転生チートオリ主が芋ジャージ女を養うまで   作:超熟8枚切り

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箱推し

 

 

 

 喰らえオラッ! 七百七十七草粥!! 

 

「ごぁパッ」

 

 ひとりの風邪は治った。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 危ない事をした罰としてひとりをぼっち状態でSTARRYにぶち込み、俺は送り迎えをするにとどめた日、ひとりは案の定風邪をひいたので特製のお粥を食わせて治した。

 

 マジでクソ不味い事と元気になりすぎてしばらく奇行に走るのが欠点だけど、昔から劇薬は口にいとヤバしと言うし後半は俺にはアドでしかないので放っておく。

 お粥でラリって陽キャごっこに興じるひとりはかわいかった。

 

 

 

 翌日、初出勤だというひとりの勇姿を見るためにSTARRYについていったら伊地知ちゃんと山ピーにバイトに誘われたけど普通にメリットが無いので断った。

 STARRYに来てまでお金を稼ぐ事を考えていたくはないし、みんなと関わるだけなら客として行ってお金を落とした方が俺も楽しいしSTARRYの儲けにもなるのでそっちの方がいいよね、みたいな事を言うとひとりが落ち込んでた。

 

 そういえばひとりはシフトは週何回入るの? 

 

「あっ、えっと……」

 

「放課後は基本STARRYに集合にしてるよ!」

 

 ……? 

 

 ??? 

 

 休日は? 

 

「あっ、その……」

 

「休みたい時は言ってくれればいいよって!」

 

 雇用契約書は? 

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 え? 

 

 いや、雇用契約書。

 今どきバイトだからって普通の店が雇用契約書書かずに働かすなんてそうそう無いと思うけど。しかも天下の東京で。

 

 いくら友達同士だからって、まさか雇用条件の不透明なままバイトさせる訳じゃあるまいし。

 給与はまあ、東京は最低賃金が高いからいいとしてシフトの条件なんかちゃんと決めておかないとトラブルのもとだと思うけど。

 

「…………」

 

 山ピーも伊地知ちゃんもまさかそんなふんわりした感じで働いてきたわけじゃないでしょ。

 

「ふふ、考えてなかった」

 

「あは、あは……」

 

 …………。

 

 これマジ? 

 

 正直、アルバイトなら労働実態がちゃんとしていれば書面がなくても法的に問題は全く無いけど、なんかもにょる。いや別に誰が悪いわけでもないけど。

 

 労働とは契約関係で、契約とは信頼の証だ。

 いくら相手が信用できなくても、契約そのものにはある程度の信頼が生まれる。

 契約とはお互いを守るための手段であり、口約束だけの雇用関係なんて「行けたら行くわ」程度のものでしかないと個人的には思う。

 

 労働条件で万が一トラブルが起きた場合、まず間違いなくひとりは何も言えない。

「あっ、先月の給料払われてない……でも払い忘れてるだけかもしれないし……言ったらウザがられるかもしれないし……ていうか明細も貰ってない……」とか考えて我慢できずに言おうとしても、声をかけようとすると心拍数が上がって「アッアッ……なんでもないでスゥゥゥ〜〜……」となって言い出せないタイプだ。

 生まれながらに社畜根性が染み付いているのだ、ひとりは。

 ある意味こいつの天職はブラック企業かもしれない。

 

 STARRYを信用していないという話ではない。

 ちゃんとした契約とは健全な雇用関係と人間関係を築くための大前提であるという話だ。こういう場合トラブルが起こってからだと遅いし。

 

 ちょっと気まずい空気になってしまったのでお詫びをしようと適当に自腹でジュースカクテルを作ってあげたら三人とも蕩けてた。

 

 契約書うんぬんはとりあえず一回星歌さんにお話ししようかしらん、とふにゃふにゃしてる三人を放って星歌さんに話をしにいくと、わかっていた事だけどSTARRYの労働条件もホワイトそのものだったし星歌さんも契約書無いと不安なら用意するよって感じだったので秒で決着した。

 むしろちょっと気を遣わせてしまったみたいで申し訳ないまである。

 

 というかSTARRYの雇用形態は思っていた以上にゆるゆるで、星歌さんとしてはあくまで「ライブやるお金無いならウチでバイトしていいよ」ってスタンスであって、本当はみんなにバンドをちゃんと頑張って貰いたいらしい。

 皿洗いすれば苦学生をタダで食べさせてくれるおばちゃん食堂みたいだ。

 お母さんみたいで優しいっすね、ひとりに星歌ママって呼ばせていいですか? って言ったらぶっとばされそうになった。前が見えねェ。

 

 お詫びのしるしにと星歌さんと、ついでに視界に入ったのでPAさん等スタッフや居合わせた他のバンドの子たちにも片っ端からカクテルを作る。大人組にはお酒もちょっと入れる本気モードだ。

 

 

 全員ふにゃふにゃになった。

 

 

 容疑者は誰でもよかったなどと供述しており。

ふにゃふにゃになってるJKとお洒落なお姉さん達の盛り合わせー防虫剤の香りを添えてー」という感じだ。

 えっ…………ちではないな、これは。

 ライブハウスって言うかヤバいナイトクラブみたいになってて引く。

 これがロックかあ……こわ……。

 

 仲間はずれになってしまったので、家の食料の買い出しついでにひとり用の契約書のフリーフォーマットをネットでダウンロードしてコンビニで印刷して来たらみんな復活しててもみくちゃにされた。

 

 もっと色々やって〜とか言われたのでみんながバンドをがんばったら何でもしてあげるよ、と言っておく。モチベの一端になれば幸いである。

 

 バンドしてない星歌さん達? 大人なので我慢してください……。

 と無碍にもできず、キッチンを借りて今日晩ご飯にしようと思ってさっきコンビニで買って来た材料でトマトとバジルのクリームパスタを作る。

 女の子にちょっとカロリー高かったかな〜と思ったけどみんな美味しそうに食べてくれてて嬉しかった。

 

 じゃあ俺用事終わったからネカフェで時間潰してくるね……。

 

 STARRYを出ようとしたら星歌さんに捕まり、バーテンをしてくれと頼まれた。

 え、嫌だけど……。

 

 別に俺はお金とかいらないんで〜、とか言ったら「じゃあタダならいいんだろ!? タダでやれ!!」みたいな錯乱した感じで感じで迫られた。

 そういう事じゃないんですけど(ドン引き)

 カクテルと料理がだいぶ気に入られてしまったようだ。

 

 どうやって断ろうかと考えていたら、星歌さんは顔を寄せて俺に耳打ちした。

 

 

 

結束バンド(あいつら)のライブ、毎回最前列のチケットやるから」

 

 

 

 

 どうぞ私めを下僕とお呼び下さい星歌様。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 奴隷生活一日目。

 

 バーテンダーの服に着替えてカウンターでカクテルを作る。

 冷やかしに来た星歌さんに「くっ、殺せ……!」と言ったら殺されそうになった。

 冗談ですやん……。

 

 ちなみにひとりを観察して楽しんでいるのを悟られないためにポーカーフェイスを心がけた結果、俺の表情筋は7、8割方死んでる感じなので冗談が通じない時が割とよくある。

 

「先にSTARRY行っててください。あとエナドリとEDMでドゥンチャドゥンチャしててください」みたいなロインがひとりから送られ、俺は何か面白い事が起きる事を確信した。

 全て世は事もなし。

 下北沢は本日も晴天、後藤ひとりはオールウェイズ面白い女である。

 

 そしてひとりは新しいバンドメンバーを連れて来た。

 どういう事なんですかね……。

 

 放課後のSTARRYで偉大なる星歌様にカクテル&肩こりマッサージ&ホットアイマスクという無敵のご奉仕を行い、我が主を爆睡に鎮めた後。

 

 魔剤でシャンパンタワーを作り、サングラスをかけてヒューマンビートボックスで爆音EDMを流しながら踊ってたら同じ制服を着た赤い髪の女の子と共にやってきたみんなに「えっ何……」みたいな目で見られた。

 

 

 ひとりの指示に従っただけなんだが???

 

 

 いらっしゃいませオラァ!!(やけくそ)

 ウェルカムドリンク!!(自腹)

 むしゃくしゃしたので四人をふにゃふにゃにさせて強制的に雰囲気をぶった斬ると、ひとりが事情を説明してくれた。

 

 要約すると喜多ちゃんはブーメランだったらしい。

 あーはいはい完全に理解した(完全に理解している)

 

 山ピーと伊地知ちゃんはほとんど気にしていないようで問題はないように思えるけど、本人は罪悪感からか二人に優しくされることに納得いっていないようでうにょうにょ言ってる。

 

 そもそも喜多ちゃんは山ピーと親しくなりたかったのがきっかけらしいけど、本人が全く気にしていないのでもっと図々しくなっていいと思うんだけどなあ。

 

 というかひとりが誰の手も借りないで勇気出して誘ったんだから逃すわけないので諦めてほしい。

 

 どうやって喜多ちゃんを丸め込もうかな〜とお勤め中ずっと考えていたせいで身が入らず、カクテルを飲んだお客様もふにゃふにゃではなく、ふにゃ、という感じにとどまってしまった。

 

 俺の懲役とみんなのバイトが終わり、喜多ちゃんがそそくさと帰るそぶりを見せた時、俺はまあ今日じゃなくてもいいか、と思った。

 あんまりしつこいと逆効果だし、冷静に諭されるからこそ受け入れ難い事だってあるのだ。

 

 多分この件を解決してくれるのは伊地知ちゃんか山田だろう。

 でも憧れている人だからこそ後悔の念が強くなってしまうという事も普通にあり得るので、そこらへんの間合いの詰め方がプロボクサーみたいに上手い伊地知ちゃんが適任かもしれない。

 

 そう考えていると、ひとりが突然帰ろうとする喜多ちゃんの方へ飛び出して転んだ。

 すぐにぶつけた所を診たけど大丈夫そうで安心した。

 

 ひとりは礼を言いつつ、しどろもどりになりながら、ゆっくりと、必死に言葉を絞り出す。

 

 自分も逃げ出した事があること。

 喜多ちゃんの努力をわかっていること。

 喜多ちゃんがいなければ、自分は結束バンドに出会えなかったこと。

 

 喜多ちゃんへの感謝と共感、そして喜多ちゃんの事を必要としているという意思表示。

 

 それは、引け目を感じている彼女にどれだけ救いになっただろう。

 

 ひとりは喜多ちゃんの地雷を全て避けつつ、おそらくは最適解に近い言葉を、打算でなく自分の言葉で口にしたのだ。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 俺は、喜多ちゃんが結束バンドに入ると決めた部分も、その後の会話も、ほとんど耳に入っていなかったように思う。

 

 気がついたらひとりと共に電車に乗っていて、うつらうつらと船を漕ぐひとりの顔を見ていた。

 

 ひとりは強くなっていた。

 俺が思っているよりも、ずっと。

 

 俺はひとりの代わりに喜多ちゃんを引き止めようとしていた自分を恥じた。

 

『ひとりの意思を尊重すべし』

 

『甘やかすべからず』

 

 自らに課した掟だった。

 

 しかし先ほどの俺の思考と行動は、甘やかすどころか完全にひとりを見下し、みくびり、あまつさえ『仕方ないから俺が代わりにやってやるか』という考えに基づくものだった。

 それはいつものように、『やりたいからやる』お節介ではなく、一個人に対する侮辱行為だった。

 

 ひとりはもう、俺の、いやもしかしたら、誰の手も借りずに自分自身として振る舞える強さを手に入れていた。

 

「ごめん、ひとり」

 

「んぁえ……? なにが……?」

 

 ひとりに謝罪する。

 睡魔に襲われている身には重いギターケースとバッグを俺に預け、片手で俺の制服を摘みながら夜の住宅街をついて来るひとりは、何のことかわからずに目を擦っている。

 

「なんでもない。……いつか、何を言ってるのかわかったらもう一度謝るよ」

 

「んぃ……」

 

 うとうと、ふらふらとついて来るひとりが転ばないように気を配りながら、俺は決めた。

 

 もう、お前を子供扱いするような事はしないよ。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 しばらく後、アメリカの大手音楽プロダクションが日本人投資家によって買収されたというニュースが世界を駆け抜けた。

 

 新経営者の方針によりそのプロダクションは新たなレーベルを立ち上げ、急激にロック・ミュージックに注力していく事となった。

 

 この明確な「ロック贔屓」は一部から批判を浴びたものの、ロックジャンル以外の所属するアーティスト達の待遇を蔑ろにするものではなかったこと、あくまでロックとそれ以外との棲み分けを行い、「特にロック・ミュージックに力を入れている企業である」との立場を明確にするものであったことなどの理由から、ロックファンは勿論、おおむねのファンに受け入れられた。

 新経営者はそうして既存のファンをとどめつつ、よりロックに飢えた、よりコアなファン達を多量に取り込む手腕を以って、瞬く間に国内外のヒットチャートランキングに新レーベルの名を刻んでいった。

 

 レーベルの名は『UNITE』。

「結束」を謳うその組織は、所属アーティストの全てが複数人のグループからなるロックバンドだった。

 

 UNITEはその名の通り、まるで結束する相手を探すかのように大幅な日本進出を開始し、多くのロックバンドと契約を結び始める。

 

 後に、これを皮切りにメタル系が死に絶えたとまで言われていた本場イギリスをはじめとした多くのプロダクションが「日本はロックの鉱脈だ」として続々と進出し、空前のロック・ブームが日本で巻き起こる事となる。

 

 東洋のガラパゴス。

 その言葉の持つ魅力は音楽においても同じ輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 喜多ちゃんが正式に結束バンドに加入した。

 指の皮が硬くなるほどに練習熱心だった彼女は、そもそも練習するベースを間違えていたというのにまるでヘコたれずに一から練習に取り組んでいる。

 

 今現在はまだ仲良しグループの趣味と評価されるかもしれない。

 ただ、現在の技量や始めたキッカケはどうあれ、彼女達のバンドにかける思いは本物だという事は伝わって来る。

 

 その想いが、どのレベルの目標を見据えたものであるのかは、俺はさして興味がない。

 

 どうだっていいんだ。

 結束バンドという名前が、彼女たちにとって学生時代のひと時の想い出となるのか。

 あるいは、生涯を通じて情熱を捧げ続けるための居場所となるのか。

 ひとりにとっては既にそれは宝物で、であるなら俺にとってもそうなのだから。

 

 俺はただ状況を整えるだけに過ぎない。

 ()()()()()()あいつらがバンドとして極限までの高みを目指す事になるかもしれないから。

 ()()そうなったとき、そこに行くまでの道を作るだけだ。

 

 だからと言って、その道を優しく、歩きやすくするなんて事はできない。

 

 とびきりの()()()も、逃げ出したくなるような()()()()も。

 俺がいくらでも用意する。

 

 やる気があるならやってくれ。

 俺はいつまでだって待っているから。

 

 今は契約なんて出来ない。

 今のあいつらには技術も、精神も、経験も、体力も、何もかもが足りていない。

 

 だから育ってくれ。

 有象無象なんて蹴散らすくらい、俺のヒーローになってくれ。

 

 そしていつか、力を付けた日本のとあるガールズロックバンドに対し、トッププロダクションの経営者が「貴女達と契約させてください」と頭を下げて懇願する。

 そんな未来もあるかもしれない。

 

 

——ぞくぞく

 

 

 

 だから、

 

 

 

 なあ。

 

 

 

 

 もし本気で頂点を目指すならさ。

 武道館を埋めるくらいで満足してもらっちゃ困るんだよ。

 

 そうだろ、ギターヒーロー。

 

 

 

 


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