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冬がはじまるよ

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2022.12.21

『聖なるねがいごと』

豊田道倫

「ねこの神さまへ

  ねこの神さま、こんにちは。
  ぼくは、小学四年のマロといいます。
  神さまにお願いがあって、手紙を書きます。
  ぼくをねこにして下さい。
  ぼくはねこが大好きで、いつも道でねこを見ると近寄ってお話をしたりします。
  ねこはみんなやさしいから好きです。
  ぼくは学校に毎日行き、宿題もがんばってます。
  ママはやさしいし、パパはかっこいいです。
  兄弟はいません。
  ペットもかっていません。
  ゲームを買ってもらいましたが、あまり好きではないです。
  今は今でしあわせと思いますが、なんとなく、今のうちにねこになった方がいいと思って、神さまにお願いをしています。
  どうか、ぼくをねこにしてください。
  いつもねるとき、明日ねこになってたらいいなあと思ってねむります。
  ママにはないしょですが。

マロ」    

  
「マロくんへ

  お手紙、どうもありがとう
  ねこになりたい、というお願い、ありがとう
  マロくんのような可愛くて、やさしい子がねこの仲間になってくれたら本当にうれしいです
  でも、かんたんに君をねこにすることはできません
  君には大切な家族、お友達、たくさん愛してくれるひとたちがいます
  君がねこになったら、みんな悲しみます
  とくにパパとママは
  一回、ねこになったら、もう人間には戻れません
  やっぱり人間の暮らしがよかったと思っても、取り返しがつかないのです
  マロくんの年齢で、純粋に、本当にねこになりたいって気持ちは素敵だと思います
  ねこの世界は、たしかに悪いねこはいません
  ケンカは絶えませんが、引きずるものではないケンカです
  君は君で、人間の世界にずっといてもいいことないなと、わかってしまってるからだとも思います
  でも、よく考えてみてくださいね

  パパやママの顔
  お友達の笑顔
  学校や街の風景
  楽しかった思い出
  また、いつでもお手紙くださいね

ねこの神さま」    

  
「ねこの神さまへ

  ねこの神さま、こんにちは。
  お手紙のお返事、どうもありがとうございます。
  うれしかったです。
  お手紙を読んで、ずっと沢山考えてます。
  パパやママ、お友達、みんな大好きです。
  別れるのは本当につらいことだと思います。
  でも、ぼくはどうしてもねこになりたいのです。
  お友達のダイゴくんが、中学受験をする話をしてくれました。
  ふつうの地元の中学校へ行ったら、この先まともな道はないよ、とダイゴくんはママに言われたそうです。
  大人の世界にはいろいろな競争があり、定員があり、そこに入るまでいろいろとがんばらなければならないことは知ってます。
  ぼくは、サボりたいわけではありません。
  ぼくは体も大きいし、じょうぶで、スポーツもとくいです。
  勉強もできる方です。
  でも、これから何かあるたびに、勝ちや負けがうまれるのはいやなのです。
  強いもの、弱いもの。
  ぼくは勝てるし、強い側に立てるとは思いますが、それが全然楽しくない気がするのです。
  パパはいい会社で働いています。
  ママはきれいで、やさしくてかしこいです。
  お友達もいい子ばかりです。
  でも、ぼくにはなぜか時々ぜんぶが、うそ、と感じてしまうのです。
  なんでそう感じるのかわかりません。
  ねこの世界にうそは、なさそうです。
  もちろんねこの世界にも、なわばり争いやケンカはあり、大変なんだろうと思います。
  でも、人間の世界よりはずっとずっとましだと思うのです。
  ねこの神さま。
  どうか、ぼくをねこにしてください。

マロ」    

  
「マロくんへ

  お手紙、どうもありがとう
  何度も読みました
  わたしが、勝手に思ってる人間の世界の素晴らしさ
  でも、そこで自分が生きているわけではないので、かんたんなことは言えないですね
  わかりました
  マロくんはまだ子供なので、良いか悪いか見分ける力が不十分です
  君をねこにするのは、相当なことです
  なので、一度、おためしとして、二時間だけねこにしてあげます
  次の日曜日の午後一時から三時までの二時間です
  よいですか?
  突然、必ず人間にもどります
  その二時間で色々考えてくださいね、そして、またお手紙をください

ねこの神さま」    

  
「ねこの神さまへ

  ねこの神さま、こんにちは。
  この間は、二時間、ねこにならせてくれて、ありがとうごいました。
  こんなに自由が、良いものだとは思いませんでした。
  今も自由かなあとは思ってましたが、ぜんぜんちがっていました。
  誰の目を気にすることなく、好きなところを歩けます。
  土のにおい、草の匂いをかぐのもよかったです。
  一匹の、おばあさんねこに会いました。
  ぼくのこと、全部わかっているようで、ただ、にこっと笑ってくれました。
  ねこになってみると、人間はみんな同じようなかっこう、顔をしていて、ひどくつまらなそうに見えました。
  やっぱりぼくは、ねこになりたいです。
  いつでもいいです。
  かくごはできています。
  ねこの神さま。
  よろしくお願いします。

マロ」    

  
「マロくんへ

  お手紙、どうもありがとう
  二時間、楽しめたのですね
  わかりました
  そこまで君が言うのなら、ぜひねこになってください
  明日の夜が、人間としての最後の夜です
  パパやママ、おじいちゃん、おばあちゃん
  みんなに、心の中でお別れをしてください
  お友達にも、お手紙を書いてもいいと思います
  それでは、ねこの世界にようこそ

ねこの神さま」

  
  少年は泣きじゃくって、目が覚めた。
  ああ、ぼくはなんてことしてしまったんだろう。もう、ママにもパパにも会えないなんて。おじいちゃんや、おばあちゃんも、本当にやさしくしてくれたのに。もう、学校のお友達たちにも会えない。大好きなサッカーもできない。ああ。

  ゆっくり、ベッドから起きた。
  枕元には、大きな紙袋が置かれていた。
  プレゼントのようだった。
  ゆっくり開けてみた。
  可愛いねこのぬいぐるみだった。
  あ!
  ぼくは、人間のままだ。
  本当によかった。
  ぜんぶ、夢だったのか。
  プレゼントの箱には、手紙が入っていた。
  
  
「メリークリスマス

  マロくん、いい子だね
  家族やお友達、大切にしてください

サンタクロース」    

  
  サンタクロースの顔は、どこかで見たねこの顔だった。

 

豊田道倫

とよたみちのり

1970年生まれ。1995年にTIME BOMBからパラダイス・ガラージ名義でCDデビュー。以後、ソロ名義含めて多くのアルバムを発表。単行本は2冊発表。

11月30日に1曲30分のインストとリミックスを収録した『夜』(25時)をリリース。タワーレコード、HMV、ディスクユニオン、Amazon等で販売。

12月24日大阪難波ベアーズ、12月30日東京神田POLARISでライブ。

photo by 倉科直弘