論説

【除染土再利用】3カ所では足りない(12月15日)

2022/12/15 09:14

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 東京電力福島第1原発事故に伴う中間貯蔵施設の除染土壌の再生利用で、環境省は初めて県外での実証事業を始める計画だ。関東の同省関連施設3カ所で実施する。住民説明会などで地元の理解を得られれば、順次、具体的な作業に入る。再生利用が進まなければ、2045年までの期限が決まっている県外最終処分もおぼつかない。

 双葉、大熊の両町が受け入れている中間貯蔵施設では、搬入された除染土壌の分別作業が続く。環境省は最終処分量を減らすため、放射性セシウム濃度が1キロ当たり8千ベクレル以下を公共施設などに利用する方針を示している。県内では現在、飯舘村長泥地区で、農地造成の実証事業などに取り組んでいる。

 初めてとなる県外再生利用は、埼玉県所沢市の環境調査研修所、東京都の新宿御苑、茨城県つくば市の国立環境研究所で計画されている。各施設の芝生広場や花壇、駐車場などの小規模スペースに埋設し、別の土で覆う。花壇では埋め立て面積を変えて植栽への影響を確認するという。

 環境省はこれまで、県外向けの理解活動として各地で対話フォーラムを催してきた。新型コロナウイルスの感染拡大で参加者を絞ったこともあり、効果は限定的と言わざるを得ない。それに比べて、実証事業は本格的な再生利用に直結する。事業展開に当たって環境省は各地で住民説明会を開催する方向だが、丁寧に説明を尽くしてほしい。

 今回の事業について、西村明宏環境相は「(再生利用の)国民理解にもつなげたい」という趣旨の発言をしている。やや不安なのは、いずれの場所も一般が立ち入れないことだ。国民理解に結びつけるには、正確で幅広い層に伝わるような情報発信の工夫が必要となるだろう。

 少しずつでも理解の広がりが出てくれば、実証事業をどう拡大していくかが課題となる。自らが管理する敷地の人が出入りしない場所から、民間などの土地や、人の出入りのある場所に広げる努力を惜しんではならない。将来、再生土壌は道路などの公共事業に活用することが想定されていることを踏まえれば、できるだけ早く次の段階に事業レベルを上げていくよう望む。

 実証事業の充実によって、再生利用の割合が増えれば、いまだ手つかずの状態の県外最終処分の負担は減る。再生利用として活用される量は明らかになっていないが、十分に受け入れられる処分量を確保するには県内外での実証事業の拡充は不可欠と言えるだろう。(安斎 康史)