【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
「・・・・・・あれ?」
届くと思ったハングの腕。
だが、なぜかその腕が動かなくなった。
ネルガルのローブに爪の先がついているというのに、それ以上腕が前に進まない。
「・・・なんで・・・」
ネルガルはまだ無傷だ。だが、なぜか鼻の奥に鉄臭い血の臭いが広がっていた。
なんだ?なにが起きている?
ハングは動かなくなった自分の左腕へと目を向けた。
「・・・・・え?」
鱗に覆われた竜の腕は自分の肩から力なく地面へとぶら下がっていた。
右腕も同じく大地に引かれるまま体からぶら下がっている。
両腕が動いていない。
それじゃあ、目の前にあるこの腕は誰の腕だ?
ネルガルを突き刺さんとしているこの腕は誰の腕だ?
ハングは目の前の腕の根元をゆっくりと辿る。
その腕は、ハングの胸の中心から突き出ていた。
「・・・・・あれ?」
ハングはネルガルを見上げる。
ネルガルはもうハングなど見てはいなかった。
「・・・・よくやったぞ、リムステラ」
「はっ」
軽い衝撃が来て、腕がハングの身体から引き抜かれた。
背後からハングを貫いていたリムステラの腕が引き抜かれた。
「ぐふっ・・・」
臓器を派手に傷つけられて、気管や食道から血が逆流する。
口から零れた血反吐が顎を伝い、したたり落ちる。
足元が崩れ落ち、体の力が抜けていく。膝が床石にぶつかる鈍い痛みがした。
そのまま身体を支えることができず、ハングは冷たい地面に横たわった。
「・・・・はっ・・・・はっ・・・・はっ」
血流に合わせて胸から血が吹き出し、呼吸が風穴から洩れていく。
「・・・・・はっ・・・・・・・はっ・・・」
寒くて、痛い。
身体の震えが止まらず、悲しくもないのに涙が零れ出ていた。
身体に力が入らない。指一本、瞼一つ動かすことができなかった。
これが、死ぬってことなのか。
「・・・手間をかけさせおって」
頭上から聞こえるネルガルの声。
既に耳鳴りが邪魔をして、上手く聞き取ることもできなかった。
胸から血と共に身体の温もりが消えていく。呼吸ができずに意識が朦朧としていく。
「・・・・・エリ・・・・ウッド・・・・」
声が出るのが不思議なくらいだった。
「・・・・ヘク・・・・トル・・・・」
だが、きっとこの声もそのうち出なくなる。
「・・・リン・・・・ディス・・・」
俺は【モルフ】だ。肉の塊に宿った、ただの自我だ。
例えあの世があっても、俺は行くこともできない。
「ああ・・・く・・・そ・・・」
意識が次第に遠のいていく。
そんなハングの頭上ではネルガルとリムステラがハングの処分について話し合っていた。
「・・・いかがいたしましょう」
「心臓は壊れた。このまま放っておいても塵となって消えるがな・・・だがな」
目の前にネルガルのローブが見えた。
朦朧とする意識の中、ネルガルの声が頭の中に響く。
「【モルフ】は死ねば塵となってしまう・・・例えここで死んでもその証拠は残らない・・・そうなれば、お前が『生きているかもしれない』という希望がエリウッド達に残ってしまう」
ハングはその言葉に反応する体力など既に残っていなかった。
「ハングよ・・・儂は慈悲深い。貴様には『仲間』のもとで死ぬことを許可してやろう」
「・・・・・・・・・・・」
ハングの瞳に溜まった一滴の雫。
それはこぼれることもなく、どこぞへと消えていった。
「・・・・ふむ、これでいい」
ネルガルの足元には淡い光に包まれたハングの体があった。
「しばし、時を止めた。人間が触れればまたも時が動き出す。これを適当な場所に置いておけ。いつぞやの女狐のように、宣戦布告とせよ」
「・・・・わかりました」
瀕死のハングを抱え、リムステラが転移の準備をする。
ハングはきっとエリウッド達に触れられた瞬間に死に絶え、奴らの目の前で塵と化すだろう。
これまで頼りにしてきた軍師の最期に何もできない無力感と喪失感。
そして遺体すら残らないハングを前に、エリウッド達はハングが本当に人間でなかったのだと悟る。
奴らの精神にとってこれ以上ない打撃になるだろう。
絶望に身を持ち崩してもなんら不思議ではない
手土産としては十分すぎる。
「少しは・・・役に立ったな・・・我が息子よ」
転移されていくハングの体を見ながら、ネルガルはそうつぶやいた。