「勇者死す。again」レビュー
勇者死す。again
桝田省治氏が描く死から死の間のストーリー。逆転発想のRPG
- ジャンル:
- RPG
- 発売元:
- Degica
- 開発元:
- Pyramid/G-mode
- プラットフォーム:
- PS4
- Nintendo Switch
- Windows PC
- 価格:
- 3,980円(税込)
- 発売日:
- 2020年2月26日
2020年2月25日 00:00
ゲームの作風がその人の名前で理解できるクリエイターは数少ない。今回レビューする「勇者死す。again」を手がけた桝田省治氏はその中の1人であると思う。桝田氏が手がけたゲームは数多くあるが、筆者がその世界に初めて触れたのは「俺の屍を越えてゆけ」(俺屍)だった。主人公のキャラが早死にするということもそうだが、世代をつないで目的を達成するという、これまでのRPGになかった発想には驚いた。「しんでしまうとはなにごとだ」がRPGの王道なのだから。
本作の公式サイトには桝田氏のインタビューが掲載されているが、最初にフィーチャーフォン向けとして登場した「勇者死す。」はいまから30年前に考えた企画だという。「俺屍」や「リンダキューブ」も同じような時期に立てた企画だとか。ああなるほど。「俺屍」でも感じた、桝田氏の作り上げる独特な世界観が本作にもたっぷりと注入されているのだと納得した。
死ぬことがわかっている勇者が、それに続く子孫のために戦い、能力を受け継いで目的を果たしていったり、魔王を倒したあと死んでしまい、そこから復活して死ぬまでの期間、改めて世界を巡っていくストーリーなど、「俺屍」や本作では、いつもは身近に感じない“死”というものを、否が応でも意識させられるのだ。
本作はリマスター版としてよみがえったのだが、その理由について桝田氏は、本作の制作会社であるピラミッドからリマスターを作りませんかというオファーがあったためだという。またPS Vita版でプレーヤーからさまざまな要望が寄せられたので、その対応を含めて作ったのだそう。桝田氏自身が「勇者死す。」を「他に類を見ないゲームだ」と考えていたこともあるようだ。
「勇者死す。」の歴史はまず、2007年にフィーチャーフォン用ゲームとして配信された「勇者死す。」から始まる。2016年になってPlayStation Vita版としてフルリメイク版を発売。そして今回発売される「勇者死す。again」は、PS Vita版「勇者死す。」のリマスター版という位置づけだ。
原案・ゲームデザイン・シナリオを桝田氏が担当し、音楽は「聖剣伝説」シリーズや「サガ」シリーズを手がけた伊藤賢治氏が制作。キャラクターデザインはPS Vita版と同じくクロサワテツ氏の手によるもの。フルリメイク版の時にグラフィックスはクロサワテツ氏のものに一新されているので、その流れを引き継いだ形だ。
今回はPC(Steam)版「勇者死す。again」を用いてレビューを行なう。なお、使用機材はマウスコンピューターよりお借りしたゲーミングノートPC「G-Tune P5」を使用している。
残された時間はわずか5日間。短い時間でいかにスト-リーを進めるかが鍵
本作の主人公は、とある世界の「ロビリア国」を救った勇者。愛する人を人質にされ、彼女を救うべく魔王「ギール」に戦いを挑む。そして強力な魔法「ダイヴォーラ」を使ってなんとか魔王を討ち果たしたのはいいが、代償に命を落としてしまう。しかしその勇気に免じて神様が5日間だけ復活を許した。この5日間にどのようなストーリーをたどるか、というのがこのゲームとなる。月曜の朝6時から土曜の朝6時までが主人公の活動できる期間だ。
ロビリア国にはグランダム城のある王都「グランダム」、王国の交通の要である「ナンマカ」、魔王の攻撃で寂れてしまった「トゥーソン」、そして魔王に滅ぼされた都市「レモイナ」のほか、王都の西には「アナタミ鉱山」と、亜人が住む「穴民の村」がある。ナンマカの北東には「迷いの森」と「森人」が住む「森人の里」もある。こうした都市を巡りながら、主人公はさまざまな人と出会い、ストーリーを進めていくことになる。
まず主人公はグランダムでよみがえる。真っ先に寄ってきたのは勇者の元従者である老人・トーマスだ。主人公はトーマスとともに各地を巡り、敵と戦いながら愛する人を探す旅に出る。しかし愛する人については、世界中の誰よりも愛していたことしか覚えていない勇者。はたしてその人は見つかるのだろうか。
トーマスだが、見た目の割には意外と強く、普通に敵を殴っても勝てる。しかし中ボスなどの強い敵の中にはそれほど攻撃が通用しないこともあり、その際は「ガーダップ」でパーティー全体の防御力を上げたり、回復魔法「マーナ」をかけるなど、支援に回った方がよい。
こうしてストーリーを進めていくわけだが、一筋縄ではいかない本作の“くせ者度合い”が高いのは以下の点にある。
・主人公は次第に弱っていく
・都市やダンジョンへの移動には時間がかかる
・時間がたつと疲弊する
・5日間は意外と短い
この中で主人公が弱るのと、時間がたつと疲弊するのは似たことのように思えるが違う。都市間の移動や、ダンジョンを探索している最中には時間が過ぎていくのだが、私たちが働き続ければ疲れてしまうように、主人公も疲労度が高くなる。これはその場で3時間の休憩をするか宿屋に6時間泊まることで回復する。しかしそれだけでなく、日付が過ぎ、主人公の死が近づくのに伴い、だんだんと弱くなっていくのだ。攻撃力が弱まるのと同時に、初めから着けている武器や防具が重くなり、素早さが下がる。この時は、たとえいま持っている武器より攻撃力や防御力が弱いものだとしても、軽い武器に付け替える必要があるわけだ。
また都市やダンジョンを移動する際には、最短で1時間、長いものだと10時間も消費する。序盤では行く都市も限られていて、長い時間がかかってもたいしたことがないのだが、ストーリーを進めていくに従ってこの時間がボディーブローのように効いてくる。物事を解決するには都市間を移動しなければいけないのだが、死ぬまでの残り時間を考えると足りなくなる。
これの攻略法についてはPS Vita版の公式サイトで桝田氏が述べているのだが、移動時間をいかに短くするのかがポイントとのこと。主人公だけが使える、0時間で都市を移動できる「デモルド」の呪文を忘れる2日目の午後までに、どの都市に行ってどのストーリーを回収するのかが重要となる(関連リンク参照)。
そして何よりも大事なのは、主人公が過ごす5日間は意外と短いということ。実プレイ時間でも1時間15分程度だろうか。もともと周回を重ねてのプレイがデフォルトであることも関係するのだろうが、主人公の5日間はサクッと終わってしまう。このため8人のヒロインのうち、誰のストーリーを終わらせるのか、考えながら進めていく必要があるのだ。しかもあっちを立てればこっちが立たずという展開も。
何にしても最初は攻略を考えず、システムが頭になじんでくるまで適当に遊ぶことをオススメする。そのうちに進める順番が見えてくるし、何をすべきなのかもわかってくるだろう。
さまざまな境遇のヒロインたち
先ほども少し述べたが、本作では王女フローラのほかに7人のヒロインが登場する。これらのヒロインはそれぞれのクエストを終了することで、仲間になって戦ってくれることもある。
・穴民の村に住むナオミ
・ナンマカのシスターであるサラ
・勇者になることを夢見るヨナ
・迷いの森に住む森人であるリュー
・トゥーソンに住む科学者であるメリーアン
・さすらいの商人であるビビ
・魔王の娘であるベラナベル
主人公がまず会うのは王都と隣接する都市・ナンマカにいるサラか、アナタミ鉱山にいるナオミだろう。この7人のクエストのうち、最初にクリアしやすいのはナオミだ。仲間になる上に腕っ節自慢なので結構強い。最大4人までのパーティーが組めるので、あとの3人をどうするのか、考えながら進めていく方がいいだろう。なお最初からパーティーにいるトーマスは外すことができるので、最大3人のヒロインを仲間にして戦うことができる。
ちなみに筆者が選んだパーティーはナオミ、リュー、ビビだ。当然のごとく(?)じいやにはお引き取り願った。ナオミは炎属性だが水属性の敵にも意外と強く、基礎体力があるので敵を排除するのが楽だ。リューは弓矢使いで素早いので、先駆けて敵を攻撃できる。風魔法も強いので使いたいところ。ビビがいいのは何といっても移動魔法「トビューン」を使えること。主人公のデモルドよりも強力で、どこにでも一瞬で飛べる。ただし仲間にするには難易度が高めなのが難点だ。
バトルは素早さ順で交互にターンが来る
本作ではダンジョンに魔物がシルエットで表示され、それと触れることでバトルとなる。素早さの順番で戦闘ターンが回ってくるので、その順番を考えながら敵を攻撃していくことが重要だ。次と、次の次が誰のターンなのかは、右上に表示されるキャラクター名でわかるようになっている。
戦闘に使えるコマンドは「攻撃」、「防御」、「魔法」、「道具」のほか、戦闘から逃げる「逃走」だ。コマンドを選んで敵や味方にカーソルを合わせれば攻撃・回復などが使える。
敵だが、炎、水、草といった属性を有しており、それに対抗できる武器やキャラクターだと大きなダメージを与えることができる。それぞれの属性はオレンジ、水色、緑などのように色分けされているのでわかりやすい。このあたりの三すくみはイメージ通りで、火に弱いのは草、火に強いのは水だ。
前にも述べたとおり、本作は何周もプレイしてストーリーを進めていくゲームなので、回を重ねていくとザコとの戦闘が面倒くさくなることもあるだろう。その場合は、PC版であればF5キーを押すことでオートバトルが可能だ。しかしひたすら攻撃をしていくだけのようなので、ボス戦などでは回復したり、防御力を高めたりと自分でコマンドを入力したほうがよい。オートをやめるのは同じくF5キーを押せばよい。
また主人公が弱くなっていくときの対策として、アイテムをたくさん買い込んでおいた方がよいと思う。主人公が最初から持っているゴールドは所持上限の99,999。回復系のアイテムを買うのには十分な金額なので、グランダムにある雑貨屋の在庫を空にするほど買い込んで敵に向かっても大丈夫だ。
ちなみにサラを攻略する際に、いくらか寄付をしなければいけないのだが、それに対応しても戦闘や宝箱で十分なくらい稼げるし、ゲットしたのが99,999ゴールド以上の金額になるとロストしてしまうことになるのでもったいない。並行でキャラ攻略を進めたいのであれば、まずはいくらかをサラに寄付したあとにストーリーを進める方がよいのかもしれない。
そして葬式へ
土曜の朝6時になると、どこにいても主人公は死んでしまう。王国は5日間闇に閉ざされた後、勇者の死を悼んで国葬が行なわれる。この時に、これまでの5日間で関わりのあったキャラクターが登場して弔辞を述べることになる。弔辞は関わりの深さや内容によって異なるほか、式に参列した人数、涙した人数も変わってくる。
そして葬儀の後には、本作の追加要素である、国葬が終わった後のロビリア国の運命が述べられる。同じようなエンディングでも、国が滅びるまでの年数など、微妙な点が変わって描かれるようだ。それぞれのキャラについては、どこまで攻略したのかはギャラリーで見ることができるので、弔辞のコメントも参考にしつつ、次の周回へ進んでいく方がよいだろう。
PS Vita版からさらに遊びやすく!桝田氏による追加シナリオも
PS Vita版との違いだが、メインテーマの「Reincarnation」については新たに作曲されたほか、BGMも新規で加えられている。桝田氏によるシナリオも追加されており、勇者が死んだあとにどのような結末を迎えたのかがわかるようになっている。
またギャラリーモードも追加され、登場するキャラクターやモンスター、武器などのほか、音楽についてもクリアの度合いを確認できるようになった。キャラクターや武器にはアイコンが表示されていて、「仲間になった」、「想いに応えた(ヒロイン用)」、「クエストをクリアした」などが一目で見てわかるようになった。
このほか、勇者が強い状態だと、弱い敵にエンカウントするだけで決着が付く「簡易戦闘」や、PC版だとF5キーを押すとオートでコマンドを選択して戦闘を進めてくれる「オート機能」、同じくF6キーを押すことで2周目以降のプレイ時に会話スキップができる「早回し機能」などが加わっている。登場するNPCについても、話を聞いていないキャラクターには吹き出しが表示されるので、2回目以降のプレイ時に、読んでいない会話内容だけを読みたいときに便利だ。
真のエンディングにたどり着くまで戦い続けよ!
ここまでプレイして思うのは、とにかくやりこみ要素が多いのが本作の特徴だということ。決して1回のプレイではその全容を知ることはできず、周回を進めれば進めるほど、魅力が増してくるのが本作だ。
ストーリーの大筋についてはPS Vita版と変わらないので、すでに攻略サイトがいくつもネットに存在するため、参考にする人も多いだろう。しかし周回3回目くらいまでは、こうした攻略サイトを参考にしないで、何も考えずにプレイしてほしい。プレイするうちに、なぜそういうストーリーとなるのか、エンディングになったのかわかってくると思う。加えて述べておくと、攻略サイトに書いてある通りにストーリーは進まない場合がある。何回かプレイしないとわからない“コツ”が本作には隠されている。それこそが本作のすごみだ。
ちなみに筆者は慣れた後のはずの3周目プレイが悲惨で、攻略するキャラに見当を付けて進めていったと思ったのに、まったく違う結末となり愕然とした。しかし桝田省治ファンならばこうした理不尽も理解できるはず。すでにPS Vita版をプレイした人には新しい要素を確かめてほしいし、このレビューで桝田氏の作品に興味を持った人には、ぜひともプレイしてほしいと思うのが本作だ。
【使用機材】マウスコンピューター「G-Tune P5」
・CPU:インテル Core i7-9750H
・GPU:GeForce GTX 1650
・メモリ:8GB PC4-19200
・ストレージ:256GB M.2 NVMee対応SSD
・ディスプレイ:15.6型 フルHDノングレア (IPSパネル)
・重量:約2.3Kg
・OS:Windows 10 Home 64ビット
・価格:119,800円(税別)~
© 2007 - 2020 G-MODE, Shoji Masuda/Pyramid
機材協力:マウスコンピューター
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