2008/11/01(土)B・B'sコラム
【#59】静かな時間
今僕は、道内のとある田舎に来ています。
ここは静かな森の中。周りには人里の灯りもなく、夜は手探りじゃないと歩けないくらい真っ暗闇になるけれど、その代わり空には満天の星が輝いている――そんな環境の中で一人、数日間を過ごしています。
今シーズン後半、僕はずっと自分に物足りなさを感じていました。動きにキレがない。自分の中で一番身上と考えている「キレ」に関して、自分の中では納得のいくものが感じられる日がほとんどなかった。それは体だけではなく、心の部分についても同じ事が言えました。
試合が終わって一人になった後、僕はよく自問自答を繰り返していました。試合やイベントではいつもたくさんの人に囲まれる日々。こんな幸せな事ないはずなのに、いつしかそれが当たり前のように思ってしまっているんじゃないのか?ヘンに「要領」みたいなものを覚えてしまっているんじゃないのか?球場で会うファンが増えるに従って、一人ひとりに対する優しさが足りなくなってきているんじゃないのか?自分はもっともっと上を目指そうという貪欲さが失われてきているんじゃないか?今の環境に安住しようとしてしまってるんじゃないのか?――そんな思いに苛まれながらも、また翌日になれば時間に追われて同じ事の繰り返し…。体も心も、磨り減っていました。
半年以上も続く野球のシーズン。僕にとっては、ホームゲームやビジター、そしてその間を縫ってのロケ・映像編集作業等々に追われているうち、アッという間に月日が過ぎていきます。そしてオフはオフで、幼稚園訪問やイベント、トレーニングなど、また別次元で時間に追われる毎日。たまの「休日」は移動日だったり、体を動かしてたり、ホームページの更新作業(このコラムを書いたり、B・BギャラリーやB・Bニュースの更新など)をしてたり…ふと気がつくと何かしら「仕事」について考えてる事が多いから、本当に何もかも忘れて心休まる日々というのはほとんどありません。
それでもいいんです。好きでやってる事ですから。常にスケジュールや時間に追われていても、充実してるし何より楽しい。サメやマグロはずっと止まらず泳ぎ続けてないと、呼吸が出来なくなって死んでしまうと言われるけど、僕もそうでありたいと思っていた。でもどうやら、そんな日々をずっと続けてきたシワ寄せを跳ね返せるほど、僕は強くなかったようです。
今年のクライマックスシリーズ、ファイターズは全てビジター。行くか、行かないか…僕はギリギリまでかなり迷いました。「B・Bはクライマックスシリーズ行かないの?」――随分とたくさんの方に、こう聞かれもしました。そんな言葉を掛けてもらって嬉しかった。みんな、マスコットは基本的にビジターに帯同してないのはわかった上でそう聞いてくれるってことは、それだけ僕のことをチームの一員だと感じてくれてるってことだと思ったから。…でも、スケジュール面も含めいろんな状況から判断して、今年は行かないと最終的には自分で決めました。第2ステージ、ファイターズは結局ライオンズに敗れたけれど、僕は複雑な思いでそれを見ていました。結果的には負けてしまったとしても、やっぱりその場にいたかった、そしているべきだったんじゃないのか、と。
でも、すぐに頭を切り替えました。これは、来シーズンに向けての準備期間がじっくり取れるようになったという事だと。これから更に上を目指していく為には、一度静かな時間を取り、心も体ももう一度根本から鍛え直そうと。思えばここ2年間は11月までシーズンが続き、オフの間態勢を立て直す余裕も充分ありませんでしたから…。
今僕は人里離れたこの場所で、毎日一人で何をしてるのかと言うと――本を読みまくって、走りまくってます。あと時々散歩しながら物思いに耽ったり…。毎日その繰り返し。つまらない内容でゴメンなさい(^^;)。
今までは普段本を読んだりする精神的余裕が持てなかったから、そういう習慣を付けたくて、今回は本を大量に持って来ました。ここでの生活では本を読むくらいしか楽しみがないんで、かなり没頭しています。色々勉強や刺激になっていいですよ。そんな中で、今後のアイデアのヒントなんかも浮かんだりする。それをその都度メモしたり、アイデアが出そうで出なくて煮詰まったりした時は、外に出て森の中を歩き回りながら考えを巡らせてみたり…。そうやって頭に刺激を与えるのと同時に、来シーズンに向けての基礎体力作りの日々。毎日みっちり走り込みしてます。ある意味「一人秋季キャンプ」とも言えますね(笑)。
ここは、時間がとってもゆっくり流れていきます。人と接触することはあまりありません。TVやネットや携帯が当たり前なこの時代、こういう生活はかえって新鮮です。たくさんの人に会うのが日常のシーズン中、時には人混みに疲れてくる時もあるけれど、そうやって心静かに自分を見つめ直す時間をしばらく過ごしていると、そのうち無性に人恋しくなってくる。日常生活、つまり試合やイベントや幼稚園訪問などで、たくさんの人達に会う日々がとても愛おしくなってくるんです。そして札幌に帰って日常に戻る頃にはまた、「よっしゃ、またやってやろう!」って気力が漲ってくる。これが僕なりの、心のバランスの取り方なのかもしれません。
北海道の季節は、もう晩秋から冬に向かっています。ここにいるほんの数日の間にも、随分と季節が移ろいゆくのを感じました。森の中にはカラマツの枯葉がハラハラと舞い、ユキムシが飛んでいる。道内ではあちこちから初雪の便りが聞かれ始めました。
このコラムがアップされる頃には、僕はもう日常生活に戻っているはず。僕は元気です。もうすぐまた、皆さんに会えるのが待ち遠しいです。オフの間も、そして来シーズンも、また楽しい時を共にしましょう!