【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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第30章~狂戦士テュルバン(前編)~

神将器全てを回収してくるには時間が足りない。

なぜなら、神将器はただ持って来ればよいというものではないからだ。

神将器が安置されている場所には守護兵の魂が死してなお、主人の魂を護らんと待ち構えているという。

 

アトスの談により、エリウッドとヘクトルは【烈火の剣】デュランダルと【天雷の斧】アルマーズの二本に狙いを絞ることにした。

 

「人数は少ない方がよい。守護霊を刺激せんようにな」

 

エリウッドとヘクトルは自分の信頼する何名かを選出することを決めた。

 

そんな二人にリンディスは自ら名乗りを上げた。

だが、エリウッドとヘクトルはそれに首を縦に振りはしなかった。

 

「リンディス。君はここに残ってくれ」

「ちょ、ちょっと待って!私も・・・」

 

既に剣を腰に履き、出立する気満々であったリンディス。

その前にヘクトルが立ちふさがる。

 

「今のハングを放っておく気かよ」

「駄目よ!ハングならこんな時こそ気丈に行動しようとするわ!なら、私も・・・」

「駄目だ!」

「どうして!?」

 

エリウッドとヘクトルは顔を見合わせた。

無言のやりとりを終え、エリウッドがリンディスの説得にかかる。

 

「リンディスが傍にいる方が、ハングが嬉しいと思ってね」

「・・・嘘が下手よ。エリウッド」

 

ヘクトルはこっそりとエリウッドの足を踏みつけた。

普段の狸っぷりはどこに行ったのか。

 

ハングが心を壊しかけた理由は捏造された記憶によるものだ。ハングは俺達に憎悪を抱くようになっているというのだから、近くに仲間がいるという状況が好影響を与えるとは言い切れない。

 

だから、リンディスをハングの傍に残したい理由は別にある。

そのことはリンディスもわかっていたようだった。

 

「私が・・・ハングの監視をすればいいのね?」

「話が早くて助かるぜ・・・あんま、言わせたくなかったんだけどな」

 

もしハングが意識を取り戻した時、再び暴れ出さないとも限らない。その時、ハングと稽古を続けていた経験の長いリンディスが傍にいる方が御しやすいだろう。

 

ヘクトルが隣の友人を睨む。

エリウッドは疲れたような笑顔を返すにとどまった。

 

平気そうな顔をしていても、ハングがこうなってしまった現状は確実にエリウッドの心身を疲弊させていた。

 

「まぁ、それは本音だし建前だ。本当のこと言うと、君はハングの傍にいてやるべきだと思う。彼がギリギリのところで踏みとどまれたのはリンディスのおかげだと思うし」

「そう・・・ね・・・わかったわ、二人共」

 

リンディスはそう言って唇だけで微笑む。

 

ちゃんと笑うには今の状況は辛すぎる。

それはエリウッドとヘクトルも一緒だ。

お互いそれがわかったうえで、彼らは笑っている。

 

せめて、ハングが戻ってきたときに呆れられないように。

 

『お前らな・・・ちょっとそこに正座しろ!!』

 

怒られるのは勘弁だ。

 

エリウッドとヘクトルは最後にもう一度ハングのベットの隣に立った。ハングは今も虚空を見つめたままで、動く気配はなかった。ただの人形のようになってしまったハング。

 

だが、ここにいる皆は知っている。

 

彼と過ごしてきた時間は決して偽物なんかではないということを。

今は無理でも、もう一度あの不敵な笑みで僕らを導いてくれることを。

弾けたような笑みで一緒に喜びあえることを。

 

彼等は信じている。

 

「ハング、行ってくる」

「お前はそこでしっかり心を休めてろ」

 

返事は無い。

 

それでも、エリウッドとヘクトルの顔に悲壮感はない。

それは必ず彼が帰ってきてくれることを信じているからだ。

 

そして、エリウッドとヘクトルはアトスに向き直る。

 

「アトス様、出発はいつになりますか?」

「俺達はいつでもいいぜ!」

「うむ、一刻後に移動する。準備を」

「はい!」

「おう!」

 

勢いよく返事をしてドアから出ていく二人。

その背中を見送り、リンディスは小さく手を振った。

 

「行ってらっしゃい」

 

エリウッド達の姿が扉から消え、アトスも何かの準備をするために部屋を出ていった。

静かになった部屋でリンディスは振っていた手を握りしめた。

 

リンディスはハングを振り返る。

 

彼は呆けたように口を開け、うすぼんやりとした目は彷徨わせたまま。まるで抜け殻のようにだった。普段の彼をよく知っている分、その違いにリンディスの胸は痛くなる一方だ。

 

リンディスはベットに腰かけ、彼の頬に手をあてた。

 

「ハング・・・あなたが・・・人形なんてね・・・」

 

息もする。体温もある。粥を口にいれれば条件反射のように飲み込み、出すものも出す。

 

リンディスは動かぬ彼の体に頬を寄せた。

 

「生きてるよね・・・あなたは・・・生きてるよね・・・」

 

伝わってくる鼓動が確かにリンディスの身体を揺らしていた。

 

その時、外から大きな足音が聞こえてきて、リンディスは慌ててハングの身体から身を離した。

次の瞬間、ドアが盛大な音と共に開かれ、ウィル、エルク、セーラの三人がなだれ込んできた。

ハングが倒れてからというものの、この三人は毎日のように見舞いに来てくれていた。

 

「おうっす!!ハング!今日も来たぞ!!」

 

ウィルは明るい声でそう言って、片手をあげた。

その後ろではセーラがトランプ片手にエルクに何か文句を言っており、エルクは相変わらず頭痛を堪えるような顔をしていた。

 

リンディスは入ってきた面々に今できる最高の笑顔を見せた。

 

「みんな、いつもありがとうね」

 

リンディスがそう言うと、ウィルが照れ臭そうに鼻の下をこすった。

 

「当たり前ですよ。ハングとは友達なんですから」

 

その言葉にエルクも頷いて同意する。

 

「そうですよ。とはいっても、僕らは会いに来るぐらいしかできないですけど」

「何言ってんのよ!」

 

エルクの肩を素早くセーラがひっぱたいた。

 

「いたっ!セーラ・・・君ね・・・」

「エルクが後ろ向きな考え方してるからでしょ!まったく、根暗な考え方がハングにまで移ったらどうすんのよ!」

「移るわけないだろ。だいたい君は・・・」

 

いつものように喧嘩する二人を横目にウィルはせっせとお茶会のセッティングをすませてしまう。

いつもの光景であった。

 

時にはヒースやプリシラ、カナスやドルカスも来てくれる。

人の暖かさというのはいつの日も偉大だと感じる日々だった。

 

リンディスはハングの横たわるベッドを振り返る。

 

『ハング・・・はやく・・・戻ってきてね・・・』

 

リンディスは胸の内でそっと呟いた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ヘクトルはアトスの転移魔法に連れられて、西方三島と呼ばれる土地に降り立った。

リキアより北西の方角に成り立つ群島、西方三島。

現在はエトルリア王国の保護下にあるものの、航路も港も使わずにここまで来たので誰に許可を得る必要もないのが救いと言えた。

 

もし、エトルリアに話を通していたら数か月は身動きが取れなくなっていたことだろう。

 

そして、アトスに連れてこられたのは途方もなく大きな洞窟であった。

 

「おいおい、真っ暗じゃねーか妙な煙がふき出てやがるし・・・」

「え?これぐらい普通に見えません?若様」

 

ヘクトルの後ろからマシューがひょっこりと顔を出した。

 

「お前と一緒にすんじゃねぇよ。俺は一般そこらの視力しかねぇんだぞ」

「本は読まないから視力の落としようがありませんもんね」

「・・・てめぇな」

 

ケラケラと笑うマシュー。

その隣ではフロリーナがくすくすと笑いを見せていた。

 

「おめぇも笑ってんなよ!!」

「ふぇ!・・・・ごごご、ごめんなさい」

「若様!女性に八つ当たりなんて見損ないましたよ!」

「うるせぇ!お前らはもう少し緊張感を持ちやがれ!!」

 

ヘクトルが神将器のために連れてきたのはこの二人だった。

なぜかというと、真っ先に目についた二人が彼等だったというだけだ。

だが、今更ながらもう少し考えて人選すべきだったかと後悔しているヘクトルだった。

 

「ったく・・・マシュー、今日は随分口数が多いじゃねぇか」

「ハングさんがいないんですから、若様に注意を促すのがまた俺の役目に戻ったってだけですよ」

「は?」

 

そう言われ、ヘクトルはこの旅に出る前のことを思い出す。

そういえば、ハングと出会う前はマシューがヘクトルの静止役であった。

 

あれからそれ程時間が経ったわけでもないのに、随分と昔のことのように感じる。

 

「ああ、そうだったな」

「でしょ。ってなわけで、ハングさんがしゃんとするまで、俺がまた女房役をやらせていただきますよ」

 

マシューはそう言って不敵に笑ってみせる。

ハングと違って何か企んでそうな笑顔にも見えてしまうのはやはり本人の個性の問題だろう。

 

「ま、マシューさんが・・・にょ、女房役・・・ですか?」

「フロリーナさん・・・今どんな想像しました?」

「い、いえ。特には・・・」

 

などと言いつつ、フロリーナはなんだか真剣に思い悩むように顔をしかめさせた。

そんな彼女にヘクトルが声をかける。

 

「なぁ、おめえ」

「ひゃ、ひゃい!!なな、なんでしょう」

 

過敏な反応にヘクトルは頭をかく。

 

実はこれでも随分とましは反応になったものなのだ。

以前なら黙って震えられ、その挙句に逃げられるか緊張しすぎて気を失ったりされていた。対話が成り立つようになっただけ、かなりの進歩なのだ。

 

なんでこいつ連れてきちまったんだろうな・・・

 

ヘクトルはそう思いながら、無理やり気丈な顔をしてみせるフロリーナを見下ろした。

 

「ここまで来てもらってなんだが、お前はリンディスの傍にいなくてよかったのか?」

「・・・・・あ・・・はい」

 

返事をしたフロリーナの顔には真剣な光が宿っていた。

それは、彼女が戦場で時折見せる覚悟を決めた時の目だった。

 

「リンは・・・今・・・頑張ってます」

 

ハングが壊れた。

 

家族を度重ねて亡くしてきたリンディスにとって今回の出来事は生半可なことではなかっただろう。

彼女の祖父であるハウゼンとて、もう長くはないことはリンディスはわかっている。

 

ここでハングを失えば、彼女はまた独りになってしまう。

その不安を押し殺して、リンディスは今ハングの傍にいる。

 

フロリーナにはハングにもリンディスにも何もしてやることができない。

だが、竜の復活という世界の危機に立ち向かうことはできる。

 

「だから・・・せめて・・・リンの不安を取り除くために・・・・何か・・・したいんです」

「・・・・そうか」

 

ヘクトルは納得したようにそう言った。

 

だが、内心では彼女に苦笑していた。

 

この目の前のちっこい見習い天馬騎士はただ友の為に、世界を救いたいと言っているのだ。

ヘクトルはそれを笑いはしない。友の手助けをしたい一心でこの渦中へと飛び込んできたヘクトルも人のことは言えないのだ。

 

ただ、フロリーナに対する評価は少し改めることとしたのだった。

 

ヘクトルは頭二つ分程低い位置にあるフロリーナの頭を軽くたたいた。

 

「おめぇは、いつもそれぐらい言えりゃいいのにな」

「え?」

「おめぇ、俺になんか言いたいことがあるんじゃないのか?」

 

そう言った途端、ヘクトルの手の下の顔が急激に朱色へと変貌をとげた。

 

「あ、あ・・・・・・・あの・・・・・・えと・・・・・・」

 

途端に『いつものフロリーナ』に戻ってしまった彼女にヘクトルは「またか」と言って、苦笑いを浮かべた。

 

俺もいい加減こいつのこんな態度も慣れてきたな。

 

そんなことをヘクトルは思ったのだった。

 

「それで、アトスの爺さんはいつ帰ってくるんだ?」

 

その言葉を待っていたかのように、アトスが転移魔法でこの場に出現した。

アトスはヘクトルをここに送った後、エリウッドをオスティア郊外の山中にある洞窟に送り、再びここに戻って来たのだった。

 

「待たせたの」

「じいさん、それで、ここに本当に神将器があるのか?」

「うむ。狂戦士と異名をとったテュルバンの【神将器】アルマーズはここにある」

 

確かに何かを隠すにはうってつけのようにも思える洞窟だ。

並みの精神の持ち主なら生理的に入ることを拒む要素がてんこもりだ。

 

だが、ヘクトルにとっては今はそんなこと関係ない。

 

自分の親友の想い人がさらわれた。

ハングがひでぇ目にあわされた。

竜の出現で世界が危ない。

 

これだけ重なればここに足を踏み入れることをことを躊躇う理由はなかった。

 

「並の男では、持ち上げることすらかなわぬ巨大な戦斧だが・・・ふむ、お前ならばあるいは・・・」

「じゃ、行くか。とっとと取ってくるぜ!」

 

軽く言ってのけるヘクトルには全方向から止めの声が入った。

 

「こら!そう急ぐな」

「若様の猪突馬鹿」

「あ、危ないですよ」

 

マシューがあからさまな暴言を吐いていたが、ヘクトルが何かを言う前にアトスが言葉を続けた。

 

「ここはかつて我らとともに戦った守護兵の魂が死してなお神将器を守らん、その使命を果たさんと待ち構えておるのだ」

「・・・だから、そいつらをぶっとばして斧とってくんだろ?」

「ことはそう簡単にはいかぬ」

「若様の暴力馬鹿」

「ほ、本当にそれでいいんでしょうか」

 

やはりマシューがここぞとばかりに暴言を混ぜているのだが、ヘクトルはもう諦めることにした。

 

「心しておけ、ヘクトル。『おまえ』が力を示すことに意義があるということを・・・」

「わかってるよ。なにがあっても俺は退かねぇ!とっとと始めようぜ!」

 

ヘクトルは横の二人に目で「行くぞ」と言い、アトスに背を向けて洞窟に踏み込んでいった。

 

アトスは洞窟の奥へ消えていくヘクトルを見ながら、眉間に皺を寄せていた。

 

「ふむ・・・豪胆な男よ。それがお前の強さであり。また・・・弱さでもある。いずれその蛮勇はお前自身を滅ぼすかもしれぬぞ・・・」

 

アトスがこぼした独り言。

 

それははかつて共に戦った仲間にも言った言葉だった。

 

『上等だ・・・俺は戦うことでしか己を見つけられん。蛮勇の末に死ねるのなら・・・床で死ぬより遥かにましだ』

『お主も物好きよの。もう少し他のものに目を向けてみれば世界は広がるというのに』

『・・・・考えておく』

 

アトスはそんな昔の会話を思い出しつつ、ヘクトルの背を見送ったのだった。


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