そこで思い出すのは私が今いる現場の病棟でときどき耳にする「臨機応変」という言葉です。この言葉は私が看護師として本当に新人であった2008年頃にも耳について気になり、嫌な思いをしていた記憶があります。その後、都会に出てからしばらくは聞く機会がありませんでしたが、田舎に戻ったらまた聞くようになりました。偶然かもしれませんが嫌な予感です。
ある種の病棟でよく使うこの言葉の含意は、予め決めてあるはずの組織の決まりとか、労働時間とか、担当すべき仕事内容について、打ち合わせもなくどんどん変わっても現場の職員は文句言うなよ、ということです。しかしそんなに簡単に臨機応変にやれたらいいけど、実際はリスクあるし、経営者や管理職の工夫も感じられず、やってて気分よくない。そもそも管轄の役所や世間に向けて言ってある内容と実際に現場でやっていることが違うということだから、外部から入ってきた私のような人間には「だましたな」感もある。臨機応変という言葉自体は悪くないが、どうも管理職や経営者の逃げの言葉として悪用されている感じがします。
防災訓練の文脈で本当に準備済みの実践しかできないのであれば、病棟でも同じことが言えるはずです。つまり仕事として本当の実践と同じくらいの比重で訓練とか勉強、つまり仕込みを重要視しないといけない。そうすると仕事時間の中で本当に臨床的な意味での実践をできるのは半分程度までという話になる。8時間労働なら基本は4時間しか臨床できない。ただし次第に慣れてきたら5時間、6時間に実践を増やすことはできる。でも8時間全部には、どんな熟練者でも絶対ならない。だから臨機応変の概念は病棟でよく使う言葉になるはずがなくて、せいぜい緊急時の覚悟程度になる。頻用語なったらおかしい。なってる現場はブラックと言えることになります。