はTikTokでフォロワー約65万人と大流行
−web3の世界で戦える基盤をまず作っていく必要があるということでしょうか
あくまで基盤を作った上での話ですが、キャラクタービジネス自体はweb3からweb2に戻さないといけないと考えています。
これはAoUminoさんやBUSONさんと対談させていただいた時も、同じことをおっしゃっていました。
web3の世界は、結局のところまだまだパイが圧倒的に小さいという課題があります。
一方、エンタメをビジネス化しようと思ったら、100万人、1,000万人という規模の人たちに認知してもらわないといけません。
1,000万人から100円ずつお金をいただくモデルを作っていかないと、ビジネスとして成立しないんです。
そこで、web2では認知が取れなかった僕たちが何をすべきかと言うと、まずはweb3で実績を作ることなんですよね。
web3で実績を作り、認知を広げ、その結果を持ってVCから資金を調達する、そういった流れを狙っています。
この流れにおいては、なんとか認知は取れ始めているんじゃないかなという印象ですね。
ジェネラティブNFTを作ることを公表した2022年8月末時点ではDiscordのコミュニティ参加者は300人くらいでしたが、今では6,700人くらいに増えました。
Twitterのフォロワーも2,000人から8,000人まで増えて、多くの人に古事記projectを知っていただくことには成功しています。
何よりも、MV toミント(MVを見ることでホワイトリストがもらえる古事記projectの独自施策)のようなホワイトリスト(優先購入権)を絡めた施策を打ったおかげで、自分たちが作ったミュージックビデオをちゃんと見てもらえるようになったんです。
これまでは良い作品をつくっても、そもそも見てもらうことができなかったですからね。
ですが、自分たちの作品自体には自信があるので、実際にみなさんに見ていただくことができれば、ちゃんと評価もしていただき、こちらが泣けてくるような嬉しい感想も多数いただくことができました。
「どうやって自分たちの作品を世の中に知ってもらえばいいのだろうか」と5年間ずっと悩み続けてきましたが、NFTを活用することでこれまで蓄積してきたものが一気にみなさんの目に触れるようになったんです。
NFTは「web0」への原点回帰
−NFTがエンタメにもたらしたもの、NFTじゃなければできないことについてお伺いします
NFTを含め、web3のテクノロジーの多くはカルチャー的な要素が強いですよね。
新しい技術ではあるんだけど、結果的にweb3が実現しているのは「web0」への原点回帰だと僕は考えています。
ここでいうweb0というのは、インターネットが現れる以前から僕たち人類が築き上げてきた文化的な要素をイメージするといいかもしれません。
例えば、NFTってある種の共同幻想ですよね。
仮想通貨にせよNFTにせよ、みんながそこに価値があると思っているから価値が生まれています。
これって、お金も同じじゃないですか。
国家が発行するからこそ、ただの紙切れに価値があるという共同幻想を僕たちは持っているわけですよね。
お守りNFTを出す時も「デジタルでお守りなんて……」という意見は確かにありました。
でも、みなさんが手にしているお守りも中身の物質はなんら特別なものではありません。
神主さんがご祈祷をし、みなさんがそれをお守りだと信じることで、お守り足り得るわけです。
神社には神様がいるというけど、そこには物質としての依り代みたいなものがあるだけで、ドライに科学の視点に立てばそれもただの物質なんですよね。
でも、みんなが「そこに神様がいる」と信じているから神社足り得るわけです。
すると、「それってデジタルでも同じだよね」という話になるんですよね。
NFTのお守りも、みんながそれをお守りだと思えばお守りになるし、メタバースに神社を作って、みなさんがそこに神様がいると思えば、それは神社になるんです。
こういった考え方は人類が古来から持っている感覚に紐づくもので、それが現代になって、その場をインターネットというところに移しただけの話だと考えています。
お守りNFTは実際に神社の神主さんがご祈祷している(右)
また、DAO(統治者を持たず自律的に展開・機能する組織)なんかも同じですよね。
元々は神社を中心に寄り合いみたいなコミュニティがあり、みんなでリソースを出し合ってお祭りをやっていた。
お祭りをやっても個人の儲けにはならないけど、みんなが楽しく過ごせて、地域がより良くなる、そのためにお祭りはあるわけです。
そして、これをネット上で実現しているのがDAOですよね。
わずか10年程度の間に、国家よりも大きな権力を持つweb2の中央集権企業が誕生しましたが、web3によって、web2から古来の人類の生活に戻ろうとしているんじゃないかなと思います。
web2なんてわずかここ10数年程度の話ですけど、そもそも人類には2,000年以上に渡って営んできた生活のあり方があるわけですから。
そういった古来からある生活の方がしっくりくるはずなんです。
そして、それが「デジタルの上でも実現するようになった」のがNFTなんだろうなと思います。
ブロックチェーンによって、デジタル上でもみんなが共同幻想を抱けるようになったということだと考えています。
「推し神様」の文化を作りたい
−古事記projectとして、今後NFTを活用して挑戦してみたいことを教えてください
古事記projectのエンタメを通じて「推し神様」という文化を作りたいですね。
神様を「推す」という文化です。
神様を好きになってもらうことで、日本の神話や歴史、神社文化を日本人に知ってもらい、そして世界にも知ってもらう、それが僕たちの最終目標です。
そのためにできることとして、まずはジェネラティブNFTを成功させた上で、さらに今後の展開を作るための資金調達を考えています。
エンタメで海を超えて世界に広げていくには、やはりアニメかマンガは絶対に欠かせないんですよ。
でも、これはどちらもメチャクチャお金がかかります。
自己資金だけで進めるのは難しいので、制作委員会を組むなどして資金を調達しないといけません。
古事記projectを本気で世界に打ち出していくために、パートナー企業との提携なども積極的に模索していきたいです。
また、NFTの具体的な活用についても考えています。
「神社to Earn」まで持っていくために、まずはコミュニティ内トークンを作り、神社を回ることでトークンがもらえるとか、そのトークンがキャラ交換に使える仕組みを作るとか。
CNP(CryptoNinja Partners)さんも取り組まれていますが、KAMIYOのホルダーが利用できる神社巡りのアプリ開発や、貸し出しNFTの仕組みなんかもできると思います。
やれること、やりたいことは盛りだくさんなので、まずはその実現のためにもVCからの資金調達は直近の課題ですね。
加えて、今あるコミュニティが今後これらを展開していく上での中核になっていけばいいなと考えています。
やはり最終的には100万人、1,000万人を相手にしていくビジネスにしたいので、今たくさんの方が集まっているコミュニティを中心として進めていきたいですね。
関連記事:【KAMIYO-神代-】(「古事記project」発のジェネラティブNFT)が期待されている3つの理由と購入方法 成功の鍵となる音声での発信力に注目
日本のエンタメ産業はNFTで強くなる
−NFTは今後、世の中にどんな影響を与えるとお考えでしょうか
日本の産業はずいぶん弱くなってしまいましたよね。
円安もすごいことになっていますし。
総合的に見て、日本という国の力が弱まってしまっています。
ですが、やはりアニメなどのエンタメ分野では、日本はダントツで強いと思います。
ただ残念なことに、産業としてはうまく成立していません。
海外まで進出しているのは一部のIPに限られていたり、クリエイターの薄給問題もあったりします。
僕たちは舞台も手掛けていますが、海外では舞台の公演はきちんと収益構造ができているけど、日本ではビジネスとして成立していない。
僕個人の想いとしては、NFTによって世界に誇れる日本のエンタメ、サブカルチャーが、より産業として強くなってほしい、強くなるべき、そして世界に出ていってほしいと思います。
Azukiのような日本らしい絵柄のNFTに日本人が関わっていないのって、悲しいじゃないですか。
NFTは世界とつながれるツールですから、NFTをきっかけにもっと日本のエンタメ産業の発信がなされて然るべきです。
今のエンタメやサブカルチャーの原点が、古事記には詰まっています。
そんなものが1,300年前から存在する国なんですから、日本人はもっと自信を持っていいと思います。