【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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第 章~    (  )~

「こいつはわしが作り上げた人形・・・【モルフ】だ」

 

魔法で拡大されたネルガルの嗄れ声は何に阻害されることなく周囲の全てへと響き渡っていた。一字一句漏らすことなくその言葉が皆の耳に届く。

 

「え・・・・・・」

 

エリウッドがその場で固まった。

ヘクトルの振りかぶっていた斧が止まった

リンディスは足が動かなくなっていた。

ネルガルの隣にいたニニアンが悲鳴を抑えるかのように口元を抑えていた。

 

そして、ハングは目を見開いてネルガルを見つめていた。

 

「だから・・・なにを・・・言っている?」

 

ハングの声が震えていた。

 

そんなはずはないと頭が全力で否定にかかっているのに、なぜか反論の言葉が出てこない。

 

「察しが悪いのか?そんなはずはあるまい。お前には当時最高の頭脳を与えてやったのだからな」

「だから・・・なんの・・・話だ」

「お前の話に決まっているだろう?」

「あ・・・あ、あり得ねえだろ!!」

 

ハングが叫んだ。

 

「俺は俺だ!俺なんだよ!俺は・・・俺は・・・人間だ!!」

「ふむ、やはり同じ反応になったか・・・まぁいい・・・」

 

ネルガルは声を魔法で拡大したままその場で楽しそうに喋る。

その余裕にハングの声が揺らぐ。

 

「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ・・・嘘だ・・ウソだろ・・・」

 

否定したい。否定できるはずだ。

俺には親がいて、産まれた村がある。

 

そんなことはわかっているというのに、ハングは必至にネルガルに訴えかけることしかしない。

 

「間違いはないさ。お前はわしが作った」

「嘘だぁぁ!」

「嘘なものか。だが、わしも忘れていたがな。『失敗作』のことなど」

「は・・・はぁ?」

 

ネルガルは人差し指で自分の頭を叩いた。

 

「いかにわしと言えども、歩いてきた道で踏みつぶしてきた虫の数まで覚えておられんくてな。貴様を見るまで完全に忘れておったよ」

「だから・・・だから・・そんなこと・・・あり得ない・・・」

「あり得るのだよ」

 

ネルガルがハングの前に手をかざした。

何かをされたわけでもないのに、ハングはその威圧感で何も言えなくなってしまう。

喉の奥が痛い。目頭が熱い。ともすれば涙がこぼれ落ちそうになっていた。

 

「貴様はわしが人形作りに程よく手馴れてきた頃に作り出した【モルフ】の一体だ」

 

ネルガルの話など聞きたくもなかった。

 

だが、耳を塞ぎたいのに腕は動かぬまま。大声を出したくとも声はでないまま。自分の言葉で否定する気力は失せたままだった。

 

ハングの口からは乾いた呼吸音だけが響いていた。

 

「わしは当時、完璧な人を作ろうと試みていた。自我を持ち、飯を食い、自由に動く人形・・・それを作ることこそ神に等しい行為だとな。だが、それを作る過程で気が付いた。神に等しくなった程度のことで満足していいのかと?」

 

鷹揚に、抑揚に、ネルガルは話す。

 

「だから計画を変更したのだ。完璧な人ではなく完璧な新たな存在・・・それを作ろうとな・・・そして、捨てられた計画のあぶれた人形・・・それがお前よ・・・ハング」

 

ネルガルの顔面が目の前に近づいてきた。

そして、その眼を捕えられた左腕に移した。

ハングもそれにつられて腕へと視線を動かした。

 

何度も障壁に叩きつけたせいで腕を覆っていた黄ばんだ包帯の一部が破れ、その下の緑の鱗を晒していた。

 

「だが、せっかく作ったのだからな。ある程度の実験を兼ねて様々な魔法を試したのだ。だが、結果はこの中途半端な有様だ。竜の体を再現させるつもりが、腕だけが歪に変化した」

 

『歪』

 

その言葉がこの腕を表現するのに的確だというのはハングが最も知りうることであった。

 

「とっくに廃棄したと思ってたんだが。まさか、まだ存在しているとは思ってなかった。お前がわしの目の前に現れるまでは」

 

ネルガルは笑う。

彼の嘲笑が草原を駆け抜けていく

 

「楽しかったぞ。貴様がエリウッド達の間でのうのうと仲間面しているのはよい余興であった」

 

喉から声がでない。出てくるのは呻くような吐息と泣き声のような嗚咽だけ。

 

「一度、操れぬものかと試したのだがな。自我を持たせることを前提に作ったせいか。今一つ勘が掴めなかった。あの時の高熱はつらかったろ」

 

ハングが思い出したのは、あの湖畔での出来事。

ヘクトルが偽の情報に踊らされて向かった湖畔でハングは高熱を出した。そして、それを待っていたかのように敵が現れたのだ。

 

「嘘だぁぁぁ!!!」

 

俯きながら、ハングが叫ぶ。

眼からこぼれた雫は熱い塊となって右腕の甲に落ちる。

 

「貴様も気づいていたのではないのか?」

「なにを・・・」

「敵対していた者の中に自分に姿の似ている者が多いことに」

「っ・・・・」

 

黒い髪、白い肌、そして・・・

 

『ハングって怒ると瞳が黄金色に見えるよね』

『それが一番こえぇんだよ』

『あの眼を前にしたくはないわよね。怒られている状況じゃなきゃ綺麗だとは思うけど』

 

金色の瞳

 

「違う・・・・違う!!そんなわけがない!!」

「言われるまで気づかなかったというわけではあるまい?」

「っ!!」

 

違う!!認めるか!!そんなわけがない!!

 

そう反射的には返せなかった。

 

今まで敵対していた【黒い牙】の面々が記憶の中から蘇ってきていた。

エフィデル、ソーニャ。

それだけではない、【黒い牙】の中の暗殺者の中にも似たような容姿の者が紛れ込んでいた。

 

気付かなかったことが次々と見えてくる。どうして今まで気付かなかったのか不思議な程に鮮明に理解できてしまう。

 

もしかして俺は無意識のうちに考えないようにしていたんじゃないのか?

 

その疑問が浮かんだ瞬間、ハングはネルガルに向けて怒鳴り声をあげた。

その疑問の先を考えたら、もう二度と戻れないような気がしてしまったのだ。

 

「違う!違う!!俺は・・・ハングだ!ハングなんだよ!!」

 

ハングはネルガルの言葉を否定するものを必死に探した。

そして、自分の根幹を作っていた記憶に突き当たった。

 

「俺には・・・俺には・・・母さんと父さんと・・・」

「妹がいたんだろ?」

「っ・・・・!」

 

だが、それすらもネルガルは一笑にふす。

 

「それはそうだろう。記憶や感情をいじる魔法の実験台にしたからな。お前の実験成果はそれなりに貴重であったぞ。人に【モルフ】を溶け込ませる術として随分役にたった。お前のおかげで【黒い牙】に潜り込ませる【モルフ】の質がかなり向上したものだ」

 

ネルガルの言葉などハングのはもうほとんど聞こえていない。

ただ、『記憶と感情をいじった』ということだけが頭の中に残っていた。

 

「そして、お前に植え付けたのは『憎悪』とその理由となる『記憶』だった」

 

『憎悪』を植え付けた・・・だと?

 

ネルガルを前にすると、何も考えられない自分。

勝ち負けを度外視しても何度も殴り掛かってしまう自分。

『復讐』以外の生き方ができない自分。

 

そんな自分に俺は何度も苦笑してきた。

 

それは植え付けられた感情だったからなのか?

憎悪を消せないのはそんな理由だったのか?

 

「そんなわけが・・・ないだろ」

 

ハングがそう言うと、ネルガルが自信たっぷりの笑みを向けてくる。

ハングは尻込みしそうになった。

だが、動かぬ両手に阻まれて下がることもできない。

 

「ふふふ・・・まだ信じられぬか?なら、ここにいるお前の『お仲間』に言ってみるといい。お前の村の名はなんだ?」

 

ハングの口から短く呼吸が漏れる。

 

だが、その名前は出てこない。

 

「言えぬよな。地図に乗っていない村、もとより存在せぬ村だ」

『今となっては地図にすら載ってない。まぁ、もともと小さな村だったけどな・・・』

 

海賊船でハングはリンディスに自分の口でそう言った。

 

「そんなこと・・・覚えてない・・・だけだ!!」

「では、貴様の両親の名は?友の名は?村の住人の名前を一人でも言えるのか?」

「・・・・・・い・・・言える・・・言えるさ・・・両親は・・・両親の名は・・・」

 

震えるような泣きそうな声。だけど、やはりその先は出てこない。

 

「言えるわけがない。私がそんな細かい記憶の植え込みは省いたからな」

「妹のことは・・・覚えている!!」

「おう、そうだったな」

 

ネルガルは手を軽く振った。

 

その瞬間、ハングの視界が白く弾けた。

 

「お前の頭を操ることはできなかったが、まだ記憶をいじるぐらいなら可能なのだよ。ハング」

 

頭を振って、ハングは思考を呼び戻した。

 

そして、絶望に目を見開いた。

 

「・・・・そんな・・・そんな・・・」

「さあ!!もう一度言うがいい!!貴様にはどんな家族がいた!?」

「・・・・お・・・・おとうと・・・」

 

ハングは鮮明に思い出せた。思い出せてしまった。

弟の『テル』と野山を駆けまわった日々を・・・

 

「さあ、言うがいい!どんな家族だ!?姉か?」

 

再び視界が白く弾けた。

浮かんだのは転んだ幼い自分に手を差し伸べてくれる女性。

 

「兄か!?」

 

肩車してくれた兄さん

 

「双子の姉妹だろ!?」

『私達を見分けられるのってハング兄ちゃんだけだよ』

 

「いや、弟同然の捨て子と一緒だったか?」

『血の繋がりなんて僕らには・・・』

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああぁあああ」

 

自分の口から叫び声が漏れていた。

 

次から次へと思い出が入れ替わり、直前のことを忘れ去っていく。

頭の中が本当にかき混ぜられたようだった。こみ上げてきた吐き気に逆らえずハングは腹のものを嘔吐した

 

「どうだ?家族が増えた気分は?」

 

ネルガルの勝ち誇った声が頭上から聞こえる。

 

もはや、疑う余地がなかった。

ハングは涙を流しながらネルガルを見上げた。

 

「絶望したか?だが、安心しろ。お前はわしのものだ。わしがお前に生きる意味を与えてやるぞ」

 

こいつが・・・この人が・・・俺を作った・・・

 

見上げたネルガルの顔。

 

今まで憎しみの対象でしかなかったそれは不思議と・・・

 

「ハングさん!!」

「しっかりしろ!クソ軍師!」

「なにやってるのよ!ハング!!」

 

周囲からの声がした。ハングは首だけで辺りを見回す。

皆は何かの壁に阻まれているらしく一定以上は入ってこれていない。

 

それでも、皆は一歩でもハングに近づこうとギリギリまで戦っていた。

 

「お前は俺達の軍師だろ!!」

「お主がおらんかったら、この部隊はどうなると思っている!!」

「そんな簡単に認めるんじゃねぇぇぇよ!!」

「ハングはハングだろうが!!」

「あなたの人生はあなたのものなのですよ!!」

 

いつの間にか拘束が解かれていた。

ハングは自由に動く両の掌をみつめた。

 

「俺は・・・・俺は・・・」

「ハング!!」

「ハング殿」

「ハングさん!!」

 

普通の右手と竜の左手。

歪な自分の肉体は闇から生まれた【モルフ】にふさわしいようにしか思えなくなっていた。

 

「俺は・・・誰なんだ・・・」

「ハング!!」

 

一際響いた声。

 

ハングは顔をあげた。

 

「何をしてるんだ!ハング!!」

 

エリウッドが怒鳴っていた。

 

「なに呆けてんだハング!!こっちに来い!!」

 

ヘクトルが呼んでいた。

 

「ハング!ハング!!」

 

リンディスが声を枯らして叫んでいた。

 

ずっと共にいた。ずっと一緒に戦ってきた。

 

肩を並べて戦ってきた友の姿。

共に笑ってきた悪友の姿。

想いを伝えた愛しき人の姿。

 

「ふむ、新たな余興を思いついたぞ」

 

それが、ハングの中から消えた。


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