【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~魔の島再び(前編)~

『・・・僕たちは先に【竜の門】へ向っています』

『なんと!?』

『だな。ネルガル自身には歯が立たなくても、奴の手勢を減らすことはできる。迎えに行かなきゃならないバカもいるしな』

『早くネルガルの招待に応じないと・・・今みたいに向こうから仕掛けてこられる。そんなことされる位ならこっちから行くわ!』

『ハングが先手を打ちに行った。僕らが行かなければそれも無駄になってしまう』

『・・・おまえたちは本当に・・・ローランによく似て・・・この歳まで生きてこんなに驚かされるとはな』

『・・・アトス様』

『定められた運命を変えるのは・・・結ばれた強い絆・・・行くがいい、若い者たちよ。【竜の門】を目指して進んで行くがいい』

 

そんなことがあったのは、およそ二日も前の話だった。

ハングが私達の前から姿を消してもう二日。

 

「・・・・・」

 

リンディスは海賊船の甲板の隅に立ち、海を眺めていた。

【魔の島】へと行くためにバトンへと赴き、ファーガスさんへと頼み込んだ。

 

『あのバカ息子がぁ!!んなことになってるなら話は別だ!!さっさと乗れガキ共!すぐに船を出す!』

 

危険な海流も縁起の悪い風も何もかも無視して海へと漕ぎ出してくれたファーガス。

その憤怒は海の神さえも青ざめさせる程だった。

彼等は寝る間の惜しんで船を進め、夜闇すらものともせずに最速で向かっている。

それでも、リンディスは焦る心を押しとどめることができなかった。

 

『勝手にいなくなるわけじゃないから、許してくれよ』

 

絶対に許さない。

 

リンディスは船の手すりを握った。

彼は一人でネルガルに戦いを挑みにいった。

何もかも全て一人で背追い込んで、彼は行ってしまった。

彼が何を思い、何をしようとしてるのかは想像に難くない。

 

それが今どんな結末を辿っているのかをリンディスは考えないようにしていた。

 

二日も経った今でも、アトスから連絡は無かった。

それはまだネルガルが生きていることを示している。

 

リンディスは震えそうになる身体を抑え込むように、自分の胸の上を握りしめた。

服の下にはハングから貰った品を入れた袋が下がっている。

 

『アトス様・・・ハングが・・・今、どうなってるかわかりますか』

『・・・すまぬ』

『そう・・・ですよね』

 

せめて、せめて、私達が行くまで行動を起こさないで。

リンディスはそれだけを思い続けていた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

鬱蒼と茂る樹海。高い湿度と生温い風が来るものを拒む未開の地。

人間の根源的な恐怖を揺さぶる【魔の島】に彼らは降り立った。

 

「ハング!!いんのかぁぁぁ!!」

 

ヘクトルの怒声が響く。

 

「ハング!返事をしてくれぇ!」

 

エリウッドも声を張る。

敵に見つかる危険など完全に度外視していた。

 

「このバカ息子がぁぁぁ!」

「さっさと戻ってきなぁぁ!」

 

ファーガスとヴァイダも殺気を撒き散らしながら叫ぶ。

だが、森の中からの返事は無い。

 

「ハング!!」

 

それでも、声を張るエリウッド達。内心の焦りと恐怖が押し黙ることを避けていた。

 

「ハング!!」

「返事を・・・返事をして!!」

「返事しろぉぉぉ!!」

 

声は木霊することなく、森の奥へと吸い込まれていった。

エリウッドは再び息を吸い込み、声を張り上げようとした。

 

「エリウッド様!闇雲に叫んでも仕方ありませんぞ!」

 

それを止めたのは船から飛び降りてきたマーカスだった。

 

「マーカス!でも・・・」

「ハング殿が生きておられるなら、もし【モルフ】を率いてくるなら、ハング殿はどこに陣を敷きますか?」

「・・・・・・」

 

エリウッドは押し黙る。

そして、考える。

頭の中を回転させ、考える。

 

 

相手はハング、そして大戦力の【モルフ】

なら、それらを展開できる広大な土地に陣を張る。

もしくは部隊を森の中に少数に分けて潜伏させ、こちらを足止めして疲労を強いる。

 

どちらにせよ、ここで叫んだところで何もならない。

エリウッドは一度自分を落ち着ける。

 

「・・・わかった。ありがとうマーカス」

「いいえ、臣下の務めですから」

 

エリウッドはゆっくりと仲間を振り返った。

 

「とにかく、行軍の準備をしよう。その間、何人かでここら一帯を捜索する」

「私は行くわ!」

「俺もだ!」

 

勢い良く言い張る二人にエリウッドは仕方なしと頷いた。

 

「俺も行かせてもらいますよ」

「マシュー・・・君は、いいのか?」

「墓参りのついでですって、大丈夫ですから」

 

軽口を叩いてはいるが、マシューの顔は少し青白い。

この島への上陸に一番良い思い出がないとすれば彼とフィオーラであろう。

そのフィオーラはニルスの方についてもらっているので、この場にはいなかった。

 

エリウッドは目の前で意気込む三人を前にして眉間に皺を寄せた。

 

「わかった。三人に任せる。ただし!決して無茶はしないように」

 

三人はそれぞれ返事をして、三方に散って行った。

 

皆が海岸線の周囲を探索していくなか、マシューだけは真っすぐに『ある場所』を目指していた。

 

「うへぇ・・・相変わらず、生理的に受け付けない場所だよな」

 

ぶつくさと独り言を言いながらも、マシューは霧の中で目を凝らす。

 

「ああ、もう・・・思い出しちまうじゃないですか・・・」

 

この霧の中、樹海の入り口でレイラは殺されていた。

 

ヘクトルに呼ばれ、向かった先に横たわっていた無残な体。

トラウマのような記憶がマシューの身体を硬くする。

 

「頼んますよ・・・本当に・・・頼んますよ・・・」

 

祈っても無駄だとは知っている。

いくら祈ってもレイラは帰ってこない。

 

だが、祈らずにはいられなかった。

 

霧に濡れ、服が重くなる。

水溜りが靴に染みて、痛いほどの冷気を伝えてくる。

 

それでも、マシューは真っ直ぐに『その場所』を目指した。

 

レイラが倒れていた場所。

 

嫌な予感が胸をざわめかせる。

脚を止めたくなる自分を叱咤して、霧の中を進む。

 

「確か・・・このへん・・・」

 

そして、マシューは息を呑んだ。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

「ああぁぁぁぁあぁあぁっ!!」

 

聞きなれない絶叫。

 

それがマシューのものだと真っ先に気がついたのはヘクトルだった。

 

敵か?獣か?

 

わかっている。マシューが叫びをあげるなんて、そんなことが原因な訳が無いのだ。

 

理由などすぐに想像がついた。だが、それをヘクトルは必死に否定した。

 

信じたくない。そんなはずはない。

 

「マシュー!!」

「・・・ちくしょう・・・ちくしょぉぉぉぉぉう!!!」

 

マシューが何度も地面に拳を叩きつけていた。

そして、マシューの見ているものがヘクトルの視界にも入ってくる。

 

「そん・・・な・・・」

 

ヘクトルの膝が崩れ落ち、湿る大地に突き刺さった。

 

その背後で誰かが息を飲んだ。

 

「・・・・あぁ・・・」

 

マシューの声に呼ばれ、駆け付けたリンディス。

彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

 

「ああ・・・・ああ・・・ああ・・・」

 

三人の目の前の一本の樹。

 

そこには胸の風穴に枝を貫かれ、一人の青年がぶら下げられていた。

目を虚ろに開き、四肢を力なく垂れさせ、重力に抗うこともせず、ハングの身体がそこにあった。

 

「そんな・・・」

 

目の前のことを誰も信じられなかった。

心が『あり得ない』と叫び声をあげていた。

 

マシューが涙も流せずにうめき声をあげていた。

ヘクトルが奥歯を折らんばかりに噛み締めていた。

 

リンディスが小さく首を横に振った。

 

「そんな・・・そんな・・・」

 

ハングの声が記憶の中から呼びかけてくる。

 

草原で出会った記憶。夕焼けの中別れた記憶。危機に駆け付けてきてくれた記憶。

喧嘩して、仲直りして、何度もぶつかり合って。その果てに気持ちを確かめ合った。

『また一緒に旅に出ようぜ・・・俺たちは二人で一人・・・だろ?』

 

「ハング!!」

 

ハングへと駆け寄るリンディス。

 

リンディスは僅かな温もりを求めるかのように、ハングへと手を伸ばした。

そして、彼女がハングに触れようとしたその時だった。

リンディスは自分の指先が何か膜のようなものを突き破った感触を確かに感じた。

 

ハングの身体から緑の燐光が弾ける。

次の瞬間、止まっていた時が動き出した。

 

ハングの胸から鉄の血潮が噴き出る。

 

「・・・・え?」

 

ハングの口から血が溢れかえる。胸から吐息の残滓が笛のような音を響かせた。

死に絶えたと思ったハングが息を吹き返した。

 

だが、それが何を産んだかといえばハングが死に絶えるその瞬間が目の前で執り行われるというだけだった。

 

「・・・え・・・・・・え」

 

リンディスは目の前で繰り広げられている展開にまるで理解が追いつかない。

リンディスはハングの血を受け、茫然とその場に立ち止まってしまう。

 

「どけ!リンディス!!」

 

ヘクトルに押しのけられ、尻もちをつく。

 

「ハング!てめぇ・・・生きてんのか!?・・・でも・・・くっそ!考えるのは後だ!!」

 

ヘクトルは急いでハングを木の枝から降ろしにかかる。

だが、ハングを貫いていた木の枝は間違いなく胸の中心を抉っている。

頭の片隅に『無駄かもしれない』という考えが浮かんだが、それで手を休められるほど、ヘクトルの諦めは良くはなかった。

 

ヘクトルはハングを貫く枝を斧で切り落とす。

だが、頭の中の冷静な部分がハングの身体を樹から引き抜くことを押しとどめた。

風穴からの出血は酷い。だが、胸を穿つ木の枝が出血を抑えてくれている面もあるのだ。

もし、樹の枝からハングを外せば出血はあっという間に致死量に達する。

 

「うぅ・・・っ・・・・」

「ハング!?」

 

薄らと目を開けたハングの眼の端から涙が零れ落ちる。

呼吸のたびに苦しそうな風切り音が胸の風穴から噴き出る。

 

「・・・・ぁぁ・・・死ぬ・・・のか・・・」

「死ぬか!死なせるか!!マシュー!誰でもいい!!治癒が出来る奴を片っ端から連れてきてくれ!」

 

マシューからの返事はない。とうの昔に既に仲間達のもとへと走り出していたのだ。

 

「・・・・ヘク・・・・トル・・・・」

「喋るな!!」

 

ハングが動くのに合わせて胸部に空いた穴から血が吹き出ていく。

ヘクトルがそれをマントで抑え込みながら怒鳴る。

 

「死なせねぇぞ!!もう誰も!俺の前から消させはしねぇ!!」

 

吹き出る生暖かい血を閉じ込めるようにヘクトルはハングの傷を抑える。

 

「リンディス!おめぇも手伝え!!」

 

今もほうけているリンディスに一喝した。

 

リンディスはその声に雷に打たれたかのように身体を震わせ、手足をばたつかせながらハングへと駆け寄った。

リンディスとヘクトルはがむしゃらに風穴の隙間から洩れる血を抑えることに全力を注いだ。

 

「止まって!止まってよ!止まってぇっ!!」

「くっそ!くっそ!止まれ!!止まれよ!!」

「・・・・ぁぁ・・・ぁぁ・・・」

 

喘鳴のような呼吸。

吹き出る血。

消えそうな灯。

 

そもそもがその火がまだ消えてないこと自体が奇跡のようなものだった。

 

誰かが言っていた。

 

『奇跡は起きないから奇跡と呼ばれる』

 

「こん・・・ちくしょうがぁあああ!!」

 

包帯替わりのマントが血で重くなっていく。出血が止まらない。

溢れかえる血が止まるのはきっとハングの体の血が全部出尽くした時なのだろう。

 

「早く・・・早く・・・誰か!!誰かきてぇぇええ!!」

 

リンディスの叫びが霧の中を木霊する。

時間は刻一刻と近づいてくる。

 

「ヘク・・・トル・・・」

「喋るなって言ってんだろ!!」

「・・・わる・・・いな・・・」

「馬鹿野郎!!喋るなって言ってんだろ!!」

「・・・リン・・・」

「喋らないで!お願いだから!!」

「・・・ごめ・・・ん・・・」

「お願い!!やめて!!やめてよぉっ!!!」

「・・・それと・・・エリ・・・ウッドにも・・・」

「聞きたくねぇって言いたいのがわかんねぇのか!」

 

ハングは苦笑いをするように、いつもの満面の笑みのように、不敵に笑った。

 

「安心・・・しろ・・・よ・・・俺は・・・・【モルフ】・・・だぞ」

 

口の端に血の泡をつけ、鼻から血をしたらせ、ハングは言ってのける。

 

「お前らの敵が・・・減る・・・だけ・・・・・」

「ざっけんなぁぁぁぁああ!!」

 

ヘクトルの後方から近づく足音。

大勢の声とマシューの急かす声が霧の中を進んでくる。

 

ただ、ハングの体力はもう限界だった。

 

血を流し過ぎたのか酷く寒かった

穿たれた胸が酷く痛んだ。

 

それでも最期に仲間達の顔も見れた。

 

『だから・・・・まぁ・・・いい人生だったのかもな・・・きっと・・・モルフの中でこんないい死に方ができる奴は・・・俺だけだし・・・』

 

そんな、どうしようもない感想を胸にハングは目を閉じた。


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