八霧さんお誕生日おめでとうございます!お誕生日はあまり関係がないですがTOD組のお話です。
ざわざわと大勢の人々で賑わう温泉街を練り歩く男四人。奇妙な出来事に遭遇したことによって叶わなかったいつぶりだかのリベンジで、今日は水無月、見浪、金剛、八霧の四人で温泉旅行に来ていた。
「わ~、見て雷太くん。イカ焼きだよ」
「おーそうだな、買うか?」
「どうしようかなぁ」
「勉くんはイカだったら何でも好きなのか?」
「うーん……やっぱりお寿司のイカが一番好きだけど、それ以外でももちろん好きだよ」
一番先頭を歩いていた見浪が、とある屋台を指差す。それを見て水無月が当たり前のように財布を取り出そうとするが、見浪は首を傾げて一考する。『イカが好き』という情報自体は知っているが、見浪とそこまで交流を深めきれていない八霧が疑問を発すると、見浪はこれまた悩みながらも返答した。
「まぁでも、来たばっかりだし。もうちょっと色々見てからにしようかな」
「それもそうだな。じゃ、行こーぜ」
そうしてまた四人は歩を進め始める。少し夜遅めの時間だからか子どもの影は少なく、何かの団体がアルコールを手に持ちながら、或いはカップルが仲良く手を繋ぎながら店を見て回る姿とすれ違っていく。
「お、あれはどうだ?」
「あっちは盛り上がってるね、何やってるんだろう?」
滅多に見ない光景だからか自分たちも年甲斐もなく盛り上がり、多くの店に立ち寄る。その結果、気づけば両手が食べ物や土産物で埋まっていた。
「ちょっと休憩するか」
水無月の一言で、屋台の通りから抜けてひと息つくことに決めた。
この場所は、すぐ近くに大きめの川が流れている。心地よい水の音を聞きながら、思い思いに休息の体制を取る。
「にしても、久々にこうも人混みに揉まれると疲れんなぁ」
「そうだね、でもこうして四人で遠出できて楽しいよ」
「それは違ぇねぇな」
水無月は柵に肘をつき川を眺めながら、見浪と金剛は柵に背を預けながら談笑している様子を見ていた八霧は、ふと肩に下げていたカメラの存在を思い出す。
少しだけ三人から距離を取ると、ぱしゃり、シャッターを切る。
普段は見返すだけでも心を抉られるような写真ばかりがカメラロールを埋め尽くす。八霧はむしろ、そのような写真を撮ることを求められる職業だ。けれど、今日ばかりは違う。
「おい神」
「ん、どうした?雷ちゃん」
「こういうのはお前も入んねーと意味ねぇだろ」
再びカメラを構える八霧の不意をつくように、水無月は手を伸ばす。そのまま腕を引っ張ると、八霧が意図的に離していた距離が縮まった。
「それはそうかもしれないけど、じゃあ誰が撮るんだ?」
「自撮りだろ自撮り」
「自撮り機能がない古めのカメラだから難しいと思うよ」
「まぁものは試しっつーことで」
中でも一番背の高い金剛が八霧からカメラを半ば奪い取るような形で手に取ると、レンズを四人の方に向ける。
「んじゃ、撮るぜ」
「ピース」
水無月の緩い声とともにシャッターが切られる。金剛が手に持っているカメラを今度は水無月が取ると、先程の写真を確認するために操作を始めた。
「上手く撮れてるといいね」
「風太が撮った写真だしあんま期待できねぇけどな」
「おいおい、もっと期待してくれよ」
「あ、これだね。……ふふ」
カメラを覗き込む見浪が、お目当ての写真を見て嬉しそうに微笑む。案の定映りは微妙だったようで、水無月は苦笑いを浮かべた。
「おい風太、ブレてるしお前自身が見切れてんぞ?」
「あー……まぁ八霧みたいに上手くはいかねぇか」
「俺が撮るにしても、自撮りには自信はないけどね」
「でもこれはこれで良い写真じゃないかな」
口々に話しながらも、カメラが見浪の手元に移動する。見浪はそのままカメラを構えると、何の前触れもなくシャッターを切った。
「え」
「撮っちゃった」
見事に三人の声が重なる中、見浪は悪戯が成功した子どものように笑った。カメラを意識していなかったからか少し照れくさそうに頭を掻きながら水無月は口を開く。
「よく考えてみれば、俺ら三人の写真ってほとんどねぇよな」
「確かに、いつも八霧が撮るばっかだからな。八霧の写真自体少ないんじゃねぇか?」
「別に俺は写真を撮ることが好きだから、気にしたことはないんだが」
「じゃあ今日は僕がカメラマンするよ。皆の写真たくさん撮りたいな」
「けど、撮られてばっかりはやっぱり落ち着かないよ」
「んじゃ、それぞれ順番に写真撮るってことでどーだ?俺は下手だろうけどな」
「それすごく良いと思うな。自撮りも成功するまで挑戦したいけど」
「自撮りは宿に帰ってからでいいだろ。タイマーか何か使えばどうにかなるだろうし……っつーことで」
水無月は見浪にカメラを手渡すように促す。そして、今度は水無月がシャッターを切った。撮れた写真を見ると、くすりと笑う。
「そろそろ屋台巡り再開しよーぜ?」
「ふ、そうだな」
「結構長く休憩しちゃったね」
「夜も更けてきたし、酒飲みてぇなぁ」
四人は移動を再開する。金剛の意向に沿ってアルコールを摂取しつつ、カメラマンは順番に回り、温泉街に時折カメラのシャッター音が響くこととなった。
八霧は漸く手元に戻ってきたカメラを見つめ、小さく笑みを零す。今日が過ぎ、カメラロールを眺めるときが楽しみで堪らない。数歩後ろにいた八霧の顔を、水無月は上機嫌に覗き込んだ。
「なーに笑ってんだ神」
「いや、皆が撮った写真を見るのが楽しみだと思って」
「お前だけで楽しむのはずりぃぞ?そんときも四人で遊ぼうぜ」
「そうだな。けど、次に四人で集まるのはいつになるんだか」
「そう遠くはねぇだろ。多分な」
話し込んでいるといつの間に距離ができたのか、水無月と八霧が後方にいることに気づいた見浪は振り向いて頭上で手を振った。
「二人とも~ここだよ~」
「おーおー勉、酔っ払ってんなぁ」
「つーかお前らが全然飲んでねぇんだよ、もっと飲もうぜ?」
「俺は今はカメラマンだからな。まぁでも、今はいいか」
水無月が再度見浪の隣に移動し、金剛は八霧の肩を組み酒を勧める。
四人の愉快な旅は、まだまだ続く。