12月22日から23日夜にかけて、愛媛県久万高原町は記録的な大雪に見舞われました。
一時、およそ3000戸が停電し、一部の集落は孤立しました。
取材によって、消防による救助が困難だったケースも明らかになりました。
雪が少ないはずの愛媛で、いったい何が起こったのでしょうか。
私たちはどう備えていけばいいのでしょうか。
(NHK松山放送局・大雪取材班)
続く雪の影響
記録的な積雪を観測した久万高原町。
26日に取材に訪れたときも町内は雪で覆われていて、住んでいる人たちは朝早くから除雪作業に追われていました。
(50代男性)
「雪かきが本当に大変です。先週は道路が通行止めで出勤できず、きょうになってやっと出勤できました。会社の車の周囲は積雪で動かせない状態です」
(60代男性)
「日が出て雪が溶けてくると屋根の雪が落ちてきて危ないので上を見ながら気をつけて歩いています」
一時、町では3000戸が停電し、一部の集落は孤立した状態となりました。
久万高原町によりますと、大雪による倒木のため、23日以降、道路が寸断され、美川地区の東川と日野浦が車で行き来ができない状態が続いたということです。
町が倒木の撤去作業などを進め、すべての地域で孤立が解消されたのは26日のことでした。
急速に、そして長時間降り続いた大雪
久万高原町で降った雪の記録を見ると、急速に積雪が増えていたことがわかります。
これは気象台から観測を委託されている久万高原消防本部が観測した積雪量を時系列で見たものです。22日夜から積雪を観測し、23日未明からは一気に積雪量が増えました。
3時間におよそ10センチのペースで増え続け、わずか1日で70センチもの雪が積もりました。ピークだった23日午後10時には76センチと、昭和54年に統計を取り始めてから過去最大の積雪を記録しました。
なぜ大雪に?関門海峡で“風が収束”
なぜここまで急速に積雪が増えたのか。
防災科学技術研究所・雪氷防災研究センターが風や雪の強さを分析した画像を見るとよくわかります。
日本の西北西から吹いている風が、九州と本州の間の関門海峡を通り抜けるように集まっている様子がわかります。いわゆる「風が収束」している状態です。
この状態になると、集まった風が上昇気流となり、雪雲が発生します。
さらに、その風が四国山地にぶつかるとさらに上昇気流が起こって雪雲が発達するのです。
この結果、雪が最も強まったのが久万高原町付近。
発達した雪雲はほぼ丸一日にわたって流れ込み続けたとみられます。
分析を行った専門家は、この冬、同じような雪の降り方がまた起こる可能性があると指摘しています。
(雪氷防災研究センター 中村一樹センター長)
「日本の西側から寒気が入ってくる状況は今後も続き、さらに気温も下がるので四国の同じようなところで積雪が増える可能性がある」
雪の中の救助 通報から2時間
この雪の影響で亡くなった人もいます。
久万高原町内では、60代の男性と90代の女性がそれぞれ屋外で倒れているのがみつかり、いずれも死亡が確認されました。
このうち60代の男性が倒れているところを、最初に発見した人に話を聞くことができました。
最初に発見した篠崎大地さん
久万高原町に住む篠崎大地さんは、23日午後8時半ごろ、県道の中で男性が倒れているのを見つけました。
男性は話しかけるとうめき声をあげていて、すぐに消防に通報したといいます。
(篠崎さん)
「男性を見つけたとき、すでに体も冷えていましたが、息をしていたので、抱きしめて手を握ってあげたりして温め、消防が来るのを待っていました。やれることはすべてやろうという思いでした」
しかし、男性が消防に搬送されたのは、通報からおよそ2時間後。
男性は搬送先の病院で死亡が確認されました。
なぜ、救助に時間がかかったのか。
久万高原町消防本部の大野秋義消防長がNHKの取材に応じました。
(久万高原町消防本部・大野秋義消防長)
「雪が降っていない通常の状況では10分ほどで救急搬送ができたかもしれませんが、大雪の影響で現地に出向くのが困難で多くの時間がかかりました」
大野消防長によりますと、救急隊が消防署を出発しておよそ10分で現場の近くに到着しました。
しかし、男性のもとまであと数百メートルというところで、雪で立往生した車が道を塞いでいました。救急車を進めることができず、ひざ上ほどの積雪のなか、隊員が担架を持って駆けつけなければならなかったということです。すでに男性は意識不明の状態でした。
(久万高原町消防本部・大野秋義消防長)
「山岳救助の訓練などは行ってきましたが、消防隊員の中でも夜間にここまでの大雪に対応するのは初めてでした。隊員の命も守りながらいかに救助を行うかが今後の課題です」
雪の少ない愛媛だからこそ万全の備えを
愛媛県に住んでいると、大雪を経験することは多くありません。
私たちは雪への備えをどのように備えを進めればいいのでしょうか。
雪氷防災研究センターの中村一樹センター長によりますと、まずは「不要不急の外出は控えること」が最大の原則です。
やむをえず外出する場合は、車に冬用タイヤやチェーンを装着し、シャベルやけん引ロープ、長靴、手袋、防寒着なども積んでください。
また、今回と同じように停電が起こる可能性もあります。
水や食料、毛布、懐中電灯、モバイルバッテリー、それに携帯用のトイレなども用意しておくと便利です。
(雪氷防災研究センター 中村一樹センター長)
「今回のように急速に積雪が多くなると雪が降り始めたら移動も危険になります。雪の予報をこまめにチェックして、早めの備えを心がけてください」
雪の季節は始まったばかりで、これから気温はさらに下がります。
雪に慣れていない地域に住む私たちだからこそ、少しでも早めに備えを進めておく必要があります。