転生チートオリ主が芋ジャージ女を養うまで   作:超熟8枚切り

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推し、燃ゆ

 

 卵をボウルに割り入れ、刻んだネギ、しらす、ほぐしたカニカマ、更に取っておいた鰹だしを入れてよくとき混ぜる。

 卵焼き用のフライパンにごく薄くごま油をひき、溶かした卵を少しづつ流し入れ、弱火でゆっくりと形を整えていく。

 

 卵に火が通るまでの僅かな時間も無駄にはしない。

 冷蔵庫に入れておいたみそ床とタッパーを取り出す。

 どちらも昨日のうちに準備しておいた物だ。

 

 卵焼きを外はしっとり、中はふわとろになるように仕上げつつ、みそ床から魚の切り身を取り出し、丁度空いたフライパンを軽く掃除してから魚を乗せる。

 やや弱めの中火で魚自体の油がじんわりと浮き上がり、表面にツヤが出るまでふっくらと焼き、表面に適度に焼き色を付けたら、ハケで塩だれを薄く塗って出来上がりだ。

 

 あとはタッパーのおかずも取り出して、弁当箱にそれぞれの品を盛り付けていくだけ。

 

【献立】

 さわらの西京焼き

 ねぎとしらすとカニカマのだし巻き卵

 ごぼうとほうれん草の胡麻味噌和え

 

 うまそう。

 まあ俺のじゃないんだけど。

 

 大中小の弁当箱に、ごはんとおかずを詰めていく。

 ひとりとふたりちゃんのご飯にはイメージカラーの桜でんぶを乗せて、直樹さんの分には高菜とわさびのふりかけを混ぜ込んである。彩りもいい感じだ。

 

 デザートとして後藤姉妹の髪飾りをイメージした四角い2つ入りのアメも入れておく。キュービィロップとか言うらしい。

 

 よし完成。

 

 手提げ袋に弁当を詰め、俺の昼飯のカロリーメイトをポケットにぶち込んだら玄関を出る。

 

 そして10秒と経たずに玄関をくぐる。後藤家の。

 は? 

 いや美智代さんにいちいちインターホン鳴らさなくていいって言われたからさあ……。

 娘に「ひとり」と名付けたり俺に顔パスで敷居を跨がせたりといい、美智代さんは恐ろしいお人である。

 

「あら零くん、いらっしゃい」

 

「おはようございます。お弁当持ってきました」

 

「また作ってくれたの? 良いって言ってるのに、もう」

 

「好きでやってますから」

 

「違うのよ」

 

「え?」

 

「娘達は良いんだけど、毎日お隣の一人暮らしの息子さんにお弁当作ってもらってるって知れたら旦那の評判が……」

 

「……」

 

「作ってもらってる側でこんなこと言ってごめんね……」

 

「あー……」

 

 申し訳ないけど草生える。

 配慮できなくてマジでごめんって感じだな……。

 

 危うく一人のアラフォー男性(一家の大黒柱)を、「隣に住む年下の男子学生に足繁く家に手作り弁当を届けてもらいに来ているどうしようもないおじさん」にしてしまう所だった。

 俺はなんて罪な男なんだ……。

 

「じゃあ次からはひとりとふたりちゃんの分だけ作ってきますよ」

 

「ありがとうね。でも本当に気が向いたらでいいのよ?」

 

「毎日気が向いてるんで大丈夫です。ひとり起こしてきます」

 

 

 ●

 

 

 直樹さんとふたりちゃんのお弁当を渡して階段を上る。

 毎朝起こしに来てくれる幼馴染(俺)。

 

「ひとり、入るぞ」

 

「あっ、うん」

 

「起きてたのか。はい弁当」

 

「あっ、ありがとう」

 

 襖をトントンと叩いて声を掛けると、珍しく起きていたひとりがいつもの芋くさいジャージに袖を通しているところだった。

 野暮ったすぎる。お洒落のカケラも感じられない。最高に可愛い。

 

「ん?」

 

 弁当の包みを受け取るひとりのジャージの袖には、ライブのリストバンドがアホみたいに巻かれていた。

 

「どうしたの、その腕」

 

アッ、きっ気づいた!?

 

 俺の言葉にひとりがバッと顔を上げて声を荒げる。

 うるせえ! 鼓膜が幸せ!! 

 

「き、気づいてもらえた……やっぱり気づいてもらえるんだ……えへ、えへ……」

 

 一瞬顔を上げて俺を見ていたものの、すぐに目を逸らして俯きながらぶつぶつ呟いてる。

 気づいたどうこうっていうより悪目立ちしてるんだよなぁ……。

 

「準備しろよ、あんまり時間ないぞ」

 

「あっ、う、うん」

 

 多分同じ趣味の友達を見つけたいとかそんな感じだろう。

 少し付けすぎ感あるけど、まあこいつの存在感の薄さを考えたらこれくらいでトントンだろ(適当)

 

 でもまあ、こいつが友達を作るために自分から行動を起こすなんて俺が見る限りでは初めてのことだ。

 きっとかなり勇気を出した行動だから、できる限り応援してやりたい。

 

 そんなことを考えていると、視線を感じた。

 

「……」

 

 チラッチラッ。

 

「……」

 

 チラッチラッ。

 

 いかにも気づいて欲しそうに俺の顔をチラチラ見ながらバッグに荷物を入れるひとりと目があった。

 無地のトートバッグには、これみよがしにバンドグループの缶バッジがこれでもかと付けられまくっている。

 ゴテゴテしてて普通に引く。

 

「それ」

 

「……!!!!」

 

 缶バッジで爆発反応装甲みたいになってるトートバッグを指さすと、ひとりは気持ちの悪い笑みを浮かべながら何かを期待した目で俺を見てくる。

 

 くっそ可愛い……。

 

「俺は好きだよ、そういうの」

 

「そういうの」とはこういう行動をしているひとりの事を指しているのでバッグやリストバンドの事を言っている訳ではないが、嘘は言ってない。

 

「あっ、ほっ、本当……!?」

 

 ひとりは本当に嬉しそうに笑って、うきうきと、てきぱきと登校の準備を始めた。

 燃えてるなあ。

 

 

 ●

 

 

 放課後、ひとりが公園のブランコで真っ白に燃え尽きてた。

 だろうなって感じだ。

 

 

ゥえッ、ひィッ……ヒン……あぅぅ

 

「ひとり……」

 

 さめざめと涙を流すひとりの隣のブランコに静かに腰をかけ、様子を見る。

 

「大丈夫、俺はいいと思うから」

 

んひぃぃぃ〜〜……

 

 かわいい〜〜〜〜!!♡♡

 

 勇気を振り絞って、期待と不安を胸に教室のドアを開けたんだろうな。

 

 朝のホームルームをドキドキしながら過ごして、授業後の空き時間に平静を装いながら誰かが話しかけてくれるのを楽しみに待っていたに違いない。

 そうして過ごしながら、次の授業が始まるたびに「そろそろ話しかけられるはず……!」と期待していたのだろう。

 

 とうとう訪れた一番話しかけられやすいであろう昼休みが終わりに近づいてきたあたりから、「あれ……?」という思いが胸の裡に芽生えて、それはいつしか腹の底からサァーっと冷や汗を生み出す寒気に変わっていくのだ。

 そして一つの可能性に考え至る。

 

『あれ、もしかして今日の私ってただの痛いやつにしか見えない?』

 

 一瞬でもそう思ってしまえば後は地獄である。

 残りの授業の時間。

 例えば、教室の前の方にいるクラスメイトが消しゴムを落として拾う時、その目線が一瞬ひとりと机の横にかけている缶バッジまみれのバッグを通る。

 例えば、教壇に立つ先生の視線がひとりの方を滑る。

 例えば、プリントを渡される時に前の席の奴から顔を向けられる。

 

 その度に。

 その全てに。

 後藤ひとりの頭の中を『キモがられてる』『痛いやつだって思われてる』『調子に乗ってるって思われてる』といった被害妄想が埋め尽くすのだ。

 

 昼休みまでウッキウキだったやつが午後の授業が始まってからは顔を青くしながらぷるぷる震えて冷や汗を流しているのだ。

 側から見たらうんこ漏れそうなのかなとか思われることであろう。

 

 そうしてホームルームが終わった後、自分から話しかけない癖に友達が出来るわけがないという当然の現実を受け入れられずにウジウジと『いやまだ話しかけられるかもしれないし……』と10分ほど往生際悪く粘って、教室から人が居なくなってからようやくトボトボと学校を出たのだろう。

 

 校門で待っていた俺の下にやってきたのは、圧倒的な負のオーラを纏いながら涙目でヒンヒン言ってるひとりであった。可愛すぎる。天使か? 

 

 こんな可愛い子を泣かせるなんて許せねえなあ!? ぶっ飛ばしてやる! 

 しかしそうなると、ひとりが泣いてるのは強いて言うなら自業自得なのでひとりをぶっとばさねばならない。

 俺はやむなく拳を収めた。

 命拾いしたな、ひとり。

 

私なんかが話しかけられるわけなかったんだ……陰キャで、根暗で、芋ジャージで……

 

 とはいえ流石に気の毒だ。

 

 これでひとりが友達は俺だけでいいみたいに思うようになれば、まあ俺はそれでもいいけど、せっかくひとりが自分から友達を作りたいと思ったのに、その思いがなくなってしまうのは悲しい。

 それにひとりの事を心配している美智代さんと直樹さんもいたたまれない。

 

 金で解決できるなら楽だけど人間関係はそうはいかない。

 人と話せる練習みたいなのをつけてもいいけど、ひとりには凄まじいストレスだろう。

 

「あ──っ、ギタ──!!」

 

ンヒッ!?

 

 ひとりの肩が跳ねる。

 公園の入り口で金髪少女がひとりを見て目を輝かせていた。

 

 おいギターのことひとりって言うのやめろよ。

 

 

 

 ●

 

 

 

 声をかけてきたのは下北沢高校二年生の伊地知虹夏ちゃんという子だった。

 なんでも自分達のバンドメンバーのギターが蒸発して代役を探していたらしい。そんな伊地知ちゃんに見つかってしまったのがギターケースを担いだ妖怪激イモジャージ女だったと。

 

 代役。

 バンドの。

 人前で演奏する。

 ひとりが。

 

 な、なんてむごい事を……。

 

 伊地知ちゃんは断られるなどとは夢にも思っていないようで、直ぐにでもライブハウスに行こう! と息巻いている。

 そして隣では原型を留めるのが難しくなってきたひとりが助けを求めて変な音を出している。

 

 ガタガタと震えるひとりの手が、俺の袖を掴んで離さない。

 

 関係ない。行け

 

 ひとりが絶望の表情で原型が崩壊していく。

 スライムみてえだ。おもしれー女。

 ちなみにメガテンの方である。

 

 行きますと言うと伊地知ちゃんが嬉しそうにライブハウスまでの道を案内し始めた。

 伊地知ちゃんのお姉さんが店長やってるらしい。はえー。

 俺も伊地知ちゃんに続き、マジでこの世の終わりみたいな顔をしつつも知らない人がいるせいで俺から離れられないひとりがおまけでついてくる。

 自分が主役のはずなのにおまけポジションで引っ付いてる食玩みたいな女である。

 

 決して意地悪で伊地知ちゃんの誘いに乗ったわけでも、ひとりの手汗で俺の袖が湿ってるのがうざくてそうしたわけでもないのだ。

 

 これはどう考えても、友達を作るまたとないチャンスだ。

 というか、クラスメイトではないもののバンド好きな子に話しかけられてる時点で当初のひとりの目的は達成すらされている。

 あとはその子と友達になるだけだ。

 

 ひとりにとっては途轍もなく難しくて恐ろしいことかもしれないけど、こんな大チャンスを「ひとりに恐い思いをさせたくないから」と断れば、それは第三の掟に反することとなる。

 

 決して甘やかすべからず。

 

 お前が望んだ事だ。

 一回だけでも、勇気を出してチャレンジしてみろ。

 そう言うとひとりは弱々しく頷いた。

 

 大丈夫。

 横領とか収賄とか裏社会とのパイプとかもなんとなく見抜いてきたのでわかるけど、伊地知ちゃんはどう見ても良い娘にしか見えない。

 そう言うとひとりに恐がられた。なんで? 

 

 

 え? ああ。そりゃあ、お前なら武道館くらい埋められるだろ。

 

 

 

 ●

 

 

 

 ライブハウス『STARRY』に到着。

 アド街感あっていい感じだ。

 

 もう一人のバンドメンバーの山田リョウとかいう面白そうな女と一緒に演奏部屋に入っていく三人を見送る。

 ひとりが「え? 一緒に行かないの?」的な目で見てくる。

 ダメです(無慈悲)

 メンバーじゃない奴いちゃ邪魔だろ。

 ただ伊地知ちゃんと山ピーのケアのお陰でひとりの表情もだいぶやわらいだし、初めてのライブハウスに割とわくわくしている様子だ。

 あの様子だと上手くいくかどうかは別として、メンタル的には大丈夫だろ。

 

 手持ち無沙汰になったのでライブハウスをうろちょろしてたら速攻でカッコいいお姉さんに取り調べを受けた。まあ部外者だからなあ。

 店長って言ってたので伊地知ちゃんのお姉さんかあって口に出てたらしくそこから話が盛り上がった。

 もしこれからひとりがこのライブハウスに通うようになったら宜しくお願いしますみたいな事言ったら感心された。恥ずかしいからやめーや。

 

 伊地知ちゃんの知り合いって事でジュースを奢ってもらえることになったので、サーバーから注いで三人に持っていく。

 俺のカクテルの腕前が火を吹いた結果センチュリースープみたいなジュースが出来たので店長、星歌さんにも飲ませたらなんか蕩けてた。くっ、食戟のソーマみたいにはいかないのか……! 

 

 転生チートなんて何の役にも立たねえんだなあと己の無力感に打ちひしがれながらひとり達のいる部屋の扉を開ける。

 

 

 伊地知ちゃんと山ピーに見下ろされながらひとりがゴミ箱に入ってた。

 

 

「あっ、桜先……」

「ちっ、違うの! これはね、ぼっちちゃんを虐めてたとかじゃなくて……!」

 

 

か、かわいい〜〜!!♡♡ ティッシュ箱に入る猫ちゃんみたい〜〜!!!!♡♡

 

 

 

 

 




オリ主
桜先 零(さくらさき れい) 後⇄先 藤⇄桜 ひとり(1)⇄零(0)
まるで転生チートオリ主みたいな名前だぁ……。

後藤ひとり
下北に落着したスターゼリー。勝手に溶けて消える。

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