2005/12/16(金)B・B'sコラム
【#25】去り行く人へ…
スポーツニュースを見ても新聞を読んでも、野球関連のニュースがメッキリ少なくなるこの季節、皆さん寂しい思いしてませんかー?(笑)そんな中、ここんとこもっぱら話題に上るのが、契約更改やトレード、新入団選手や退団など、選手の去就関連のニュース。実力勝負のプロ野球の世界は、ホント人の流れが激しいですよねぇ…。10年くらい前の選手名鑑見てみたりすると、半数以上の選手が引退やトレードで入れ替わってますから。ファイターズの場合も、このオフ数人の選手がチームを去ることになりました。それぞれに寂しい思いはあるけど、その中でも特に僕が気になっていると言うか、エールを送りたい選手がいます。今までこのコラムでは毎回マスコットについて語ってきたけど、僕もこういう仕事柄、選手との接点もそこそこある。そこで今回はちょっと趣向を変えて、マスコットの視点から見たある選手への想いを綴ってみたいと想います。
ファイターズファンなら、特に東京時代からのファンであれば、「ガンちゃん」こと岩本勉投手についての細かい説明は今更不要でしょう。そう、僕が今最も気になる選手とは、彼の事です。かつて何度も二ケタ勝利を挙げた彼も、北海道移転の少し前ぐらいからはなかなか勝ち星に恵まれないシーズンが続いていた。そんな中、僕が彼と一緒に「初仕事」をしたのは、僕がまだファイターズのマスコットとしてデビューしたばかりの頃…2003年大晦日、札幌ドームでのCHAGE&ASKAのカウントダウンライブに2人でゲスト出演した時でした。それ以来、彼は球場で会うといつも笑顔で挨拶してきてくれるんですよね。TV番組とかで彼の明るいキャラクターを見た事のあるファンも多いと思うけど、素顔もあのままで本当に裏表のない人なんです。
そんな彼との思い出で一番印象に残っているのは、2004年4月17日、東京ドームで彼が実に2年振りの復活勝利を挙げた翌日のことですね。その日、突然僕の控室にガンちゃんが訪ねて来てくれたんです。そしてその手にはB・B人形が…。そのB・B人形は前日の勝利の際にもらった物だったんだけど、そこには「全員で勝ち取った勝利」という思いを込めてか、リリーフを仰いだ投手全員のサインが入ってました。本当に嬉しそうな顔をして、わざわざ僕に挨拶しに来てくれたんです。僕の手元には今でも、その時撮らせてもらった、サイコーの笑顔でB・B人形を抱えるガンちゃんの写真が残ってます。たった1勝で…と思うなかれ。彼にとってその1勝とは、きっと我々素人には想像も付かないほどのとてつもない重みがあったはずです。そして、わざわざ僕の控室までお礼を言いに来てくれる律儀さ、それからチームメイトへの心遣い…ますます彼の人間性に惚れ込むキッカケになりました。
そんな彼の人柄を知れば知るほど、情も移って一層応援したくなるもの。しかし復活かと思われたその後もまた勝てない日々が続き、6月には遂にファーム落ちをしてしまった。次にガンちゃんに会ったのは、僕が8月に鎌ヶ谷のファームの試合に出た時。僕が鎌ヶ谷に着くと、そこには真夏の炎天下、外野の芝生を黙々とランニングする彼の姿がありました。そんな時でも、彼は遠くから僕の姿を見付けて明るく挨拶してくれて…。かつてエースと呼ばれた選手がファーム暮らしを強いられるのは、内心相当な悔しさ・辛さがあったと思うんですよね。でも彼は、人前では微塵もそんな様子を見せる事はなかった。他の選手がみんな眠たそうにしてる早朝の散歩中から、一人でギャグを連発してましたし(笑)。
そんな彼の姿を見て、「活躍もしてないクセに…」と眉をひそめるファンもいたでしょう。実際そんな声も聞いた事があります。プロ選手のツラいところで、成績が伴わないとそういう批判も出て来るのは仕方のない事かもしれません。しかし、ガンちゃんは北海道への移転前から、どうしたら皆がファイターズに注目してくれるかを、誰よりも一生懸命考えてくれていた。彼がTVのバラエティー番組とかに出てたのも、全てはファイターズやパ・リーグにもっと注目してほしいという思いからなんですよ。彼だって言われるまでもなく、自分の成績に対しては誰よりも悔しさを感じてるはず。だから尚のこと、誰にも文句を言わせない程の活躍をしてほしかった。
去年のオフもトレード話が持ち上がったりしたけれど、ファイターズと契約更改を済ませた後、彼から僕にメールが届きました。「無事ファイターズと契約できました。来季もよろしくお願いします!」と。今年こそは本当の復活を…と期待したんだけど、残念ながら今年も彼にとっては納得の行くシーズンとは言えなかったでしょう。ビジターでのリリーフ登板で2勝を挙げたものの、結局最後まで札幌ドームでの「まいど!」は聞けずじまいでした。一軍に上がっても、登板の機会がなかなか巡って来ない日々…僕も正直声を掛けづらい時が多かったけど、いつでも彼は笑顔で挨拶してきてくれました。返す返すも心残りだったのが、5月の交流戦でガンちゃんがホームランを打った時に、ホームベースでの出迎えに出られなかった事…。あの時は5回表、コンコースでのファンとのグリーティングから戻った直後で、まだスタンバイ出来ていないタイミングでの出来事でした…(T_T)。
シーズン終了後、ガンちゃんはファイターズの二軍コーチ就任の要請を断り、あくまで現役続行への道を選んだと聞きます。彼がチームを去るのは寂しいけど、「まだまだこのままでは終われない!」という意思の強さは、先月末最後に会った時の彼の話しぶりから充分に感じられました。
厳しいプロの世界、自分が納得するまでやって華やかに引退を迎えられる選手なんて、ホンの一握りだけなんです。「俺はまだまだやれるのに…」という気持ちをどこか心の片隅に抱えながら、チーム事情などの絡みで現役引退を余儀なくされる選手も見てきました。人が良いだけではプロ野球選手が務まらないのは分かってるけど、今もなおガンちゃんを支持するファンが多いのは、皆こういう彼の心意気に惹かれるからだと思うんですよね。プロの世界は結果が全てではあるけれど、プロ選手だって一人の人間ですからね。僕はやっぱりこういう「人間臭さ」のある選手に惹かれます。このコラムを書いている現時点ではまだ彼の去就は未定だけど、どういう結論になろうと、彼にとって納得の行く結果になってほしいと思います。そして出来ればもうひと花、ふた花咲かせて完全燃焼して、いつかまた指導者としてファイターズに帰って来てほしい…心からそう願っています。