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この作品「白冽のマリスガイン 第1話 決心」は「オリジナル」「一次創作」等のタグがつけられた作品です。
白冽のマリスガイン 第1話 決心/レジェメントの小説

白冽のマリスガイン 第1話 決心

6,060文字12分

「もし本当に、子供の操縦する、ワンオフの、人型巨大ロボットが、現代の地上で動いたら?」

この作品はフィクションです。また、作中に出てくる専門用語や技術内容は間違っている可能性があります。また、地域方言や自衛隊の会話は再現が難しいので基本無視して書かれています。

たぶんトライダーG7、パトレイバー、ガサラキ、ダイガード等が既にやった内容です。でも上記全部を1作品中で主眼に描いたものは無いと思うので書きます。被ってたらごめんなさい。前作は言動や描写を全話分すべて考えてから書きましたが、今作は1話ずつ考えて書くので変な部分が出てくるかもしれません。

2022年12月21日 12:14
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 住宅街を縫う道路に、人では簡単に越えられそうにない雪の山が連なっていた。地面や屋根に積もる雪は真っ白なのに、山は茶色が混ざっていて汚く感じる。除雪の際に土砂や枝葉が混ざるせいだ。しかし、降り続ける雪のせいで土砂も路面も既に確認できない。


 そんな道を、黄色いショベルカーがゆっくり移動していた。普通のバケットが取り付けられた中型ショベルだ。ショベルは一度止まると、旋回して向きを変え、雪の山の間を通ってある家の敷地へ入っていく。

 すると、ショベルは停めてあった乗用車にアームを突っ込んだ。上に積もっていた雪が衝撃で落ちる。車は家の外壁に押し付けられ音を立てて変形してしまった。
 ショベルは車からアームを引き抜くと、次は玄関の屋根の柱を削り始める。


 ショベルの運転席には誰も乗っていない。


 しばらくすると、黄色いショベルが来た方向から別の重機がやって来た。色は見慣れない黒緑色をしていて、大きいアームと小さいアームの2本が生えている。この重機も無人で動いていた。しかし黄色いショベルとは違って、この重機からはケーブルが伸びている。

 ケーブルの先、住宅の陰には展開する機動部隊の姿があった。自衛隊と警察だ。
 後から来た黒緑色の重機は自衛隊の所属で、軽トラの荷台に載せられた運転席からケーブルを介し遠隔で制御されていた。運転席に座る自衛隊員が、モニターに映るカメラの映像を見て重機を動かす。

 黄色いショベルが入っていった家の前に着くと、ちょうど柱の破壊をやめたショベルが敷地から出てきた。目と目が合ったかのようにショベルの移動が止まる。


<こちらアスタコ1、対象が道路に出てきました。処理可能な距離に居ます>

「了解、処理を許可する。対象を制止せよ」

 自衛隊車両のそばに立つ隊員が有線の通信機でそう指示した。

<アスタコ1了解>

 黄色いショベルはアームを伸ばせるだけ伸ばすと、最高速度で旋回させて自衛隊の重機へ叩きつけようとした。しかし重機を運転する自衛隊員は動じない。左の小さなアームでそれを受け止める。ショベルが次の動作に移る前に、重機はもう一方の大きなアームでショベルの運転席を突き破った。先端のクローが座席辺りを噛み潰すと、黄色いショベルはそのまま動かなくなった。
 重機の小アームは受け止めたアームを払い、それの油圧シリンダを掴む。これでもしショベルがまだ動けたとしてもアームを使うことはできない。運転する自衛隊員は通信機で報告した。

「こちらアスタコ1。対象の運転席を破壊しアームを拘束。対象は動かなくなりました。停止したものと思われます」
<了解、こちらでも確認した。解体班を向かわせる。アームの拘束を続けろ>

<アスタコ1了解>
「解体班は直ちに対象へ向かえ」

 待機していた自衛隊員達が一斉に黄色いショベルへ駆け寄っていった。


「まさか電波妨害の対策をしてまで出てくるとは思いませんでしたね。前回あっさり封じられて諦めたと思ったんですが」

 指揮する自衛隊員に警官が話しかける。

「もっと早く到着できればあの家も被害に遭わせず済んだ……」
「この大雪では仕方ないですよ。あの家の人が車を移せなかったのも運が悪かったと割り切りましょう」
「ええ」


 自衛隊員達が黄色いショベルのエンジンフードを開けて、内部から完全に止めようと作業している。

「……今年も続く、って事ですよね」
「きっとそうでしょう」

「これで5回目。ちゃんと前回の反省もして、犯人は相当気合い入れてやってきている。そう易々とやめるとは思えません」

「早く犯人を突き止めてやめさせないと」
「ま、それは我々の仕事ですな。ではそっちはお願いしますよ」
「そちらもよろしくお願いします」


 警官はパトカーの方へ去っていく。どこまでも切れ目を見せない雪空が、最低限の明るさをもたらしながら彼らを覆っていた。







「ただいまー」

 まだ夕日で空がオレンジ色に染まらない頃、テンション控え目で誰かが家に入ってきた。中学校のジャージを着た、ポニーテールの女… いや男の子だ。

「あれ? 今日部活無かったんだっけ?」
「そうだよー」

 家の中から聞こえてくる母親の声に彼は返す。

 彼の名前は夏目優鑠ゆうと。どこにでもは居ないが、いたって普通の中学二年生だ。
 ジャージを脱ぎ手洗いうがいなどを済ませた彼は、お菓子を少し食べた後、半袖半パンの体操服のままリビングの机に着き日誌や宿題をてきぱきやり始めた。じきに父親も帰ってきて、3人はテレビでニュースを流しながら夕食をとる。


「先生が授業後の部活もなくなりそうって言ってた」
「いつもの部活も?」
「今コロナすごいからね」

 2022年になってから新型コロナウイルスの感染者数が過去にないペースで増加しており、自治体・企業・学校などは対応に追われていた。
 優鑠は中学入学と同時にコロナが流行しだした直撃世代であり、その学校生活は大きく乱された。しかし2年が経とうという今では、コロナのせいで予定が変わったり無くなったりするのは日常茶飯事で、特段ネガティブな気持ちにはならなかった。

「2月は元々部活少ないけど、コロナによっては今年度最後まで無くなっちゃうかもしれない」
「またいつか落ち着くからその時できるよ。今は罹らないように気を付けよう?」
「うん」

 母親は優鑠に優しく言った。


「おお~」
「?」

 父親がニュースを見て感嘆の声を上げる。優鑠と母親がテレビを見ると、そこには大きな人型ロボットがゆっくり腕を動かす姿が映っていた。母親と父親が話す。

「ああ前から作ってたロボットね。遂に完成したんだ」
「横浜のガンダムもそうだけど、こういうのはアニメの中だけで現実には作れないと思ってたよ」
「技術の進歩ってやつだね」

 これは、以前から日本の有名企業らが手を組んで開発していた、人のように運動できる巨大ロボットだ。時々報じられてはいたが、どうやら仕上げの機体が動かせる所まで来たらしい。
 優鑠はロボットやメカが好きという訳ではなく、ロボットアニメなども特に興味なかった。しかし、今テレビに映っているこのロボットはなかなかカッコいい。顔がイケメンとかではなく、機械としてカッコいいと言うのだろうか。優鑠はよく分からない印象を覚えた。


<――開発したJACEIRAジャセイラは、ロボットに行わせる動きを演じるモーションアクターを中学生・高校生から募集する予定で、「詳細はホームページを確認してほしい」としています>

「モーションアクター?」

 アナウンサーの読み上げが終わった後、母親が何か分からず口に出した。

「CGやゲームのキャラの動きを演じる役者さん。体を動かしてる所をセンサーかなんかで記録して、パソコンに読み込んで姿勢の情報だけ使うの。たぶんさっきのロボットも、役者の体の動きに合わせて動くんだよ」
「ふーん」


「……優鑠応募してみれば?」
「え?」

 父親が突然言い出す。

「それってつまりロボットのパイロットでしょ。ロボットのパイロットになれるなんて凄いじゃん! ちょうど中学生なんだし応募してみなよ」
「いやモーションアクターだからお父さんが思ってるパイロットとは違うと思う」
「でも良いかもね。アレってトヨタとかデンソーが作ったんでしょ? 応募してコネ作っておけば就職できるかもしれないし!」

 トヨタ、デンソー。愛知県に住んでいる者なら誰もが信用する一流企業だ。ロボットを開発した団体のメンバーに含まれている。

「う、う~ん……」





「ねえ優鑠君どうかしたの?」
「いや? 何もないけど」

 学校の休み時間、隣の席の女の子が訊いてきた。

「今日はいつもより喋ってくれないし、顔も硬いなと思って」
「ああ大丈夫だよ。元気元気」


「あのさ、七海ちゃんはトヨタとかが作ってる巨大ロボットって知ってる?」
「あー、Twitterで見たよ。白いロボットだよね」
「昨日テレビで見てさ、カッコよかったな~って」
「そのこと考えてたんだ」

「優鑠、あのロボットに興味あるのか?」

 今度は後ろの席の男の子が話しかけてきた。

「興味ある……のかな」
「たしかパイロットを中高生の中から募集するって言ってたぞ。気になるなら応募してみればいいじゃん」
「子供が運転できるの?」
「言うからにはできるんじゃないの?」
「それはモーションアクターって言ってたから、たぶん体を動かすだけでロボットが追従して同じように動いてくれるんだ。たぶん」
「へー」


「う~んでも、それってロボットの所に通って仕事しないといけないって事でしょ。休みが減っちゃう……」
「巨大ロボを操縦できるんだよ? 自分の手で!」
「龍之介君は応募しないの?」
「いや俺が応募しても落とされるに決まってるわw」
「悲しいね」

「それに僕達これから三年生になるのに、他の事にうつつ抜かしてる暇あるかな」
「まあなー」


「でも私、優鑠君ならパイロットやれると思うよ」
「なんで?」
「なんとなく」





 やっぱりあのロボットの事が気になる優鑠は、ニュースで言っていた公式サイトを見てみることにした。

 ロボットの名前は「JACEIRA-1-M30」。全高9.6m。外部電源または内蔵の水素燃料電池で動く。人が乗るスペースは無く、コントロールは外部から行う。
 動かしているところを見せて人々を楽しませたり、人型建設機械の実用性を検証したりする目的で作られた。
 募集しているアクターの主な仕事は、公演でロボットの体の動きを担当し、台本に沿って人間らしい動作を演じる事。アクターは労働基準法の許す時間だけ、所属学校休校日に行われる公演・動作確認等に参加する。アクターの募集条件は、
・14歳以上17歳以下の就学者
・刈谷開発センターと通える距離に在住
・学校の部活動の参加時間を調整できる
の3つ。応募締切は2/14(月)必着。
 などが書いてあった。

「……」





 次の日、優鑠は担任の先生に頼み、授業後に話ができる時間を作ってもらった。学年室の奥にある面談用ソファーに2人は腰掛ける。


「あの、先生は刈谷でトヨタとかが作ってるロボットって知ってますか」
「あー、ええ。ニュースとかで見て多少は知ってますよ」

「今、そのロボットを操縦する人・アクターを、中学生高校生を対象に募集してるんですけど」

「僕…… それに応募したいんです」


「あのロボットを操縦……」

 先生は難しい顔だ。

「……そうなんですか」

「テレビに出てる子役と同じような扱いで働く形になるらしいんですけど、応募に校長先生の許可や成績証明書、担任の先生の所見が要るんです。あと、アクターに選ばれたら部活の参加時間の調整も必要になります。まずは、石川先生にOKを貰うべきだと思って相談しました。」
「……」

「両親も良いって言ってます…… どうですか」

 優鑠が真剣な眼差しを向ける。先生は表情を変えず黙ったままだったが、しばらくすると、普段と同じ声で話し始めた。


「私はあのロボットや開発事業について、詳しくは知りませんが、二足歩行できる巨大ロボットはたぶんあれが世界初ですし、その操縦者になる事はとても意義のあることだと思います」

「でも……」


「与党の政治家の人が、あのロボットを不詳重機と戦わせようって言ってたの知ってますか?」
「あー知ってます」

 優鑠は昨日、ニュースやTwitterで見た。問題発言やデリカシーの無い発言で有名な政治家が、「JACEIRAのロボットで不詳重機を倒せばいい」と発言し、「そういう目的で作られたロボットではない」とネットで批判を浴びていた。

 "不詳重機"とは、去年から北海道に現れるようになった無人で動く建設機械だ。だいたい月1の頻度で出現し、暴走して周辺の家や車を壊して回る。つい先日の土曜日も出現していた。今は警察や自衛隊、消防が協力して対処している。
 政治家の発言は、「巨大ロボなら重機なんて簡単に倒せるでしょ?」ということらしい。


「暴走する重機を止めるのに駆り出される、そうなったら夏目さん、危なくないですか?」
「いやー、刈谷にあるのを北海道まで持っていきますかね?」

 苦笑いで優鑠は返す。

「それにJACEIRAの……ロボット作ってる団体の人は、まだロボットは発展途上で専用に用意された場所でしか動かせないから、道路や住宅街で動かすなんて無理ってコメントしてましたよ」
「そうかもしれませんけど……」
「万が一不詳重機と戦うことになっても、ロボットの操縦は中に乗り込まず別の場所からやるみたいですから、たぶん直接危険な目には遭いませんよ」

 先生が不安そうな目で優鑠を見つめる。


「……応募して受かるかどうかは分かりませんけど、やるだけやってみたいんです。すごい『やってみたい』って思うんです。あのロボットに携わる事を。今、今までの人生の中で一番やる気があります! それぐらいやりたいです!!」

「学校の勉強も頑張ります! どうかお願いします!」



「かなりの覚悟があるみたいですね……」

「分かりました。やるからには後悔の無いよう頑張ってください」
「ありがとうございます!」
「じゃあ校長先生に話しに行きましょうか」
「はい!」


 この後、校長先生も優鑠がアクターに応募することを了承してくれた。自校の生徒が世界有数のロボットの操縦者になるかもしれないと、ノリノリで期待している。



「夏目さん……ツインテにするんですか?」
「僕はこっちの方が良いと思うんですけど」

 早速、応募に必要な写真を校長先生達に撮ってもらっていた。優鑠は髪の結び方をポニーテールからローツインテールにする。

「やめといた方が……」
「いや良いんじゃない? あのロボット作るのに携わった人達はきっと最先端だから、柔軟に捉えてくれるよ!」
「そうですよね!」
「校長先生……」


「はい! チーズ!」



 こうして、周囲の理解も得て、優鑠は自分の気持ちに従いアクターに応募した。書類は指示された通り学校から送付してもらった。一次審査の結果が分かるのは約2週間後。それまで優鑠は、一旦ロボットの事は頭の片隅に置いておき、先生との約束通り学校の勉強を頑張ることにする。


 優鑠達とJACEIRA-1-M30の運命が変わり始めた瞬間だった。





― 第1話 終わり ―

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