転生チートオリ主が芋ジャージ女を養うまで 作:超熟8枚切り
ちょっとだけ長いかもです
後藤ひとりという少女は、陰キャである。
人と集まるという行為そのものに遠慮してしまい、保育園から現在に至るまで休み時間の定位置は図書室か部屋の端。
ガチのすみっこぐらしだ。
体育の授業でペアを組む時なんかは最悪で、いつものように諦めてスパッと先生と組めばいいものを、変に「先生以外の誰かと組めそう!」みたいな雰囲気になると途端に喉から変な音が出てテンパり、組めそうだった子達も「あ、あ〜……私、あの子と組もっかな〜……」とやんわりと相手が居なくなった挙句、結局は先生と一緒に準備運動をする事になる。
しかしひとりの様な陰キャコミュ障は、意外と学校を休まない。行きたくないけど。
一日休むと授業がちんぷんかんぷんになるからだ。
ノート? 貸してもらいにいける訳がない。コミュ障だから。
普通の人間にとって、学校というのは「行きたくねえ〜。面倒くせえ〜」と思っていても、行けば割と楽しいものだ。
友達がいるから。
「学校だり〜」と言いながら朝ごはんを食べつつロインで「いつもの場所ね」と友達に連絡を取り、いつもの時間に集まって駄弁りながら登校する。
ウトウトしながら電車を過ごして学校に着いたら一限目は睡眠の時間だ。
真面目に授業を受けるタイプの友達に「ごめんけどさっきの授業のノートあとで見せて! 購買でなんか奢るから!」と取引を持ちかけ、二、三限目あたりから渋々まともに授業を受け始める。
休み時間は友達と趣味の話で盛り上がりながら、放課後になれば部活に精を出し、そうでない者達は部活に行く友達に「懲役乙w」とか言いながらいつメンとゲームだとかの話をして下校する。
以上、ぜ〜〜んぶひとりには縁のない話だ。
ひとりにとって、学校は本当に面倒くさくてこわいだけの場所なのだ。
そんな感じで、後藤ひとりという少女は一番生きにくいタイプの健常者である。
ただしそんなひとりにも、誰に憚ることなくイキり散らせる人生のトロフィーがあった。実際イキる度胸なんてないけど。
毎朝お弁当を作って起こしに来てくれる隣の家のお金持ちの長身イケメン完璧幼馴染の存在である。
決して妄想癖が高じて都合のいい存在を作り出している訳ではない。
自分の部屋の窓を開ければ相手の部屋が見える位置に住んでる顔のいい男の子がひとりのためにお弁当を作って来てくれるのである。
実際には母である美智代の負担を減らすために父の直樹、妹のふたりのお弁当と一緒に作ってきてもらっているというだけなのだが。
なんてことはない。
彼が気配りと人間性が良く出来ていて、ただ単に後藤家が一家まるごとめちゃくちゃ彼にお世話になっているというだけの話なのだが、ひとりは『
間違ってはいない。はずだ。
人並みには嗜むものの、ひとりはサブカルチャーに詳しい方の陰キャではない。
そんなひとりでも流石にわかる。
こんなの漫画じゃん!!
朝起きてからスマホを点け、9割がクーポン用の公式アカウントで埋め尽くされている友達欄に桜先零の名前を確認してから、念の為にほっぺをつねってこれが夢ではない事を確認するのがひとりのモーニングルーティーンであった。
「ひとり、起きてる?」
「あっ、う、うん」
ノックしてから、がら、と襖が引かれ、彫りの深い顔立ちの男が現れた。
どちらかと言うと美形というより男前といった表現がしっくりくるような文句なしのイケメンであった。
(け、消し飛ぶうぅぅ……っ! )
うわあかっこいい、などという感想は既に通り越して、ひとりが感じるのは居た堪れなさだ。
イケメンや美少女と一緒にいるとどうしても場違い感を感じてしまうひとりは、流石に他の人間よりは圧倒的にマシなものの、幼馴染に対してもそれを少し感じてしまう。
「私がこんな場所にいていいんだろうか」という思考がふつふつと湧き上がる。
ここ自分の部屋なのに。
「はい今日の」
「あっ、ありがとう」
弁当箱を包むピンクの風呂敷が差し出される。
「ひとりに似合うから」といって使ってくれているそれは、年頃の男の子が持つには少し不似合いだろうに、彼はそれを誰に言われても「自分の好きな色だから」と、ひとりとの関係は話さず、かつ恥じらうそぶりなどまるで見せない。
ひとりに飛び火するかもしれないとわかってくれているのだ。
彼の気遣いと、通学に2時間以上かかる程遠方から登校している事も関係して、幸い今の所ひとりと桜先の関係を知っている者は学校にはいない。
登校時も一緒にいるのは電車の中までで、同じ制服を着た生徒が乗り込み始めてからはさりげなく桜先は離れていく。
下校時もそんな感じだ。
電車内で同じ車両に居ながら特に親しい訳ではない風を装い、同じ制服が見えなくなってからどちらからともなく隣の席に座る。
正直、もの凄く過ごしやすい。
もし登下校時にわかりやすく一緒に歩いていて、桜先の友人から「いつも一緒にいるけど二人はどういう関係なの?」とか話しかけられたら「私なんかが桜先くんと一緒にいてすみません!(元気よく爆散)」する自信がある。
桜先は人間が出来すぎている。
ひとりがもし桜先で、しかも万が一そういったことで揶揄われたとしたら、「ウェヒ……ッヘ、ほんと、そうですよねぇ〜〜……エへ」とカスみたいな愛想笑いを浮かべながらその場を去り、家で例の風呂敷で首を括るかもしれない。
(桜先くんは、なんで私なんかにこんなに良くしてくれるんだろう……)
こんなめんどくさい社会不適合者の芋女なのに。
もしかして私のことが好きなんじゃないか?
陰キャ特有の飛躍した思考が脳裏をよぎる。
いやいや、わかっているのだ。
桜先は面倒見と性格がよく、友人のよしみで世話を焼いてくれているだけだということは。
保育園児の妹にすら悪気なく罵倒されているひとりだが、桜先からはそういった言葉を一度も聞いたことがない。
幼少期から三年前の再会、そして現在に至るまで、ずっと。
●
初めて会ったのがいつかは覚えていない。
物心ついた時には「零くんはすごいなあ」と思っていた記憶がある。
友達の輪に入れない私の手を引いて——という事は無かった。
ただ、他の友達よりいつも私を優先していた。
桜先くんは小さい頃から優しかったから、うじうじしている私を放っておけなかっただけだと思うけど。
私といる時に後から友達が来ると「ひとりちゃんはどうしたい?」と聞いて、そういう時は私の手を引いてくれた。
私の意思を尊重してくれたんだと思うけど、桜先くんにおんぶに抱っこで生まれてこの方受動的にしか生きて来れなかった私は、彼が海外に行ってから見事に本当の陰キャコミュ障根暗芋女へと変貌した。
私が陰キャになったのが桜先くんのせいだという訳ではない。
私は人生において陽キャになるための千載一遇のチャンスを逃したという事だ。
桜先くんが海外へ行き、自分がいかに日陰者なのかを自覚してから、私は常々「あの頃が私の人生の全盛期だったな〜。友達いたし」と思いながら日々を過ごしていた。
バンドに出会って、ギターを知って。
「これなら私も人気者になれるかも!」と考えてギターを練習し始めて暫く。
彼が帰ってきた。
というかいた、家のリビングに。
「あ、お邪魔してます。久しぶり、ひとりちゃん」
数年の海外生活ですっかり伸びた身長は既にお父さんに迫るほどになって、元々のイケメンが輪をかけてイケメンになって帰ってきた。
(いや、でも恐れるな、私! 私だって昔とは違うんだ! イケメン何するものぞ!)
ギターを弾き始めた私は調子に乗っていた。
「ギターという陽キャっぽい趣味を持っている」という事実だけで自分が強くなった気がしていたのだ。
当時まだギターを始めて一年ちょっと。
動画投稿なんてしてないし、他人に披露したことなんて勿論無い。
(言うんだ! 私!「久しぶり、零くん! また宜しくね!」って!)
私はノートと教科書を広げただけで勉強した気になっていて、忘れていたのだ。
「あっ、うェヒ、どっ、おひ……り、です」
普段まともに人と話そうともしない奴が、ここぞの場面で都合よく話せる訳がないということを。
私のバカ!!!!!
私は泣いた。
自分の口から出た陰キャ純度100%のか細いどもり声を、自分の出した音だと受け入れる事ができず、逃げる様に自分の部屋に戻り泣きながら押入れにこもった。
(絶対キモいって思われた! 絶対キモいって思われた!! 絶対キモいって思われた!!! …………桜先くんの記憶の中から消えてなくなりたい)
もう桜先くんに関わるのはやめよう。
最後に彼の姿をちらりとこの目に焼き付けて、そして輝かしい私の思い出にさよならを言うのだ。
グッバイ桜先くん。
こんにちは逃れられないこれからの陰キャ人生。
目を背けようとしてごめんね、私たちはずっと一緒さ。
死にかけのゾンビみたいに這いずりながら一階の様子を伺う。
「じゃあそろそろお暇させていただきます。今日は急に訪ねてしまったのにもてなして下さってありがとうございました」
「もー。そんな他人行儀にしなくていいのよ? また来てちょうだいね」
そろそろ桜先くんが帰るらしい。
よ、よし。もう一回顔を合わせる勇気は無いから、帰る桜先くんの姿を窓から一目見よう。
「……」
カーテンを少し開き、窓から桜先くんの姿を伺う。
上から見る後ろ姿すらオーラに溢れている彼は何を感じたのか、ピタリとピンポイントで私の方を振り向いた。
「アッアッアッ……! 」
盗み見てすいません……! と蛇に睨まれた蛙のようにガタガタと震えていると、
「…………」
桜先くんは、ふわ、と優しく笑ってひらひらと手を振った。
「ヒョえ゛」
眩しすぎるッッ
●
桜先くんはあの頃から何も変わっていなかった。
優しくて、穏やかな私の知っている桜先くんだった。
両親が海外にいるまま一人暮らししている桜先くんをお母さんはいたく気に入ってしまって、しょっちゅう桜先くんを招くようになった。
まだ幼いふたりの育児が大変だろうからと家事の手伝いもしてくれるので両親の評価は鰻登りだ。
ふたりにおじちゃんと言われても全く怒らずにジミヘンと一緒に遊ぶおかげで妹とペットにすら大人気である。
き、気まずい……。
この外堀が埋められていく感じ。
そしてそんなことを考えてしまう自分にすら嫌気がさして、私の気持ちはどんどんと沈んでいく。
「……」
「……」
そんな、もはやお馴染みになった夕方のリビング。
「ちょっと買い物に行ってくるから」と家を空けたお母さんとふたりに置いていかれるように、ぽつんとソファに座るイケメンと芋女。
そろそろ沈黙に耐えかねていつもの様に「ァッ、じゃあ、わたし部屋に、戻りますね……」と逃げ出しそうになったとき、桜先くんが申し訳なさそうに口を開いた。
「……入り浸ってごめんな」
「ヌァえっ!? いひっ、いえっそんな…… 」
最悪だーー!!
カスみたいな声が出たし桜先くんに気も遣わせてしまった。
居心地悪そうに眉根を下げる桜先くんに、申し訳なさが湧いてくる。
「……俺、海外暮らしでさ」
は、はあ。
「友達一人もいなくてさあ」
ほえ!?!?!?
明らかに友達が多くて彼女もいて部活で充実した放課後を過ごして「#最高の仲間たちと」「#最高の出会いに感謝!!」みたいなハッシュタグを付けた友達との自撮り画像をイソスタに上げてそうな見た目のイケメンから放たれた信じがたい言葉に私の脳みそは処理落ち寸前となり、私はビクッと肩を跳ねさせてぶるぶると震えた。
オッ、おン、おおおおおお落ち着くんだタワシ。
これはそう、何かの聞き間違いで、
桜先くんにまさか友達がいないなんてわけがなくて、でももし本当にそうだとしたら私とおんなじ訳で、
あれ? このタイミングでそれを言うって事は万が一億が一あわよくばまた友達に————
「よかったら友達になってくれない?」
ン゛にょア゛ーーーーーーーーーーー!?!?!?!?
トモダチ!? って何だっけ!?
私はドコ!?!? ココは誰!?!?
「ァっ、あの、ィヒッ」
「いいよ、ゆっくりで」
混乱の坩堝に叩き落とされた思考とは裏腹に、私の口はぷるぷると震えながら音を出力していく。
そんな自爆寸前のひとりロボにも、当然というか桜先くんは私を慮る言葉をかけてくれる。
なんなんだこれ、夢じゃないのか?
「ふっ、ふつつちゅ、ッヒィ、不束者ですが、よっ、よろしくお願いします……」
「うん、よろしく」
ああもう、なんだかよくわからない……!
病気になっちゃったみたいだ。
動悸・息切れ・頭痛・吐き気・発汗・めまい・倦怠感などなど。
普通に病院に行った方がいいくらいの症状に苛まれながら差し出した手を、桜先くんの大きな手が優しく包み込む。
(うわあおっきいあたたかいごつごつしてるでもすべすべひいいいいぃぃなんだかすごいよおおぉぉ)
「ウェ、ウェヒッ、へへっ」
嬉しいんだか信じられないんだか緊張してるんだかわからず頭の中がぐちゃぐちゃになりながら桜先くんを見ると、
ぞくぞくぞく
「………………」
優しげに微笑んでいるものの、ふるふると震えていた。
(さ、さ桜先くんも同じ気持ちなんだ……!!)
ぐちゃぐちゃになってるのは私だけかと思っていた。
でも違ったんだ!
そうだよね、友達いないって事は陰キャだもんね!(褒め言葉)
そんな人間に友達が出来たんだから嬉しいに決まってるよ!
今までずっと、物理的にも精神的にも遠かった幼馴染の事が、ずっと近くに感じられた気がして。
私たちはこの日、もう一度友達になった。
●
まあ零くんは学校通い始めてから普通に友達できてたんですけどね、たはは。
友達ができたという事実に一ヶ月くらいニヤニヤしていた時、下校中に零くんと親しげに歩く男女を見た時、私は確かに心の臓がキュッと握りつぶされる音を聞いた。
その後友達と別れた零くんに介抱されるまでの記憶はない。
零くんはわたしとふたり、それにお父さんのお弁当を作ってくれるようになった。
零くんが持ってきたおべんとうを受け取る時、お母さんから「零くんがいないと高校生になったら苦労しちゃうんじゃない?」的な事を言われた際、その可能性を考えていなかった私の顔からあまりに血の気が引いていくのがわかったのか、零くんはその場で直ぐに「一緒のとこ行くよ」と、家から近い高校へ通おうとしていたのに、あっさりと志望校を変えてしまった。
私は安心やら申し訳ないやらでさめざめと泣き、お母さんは笑っていた。カオスすぎる。
でもさすがに零くんの人生を私なんかが変えてしまう事はできないと言えば。
「大丈夫、俺に今更学歴なんて意味ないから。勿論ひとりが嫌ならやめるけど」
って。
なんだこれ。
私の幼馴染が強すぎる。
このように、普段の零くんは正に完璧超人だ。
テストは常に満点。スポーツ万能。
文武両道を地で行き、立ってようが座ってようが歩いていようがイケメンはイケメン。
でも私と関わると残念ながら完璧ではなくなってしまう。
私がいるから。
私がいるから。
ごくたまにだが、私といる時だけ、震えたりフリーズしたり、少しだけ様子がおかしい時があるし、それで零くんが謂れのない仕打ちを受けようものなら私は罪悪感で消し炭になる自信がある。まあ自分の場合でも耐えられないけど。
私は言うなれば、完成された絵画に付いたインクのシミである。
だから今日は、このままじゃだめだと思って友達を作ろうとリストバンドや缶バッジ作戦を決行したのだが結果は散々だった。
自信満々で痛い格好をして、結局いつもの様に零くんに慰められる。
最悪of最悪である。
だから。
「わ、私、本当に嬉しかったんです……声掛けられて、バンドずっと組みたいと思ってたから……で、でも、メンバー集まらなくて、だ、だから普段は、カバー曲とかネットに上げたり……」
ゴミ箱の中で座りながら、精一杯、自分の言葉を口にする。
私の言葉を聞いた虹夏ちゃんとリョウさんが顔を見合わせた。
「普段は何弾くの?」
「あ、結成した時すぐ対応できるように、ここ数年の売れ線バンドの曲は大体……」
「えっ、すごっ」
え、えへ、そんな事ないですよ。
いざ結成した時に恥かいたり足ひっぱったりしないようにっていう保険のためでぇ〜〜……。
…………。
…………。
まあたった今散々恥もかいたし足も引っ張ってるんですけどね……。
「何かギターヒーローさんみたいだね。って知ってる? 多分あたしらとそんな歳変わんないと思うんだけど」
落ち込む私を励ます様に、虹夏ちゃんが口にした名前に固まる。
ギターヒ……ギターヒーロー!?
「もう最っ高に上手いから聴いてみてよ!」
えへ、えへ……。
いやそれ程でも……。
「私もオススメに出てくるから何度か見た事あるけど凄く上手かった」
えっへへへ……。
「へえ、そんなチャンネルあるなら俺も聴いてみようかな」
「えっへへワァーーーーーー!!!?」
「今日声出るね、ひとり」
「あっ、桜先……」
「ちっ、違うの! これはね、ぼっちちゃんを虐めてたとかじゃなくて……!」
「大丈夫、分かってるから。はいこれ、ジュース入れさせてもらったから差し入れ」
なぜか私を見て少し震えている零くんは、澄んだ色のジュースを私たちに差し出した。
「れ、零くん、どっどど、どこから聞いてたの……?」
「え? ……伊地知ちゃんがギターヒーローの話題出した辺りからだっけな」
びくっ。
私が動画投稿してる事は聞かれてないからセーーーーフ! と思いつつも、「ギターヒーロー」という単語に身体が反応してしまう。
「それがどうかしたの?」
ば、バレてないよね……。
「い、いや、なんでも……」
「そーなんだよ桜先くん! ギターヒーローさんって人がね!」
びくっ。
「ね、リョウ!」
「うん、私も上手いと思う。ギターヒーローさん」
びくびくっ。
「へぇ…………」
恐る恐る顔を上げると、零くんはいつもの様に柔らかな優しい笑顔を私に向けていた。
「あひ……」
ば、バレてないよね!?!?
後藤ひとり
再会して暫くは桜先を苗字呼びだったがあまりにどもって噛みまくるため流石に名前呼びに変えられた
桜先零
この日登録チャンネルが一つ増えた