【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
「よくぞ戻った・・・」
ここは【竜の門】
ハングはネルガルを前に片膝をつき、頭を垂れていた。
「・・・我が命は・・・ネルガル様の為に・・・」
「ククク、それでいいのだ。貴様はしょせんただの人形・・・奴らと共になどいられまい」
「・・・はい・・・我が存在はネルガル様の傍でこそ輝くと思い至りました・・・」
抑揚のない声、沈み込んだ瞳。
意志の光を宿さない表情はまさに人形と言えた。
ネルガルの隣に控えるのはリムステラ。
「それでいい・・・さて・・・」
そう言って、ネルガルは懐から橙の石を取り出した。
その中に炎でも閉じ込めたかのような温もりを持った石。
「ハング、これを見てみろ」
「これは?」
「あの姉弟・・・ニルスとニニアンの竜石だ」
その説明にハングはわずかに眉をひそめた。
「竜石?・・・力の源のようなものですか?」
「そうだ・・・今からこれに【エーギル】を注ぎ込む」
ネルガルの片腕が光り、石の中に吸い込まれていく。
「これは・・・」
「あの竜の娘・・・ニニアンの【エーギル】だ。すばらしい・・・まったくもってすばらしい・・・・・・」
陶酔したようなネルガル。ハングとリムステラは無感動にそれを見ていた。
【モルフ】にとって、感情とは不要なもの。
主人が成功しようがしまいが、動かす心は持ち合わせがない。
「これで、私はいつでも【竜】を呼び出すことができるのだ」
「・・・すぐに儀式を始められますか?」
「いや、アトスに受けた傷から幾分かの【エーギル】が流れだした」
ニニアンが死亡したあの時、ネルガルはアトスから地獄の業火を食らっていた。
傷を負っているようには見えないが、弱っているのだろうか。
「・・・充分な数を呼び寄せるにはもっと【エーギル】を得なくてはいかん・・・【竜】が相手なのだ呼び出す時には万全でなくては。逆にやられては、なんにもならんからな」
「・・・恐れながら」
一礼して、リムステラが口を挟む。
「【黒い牙】の者どもの【エーギル】は、使い尽くしました。次は、どこから調達いたしましょう?」
「こちらから出向かずとも、材料は向こうからやってくる」
「・・・なるほど、エリウッドたちですね」
「その通りだ。やつらを倒し、そのエーギルを奪って【竜】を呼び出すぞ」
ネルガルはそこでハングへと視線を移した。
「ハングよ、貴様の知識を使い、奴らを消耗させよ。【モルフ】の手勢はいくら使ってもかまわん、エリウッドの【エーギル】をわしに捧げよ」
「・・・おおせのままに」
ネルガルが背を向け、リムステラも退出する仕草を見せる。
ハングはゆっくりと腰をあげた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「リンディス!」
「お前ら、無事か!?」
ハングが寝ていた部屋へと舞い戻ったエリウッドとヘクトル。
部屋の中は嵐にでもあったかのごとく荒らされていた。壁には爪の痕が走り、拳にぶつかったのか陥没している個所もあった。家具がひっくり返り、へし折れた弓が転がり、床にはウィル達が倒れていた。
「くっそ!おい、おい!しっかりしろ!!」
「う・・・あ・・・」
「息がある・・・」
「皆無事だ」
全員の息を確認してエリウッドとヘクトルは安堵した。
下で倒れていた連中も皆無事だった。
ここまで来ると、わざと生かしたとしか思えない。
「・・・まさか・・・あいつ・・・【エーギル】取るために生かしたってことは・・・」
「ヘクトル!!」
「俺だってわかってるよ!!あいつが裏切るような奴じゃないってことはな!でもよ・・・」
「でももなにも無い!!彼はハングだ・・・ネルガルにつくなんてことは・・・あり得ない!!」
エリウッドの言葉にはなんの根拠もない。ただの盲信と言われればそれまでだ。
だが、彼等はこの軍を預かる存在。
希望的観測を行うわけにはいかなかった。
「けどよ・・・わかってんだろ・・・もし・・・あいつが・・・」
「・・・・わかっている!」
エリウッドは怒鳴るようにヘクトルの言葉を遮った。
神策鬼謀の軍師ハングが敵にまわったとしたら、ネルガルとの決戦にエリウッド達に勝ち目があるのかがかなり際どくなる。
そんなことはエリウッドも理解していた。
納得ができないだけだ。
その時、ベッドに寝かされていたリンディスが飛び起きた。
「・・・・・・ハング!!」
「リンディス」
「気が付いたか」
彼女は心配している二人と部屋の惨状を見て状況を悟った。
「・・・ハングは・・・止めれなかったのね」
「・・・ネルガルのところに・・・行ってしまった」
「・・・すまねぇ・・・俺達が・・・」
リンディスは目の前のシーツを握りしめた。
「・・・エリウッド達は・・・悪くないわ・・・」
歯を食いしばり、目に溜まった涙が視界を霞ませる。
リンディスは力任せに拳をベットに振り下ろした。
「お、おい・・・」
「リンディス・・・」
リンディスは何度も、何度もその拳を叩きつけた。
彼女はハングが寝かされていたベットを殴り続けた。
「・・・・バカ・・・・バカ・・・・」
溢れた感情とどうにもならない無力感がリンディスの中を暴れまわる。
噛みしめた歯の隙間から、嗚咽のような音が漏れていた。
「・・・バカ・・・バカ・・・あの・・・バカ!!」
一際強くたたきつけた拳が、ベットの骨組みにひびを入れた。
「リンディス・・・そんなに自分を責めないでくれ・・・」
そう声をかけたエリウッドをリンディスは睨みつけた。
そのあまりの気迫はエリウッドの体を硬直させるほどのものだった。
そして、気付く。
彼女は何かに激怒していた。
「・・・何か・・・あったのかい?」
リンディスは体を震わせながら、もう一度拳を固めた。
「・・・あのバカは・・・最後に言ったの・・・」
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
去りゆくネルガルの背中。
ハングはもう一度、片膝をついて頭を下げた。
そして、そっと左腕を床につけた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「あのバカは・・・」
『勝手にいなくなるわけじゃないから、許してくれよ』
「そう言ったのよ!!」