体験活動の重要性が文科省でも審議される中、世帯収入300万円未満の小学生の子どもがいる家庭のうち、約3割が習い事や社会体験といった学校以外の体験活動を1年間で一度もしていなかったことが12月15日、子どもの教育格差の問題に取り組む公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの調査で分かった。同法人はこの結果を「体験の貧困と呼ぶべき事態」と訴え、物価高騰やコロナ禍により、この傾向にさらなる拍車が掛かる可能性を指摘。子どもの体験活動への公費投入や物価高騰に対する緊急支援対策を求めた。

学校外の体験の重要性について、同法人の今井悠介代表理事は同日、文科省で開いた記者会見で「得意なことや夢中になれることを見つけることで、自信や意欲を育む機会になる。また、難しい課題に対し、他者のサポートなどを受けて乗り越える体験をすることは学力の土台になる」と力説した。
今回の調査では、体験の対象範囲を主に学校以外の時間に行う体験に設定。習い事やスポーツ少年団などを「定期的な体験活動」、キャンプや登山、芸術鑑賞やスポーツ観戦などを「単発で行う体験活動」に分類した。
また、2019年の国民生活基礎調査によると、国内における18年の子どもがいる世帯の貧困線は127万円。これを2人世帯で換算すると約179万円、3人世帯で約219万円、4人世帯では約254万円となる。給与収入299万円の場合の可処分所得が概算で約201万円になることから、この調査では、「世帯年収300万円未満」を低所得世帯と位置付けた。
調査は小学1~6年の子どもがいる世帯の保護者を対象に、10月12日から14日の間、インターネットで実施。2097件の有効回答を得た。世帯収入300万円未満が1025件、300万円から599万円が530件、600万以上が542件だった。
直近1年間での学校外での体験活動の参加状況を尋ねたところ、何もしていないと回答したのが世帯収入300万円未満で29.9%と、世帯収入600万円以上の11.3%と比べ、約2.6倍高かった=図表①。また活動別にみると、単発で行う体験活動は300万円未満が49.7%、600万円以上は33.8%で差は15.9ポイントだった一方、定期的な体験活動は300万円未満が54.3%、600万以上が26.6%とより顕著な差が表れた。
続けて、物価高騰による影響を尋ねたところ、体験機会が「減った」と回答したのは300万円未満で30.8%、「今後減る可能性がある」と合わせると、5割以上に上った=図表②。塾や通信教育といった学習機会の影響よりも大きく、分析にあたった三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林庸平主任研究員は「学力は比較的見えやすいので、何とか確保しようとする一方、中長期的で結果の形が捉えにくい体験活動は削られがちになってしまう」と説明した。
さらに、調査結果は「体験の貧困」が連鎖する可能性も示唆した。小学生の頃、体験活動を何もしていなかったと回答した保護者は、定期的な体験活動で300万円未満が39.8%、600万円以上が23.2%。単発的な活動で300万円未満が48.9%、600万円以上が34.9%だった=図表③。今井代表理事は「生まれによる格差が固定化されていく」と危機感を示した。
この結果を受けて、同法人では必要な施策を提示。「子どもの体験活動への公費投入および施策づくり」と、物価高騰による格差の拡大を防ぐために、子育て世帯への給付の拡充をはじめとした「緊急支援対策」、実態把握のための「継続的な調査」の3点を求めた。
体験活動については、文科省が今年8月、自治体や教育委員会、NPO法人などによる「リアル体験推進チーム」を設置。官民協働で体験活動を推進するための方策について、年内の公表を目指し審議を進めている。今井代表理事は「運動的な取り組みは大事」と期待感を示す一方、「具体的にどれだけ予算をつけるのか。国としての本気度が問われる。どうしても寄付や民間の力でやるというのが多いが、恒久的に予算を割くことで、本気で問題を食い止めようとしているか見えてくる」とくぎを刺した。