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剣も魔法も使えない平凡男の成り上がり〜好きな人に振られた悔しさで山を殴りまくってたらいつの間にか世界最強の拳を手に入れてた〜 作者:おったか

第一章 始まり

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04.極限の山殴り修行

【毎日投稿】


 スッ。

 トンッ。


(一発目!)


 スッ。

 トンッ。


(二発目!)


 スッ。

 トンッ。


(三発目!)


 朝起きてすぐに山殴りを再開した。

 動くだけで涙が出るくらい全身が痛かった。

 だけどギル・アルベルトの顔を思い浮かべると、体の痛みくらいなんてことの無いように思えた。

 腹が減れば、そこらの木の実や山菜を食べた。

 時間が惜しかったのですぐに山殴りに戻る。


 スッ。

 トンッ。


(千二十一発目!)


 ……今のはフォームがだめだな。もっと重心を低くするべきだ。



 集中。殴る。フィードバック。

 ひたすらそれを繰り返した。


(九千九百九十三発目)


 全身が悲鳴を上げていた。

 もうやめてしまおうか。

 その言葉が頭に浮かぶ。

 けれど、心が折れそうになるたびにギル・アルベルトとアイリーンの顔が頭に浮かぶ。

 すると心の奥底から力が込み上げてきて、やってやろうという気持ちになれた。

 極限の山殴り修行。


***


 スッ。

 トンッ。


(三千四百一発目)


 とにかく殴る。


 スッ。

 トンッ。


(六千九百三発目)


 夜が来れば気絶するかのように寝る。

 起きてはまた殴るを繰り返す日々。


 スッ。

 トンッ。


(九千五百五十発目)


 駄目な自分を変えるために。


 スッ。

 トンッ。


(一万二十五発目)


 極限の山殴り修行


***


 山殴りを開始して一か月ほどが経過した頃だろうか。

 体に異変が訪れた。

 朝起きたときの筋肉痛が、無い。

 確かに夜寝る前は、地獄のような痛みと疲労感があるのに。

 朝起きるとそれが綺麗になくなり、むしろ身体に力が漲っている感覚すらあった。

 身体がこの異常な生活に適応し始めてきたのかもしれない。

 俺の自己回復能力は、限界まで痛めつけられた身体を一晩で回復できるくらいまで高められていた。

 痛みが無いおかげで殴ることに集中できた。


(六千五百二発目)


 極限の山殴り修行。


***



 どれくらいの期間が経過したのだろうか。

 もはや時間感覚は俺の中から消失していた。


 スッ。


 拳を構える。


 ドンッ!


 殴る。


 日に日に拳の威力が増しているのがわかる。

 拳に込められる魔力もだんだん増加していた。


(二万九千九百九十九!)

(──三万発目!)


 ある日、俺は気づいた。

 この修業を始めた最初のころ、朝から夜までかけて山を殴る回数はせいぜい一万発が限界だった。

 しかし気づけば今では三万発以上は殴ることができるようになっている。三倍の数だ。

 最初のころに比べて、俺の拳はスピードが上がっていた。というか殴る際の全ての動作のスピードが上がっている。

 おかげで一発の殴りに要する時間が短縮されているのだ。

 そうか。

 一日に殴ることにできる回数が増えれば、その分もっと強くなれるということだ。

 俺は加速していく自分の成長を実感していた。

 極限の山殴り修行。


***


 山殴りを続けるにつれとにかく拳と動作のスピードが増していった。

 スピードが増せば、一発の殴りに要する時間がさらに減る。

 なのでだんだん殴りの回数を増やしていった。

 今では一日に十万回は山を殴ることができている。


 そしてその成果は如実に表れていた。

 まず体つきが明らかに変化した。

 もともと俺は痩せ型だったが、今は程よく筋肉がついて、すらりとした体つきになっている。ごついというわけではない。そもそも木の実や山菜、時々とれる獣肉しか食べていないので余分な筋肉がつかない。拳の威力を上げるための必要最低限の筋肉のみが付いた。

 おかげで細身ながらも程よく筋肉がついた最高の状態に仕上がった。

 そしてさらにもう一つ変化があった。


 スッ。


 拳を構える。


 パァンッ!


 殴る。


 これだ。

 拳を振り下ろすと「パァンッ」という乾いた音が鳴るようになった。

 この音は、鞭が空中で振られたときに鳴る音に似ていた。

 鞭は空中で音速に達することによりこの音を鳴らすという。

 つまり、俺の拳はその鞭の速度まで到達していたのだ。

 試行錯誤を繰り返し、フォームの調整や、拳に込める魔力量の底上げを行った結果だった。

 極限の山殴り修行。


***


 拳が鞭の速度に到達してから、拳のスピード自体はあまり上がらなくなった。

 なので山殴りの回数を多くこなそうとするのではなく、一発一発の威力を上げることだけに集中した。

 

 スッ。

 パァンッ!


(七万九千発目)


 スッ。

 パァンッ!


(七万九千一発目)


 ……また魔力が分散してたな。無駄になってしまっている魔力をもっと一点に集中させないと。

 その時だった。

 ……ん?

 一日十万回の山殴りを繰り返していたある日、俺は気づいた。


「山が消えてる……」


 俺が立っていたはずの山が消失していた。

 どういうことだ? 地盤陥没でも起こったか?

 まあ山はいくらでもあるし別の山に登ればいいか。

 俺は特に深く考えず、別の山に登り直して山殴りを再開した。

 極限の山殴り修行。


***


 数日後。


 スッ。

 ドゴォンッ!


(六万発目)


 スッ。

 ドゴォンッ!


(六万一発目)


 ……まだ分散して無駄になっている魔力がある。無駄のないよう魔力を制御するのが本当に難しい……。

 …………ん?

 そして俺は気づく。


「また山が消えた……」


 さすがにこれはおかしい。地盤陥没がこう都合よく俺の立っている山だけに起こるわけがない。

 もしかして……。

 俺の拳が山を消し去ったのか?

 そうか、そういうことか。

 殴ることのみに集中していて気づかなかったが、どうやら俺の拳は山を消し去ってしまっていたらしい。

 つまり俺の拳は山を消し去れるまでの威力になってきた。

 もう少し。

 もう少しで何かが掴めそうだ。

 修行の終わりが近づいてきているのかもしれない。

 極限の山殴り修行。


***


 もういくつも山を消し去ってしまった。

 そのおかげで、俺の拳は修正する部分がまったくない『究極の拳』にまで到達しようとしていた。

 その時は突然訪れた。


 スッ。

 ──パン。


 あ、これだ。

 今の殴りだ。

 一切の無駄がなく、それでいて極限まで一点に魔力を集中させることができていた。

 今の感覚を忘れないうちに、何回も反復しておこう。


 スッ。

 ──パン。


 これこれこれ!

 やばい。最高の感覚だ。

 拳を繰り出すたびに、体中に不思議な感覚が流れる。

 何度も何度も同じように拳を山に叩きつけた。

 ────それから数日後、俺の拳は完成した。

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