5.保管の火砲等を戦場投入できるのか

 ロシア軍の予備の火砲等(榴弾砲・多連装砲・迫撃砲)は、ミリタリーバランス2017~2021のデータによれば、約2万2100門(内訳、自走榴弾砲約4300門、牽引榴弾砲約1万2000門、多連装砲3200門、迫撃砲約2600門)が保管(in store)の状態となっている。

 その数量を見れば、投入数約2600門の約9倍で、無尽蔵にあるという感じだ。

 だが、それらは約30年間、野ざらしにされた結果の腐食があり、ほとんど使い物にならないか、もしも使える可能性があっても、使えるまでに回復させるには多くの時間と部品が必要になる。

 例えば、自走榴弾砲はエンジンと砲身の腐食、牽引榴弾砲は砲身と射撃の緩衝装置の腐食、自走多連装砲はエンジンの腐食が、回復できなくしているだろう。

 迫撃砲は、砲身の腐食が少なければ回復が早い。

 回復には、優秀な整備員や部品が確保されているかどうかだ。

 ソ連軍が解体されたときに、多くの研究者や整備員が失職した。私が、約30年前にモスクワを訪問した時に、聞いたことだが、中高年の男達は、工場に行って、何もしないで酒ばかり飲んでいるという話があった。

 それから約30年が過ぎ、現在その30年前の火砲を修理・整備できるだろうか。私は、一部を除いて、ほとんど不可能だと見ている。

 ロシア軍の火砲は、戦車等と同様に、かつて北朝鮮や中国に供与された。

 現在、保管されていることになっている火砲は、近年、北朝鮮に横流しされている可能性がある。

 なぜ横流しをしているのかというと、整備兵たちの給与が少なかったり、支給されなかったりした期間があったために、兵器を横流しして利益を得ていたというのだ。

 ソ連邦が崩壊した後には、このような情報は至る所にあった。

 火砲そのものも他国に横流しされているが、火砲の部品も同様だ。

 古い火砲を使わないのであれば、火砲そのものから部品を外して、あるいは倉庫にある部品を横流ししても、表面上は何も問題はない。

 かつて、兵器の部品が密輸されている情報も多くあった。

 このようなことで、保管されている兵器をロシアの軍倉庫から出して、次から次へと戦場に送り出すことはできない。

 野ざらしにされている兵器を戦場に復帰できる数量は、かなり少ないだろう。