【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~【完】

俺は暗闇の中を走っていた。小さな手足をバタつかせ、大事な人の名を叫びながら走っていた。

 

『父さん!母さん!』

 

今より少し高い声で自分が叫ぶ声がどこか遠くで聞こえていた。

 

「あぁ・・・またか・・・」

 

耳から近い場所で今の自分がそう呟いた。その声が自分の意識を覚醒へと近づける。

俺はこの暗闇から逃れるために、瞼に力を込めて目を開いた。

 

そこには一人の少女が立っていた。

 

遊牧民であるサカの民によく見る出で立ちに蒼に近い翠色の髪をひとつに束ねている。目鼻立ちの整った容姿は凛とした風を髣髴とさせた。

 

「・・・リン・・・ディス?」

 

声をかけると、彼女はこちらに気が付いたかのようにゆっくりと振り返った。

 

「・・・寝ぼけてるの?」

 

そこにいたのはまだ幼い少女だった。

 

その瞳はリンディスに良く似ている。だが、それ以外はどちらかというとハング似だった。彼女は癖のある深緑色の髪を三つ編みにして一本に束ねていた。

 

彼女の名前は『エミリ』という。

 

「もう、愛妻家なのはわかるけど。私とお母さんを見間違えないで欲しいな・・・お父さん・・・」

 

ハングはそんなことを言う愛娘に苦笑いを返した。

 

「悪いな・・・若いころのリンディスにそっくりだったんだよ」

「本当!?私、母さんに似てきた!?」

「ああ・・・」

 

そう言ってはみたが、この年の頃のリンディスのことをハングはよく知らない。

でも、間違っていないだろうという確信はあった。

 

「ふふ・・・やった。ありがと、お父さん!」

 

髪を揺らしながらゲルの外へと駆け出していくエミリと入れ違いに今度は自分の愛する妻が他の子供達を引き連れて入ってきた。

 

「エミリ、どこいくの?」

「見回り!でも、気分がいいからドラゴンで草原を見渡してくる!」

「・・・もう」

 

すぐにドラゴンの羽ばたく音がしてゲルの天井が風で少し揺れる。

あのお転婆娘が空へと飛んだのだろう。

 

その様子を二人の息子がゲルの入り口から見上げていた。

 

「相変わらず姉さんはすげぇよな。もう見えなくなっちった」

「・・・・・・・ああ」

「って、キールも乗れんじゃん!」

「・・・俺は・・・馬の方が好きだ」

 

双子の息子達、寡黙なキールと饒舌なベル。

キールの髪色はハングと同じ黒だが、その容姿は典型的なサカの民だった。

それに対してベルは昔のハングとほぼ瓜二つだ。異なるのは瞳だけ。

二人の瞳はリンディスの父親であるハサルに似ているそうだった。

 

寝起きのハングを見てリンディスが眉間に皺を寄せていた。

 

「ハング、やっと起きたわね。見張り明けとはいっても、ちょっと寝過ぎよ」

「悪い・・・」

 

そして、身を起こしたハングに息子たちが目を剥いた。

 

「あっ!?父さんからも言ってやってよ!」

 

ベルとキールが突進するような勢いでハングへと詰め寄ってきた

 

「母さん、また重いもの持とうとしたんだよ!!」

「・・・叱ってやってくれ」

「あっ!二人共それは言わない約束でしょ!」

 

慌てるリンディス。

その愛する妻のお腹にはもう一つの新しい命が宿っていた。

 

「って、父さん!何笑ってんのさ!!」

「・・・激怒すべき」

 

ハングはリンディスと目を合わせた。

 

「いや・・・幸せだなって思ってさ・・・」

「父さん何言ってるの?」

「・・・・・・?」

 

疑問符を浮かべる息子達にハングは笑いかける。

 

「・・・昔の・・・夢を見たんだ」

「それって、父さんと母さんの冒険譚?」

「・・・・竜との・・・激闘?」

「いや、それじゃない」

 

ハングは起き上がり、右腕で順に息子の頭を撫で、最後にリンディスを抱きしめた。

 

「え・・・あ・・・ちょ・・・ハング・・・」

「・・・俺が・・・お前と出会う前の夢だ」

 

その台詞を聞き、リンディスは「バカね」と言って、怖い夢を見た子供を慰めるようにハングの背中に手を回した。ハングはその温もりに安心するように微笑み、リンディスの唇に口づけを落とす。

 

「あ~あ・・・また始まった・・・熱い熱い」

「・・・・・・自重してほしい」

 

キールとベルがヤレヤレと視界から二人を外す。

 

「なんだ?お前らもしてほしいのか?」

「うわっ!父さん!ちょっと!!」

「・・・・・・・」

 

逃げようとするベルと黙って受け入れてくれるキール。

 

「あっ!ずるい!私も!!」

 

そして、いつの間にか戻ってきたエミリがハングの背中に抱き着いた。

 

「うわっと・・・ったく・・・」

 

そんな彼らを見て、リンディスは微笑んだ。

そこには彼女が取り返したくて仕方のなかった『家族』が確かにあった。

 

「・・・あ、そうだ」

 

ハングの背中にぶらさがっていたエミリがハングから飛び降りながら言った。

 

「クトラ族の族長が会いに来てたわよ。ギィさんも連れて」

「なっ、それを先に言え!!」

 

ハングはエミリの発言に慌ててサカの民族装束をまとった。

 

「あぁそうだ、忘れるとこだった」

 

そして、ゲルの入り口でハングはリンディスを振り返る。

 

「説教は後できっちりしてやるから、覚悟はしとけよ」

「あ、あのね。ハング、私そんなに重いものは持ってないのよ?」

「キール、ベル。母さんを逃がすなよ」

「・・・うん」

「まっかせて!」

 

がっちりと左右を固めてくれた頼りになる息子たち。

 

「エミリ、ラスのとこに案内してくれ」

「はいは~い」

「『はい』は一回」

「はい、族長!」

 

ハングはエミリを引き連れ外へと飛び出した。

 

目の前に広がる青い空と白い雲と緑の草原。

 

そこを吹き抜けていく風はどこまでも続いて行くのであった。

 

 

~Fin~

 


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