これが最後の殺陣になるかもしれない
京都市右京区の太秦(うずまさ)にある東映京都撮影所。
大ヒットした『新諸国物語 笛吹童子』(1954年)をはじめとする時代劇映画や、国民的人気シリーズとなった『銭形平次』(1966年〜)、『水戸黄門』(1969年〜)などの時代劇ドラマを数多く生み出してきた場所だ。
所内に建つ俳優会館1階のメイク室で、ずらりと並ぶ鏡の前に里見浩太朗が座る。ドーランを塗り、かつらをつける。そして衣裳を纏うと、表情が引き締まり、背筋がぴんと伸びて、86歳という年齢を感じさせない。
里見が語る。
「太秦に来るとね、故郷に帰ったような感じがするんです。ホッとするだけでなく、気持ちがキリッとなって、やっぱり京都はいいな、と思います。
メイク室のこの鏡の前、入り口を入ってすぐ左が私の指定席です。数えきれないほど座ってきました。初めてここに来てから、もう65年になるからね。
私の席の隣は北大路欣也、その隣は高橋英樹、向こう側は松平健の指定席で、その向こう側に松方弘樹がいました。松方、梅宮辰夫、千葉真一……。最近まで一緒にやっていた仲間がいなくなってしまった。私だけ置いていかれたのか、と思うこともあります。でもね、だからこそ私はいい仕事を続けていかなければ、と最近つくづく考えるんです」
この日は、2023年1月に放送される新春ドラマスペシャル『ホリデイ〜江戸の休日〜』(テレビ東京系)の撮影で太秦を訪れていた。現代と江戸時代が交錯する物語で、里見は現代編では鑑定人風の謎の老人、江戸時代編では旗本の大久保彦左衛門を演じ、殺陣を披露することにもなっている。
「この年齢だから、これが最後になるかもしれません」
里見はそう言うが、打刀(うちがたな)と脇差を帯刀し、槍を構える姿には威風が漂い、唯一無二の存在感を放つ。これぞ名優たるゆえんだろう。
「時代の流れもありますが、最近のテレビの時代劇は再放送ばかりで、残念でなりません。でも、これまでとは違う、新しい時代劇を作ることはできるはず。それを今回の新春ドラマスペシャルで示すことができたらと意気込んでいます」
2022年6月には水戸黄門に扮して、教育バラエティ番組『ワルイコあつまれ』(NHK Eテレ)にゲスト出演した。
「東京での収録に、京都撮影所のスタッフが来てくれて、私が黄門様に扮するのを完全サポートしてくれました。あの衣裳を着ると、ワクワクします。
放送後、たくさんの感想が寄せられました。そのなかに『芝居をしない黄門様を初めて見ました』というのがあってね。初めてのこと、新しいことはまだできると思ったし、これからもチャレンジしていきたいね」