2008/06/24(火)B・B'sコラム

【#55】雨 vs. マスコット

 今僕は、甲子園に程近いとある街にいます。これから甲子園で交流戦があるんですけど、窓の外はどんよりとした曇り空――。天気予報もあんまり良くないし、今夜の試合は雨が気になります…。
 いつもドーム球場を本拠地として試合をしている僕にとって、普段雨を気にする機会はあまり多くありません。だけど、たまにビジターで屋外球場に出掛けたり、地方球場で試合をする時には、やはり天気は一番気になる部分です。特に交流戦終盤のこの時期はちょうど梅雨の季節と重なりますから、屋外球場の多い(本来それが当たり前なんですが…)セ・リーグの球場へ行く時は、常に雨の心配と隣り合わせというイメージがありますね。
 試合の時雨が気になるのは、選手もファンも同じこと。試合が雨で中止になったら、ファンにとっては観戦予定が狂ってしまいますからね。一方選手にとっては、雨でローテーションが狂ったりする事もあれば、逆に疲れがたまっている時には「恵みの雨」になったりするなんて話も聞きます。ではマスコットにとってはどうなのか?一般的に、マスコットは雨に弱いといったイメージを持ってる方は多いかもしれないし、マスコット自身も雨が「天敵」のように考えている者は結構いるかもしれません。
 では、本当にマスコットにとって雨は「天敵」なんでしょうか?

 仮に試合当日の朝、外は大雨が降っていたとします。まずそんな時の気持ちの持って行き方なんですが、僕は雨が降って試合が行われるかどうか微妙な時でも、試合は必ず予定通り行われるもの、と決めてかかるようにしています。朝から大雨が降ってて「今日の試合は絶対ムリだな~…」と思っていても、試合開始前になって突然天気が良くなるってこと、結構あるんですよ。一旦気持ちを切らしてしまってから、いざ天気が持ち直して試合決行!って事になると、結構精神的にキツいものがある。逆に気持ちを張ったままでいれば、後で中止になっても別に問題はないですからね。
 試合開始直前に雨がやみ、試合は予定通り開催――というパターンは、正直僕にとってはパフォーマンス上かなりやりづらい展開ですね。と言うのも、水はけの良い内野の土の部分は大丈夫でも、外野の芝生はビシャビシャ、所々では水が浮いたまま…みたいな状態の場合が結構あるんです。僕がアクロバットをしたりするのは外野の芝の上が多いんですけど、芝が濡れているとかなり滑って怖いんですよ…。それだけケガの危険性も増すんで、あまり難易度の高い事は出来なくなる。ついでに言うとバク転で手を付いた時に手がびしょ濡れになるから、その後フェンス越しにお客さんと握手する時にちょっと辛いですしね(^^;)。そんな訳で、雨降りの後はあまりアクロバットに頼らないパフォーマンスに切り替える必要性が出てきます。

 試合が始まってから、雨で中断もしくは雨天コールドゲーム――って展開も時々ありますよね。そういう時、皆さんがごひいきのマスコット達はどうしているでしょうか?雨が降り出すと全く出て来なくなってしまうマスコットもいれば、そういう時にこそ出て来て積極的にファンサービスや場つなぎ的なパフォーマンスをしてくれるマスコットもいるでしょう。どちらかと言えば前者が多数派だとは思うけど、僕はやっぱり後者の方が本来マスコットのあるべき姿なんじゃないかと思います。
  雨を避けたがるマスコットが多いのには、それなりに理由はあります。皆さんも大体お察しかとは思うけど、雨に濡れると衣装が傷むから。確かにそれは事実です。だけど、衣装は多少濡れたところで、後できちんと念入りにメンテナンスすれば、傷みは最小限に留められるもの。まぁ、さすがに豪雨ともなれば話は別ですが、僕はむしろ、そういうチャンスを活かさないのはマスコットとしてもったいないと思うんですよね。
  普段僕達がグラウンド上でパフォーマンスが出来るのは、試合前やイニング間など、ビッシリ組まれたスケジュールの隙間のホンの限られた時間。観客席のファンも、必ずしも全員が注目してくれているとは限らないし、ましてや中継のTVなんてまずほとんど映してはくれません。しかし、雨で中断している間は時間に追われる事なく、比較的自由に動き回れるんです。他に目を引くアトラクションがない分、観客も退屈しのぎにマスコットに注目してくれる可能性が高まるし、上手くすればTV中継も延々僕らの映像を流してくれる事だってある(笑)。ある意味、雨天中断は僕らの独壇場になるチャンスでもあるんです。(但し、ビジターの場合は相手がある事ですから、あんまりこちらの好き放題やる訳にもいかないですが…。)
 どうしても雨に当たるのがイヤならば、雨に濡れなくたって出来る事はいくらでもあります。傘をさしたりレインコート(合うサイズがあればの話ですが…)を着て出るって方法だってあるし、雨の当たらないコンコースや屋根のあるスタンド部分でグリーティングをたっぷりやる事だって出来る。むしろその方がファンは喜んでくれると思います。とにかく僕は、雨が降り出したから休憩!――って安易な発想はイヤなんですよ。第一、お金を払って見に来てくれているお客さんが雨の中ずぶ濡れで試合再開を待っているのに、逆にお金をもらっている立場の僕達が雨の当たらない場所でのうのうと休んでたりしたら、ファンに対して失礼じゃないかと思うんですよね。雨はマスコットにとって「天敵」ではなくて「チャンス」、僕はそう思うようにしています。

 おそらくここまで読んでいる間、「いつもドームでやってるマスコットがエラそうな事言うなよ!」ってツッコミを入れた方、たくさんいるでしょうね(^^;)。そのツッコミ、甘んじて受け止めますけど、ドームだからと言ってそういう事態が全くないとは必ずしも言えないんですよ。さすがに雨は降らないけど、試合中に停電で照明が落ちたりして試合が数十分中断した、なんて例も過去に実際あります。そういった不測の事態にいきなり出て行って、どれだけファンを飽きさせることなく楽しませられるか――そこがマスコットの本当の腕の見せ所だと思うんですよね。日頃からパフォーマンスの引き出しを一杯作っておくと、そういう時に役に立つんです。

 余談ですが、北海道には梅雨がないってこと、道外の方はご存知でした?まぁ最近は異常気象のせいか、梅雨っぽい天気が続くこともあることはあるんですけど、基本的に6月7月の北海道は爽やかな良い気候なんですよ。だから余計に、交流戦の季節に本州に渡ると梅雨時のジメジメした気候が体にこたえるんです(^^;)。梅雨時の気候――これはもう紛れもなくマスコットの天敵、マスコットキラーですね…。早く北海道に帰りたいです(笑)。