ビデオコーディング規格「H.266/VVC」の最終仕様発表 H.265/HEVCからビットレートを50%削減 …… エンコードが激重な子です。
ITmediaの記事である。H.265/HEVCもまだ十分に普及していないのにVVCが策定された。まあ、元々今年策定が予定されていた。
この規格は、元々8K(UHD 8K)向けに開発されていたが、360度ビデオなどにも向けることになったようだ。
尚、執筆時点ではまだMPEG-IにはWorking Draft 5までの情報しかないようだ。今後追加されるのだと思うが、これはエンコードもデコードもかなり複雑になっているので、普及させるには来年予定されているハードウェアライセンス発行後に、ハードウェアデコーダーやエンコーダーが出て来ないことには利用されないだろう。
ちなみに、ビットレート50%削減したから、どんな映像でも50%画質が上がるわけではない。
あくまで、ビットレートを50%落としてもH.265のビットレート2倍時に近い水準が保てることが、ある要件を満たした映像に対して生じることがあるというだけだ。これを間違って認識して、何でも最新ならという人がいるが、そういうわけじゃない。
実際には、得手不得手がありものによっては同じビットレートで画質が下がることも希にある。特に、H.266ではUHD系の8Kや4Kでのビットレート改善が見込まれるが、HD系以下になるとその効果が期待値より下がる場合もあるだろう。(50%の削減効果は必ずしもないということ)
これは起点となる可変ブロックサイズが拡張されることで出る効果が結構大きいからだ。まあ、テスト動画は必ず改善したものを出すようにするのが今では決まり文句だが、実際のエンコードソフトウェアなどが出てくると、思った程にならないケースもあるので、覚えておくと良いだろう。
尚、H.266の仕様はまだ埋めていないが、MPEG-1~Hまでの動画仕様は以下のようになる。ちなみに、新しいほど高効率で高画質と思われがちだが、正しくはそうではない。
例えば、MPEG1とMPEG2ではそれぞれが策定された段階において、MPEG1は解像度が低ければ高効率高圧縮だった。
MPEG2はDVDなどに使うためにMPEG1は当初なかった(その後規格外で生まれた)ビットレート拡張をして、インターレース処理モードを加えることで高解像度時の画質を改善したものだ。その後、エンコーダーの機能拡張で低解像度でもMPEG1と同等になったが、今でも低ビットレートの低解像度だとビットレート比の画質はMPEG1より下になることがある。まあ、今ではMPEG4が両方を代替してくれるので使われる事もない。
といった具合で、強みが高く発揮できる範囲が規格によってちょっとずつ違う。特に新しい規格は狙っている新しい映像フォーマット(解像度等)で高効率を目指しているため、そのまま全域で性能が上がると解釈してはいけない。
結構、この映像フォーマットは最新なので高画質とか、簡単に記事で書かれることがあるが、規格が狙っている符号化技術の強みを、活用する映像解像度やサブセット(HDRやColor Space)を使っていなければ、目的の圧縮比でより高解像度になることはない。これは、既に1Mbpsで限界まで圧縮されているSD映像を、500Kbpsで同じ品質にすることは出来ないと言うことだ。解像度に対して既に技術の限界が見えている場合は、新しい技術が多少加わったところで、その効率は殆ど上がらないからだ。
これが、100Mbpsの4K、HDR、ITU R.2020 Color Spaceを利用した映像ならば、50Mbpsで同じ画質にすることが出来るかもしれない。解像度が高いと動きの範囲が広がるため、予測の最適化が進めやすくなるからだ。
尚、圧縮に必要なパフォーマンスは、H.265に対して多分数倍必要になると思われる。デコードは2.5倍未満だと思う。確か、デコードで1.8倍ぐらい、エンコードで7.5倍~9倍とかその辺りだったと思う。だから、ハードウェアエンコーダーやデコーダーがないとこれを普及させるのは難しいだろう。そもそも、AV1とかVP9が既に十分な画質で普及し、4Kや8Kが期待ほど伸びず、H.265も怪しい世界で、これが普及するのかというのも疑問ではある。
今や映像配信の主流となるネット事業者は、AV1とVP9、MPEG4/AVCに集約されつつある中で、この市場が取れなければ、テレビなどの旧来の放送メディアで使われない限り、VVCが生き残ることは出来ないだろう。
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