2006/12/17 13:32
まるで堰を切ったかのように、大量の橋が連発で出現し始めた。
もちろん、地形がそうさせているのである。
右の地形図を見てほしい。
推定される現在地は、ちょうどこの辺り。
すなわち、地形図のうえで木戸川の谷が“クランク状”に折れ曲がっている事から、私が勝手に命名した“クランク谷”。
その核心部(クランク)の入口にあたる。
「橋8」から始まった橋の連続出現は、路盤を歩き通そうとする我々に対して木戸川林鉄が課した試練に他なるまい。
我々としても、この途中で簡単に河原へ迂回出来る場所があったなら、リスクを避けてそうしたかもしれないが、今はある程度意地を張ってでも少ない迂回で進まないと、明るいうちに踏破出来るか覚束ないような状況だった。
つまり、今日の探索の成功を占ううえでも、ここは頑張りどころだという判断が働いていた。
この探索を始めてから、もう10回以上は見てきた石造の橋台であるが、この「橋11」の左岸側にあったそれが、一番美しかった。
苔むしてはいるものの、布積みの目地には丁寧にモルタルが充填されており、ちょっとやそっとで壊れそうにはなかった。
橋台というのは、林鉄跡では最もありふれた地味な遺構だし、竣工の時期も石造としては新しい(おそらく戦後)と思われるけれど、それでも私の目を強く惹き付ける存在だった。
さて、この橋台の脇を登って路盤に立つと、そこに1本の標柱が、立って我々を出迎えた。
ペンキがやや“流れ”てはいるが、文字の判読には全く問題がない金属製の標柱。
いつ頃設置されたものかは分からないが、位置的に林鉄が廃止された後なのは間違いない。
一方で、現状の路盤を通ってこの標識を持ち込む事も難しいだろうから、林鉄廃止後まもなくの昭和40年代に設置されたのではないかと思うが、意外に新しいという可能性も捨てがたい(根拠はなく、ただ何となくだが)。
うぉっ! 鮮やか!
今まで、雨が煙る淡色ばかりの世界にいたせいで、
ここに前触れも無く現れた“緋色の絨毯”が、目に沁みた。
――美しい。
掛け値無くそう思う場面だが、気は抜くまいぞ。
少し進んで振り返れば、ここもきっと険しい場所だと分かるはず。
廃道で「キリッ」と目が覚める風景というのは、大抵難所なんだから…。
少し進んで振り返ると、予言した通りの険しさを見て取れた。
苔色の石垣が、この緋色の道の護り主なのだ。
思えば、ここしばらく笹藪が目立たない事も、地形の険しさと関わっているのだろう。
キター!
小さい橋だが、綺麗に架かってるじゃないか!!
なんと愛らしい!
緊張の最中に現れた小橋は、私の心を妙に和ませてくれた。
こんなに小さく低いのに、橋台の作りの細やかさが他の橋に全くひけを取っていないのも高得点だ。
←
雨のせいもあるだろうが、地下水の水位がかなり高いらしく(地形的に伏流している沢水の出口か?)、可愛らしい橋台を形作っている石と石の隙間から滾々と水が湧き出していた。
天気が良かったら、喜んで口や顔を浸したと思う。
→
この小さき橋にも、忘れずに数字を振っておく。
美小橋の「橋12」である。
一帯は紛れもなく険しい地形であるが、「橋11」からこの「橋12」までの短い区間は、長らく続いた笹ヤブ漕ぎからも開放されており、我々にはとても好ましい廃線跡だった。
そしてそうこうしているうちに、いよいよ“クランクの頂点”も近付いていた。
はい来た!
やっぱり来た!
もう一発険しいの、来マシタ。
今度の「橋13」は、橋台と橋脚の基部のみが残っているという、お馴染みのパターン。
橋を渡るという選択肢がないので、山腹の水平トラバースか、地形に沿ってアップダウン(ダウンアップか)を選ぶしかない。
で、地形を観察した結果、矢印で示したようなコース(地形に沿ってゆく)を選ぶことにした。
ルートファインディングの醍醐味はあるけど、この繰り返しは…疲れるスな~。
←「橋13」の迂回中。
全ての橋の橋台が人工的な石垣であったわけではなく、この橋のように、岩棚をそのまま使っているところもあった。
そして、そういうところでは毎回緊張させられた。
「橋13」の迂回完了→
対岸の橋台(こちらも天然橋台)から振り返る「橋13」。
★印が、左の写真の撮影地である。
我々が緊張したということも、納得して貰えるだろう。
杉の木立が邪魔で申し訳ないが、右奥に見える岩棚こそ、“クランク”の頂点である岩尾根だと思う。
果して林鉄は、如何にして、この岩尾根を越えていたのだろう?
………。
旧版地形図には何も描かれていないが、
もしかして、
隧道があるのでは?
↓↓
13:49 【現在地:“クランク”の頂点】
「橋14」
さあて、これをどう越えようか。
現存する遺構から想像するに、3径間の木橋である。
そして、高い。 凄く。
まずは、斜面を下って橋脚を目指そう。
(太い矢印のところまで)
その後で、対岸の斜面を堀割までよじ登ろう。
(破線の矢印のルート)
このうち此岸は問題が無さそうだが、
対岸をよじ登る部分が… 不安だ。
正直、登り果せるという確信はなかったが、他にルートも無さそうだしな…。
行けるのか?
かなり、ヤバそうな感じがするが、
倒れた木造橋脚を上手く足場に使えば、なんとかなるか…。
その“線”で、登攀を開始する。
実際に斜面に取り付くと、すぐにルートの変更を検討する事となった。
(2枚上の写真の★印のところ)
くじ氏が立っているところから、ギリギリ手が届く立ち木を手掛かりにして、
目の前の岩盤を一気によじ登ってしまった方が良かろうという判断になったのだ。
こうした岩場では、ロッククライマーとして修行を積んでいるくじ氏の判断が頼もしかった。
ということで、くじ氏を先頭にして岩場をよじ登る。
今日これまでの中では、一二を争う危険地帯だったと思う。
堀割へと無事“登頂”成功!
13:53 《現在地》
約4分間の「橋14」攻略作戦であった。
そして、“クランク谷”は我々のもとに陥落し、
今回の踏破目標(乙次郎沢出合~第1発電所)のちょうど半分である、2kmを修めたのだった。
隧道の、夢が破れて、雨の堀割。