2006/11/02(木)B・B'sコラム

【#35】マスコット達の頂上決戦

 ――まだ実感が湧きません。以前僕はここで「いつか超満員の札幌ドームで、日本一の胴上げを目の前で見てみたい」と書きましたが、こんなにも早くその夢が現実のものになろうとは…。しかし、日本一への想いを噛み締めている余裕は、僕にはまだありません。今回は、別の角度からこのシリーズを語っていきたいと思います。

 今回の日本シリーズは、僕達マスコットにとっても特筆すべきシリーズになりました。それは、対戦相手・中日ドラゴンズとのマスコット交流が全試合実現したということ。日本シリーズでのマスコット交流は、僕の知る限り、以前西武-巨人戦の際ホーム・ビジター各1試合ずつ行われた事が2度あるだけ。 今回の様に、遠く離れたチーム同士がシリーズを通してフルにマスコット交流を行ったのは史上初になるはずです。
 優勝が決まって、まずマスコット交流の呼び掛けがあったのは中日サイドからでした。今シーズン中、ドラゴンズは一番積極的にマスコット交流をしてましたからね、期待はしていたしこっちも望むところだった。まぁ今まで前例がなかったという事で、ウチの方で了承を得るまでに若干手間がかかりましたが、最終的には無事実現の運びとなりました。
 今だから言うけど、シリーズでのドラゴンズとのマスコット対決は、正直僕にとってかなりのプレッシャーだったんですよね。と言うのも、ナゴヤドームの試合ではいつも7回終了後に中日のドアラがアクロバットを披露するコーナーがありまして、アクロバット系マスコットとの交流の際には、そこがさしずめ試合の勝敗を占う(?)「バク転対決」の様相を呈するんです(笑)。ドアラも捻り技を入れたりしてなかなかやりますからね、僕も生半可な技で対抗する訳にはいかない。今年の交流戦の時はまだ負傷中で跳べなかったんだけど、ケガも癒えた今、せっかくなら自分の出来る一番の大技を見せたい。まぁ大技と言ったところで1回捻りなんですけど、本番でトライするのは昨シーズン以来だったんです。ケガの影響でアクロバットの調子も今イチの状態の中、一番の大舞台で難度の高い技をやるのは相当なプレッシャーでしたね。ケガもまだ決して「完治」と言えない状態なので、無理な負担をかける事でいつまた再発するかわからないし、ある意味「決死の覚悟」でした…。名古屋入りした試合前日の夜は、緊張してなかなか寝付けなかったですよ(^^;)。

 明けて試合当日。試合はナイターだったんですけど、どうにも落ち着かなくて僕は昼過ぎにはもう球場入りしてました。グラウンドでは中日の選手がウォーミングアップを始めてたところでしたが、奈良原選手や上田選手、それに現在ドラゴンズの打撃投手をしている高橋憲幸さんなど、元ファイターズの仲間が笑顔で迎えてくれました。慣れない敵地で懐かしい顔に出会うと、何だかホッとしますね。中日の福留選手なんかも「ケガもう大丈夫?」なんて声掛けてくれたりしましたよ(^^)。
 試合前にはドアラ・シャオロン・パオロン達と一緒にグリーティング。当然周りは殆どがドラゴンズファンでしたが、さすが名古屋の皆さんはマスコット交流慣れ(?)してるだけあって、僕の事スゴく好意的に迎えてくれて嬉しかったですね。名古屋には去年・今年と行ってるので、僕の名前もちゃんと知ってくれてる人が多かったし、以前も書きましたが敵味方なく喜んでもらえると、無上の喜びを感じるモノなんです(^^)。
 それにしても、名古屋に行って実感したのがドラゴンズのマスコット(特にドアラ)人気の高さ。僕が出て行ってもそこそこ人は集まって来たんですが、ひとたびドアラが出て行くと一斉に人だかりが出来てましたからね。今年の交流戦の頃は、ここまで凄かったかなぁ?今年ドアラは12球団一積極的にマスコット交流してましたし、ドラゴンズの公式サイト内のブログでもよく取り上げられているので、その辺のファンへのアピールの成果でしょうかね。とにかく僕の目には、「ドアラ、大ブレイク!」って印象でした(笑)。
 ところで試合ですが…僕はずーっと7回のバク転対決の事で頭が一杯で、試合中緊張しっぱなしでした(^^;)。で、その結末は――見事着地失敗。カッコ悪い事この上ないですね(涙)。こんな時に限って、TVの全国中継にもチラッと映ってたらしいし…試合もファイターズが初戦を落とした事も重なり、その夜はかなりヘコんでました。
 翌日の2戦目、前日はバク転対決ばかりに気を取られてた反省から、あんまり気負わずにパフォーマンスやファンサービス全体にもっと集中するようにしました。バク転対決については、もう一度捻りにチャレンジしてリベンジしたいという気持ちもあったんですが、結局この日は難度を落として成功。何だか逃げを打ったみたいでイヤだったんですけどね…試合も接戦でちょうどファイターズが逆転した直後だったし、万一また失敗したら、選手はともかくファンの士気の低下にもつながりかねないなぁ…なんて思うと(^^;)。悔いがないと言えば嘘になるけど、取りあえず試合も勝って一安心といったところでした。

 1勝1敗のタイで、舞台は札幌へ。3日振りの札幌はかなり冷え込んでました。名古屋に出掛けてた僅かの間に、すっかり季節が移り変わってしまった感じでしたね。夜はドアラ達を食事に誘ったんですが、まるで冬のような寒さにかなりビビッてましたよ(笑)。
交流戦でもホーム・ビジターそれぞれでマスコット交流はしましたが、今回の様に移動も一緒でたて続けに交流をするのは、何だかフシギな感覚です。名古屋でもファンには温かく迎えてもらいましたけど、やっぱりホームに戻って来ると落ち着きますね。ある意味自分のペースで出来るし、気候的にも寒いのは僕にとってはかえって楽ですし(笑)。それから試合自体、例え相手に先制を許しても、ホームだと不思議と負ける気がしないんですよ。恐らく選手も同じ気持ちだったでしょう。
 札幌での試合で一番頭を悩ましたのが、スイングスイングのアイデアでしたね。プレーオフの時には外野スタンドの「三角地帯」からせり上がってきたり、スコアボードの上に登ったりと結構過激な事をやったんだけど、正直ネタはプレーオフで使い果たしてた。記者やカメラマンからは「日本シリーズ特別バージョンあるんですか?」なんて聞かれるし、あとはもう天井の上に上るくらいしかなかったんだけど(笑)、さすがにそれはOKが出なかった。1日目はドアラと一緒に売り子さんに扮したり、2日目は意表を突いて逆に下からハシゴを使って内野スタンドに上がって行ったりしたんだけど、その2日目に非常に残念な事がありましてね…ちょっとこれだけは一言言わせてもらいたい。
 僕達がスタンド最前列でスイングスイングを踊っている最中、一部のファンがドアラの頭を背後からボコボコ殴ってたんですよ。僕もパフォーマンスしながら何とか止めようとしてたんだけど、その様子は球場のビジョンにしっかり大写しされていた。3塁側だったので、ドアラを叩いてた当事者がファイターズのファンだったのは間違いないでしょう。全体的に見て、札幌ドームで会うファンはお世辞抜きですごくマナーが良いのは僕がいつも誇りに思ってる事だし、そういう事をするのはごく一部の非常識な人だと信じたい。だけど、僕がナゴヤドームに行った時ドラゴンズファンに非常に好意的に接してもらったにもかかわらず、ウチのファンが相手マスコットに対してそういう行為に及んだ事は物凄く恥ずかしかったし、ドアラ達に対して申し訳なくて仕方がありませんでした。日本一を達成した今でも、その点だけは汚点として自分の心の中に引っ掛かっています。
 結局今回の日本シリーズは、ファイターズが札幌で一気に日本一を決めた為、第5戦で終了しました。実を言うと当初は、6戦目以降までもつれ込んだ場合再度のマスコット交流は行わない予定だったんですけど、第5戦の前に僕が球団に了承を得て、急遽6・7戦まで交流を続ける事になってたんですよ。だから5戦目は、翌日名古屋に戻るのか札幌に残るのか、ハラハラ・ワクワクしながら試合の行方を見守っていました。結局再度名古屋に行く事なくシリーズは終了してしまったんですが、プレッシャーから開放されてホッとしたような、もう一度名古屋まで行きたかったような、そんな複雑な気分でしたね…。
 あ、余談ですが、日本一を決めた試合の後も、前回言った通り僕はフツーに西ゲートでグリーティングしてましたよ。一通り皆さんと喜びを分かち合って、最後のファンを送り出したのが真夜中の0時15分頃。その頃にはもうとっくにビール掛けは終わってました(笑)。いつもは終電の関係もあってこんな遅くまではやらないんで、日付を越えてグリーティングしたのは初めてでしたね。終わった後は疲労困憊でしたが、まぁこれも一つの思い出かな、と。

 今回の日本シリーズでのマスコット交流は、たまたま両球団の意思が一致して実現したものです。別にオールスターのマスコット集合の様に、NPB(日本野球機構)側の呼び掛けがあった訳ではない。だけど、これを機に来年以降のシリーズでもマスコット交流が恒例になってくれれば素晴らしいですね。その為には、僕がここで訴えるだけでなく、ファンからもそういう声を挙げてもらうのが一番。今回の交流を楽しんでいただけたのであれば、是非皆さんそういった要望を球団や機構側にお伝え下さい。
 さて、日本シリーズが終わってもまだまだシーズンは終わりません!僕達にはアジアシリーズへの出場が次に控えている。アジアシリーズには、韓国や台湾のチームのマスコットも来るそうですからね、僕も「日本代表」のマスコットとして、日本のマスコットの実力を存分に見せ付けて来たいという強い気持ちがあります。去年アジアシリーズに出たロッテのマーくんから色んな報告は聞いてますが、国によってマスコット事情も様々…と言うか、意識にも大きなギャップがあるみたいですから、色んな意味で楽しみでもあります(笑)。日本一の余韻に浸る間もなく走り続けなくてはならない辛さも少々ありますが、もうひと踏ん張り頑張って…いや、楽しんで来ます!アジアシリーズについては、また次回のご報告をお楽しみに!!