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地球を覆う
小型衛星3万基
3Dで描く新時代
地球を覆う小型衛星3万基
3Dで描く新時代

出所:ロケットラブ

人工衛星を手軽に打ち上げられる時代が始まった。超小型化技術の進歩で手のひらサイズの衛星が登場。ロケットの軽量化に伴い打ち上げコストは劇的に下がった。今後10年以内に観測用や通信用で2万基を超す衛星が宇宙に旅立つ見通しだ。運行中の衛星を合わせた約3万基が地球の上空をくまなく覆い、衛星データの活用を通じて地上生活に大きな変革をもたらそうとしている。

01

ロケット開発の最前線に密着

「BOOK MY LAUNCH(打ち上げ予約はこちら)」。ニュージーランドと米国を拠点に小型ロケットを開発するロケットラブのウェブサイトを訪れると、目を引く文言が飛び込んでくる。衛星の打ち上げを手軽に依頼できるロケットラブは次世代の衛星業界を担うスタートアップの1社として注目を集める。

2018年に初めて衛星の軌道投入に成功して以来、22年12月時点で29回の打ち上げに成功し、150基以上の衛星を宇宙に送り出してきた。今回、ロケットラブの工場に立ち入り、開発・製造の最前線に密着した。

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ロケット開発の最前線

スクロール

ニュージーランドが開発拠点

ロケットラブが拠点を置くニュージーランド北部オークランドの工場内には、製造中のロケットが所狭しと並んでいた。小型衛星の打ち上げ用に開発された小型ロケット「エレクトロン」だ。毎月1機ほどのペースで完成品を世に送り出している。

小型化で打ち上げコスト削減

外観の第一印象は「小さい」。全長は約18メートル、直径は1.2メートル程度で、米スペースXのロケット「ファルコン9」の現行型(全長70メートル)の4分の1ほどだ。従来、1回あたり5000万ドルほどかかっていた小型衛星の打ち上げコストを約750万ドルに大幅に引き下げることに成功した。民間企業による宇宙開発を大きく後押ししている。

高度2000キロメートル以下の地球低軌道(LEO)に打ち上げる場合、300キログラムの衛星まで搭載できる。離陸前に燃料を満たすと総重量は約13トンになる。

エンジンを自社で開発・製造

ロケットの最下部には9基のエンジンが組み込まれている。

ロケットラブは基幹部品であるエンジンを米国拠点で自社開発・製造する。エレクトロンに搭載する「ラザフォードエンジン」は燃焼室やポンプといったすべての主要パーツに世界で初めて3Dプリントを活用し、従来の製造技術では難しかった複雑・軽量な構造を実現した。ラザフォードの画期性は燃料を燃焼室に流し込むポンプを電動化した「電動ポンプ式」を採用したこと。一般的なロケットエンジンは燃料を燃焼して発生させたガスを使ってポンプを動かしている。主要部品は24時間あれば「プリント」できる。

ラザフォードエンジン

1段目が製造コストの約7割

本体部分には炭素繊維複合材を用い、オークランドの工場内で自社加工している。ファルコン9や従来型ロケットで主流のアルミ複合材に比べて大幅に軽いのが特徴だ。

1段目の胴体は燃料タンクが大部分を占め、ロケットの発射後に燃焼が終わると切り離されてエンジンとともに地上に落下する。エンジンや燃料タンクを含む1段目の製造コストが全体の約7割を占めており、打ち上げ時に回収して再利用することを目指している。実現すればさらにコストが下がる見通しだ。

2段目の胴体はクレジットカードほどの薄さ

切り離された2段目は1段目よりも格段に小さい。筒状の胴体部分はクレジットカードほどの薄さが特徴で、触るとたわむほどに柔軟だ。宇宙に到達後、軌道に入るための燃料やエンジンを搭載する。

先端部に人工衛星を収納

人工衛星はロケットの先端部に収納する。2つに分かれており、宇宙空間で開く。片手で持ち上げられるほど軽く、中には音や振動を遮断して衛星を守るための銀色の緩衝材が貼られている。

民間資金でロケット開発を事業化

工場は大きな体育館ほどの高さと広さがあり、1つの建物内で素材の切り出しから各種部品の製造、組み立てといった様々な工程を担う。訪問時にはロケットの1段目や2段目の製造中の「筒」が10本ほど並んでいた。

エレクトロンは資金面で政府に頼らず民間によって開発されたロケットだ。ロケットラブはベンチャーキャピタルから資金調達して開発を進め、21年にナスダックに上場した。ピーター・ベック創業者兼CEO(最高経営責任者)は打ち上げを事業化できた理由について「最初の1機よりも20機目をつくる方が難しい。失敗による資金や時間の代償はとても大きく、常に正しい決断をし続けることが重要だ」と話す。

同社はニュージーランドに発射場も持つ。「当初は全て米国から打ち上げる考えだったが、(航空機などで)空が混雑しており順番待ちをしないといけない。ニュージーランドからなら好きな時に高頻度で打ち上げられる」(ベック氏)と地の利を最大限に生かす考えだ。

工場内には製造中のロケットが並ぶ
工場内には製造中のロケットが並ぶ=ロケットラブ提供
小型ロケットの海上輸送も

英北部スコットランドでもスタートアップが小型ロケットの開発に挑む。エディンバラを拠点とするスカイローラの小型ロケットは全長23メートルで、コンテナに打ち上げ設備一式を詰め込んで海上輸送できるのが強みだ。

同社のビジネスオペレーションズマネジャーのデレク・ハリス氏は「世界中どこでも打ち上げ場所として使える」と話す。設備がない新興国などでも国内で打ち上げに挑戦できる未来が近づく。2023年のロケットの軌道投入を計画している。

海上輸送で世界中どこでも打ち上げ可能に
海上輸送で世界中どこでも打ち上げ可能に=スカイローラ提供
02

3Dで読み解く衛星軌道

ロケットで宇宙に飛び出した人工衛星は役割に応じた高度で運行に移る。1960年代から打ち上げ競争が始まり、現在稼働中の衛星は約7000基に達する。衛星データベースのSpace-Track.orgが公開する衛星軌道データをもとに、位置情報の分かる約9000基(稼働停止した衛星含む)の2022年12月1日時点の位置を地球の周りに可視化して分析した。

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  • 低軌道衛星
  • 中軌道衛星
  • 長楕円軌道衛星
  • 静止衛星
衛星数
3
+ 3
地球画像:NASA

スクロール

1960年代以降、衛星の打ち上げは最初のピークを迎える。1969年に米国がアポロ11号で有人月面着陸を成功させたのを皮切りに、ソ連との間で宇宙開発競争が激しくなった。

冷戦終結後、衛星の打ち上げ数は減少を始める。ソ連崩壊後、米国にも莫大な費用が衛星の打ち上げに立ちはだかった。2000年代後半からは中国が第3の宇宙開発国として存在感を見せ始める。

2020年以降、打ち上げ数はかつてない増加を見せる。衛星の運用も従来の政府主体から民間企業へと移りつつある。技術進歩や資金調達環境の改善で新規参入が増え、通信や観測の分野で新しい宇宙競争のトレンドが生まれた。

2020年以降、打ち上げ数は急増

宇宙に飛び立つ衛星の数は急増している
出所:Space-Track.org

ロケットの打ち上げ数の増加をはるかに上回るペースで宇宙に飛び立つ衛星の数は急増している。大量の小型衛星を1つのロケットに搭載して打ち上げる動きが広がり、主に低軌道で衛星の密度が高まっている。

衛星の軌道は大きく4つに分類できる。最も地球に近いのが高度約2000キロメートル以下を回る「低軌道衛星」だ。小型衛星を中心に近年開発が進む。高度約3万6000キロメートルを回る「静止衛星」も有名だ。地球と同じ周期で回転し、静止しているように見える。「ひまわり」などの気象観測や衛星放送などで活用される。ほかには、これらの中間を周回する「中軌道衛星」や、通信衛星に適した「長楕円軌道衛星」がある。

小型衛星を中心に近年開発が進むのが「低軌道衛星」だ。民間企業が低軌道に小型衛星を大量に打ち上げ、高解像度の衛星画像の撮影や高速な衛星通信への活用を狙う。

打ち上げ数は20年代後半に年3000基超に

累計衛星打ち上げ数

宇宙関連の調査会社ユーロコンサルの予測によると、衛星の打ち上げ数は2020年代後半にピークを迎え、年間3000基を超す。打ち上げの大部分を占める小型衛星の活用が一段と進む見通しだ。22年から31年までの累計では2万4000基以上に達し、稼働中の衛星と合わせて3万基時代に突入する。

03

ここまできた衛星の超小型化

人工衛星は搭載する電子機器の技術革新により小型化が加速している。米コンサルティング会社のブライステックによると、重量600キログラム以下の衛星が「スモールサット(小型衛星)」に分類され、直近で打ち上げられた衛星のうち98%が該当する。「キューブサット」や「ナノサット」と呼ばれる手のひらサイズの超小型衛星も登場した。スマートフォンの性能がかつてのスーパーコンピューター並みに高まり、手のひらサイズの端末でも高度な演算ができるようになったことが大きい。

人工衛星は搭載する電子機器の技術革新により小型化が加速している
※数値は概算

人工衛星と言えば、全長が13メートルを超え重量が12トンに達する超大型衛星のハッブル宇宙望遠鏡などがかつての代表格だった。時代とともに主役は小型衛星へと移り変わり、最近では世界で衛星通信のカバーエリアを拡大する米スペースXのスターリンクや米衛星運用会社プラネット・ラブズの観測衛星などが活躍する。スターリンクの重さは260キログラムほど。大型衛星とは異なり、小型衛星は一度に複数基をロケットに搭載できる。1基あたりの打ち上げ費用を大幅に圧縮できることが、民間企業が宇宙ビジネスへの参入に際して小型衛星を選ぶ一因となっている。

手のひらサイズの開発盛り上がる

キューブサット 1Uタイプ

人の手で簡単に持ち上げられる超小型衛星「キューブサット」の開発も盛り上がる。1辺の長さが10センチメートルの立方体を基準にサイズが決まり、1Uと呼ばれる立方体1個分のタイプは手のひらサイズで重量は2キログラムに満たない。表面には各種機器を動かすための太陽光パネルが敷き詰められ、四隅などに地上とのデータ通信に使うアンテナが取り付けられることが多い。

キューブサット 6Uタイプ

太陽光パネルをより多く搭載して機能を高めた6Uタイプも重さは10キログラムほどで両手で抱えられる大きさだ。1Uタイプよりも高い40~100ワット程度の発電能力を持つ。大型の太陽光パネルを使う大型人工衛星と比べると電力量はケタ違いに少ない。バッテリーにためた電力は搭載する観測機器や、衛星の制御・データ転送などを処理するコンピューターの動作に使う。宇宙では日なたと日陰で温度が極端に変化するため、衛星内の温度を一定に保つ技術がカギを握る。急激な温度変化は機器の故障の原因となるため、限られた空間でヒーターなどを駆使して温度を制御する。

軽量化で打ち上げコスト低減

人工衛星の打ち上げ数では小型が圧倒的に多い

人工衛星の打ち上げ数では小型が圧倒的に多い。2022年7~9月の打ち上げ数の98%を600キログラム以下が占める。数百キログラム級が大部分を占める中、1.1~10キログラムの「キューブサット」の割合も4%あり、存在感は高まりつつある。重量シェアで見ると、600キログラム以下の小型は7割程度で、衛星の軽量化が進んでいることが分かる。キューブサットを開発するアークエッジ・スペース(東京・江東)は「6Uのキューブサットの打ち上げコストは大型衛星と比べて2ケタ以上少ない」と強調する。

最終組み立ての作業中の1Uタイプのキューブサット
最終組み立ての作業中の1Uタイプのキューブサット=アークエッジ・スペース提供

さらに汎用部品を多用することで製造コストの低減を実現している。同社では試験を行ったうえでネジやケーブルは市販品を活用し、搭載するリチウムイオンバッテリーも幅広い業界で使われているものを採用する。ロケットと人工衛星、双方の技術革新で宇宙はかつてなく身近な存在となっている。

04

衛星データ送受信、
2031年に10倍に膨張

大量の小型衛星の打ち上げで、地球と宇宙の間のデータ通信量は爆発的に増加する。米国の調査会社ノーザン・スカイ・リサーチの予測によると、2031年には22年の10倍の年間13万1000ペタ(ペタは1000兆)バイトに達する見通しだ。22年の世界の月間モバイルデータ通信量(約9万ペタバイト)を上回る規模だ。衛星データの活用が一般的となり、日常生活も様変わりする可能性を秘める。

総通信量の推移
総通信量の推移
項目ごとの推移
※単位:ペタバイト
20222031
通信12,00010.7128,000
インフラ144
地球観測などの
アプリケーション
7602.62,000
宇宙旅行など417.4305
出所:ノーザン・スカイ・リサーチ

データ送受信のけん引役は通信用途で、31年までに22年の10.7倍に増える。現時点では静止衛星から提供される衛星放送や衛星通信といったサービスによる通信量が大部分を占める。31年にかけて低軌道を用いるスターリンクなどのデータ通信サービスが普及期を迎え、静止軌道からのデータ量に徐々に迫ると予想される。

地球観測といったアプリケーションもさまざまな分野で用途の開発が進み、同2.6倍に大きく伸びる見通しだ。特に安全保障や気象分野などでの利用拡大が見込まれている。

衛星の活用で日常生活にも変化

衛星ブロードバンドでどこでも通信

衛星ブロードバンド時代の到来で、地球上のどこにいても通信衛星と交信できるようになる。ウクライナではロシアの侵攻後、重要な通信手段として活用されている。クルーズ船を運営する米ロイヤル・カリビアンは全船にスターリンクを搭載する計画。クルーズ船でリモートワークするといった近未来も夢ではなくなる。

衛星ブロードバンドでどこでも通信
新興国の農家に資金支援

衛星データ解析のサグリ(兵庫県丹波市)はインドなどの新興国で農家へのマイクロファイナンスを支援する。都市部から遠い農地は実地の確認が難しく、農地の区画や状態を衛星データで解析して与信に役立てる。同社インド法人の最高戦略責任者(CSO)の永田賢氏は「高精度の衛星データは高価だが、機械学習といった分析の知見を組み合わせることで(無償の衛星データでも)サービスを提供できる」と話す。

天候を問わず撮影できる合成開口レーダー(SAR)のデータも活用する。土壌のpH値などを推計するサービスでは、肥料量の適正化によるコスト削減や温暖化ガス削減の効果が期待される。

衛星データから農地のpH値といった化学性を評価する
衛星データから農地のpH値といった化学性を評価する=サグリ提供
サプライチェーンを追跡

サプライチェーンの管理に衛星データを活用するのが英ユニリーバだ。調達網での森林伐採ゼロを目標に掲げる同社にとって、農園やプランテーションの場所、原料が最初に加工される場所の特定が難しいことが課題だった。2020年から米オービタル・インサイトと組み、食料品や日用品の原料になるパーム油の調達網について位置情報データなどを分析。個々の農場からの原材料の流れを自社で直接追跡・把握し、森林伐採といった問題が起こる可能性を予測して対策を立てている。現在は東南アジア全体で1500以上の搾油工場を対象にする。業界やセクターをこえたパートナーシップの構築も進めており、ユニリーバ・ジャパンはこうした取り組みが「将来にわたってビジネスを続けていくには必要だ」と話す。

サプライチェーン分析の例
サプライチェーン分析の例=オービタル・インサイト提供
自然災害の状況を迅速に把握

損害保険分野でも衛星データの活用が進む。東京海上日動火災保険は洪水をはじめとする広域災害が発生した際の被害状況の把握に衛星データを活用する。標高や河川の氾濫情報、SNS情報を組み合わせて、「災害発生から最短24時間以内に被災範囲や契約ごとの浸水高を1センチメートル単位で把握している」(広報担当者)。電波の反射を利用するSAR衛星を用いて悪天候や夜間でも精度の高いデータを取得し、支払い判断を早めて迅速な保険金支払いに応じている。2020年から、小型SAR衛星を運用するフィンランドのスタートアップICEYE(アイスアイ)と連携する。

アイスアイは洪水観測データの提供などで国内外20社以上の損保会社と提携しており、業界全体で衛星データの活用が広がっている。

令和2年7月豪雨による浸水高の解析例
令和2年7月豪雨による浸水高の解析例=東京海上日動火災保険提供