【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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第33章外伝~生の価値(後編)~

遺跡内部へと続く鉄扉。

錆びつき、軋む音をたてて開くその内側から流れ出した空気はこの旅路の間に何度か感じたもの。『生ぬるい風』とでも形容すればいい、人の感覚を逆なでする特融の空気。

 

「しかし、まぁ。随分と禍々しくていらっしゃる」

 

ハングはそう呟いて目の前の遺跡を眺めた。

 

「ハングさん!また、あのヘンな力だ・・・砂漠の地下でもあった、あの魔法が使えなくなる結界・・・」

「だろうな。ひしひしと感じてるよ」

「【魔封じの者】か!!」

「言われる前に気付けよヘクトル」

 

喚くヘクトルを無視してハングとエリウッドは話を進める。

 

「ハング、『あれ』は一体何者なんだろう?【人】ではない『あれ』は・・・やはり【モルフ】なのか?」

「・・・わからんね。あいつのことはなんにもな。だいたい、お前たちと一緒に旅してたんだぞ。なんかわかってたらその時に言ってるっての」

 

それもそうか、とエリウッドはニルスに目を向けた。

ニルスは目を閉じ、自分の力に集中していた。

 

「・・・なんだろう。なんだか、この間とは様子が違うみたい。砂漠で感じた、あいつの気配はむきだしの敵意だったのに・・・今、感じるのは・・・・・・・・悲しみ?」

 

ハングもまた自分の内側の意識に集中する。

だが、すぐに諦めた。

 

【モルフ】である彼だが、第六感が発達しているわけではない。

リンディスの感覚の方が数倍も有用だった。

 

遺跡内部の音や風の流れを探っていたリンディスがハングを振り返った。

 

「ハング、やつらが動きだしたわ!戦う気はあるみたいね」

「ふん・・・何者かはわかんねえが、それなら応戦するしかないだろうな」

 

ハングがそう言うと、ヘクトルが眉間に皺を寄せて首を傾げた。

 

「最初から戦う話だったじゃねぇか。今更何言ってんだ?」

「俺は奇襲をかけるつもりだったんだよ」

 

次の瞬間、遺跡内の方々で何かが爆発したような轟音があがった。

四方から黒い煙が立ち上り、場所によってはもう戦闘の粉塵も混じっている。

 

「ま、策に変更はないけどな」

 

ハングの指示通り、既に仲間達は行動を開始していた。

 

「今の音は魔法?でも、どうやって?」

「【魔封じの者】の効果範囲はさほど広くない、射程外から打ち込めば十分な効果を発揮する」

 

そう言い切ったハングにヘクトルが再び疑問の声をあげた。

 

「お前・・・効果範囲なんて、なんで知ってんだよ」

「過去にニ回も戦ってるんだぞ。それだけあれば十分だ」

 

そして、ハングは後ろの仲間に突入の合図を出す。

遺跡内部に突撃していく部隊の最後尾につきながら、リンディスは苦笑いを浮かべていた。

 

「相変わらず、恐ろしい頭してるわね」

「人を怪物みたく言うな」

「怪物じゃない」

「そうでした」

 

ハングとリンディスのやりとりに周りが少しの間凍りついた。

 

「ならどうなんだ?俺を振るか?」

「ハングが怪物だなんて今更驚きはしなかったわよ。むしろ納得したぐらいなんだから」

「へぇへぇ、ありがとうございます」

 

ただ、二人の穏やかな話し方に、気を使いすぎたことエリウッド達は悟った。

 

「ん?何見てんだお前ら。見せもんじゃねぇぞ!」

 

その直後、ハングの隣にラガルトが突然顔を出した。

 

「敵さんはこの通路の先に密集してますよ」

「ああ、そうか」

「え、それだけですか?せっかく死角から出てきたんですから、もう少し驚いてくれても良いんですけどねぇ」

「お前ら密偵は一体何を俺に求めてんだよ」

 

ハングが呆れたように目を細めるとラガルトは喉奥でクツクツと笑い声をあげた。

 

「敵の数は?」

「およそ5、6人の集団が3組程」

「そうかい・・・」

 

ハングは皆に手で合図を送った。

目の前には既に最初の【モルフ】が現れていた。

 

「悲しんでようが、怒ってようが関係ねぇ。今すぐ全員塵に変えてやれ!」

 

ハングの発破に声をあげ、仲間達は遺跡の中の敵に襲い掛かった。

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

様々な人間達の混成部隊とはいえ、既にいくつもの戦いを寡兵をもって乗り越えてきたハング達。特に狭い通路は寡兵で多数の相手を叩くのにハング達があえて選んできた戦場だ。戦い慣れた場所での戦闘でハング達が負けるはずがなかった。

 

しかも、今回は先手を打って混乱を誘っている。

ハング達が最奥部の老人のような男を討つのに、さほど時間はかからなかった。

 

「結界が消えたな・・・」

 

ハング達を取り巻いていた重苦しい空気が霧散する。

ヘクトルが斧を地面に振り下ろし、先程まで人の形をとっていた塵を見下ろした。

 

「ようやく倒したな。しかし、こいつ・・・いったい何だったんだ?前に【魔の島】で戦った時といい、あの砂漠の地下といい・・・」

 

リンディスがその場に膝をつき、床に残った塵に触れてみる。

それは、今まで倒してきた【モルフ】の塵と大差ないものだった。

 

「・・・とどめをさした途端、体が崩れてなくなった。やっぱり、【モルフ】なのかしら?」

 

ハングがゆっくりその場に歩み寄る。そして、【魔封じの者】が身に付けていたローブを持ち上げた。

 

「多分な・・・でも、随分と今まで戦っていた奴らとは姿形が違う・・・本当に【モルフ】だったんだろうかね」

 

今まで戦ってきた奴らは皆同じ特徴の容姿だった。

 

瞳、髪、肌。

 

どれをとっても今回戦った相手はそこからはかけ離れていた。

迷う面々の中、ニルスは一人確信があるようだった。

 

「・・・でも、モルフだよ」

 

そう言ったニルスにハングは肩をすくめてみせた。

 

「まぁ、ここに俺っていう例外がいるんだ。そう言われれば、そう信じるしかないが」

「いなくなる時・・・あいつの声が聞こえた・・・ネルガルの名を・・・呼んでた。悲しい・・・すごく悲しい声で」

 

ニルスは胸が締め付けられるような顔をしていた。

 

「死ぬ間際まで忠誠を誓う・・・か・・・俺には理解できない感情だな」

 

ハングは塵のつもる場所を足で払う。

 

「でも、ネルガルと連携を取ってるようには見えなかったわ」

「捨てたれらたんだろうな。俺と一緒さ、試作品とかいう奴なんじゃないのか?」

 

ハングは今しがた入ってきたレナートにわずかに目を向けた。

だが、彼はルセアと話しているようでこちらの視線には気付かなかった。

 

ハングは簡易の祈りを捧げる。

それに倣うようにエリウッド達もその場に祈りを捧げた。

祈りが終わり、ヘクトルがハングにぼそりとこぼす。

 

「お前みたいに自由に生きている奴もいるのにな」

「自分の産まれに従うのもまた自由・・・ってな」

 

ハングは最後にそのローブを短剣で地面に縫い留めた。

リムステラと同じだ。いつか風化して自然に還れるような墓標であった。

 

「さて、長居は無用だな・・・野宿を決めるにはまだ早い。出発しよう」

「ああ、撤収だ!」

 

エリウッド達が最奥の部屋を後にしていき、ハングは一人その部屋に描かれた壁画に目を向けた。

 

「・・・何が悲しくて。死ぬ前にネルガルの名前なんか呼んだんだよ」

 

そこに描かれていたのは神々しい姿をした大きな人間と、同じく神々しくも巨大な竜。そして、その両者の間には竜に襲いかかる人間達とそこに応戦する竜が描かれていた。

 

「・・・ハングは死ぬ時。私の名前呼んでくれる?」

「・・・いたのかよ」

「いちゃ悪い?」

「いや」

 

ハングは壁画に背を向けた。

 

「呼んでやるよ・・・というか、呼んだ。あの時にな」

「そう・・・」

「なぁ、リンディス」

「ん?」

「ありがとな・・・変わらないでくれて」

「どういたしまして」

 

ハングに向けて手を伸ばすリンディス。

ハングはその手を取って、部屋を出て行った。

 


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