中国人富裕層による「熱海」「箱根」の旅館の買い占めが始まる…地元民が漏らす彼らの「ヒドい」言動

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コロナ禍の間にこっそりと

山梨県笛吹市にある石和温泉といえば、高度経済成長期からバブル期にかけて全国随一の歓楽温泉として人気を集めた温泉地だ。そんな「京浜の奥座敷」で、“異変”が起きている。

平日、石和温泉を訪れると、人通りはまばら。全国旅行支援の延長が決定したとはいえ、外国人はおろか、日本人観光客も少ない。居酒屋やスナックが立ち並ぶメインストリート、さくら温泉通りは静かで寂しい印象だ。

そのウラで活発な動きを見せる者たちがいた。ホテル旅館経営研究所所長の辻右資氏が明かす。

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「'22年12月上旬に、さくら温泉通り沿いのとあるホテルが中国人に3億円で売却されることが決まったばかりです。年商5億~6億円はあったのですが、日本人オーナーが高齢になったため引退するということで売りに出されたそうです」

辻氏によれば、ここへきて中国資本による東京近郊の温泉地にある旅館やホテルの買収が加速度的に進んでいるという。中国資本の入った温泉宿の正確な数は行政も把握していないというが、同地の旅館従業員はこう語る。

「石和温泉にあるホテル、旅館は小さいものも合わせて全部で42ほど。そのうち旅館協同組合に加入しているのが34です。中国人オーナーはたいてい組合費を払いたくないために加入しません。そのため、宿全体の2割が中国資本だと思います」

インバウンド需要が全盛期だったコロナ禍前の'16~'19年頃、石和温泉では中国人の団体観光客を乗せたバスが一日に10~15台はやってきたという。当時と違い、現在、街に中国人の姿はほとんど見られない。しかし、実際には着々と中国資本の触手が伸びている。

熱海の一等地に

本誌が接触した中国人オーナーの一人はこう話す。

「僕らは他でもビジネスをやっているのが普通で、基本的に東京にいる。だから石和にはあまり姿を見せませんよ(笑)。

石和の良さは、温泉はもちろん、中国人が大好きな富士山が近いところです。それにすぐ近所に中国人留学生が数多く在籍する山梨学院大学もある。彼らは働き手にも、後々良いお客さんにもなるからありがたいね」

温泉地の買い占めには、中国人富裕層のみならず、巨大な投資ファンドも参入している。江戸時代に徳川家御用達の湯として栄え、以来、今日まで人気観光地に名を連ねる、静岡県熱海市の熱海温泉。この地に'22年9月26日に開業した「熱海パールスターホテル」は、中国系投資会社・国際観光資源開発の出資によるものだ。

同ホテルは静岡県下田市から神奈川県小田原市に至る国道135号線沿いの「お宮の松」前に建つ。ここは、同温泉を代表する名門旅館「つるやホテル」があった熱海観光の一等地だっただけに、関係者も度肝を抜かれたという。伊豆海山不動産鑑定事務所の柳田毅氏が経緯を解説する。

「つるやホテル廃業後、一度は日本の不動産会社、ジョイント・コーポレーションによる商業施設『aune(あうね)熱海』として開発が進みましたが、同社の破綻により計画は白紙に。約6200m²熱海駅周辺の土地は、公示価格の3倍を超える取引も行われるほど高騰していました。そんな高値でも買えるのは中国人だけだった、というのが事の顚末です」

商店街の風情もぶち壊し

熱海パールスターホテルの外観は、一見して、中国資本のものとは思えぬ造りだ。安達実総支配人は業界誌『ホテル旅館』の取材に対して「中国資本ではありますが、現時点で中国マーケットを重点的に狙う考えではありません」と答えている。

しかし一方で、日本人観光客向けとは言い難い部分が見え隠れする。

「日本の温泉地の宿であれば、一般的に1泊2食付きが普通だと思いますが、同ホテルは『ベッドアンドブレックファスト』と呼ばれる夕食抜きの宿泊スタイルをメインに採用しています。一応、夕食用のレストランも館内にいくつかありますが、温泉街には珍しい本格的な中国料理店がある。客室平均単価は7万円台後半ということから、実態は中国人富裕層の観光客が狙いだと思います」(旅行ジャーナリスト)

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どこか日本人が思い浮かべる温泉地のイメージとズレがある―そんなモヤモヤ感が、中国資本の買い占めに伴い、熱海に広がりつつあるようだ。

現地の住民たちはどのように感じているのか。駅近くの商店街にある老舗雑貨店の店主に尋ねると、「どこで聞いているか分からないから、ここらで中国人の悪口になるような言葉は禁句ですよ」と前置きした上で、事情を打ち明けてくれた。

「気が付いたら時すでに遅しと言いますか……。コロナが始まった頃、商店街に中国人が経営する中華料理店ができたんです。温泉街にとっては、商店も風情が漂う景観美のひとつなんです。けれど彼らはお構いなしで、店舗脇に従業員の服を干したりする。また、使った油を排水溝に直接流していたという目撃談もあります。商店街の仲間という意識がないんですよ」

中国人と温泉地住民の「衝突」はすでに様々な地域で顕在化しつつある。神奈川県足柄下郡・箱根湯本温泉の最奥、仙石原地区の一角。周囲に旅館や銀行の保養所、個人の別荘が点在する大通り沿いに、中国趣味の謎の建物が現れたのはつい最近のことだ。

ブランド価値が低下

大きな鉄製の門扉。その上には「萬春亭」と彫られた看板が掲げられている。扉の両脇には狛犬が鎮座し、通り沿いには中国では幸運を招くとされる槙と松の木が植えられている。いずれも、古くは中国貴族の屋敷によく使われていた意匠だ。

近隣住民のひとりはこう証言する。

「地元としては、地域の景観に関わる問題は、自治会などへ事前に相談するのが住民間の通例です。しかし、この施設はそういった話は一切なく、突然できたのです」

不安に思った近隣住民たちは、一度話し合いを持とうと、この萬春亭に出向いたという。その場にいたのは中国籍の男性。そこで初めてこの建物が、中国人観光客専門の宿泊施設だと判明したという。前出の住民が続ける。

「一部ですが、土地をはみ出て樹木を植えている箇所が見つかりました。『それはだめですよ』と注意したのですが、『日本語分かりません……』ととぼけるだけで、埒が明きません。コロナ禍が収まったタイミングで営業を開始するそうですが、中国人が集団で大挙してくれば、箱根のブランド価値が下がるのでは」

「週刊現代」2022年12月10・17日号より

この前編記事では中国の富裕層による日本の温泉地の買収と、その問題を紹介した。後編記事「日本は都合がいい…ここにきて中国人が「箱根」温泉旅館の買収に殺到している本当のワケ」では中国人による温泉街買収の狙いについて引き続き紹介する。