大和田秀樹さん
漫画「疾風の勇人」1巻
大和田秀樹さん
漫画「疾風の勇人」1巻

 東京の片隅で漫画を描いて暮らしている。

 数年前、所得倍増計画でおなじみの池田勇人元総理を主人公にした「疾風の勇人」という漫画を描いたのだがそれが縁でこのコラムを書くことになった。戦後、日本の高度経済成長期をけん引した総理大臣。そういう一面とはまた少し違った角度から池田勇人の魅力についてつらつらと敬称略で語らせてもらいたいと思う。

 現職の岸田文雄総理も酒好きを公言されているが、当時池田勇人も酒豪の名をほしいままにしていた。池田の人生と酒は切っても切れない不思議な縁があった。なにしろ生家では当時造り酒屋も営んでおり、つまりは筋金入りの酒飲みであったのだ。好きな飲み方はちょうど人肌ぐらいの燗酒(かんざけ)。池田勇人の秘書をしていた頃の宮沢喜一は酒席で人肌を保つために一升瓶をずーっと抱きかかえさせられたこともあったそうだ。後に総理大臣になる男を魔法瓶代わりに使う、やはり池田勇人はただ者ではない。

 池田勇人と酒の不思議な縁は中学校入学の時にもうかがえた。寮に入ったら同室の先輩がなんとあのニッカウヰスキーの創始者竹鶴政孝だったのである。1年生の池田はふとんの上げ下げをさせられたりいろいろこき使われた。この年頃の先輩後輩の間柄はなぜだか一生続くものである。後に大臣になって海外から賓客を招いた時、その宴の席には必ずニッカのウイスキーが置いてあったのはしごく当然のことだった。

 おおわだ・ひでき 漫画家。1969年、茨城県石岡市生まれ。東北大工学部機械知能工学科中退。98年、野球ギャグ漫画「たのしい甲子園」でデビュー。他の作品に「機動戦士ガンダムさん」「ムダヅモ無き改革」など。東京都在住。

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