去年11月、ツイッターのコメントでフリージャーナリストの男性から誹謗中傷を受けたとして沖縄タイムスの記者が提起した裁判が、今月、終わりを迎えました。
県議会の文教厚生委員会。
いつものように記者席に座るのは、沖縄タイムスの阿部記者です。
差別問題を中心に取材してきた阿部さんにとって、ヘイトスピーチを規制する条例について審議するこの委員会は外せない取材ですが…。

沖縄タイムス 阿部 岳 記者
「ずっと今日は本当は張り付けじゃないといけないんだけど。この(裁判)期日は外せないので。最後まで行きたいなと思って」
取材と並行して行っているのが、フリージャーナリストの石井氏を名誉棄損で訴えた裁判です。

発端は、去年の慰霊の日。
自衛隊の現役幹部たちを取材していた阿部さんに対して。
ツイッター上で10万人以上のフォロワーを擁するフリージャーナリスト・石井孝明氏が「デマ、言葉尻攻撃、攻撃的な怒鳴る取材」などと批判。
阿部さんは石井氏の“誹謗中傷の責任”を問い、110万円を請求する裁判を起こしたのです。
そして阿部さんが提訴に踏み切ったのにはもう一つ理由があり、石井氏はこれまでに在日コリアンの辛淑玉さんに対し、偏見とデマによる侮辱・攻撃を繰り返し、
2019年に東京高裁で損害賠償の支払いを命じられていますが、石井氏はその後も攻撃を続けています。

“自身に向けられた誹謗中傷を許さない”と声を上げ、社会規範を作る。それがひいては社会的弱者に向けられた“差別解消”につながると信じ、阿部さんは裁判を起こしたのでした。
裁判が終わりを迎えたのは提訴からおよそ1年後の今月。
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石井氏側は「阿部さん対するツイートについて事実に反する内容と認め謝罪文を掲載する」こと。一方で阿部さん側は「損害賠償請求を放棄する」ことなどを条件に和解が成立しました。
阿部 岳 記者
「“こういう事は許されない”と示すのが今回の目的なので。私にとってはとても満足いく結果です」
今月23日、石井氏のツイッターに謝罪文が掲載。
裁判は幕を閉じたかに思われました…が、謝罪文掲載直後、石井氏は和解の趣旨に反したツイートをしています。

石井孝明氏のTwitterより
「事件は相互の罵り合いの結果です。阿部氏がいきなり相手を裁判で訴えるのは異様な行動です」
“誹謗中傷を許さない”という、規範を作る困難さを感じながらも阿部さんは“確かな成果”も感じていました。

阿部 岳 記者
「(今回の裁判も)石井氏に変わってもらいたいとか。改心してもらいたいという狙いではなかったんですね。むしろ、それを許している社会、周りを変えたいという気持ち。そういう意では、謝罪文が公に出たのはその意義は失われないと思うんですよね」
“裁判の意義”を感じているのは阿部さんだけではありません。
沖縄タイムス編集局員ら
「自分は1年目で、阿部さんが闘っている姿を見て刺激を受けました」
「職務をこなしながら(裁判を)闘うのは、本当に想像を絶する大変なことだと思いますが、腹の座り具合、常日頃、私は同僚としてすごいなと考えています」
謝罪文の掲載期間は72時間。
ツイートは現在は削除されていますが、しかし阿部さんが裁判に込めたメッセージは消えることはありません。