6.長期戦になればロシアが有利なのか

 ウクライナとロシアの戦いは、「消耗戦になる」「ロシアは長期戦に持ち込めば勝利できる」という情報があるが、どうなのだろうか。

 ロシア政府指導部やロシア軍参謀部はこれまで、「多くの損失が出ても、保管している兵器が十分にある」「補充できる兵士はいくらでもいる」と考えているかもしれない。

 これまで述べた損失をどう見るか。

 ロシア政府指導部特にウラジーミル・プーチン大統領はこう考えているのかもしれない。

「ロシアには、強大であった旧ソ連軍が残してきた多くの兵器がある。戦車がまだ63%も残っていて、保管場所には投入した兵器の何倍もの数の兵器がある」

「兵員も招集すれば数百万人いる。これらを投入して、持久戦に持ち込めば勝算はある」

 強大な旧ソ連軍の遺産は、軍の解体、予算の削減、給与未払いで、保管兵器は野ざらしで腐食し、そればかりではなく軍の組織、兵員の気力までも蝕まれてしまった。

 野ざらしにされた大量の兵器が、戦場に送り出されているという情報はない。

 兵器の心臓部が錆びで腐食し、回復に時間がかかっている。あるいは、もう回復できない状態にある。

 ソ連邦が崩壊して、兵士に給与が支払われない時期が長期間続いた。それを埋め合わせるために、北朝鮮・中国や紛争国に兵器・弾薬を引き渡し(横流し)てきた。

 現役や建造中のソブレメンヌイ級駆逐艦やスクリュー音の静粛性が高いキロ級潜水艦でさえも、中国に引き渡してきた。

 戦場の部隊長は、戦車が3分の1、装甲車が3分の2以上損失、合わせると半数が撃破され、多くの兵士が死傷している現場を見ている。

 負傷した兵士を助けることもできないでいる。

 この9か月間に死傷した兵士のほとんどは、兵器を使いこなせる古参の兵士たちだった。彼らがいなくては、兵器があっても使用できない。

 新たに招集された兵士は、せいぜい銃の取り扱い、壕を掘ることや警戒しかできない。

 ロシア地上軍の兵器の実情から、ロシアは今後、大きな攻勢に出られるという期待はほとんどない。

 作戦は、防勢にならざるを得なくなってきている。その防勢が上手くいかず、さらに撤退を余儀なくされる地域も出てくる。

 ロシアはこれまで、ウクライナの領土だけで戦っていればよかったが、これからは、ロシア国内への攻撃の可能性もあると考え、モスクワおよびモスクワに至る都市を守るための準備をせざるを得なくなる。