【12月26日付編集日記】引き際
引き際に美を求め始めたのは、いつの時代か。大物政治家ほど晩節を汚すことはなかった。疑惑を多数背負う未熟者をめぐって老いた権力者たちが悪知恵ばかり働かす年の瀬に、美しさなど感じられるはずもない
▼歌の世界では大物たちが引き際を探る。加山雄三さんは紅白でステージに幕を引き、小椋佳さん、高橋真梨子さんらが最後の全国ツアーを展開中。全国ツアーの先駆者とされる吉田拓郎さんは今月、一線を退いた
▼政治色の濃いフォーク界を抜け出し恋愛をはじめ等身大の歌で新しい時代を築いた拓郎さんは、Jポップの祖とも評される。テレビ出演拒否、リゾート施設や離島での徹夜野外ライブなどで権威的な業界に抗(あらが)った
▼老いた社会や常識への反発を原動力にしただけに、自らの引き際をどうするのか。大御所が長く活躍する演歌界ではなく、ニューミュージックである。持ち崩すほどに歌うのか、共に歩んだ世代は注目したはずだ
▼最後のラジオ出演では、夫婦で老後を生きることに強い意欲をみせた。祭りの後のさみしさなどみじんもない。時代を読み、ギアを切り替える潔さ。さすがである。刺激されたファンは、口ずさんだだろうか。今はまだまだ人生を語らず♪