対韓ODA 外務省HPの?の続き。

まず、1965年の日韓請求権・経済協力協定で決定した、無償資金援助3億ドル、有償資金援助2億ドル、民間信用供与3億ドルについて確認します。


資料;
JICA:円借款案件検索(韓国)

JICA:海外経済協力基金史 第2章円借款の地域別・国別特色 

外務省:国別援助実績【韓国】1991年~1998年の実績 
外務省:国別援助実績【韓国】1965年~1990年までの実績
「日韓国交正常化に伴う日本の対韓国経済協力の内容(1966~1975年)
※「日朝経済協力の方策」p61:韓国経済企画院『請求権資金白書』1976年、韓国財務相『韓国外資導入30年史』1993年などから作成された表。
外務省の上記資料④の1965~1973年までの数字と一致。
外交青書(外務省)
第9号1965年版 (昭和40年版)~第56号 2013年版 (平成25年版)
日韓請求権並びに経済協力協定(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定)

データベース『世界と日本』 日本政治・国際関係データベース 東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室

日韓請求権・経済協力協定の実施終了についての記事資料
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPKR/19751216.O1J.html
データベース『世界と日本』 日本政治・国際関係データベース 東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室
など
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最初に、1965年の請求権・経済協力協定の内容をざっくりながめてみます。


1965年の「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(「請求権・経済協力協定」)の内容


●無償資金協力3億㌦、(当時1080億円 毎年3000万㌦を10年間)
・3億米ドルに等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、この協定の効力発生の日から十年の期間にわたつて無償で供与。


・日本が有している清算勘定残高約4573万ドルの決済をはかることも約束。韓国は無利子で10年年賦によりこれを返済するが、その希望によっては無償供与から差引かれることとなっている。


・無償供与の実施については、韓国における事業の遂行に必要な現地通貨や原材料の確保の必要上、資本財以外の生産物も相当程度調達されうるような方式がとられている。


・また、これらの生産物の調達のために韓国側の考えている特別の組織を考慮して、韓国の在京使節団だけではなく、韓国政府の認可する韓国業者にも契約当事者となることが認められている。(⑦、⑥-1965年版)


●有償資金協力2億㌦(当時720億円)タイドロ-ン
・大韓民国政府が要請し~決定される事業の実施に必要な日本国の生産物及び日本人の役務の大韓民国による調達に充てられるものをこの協定の効力発生の日から10年の期間にわたって行なう。海外経済協力基金(※)が担当。

・長期低利の貸付けとは、金利3.5%、据え置き7年 償還期間20年。(⑦、⑥-1965年版)

 当時の通常の円借款の条件は、金利5.75%、期間12~18年。(※)


●3億ドル以上に達すると期待される通常の民間信用供与(10年間)
この通常民間信用供与の一環として、9000万ドルの額に達することが期待される漁業協力のための、民間信用供与が出来る限り好意的に配慮されるものとされた。(⑦、⑥-1965年版)

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
   
1962年11月、大平外相と金鐘泌中央情報部長官との間で請求権問題の大筋の合意ができたが、韓国国
内で反日デモが盛んになり交渉が中断した。韓国側から交渉再開にあたって、日本側から日韓の過去の関係について日本が遺憾の意を表することを強く求められた。

65年2月、椎名外相は「両国間の長い歴史の中に不幸な期間のあったことは遺憾であり、深く反省する」と述べ
、韓国の請求権問題が決着した。


同年6月に、基本関係条約、請求権・経済協力協定などが署名され、無償3億ドルと有償2億ドル合わせて5億ドルが韓国政府に供与されることとなった。

当時の通常の円借款の条件は、金利5.75%、期間12~18年であったが、韓国に対する有償の円借款2億ドルの条件は金利3.5%、期間20年という低利かつ長期の借款であったので、輸銀の採算上の問題もあり、OECFを通じて供与されることになった。


以後、輸銀とOECFは、1975年に輸銀が新規に行う円借款業務をOECFに全面的に委譲することとなるまで、借款業務を分担して実施した。輸銀とOECFとの分担区分は、金利4%以上のものは輸銀が担当し、金利4%未満のものをOECFが担当した。
                 日本輸出入銀行史第1章業務の整備・拡充(1950年度~1967年度)


そして、以下がその結果です。

●無償資金協力 3億㌦ (102,093,285,442円)
                        ↑

賠償及び経済技術協力協定等無償援助(準賠償)総括表(⑥-1977年)より

「日韓請求権・経済協力協定の実施終了についての記事資料(⑧)」によると、


・無償経済協力3億ドルについては,わが国の債権である清算勘定残高(約4573万ドル)が,この無償資金の一部と相殺されたため,わが国から韓国に対して供与された日本国の生産物及び日本人の役務は,約2億5427万ドル(約863億円)であった。

・無償経済協力による主な供与品目及びその金額は次の通りである。
政府部門関係資本財      415億円
(農業用水開発・旱害対策事業用機材,農業機械化促進用機材等農業増産用機材,水産振興・漁船建造用機材,科学実験実習用機材,総合製鉄所建設用機材など)
民間部門関係原資材,機械類 448億円

(繊維品,建設資材,肥料,化学薬品,繊維機械など)


※焦付き債権相殺も援助なので、この金額を含めていると思われる上記約1021億円を無償援助3億ドルの円換算による総額と判断。供与品目の明細はほとんど不明。

※「わが外交の近況 1977年版(第21号)外務省」
第2部 各説第3章 経済協力の現況 第4節 無償資金協力によると、


”賠償・準賠償
(1) 
賠償
第2次世界大戦後に賠償請求国と交渉の結果,
賠償協定を締結し,賠償義務を履行した国々。
ビルマ,フィリピン,インドネシア、ヴィエトナム共和国。

(2) 準賠償
準賠償は,賠償ではないが終戦処理の一環として対外債務を処理するためのいわば義務的支払い
対象国;ラオス、カンボジア、タイ、ビルマ、韓国、マレイシア、シンガポ-ル、ミクロネシア。”

ということで、請求権・経済協力協定の無償資金援助3億㌦はODAにはカウントされない、と解釈しました。


●有償資金協力 2億㌦ (677.28億円あるいは690.46億円)


・「⑧日韓請求権・経済協力協定の実施終了についての記事資料」によると、


有償経済協力による主な貸付対象事業及び金額は次の通りである。
(イ)鉄道設備改良事業      73億円
(ロ)中小企業育成事業      80億円
(ハ)昭陽江ダム建設事業    78億円
(ニ)京釜高速道路建設事業   25億円
(ホ)浦項総合製鉄所建設事業 277億円
(ヘ)その他             144億円    合計 677億円  


677億円は④の外務省資料(677.28億円)と一致するが、①②のJICA資料とは一致しない。JICA資料による上記イ~ホに該当する事業の合計額は690.46億円。(E/Nベ-スとL/Nベ-スの差と思われる。)

・JICA(資料①、②)
(イ)鉄道設備改良事業 - 76億円
1966.6.8  鉄道設備改良事業(Ⅰ)39億6000万円
1967.3.23 鉄道設備改良事業(Ⅱ)33億6500万円
1968.10.30   鉄道設備改良(3) 2億7500万円 

(ロ)中小企業育成事業 - 80.69億円
1966.7.27 中小企業および機械工業育成事業(Ⅰ)  54億円
1967.8.7 中小企業および機械工業育成事業(Ⅱ)26.69億円

(ハ)昭陽江ダム建設事業 - 77.95億円
1967.8.7 昭陽江ダム建設事業(Ⅰ)    3億9600万円
1968.12.28 昭陽江ダム建設事業(Ⅱ)   46億9800万円
1970.2.4 昭陽江ダム建設事業(Ⅲ)    27億0100万円

(ニ)京釜高速道路建設事業 -  28.8億円
1968.6.26 高速道路建設事業(Ⅰ)        10億8000万円
1969.4.14 高速道路建設事業(Ⅱ)                     18億円     

(ホ)浦項総合製鉄所建設事業 - 277.29億円
1971.7.16 総合製鉄事業(Ⅰ)       28億8000万円
1972.5.1 総合製鉄事業(Ⅱ)       107億4900万円
1973.1.16 総合製鉄事業(Ⅲ)       10億8700万円
1974.5.22 浦項総合製鉄所拡充事業(Ⅰ)  127.88億円
1975.7.30 浦項総合製鉄所拡充事業(Ⅱ)2億2500万円 

(ヘ)その他 - 149.73億円
1966.6.17 漢江鉄橋復旧事業        3億6000万円   
1966.7.20 水利干拓および浚渫事業    11億8800万円  
1966.7.20 建設機械改良事業      23億4000万円  
1966.7.27 海運振興事業         32億4300万円
1967.6.27 輸送および荷役機械改良事業9億3500万円  
1967.7.11 光州市上水道事業       6億0500万円  
1967.7.11 大田市上水道事業       5億9000万円   
1967.7.11 市外電話拡張事業(Ⅰ)      3億6000万円   
1967.7.31 産業機械工場拡張事業    10億8000万円
1968.10.30 市外電話拡張事業(Ⅱ)     6億4800万円
1969.6.19 農水産振興事業         8億9200万円  
1969.9.1 嶺東火力発電所建設事業    6億4100万円 
1969.12.4 清州市上水道事業       3億2400万円  
1969.12.4 南海橋建設事業         7億8800万円
1970.6.25 市外電話拡張事業(Ⅲ)      5億1700万円  
1973.7.20 漢江流域洪水予警報施設事業4億6200万円  合計 690.46億円

●民間信用供与 約8億ドル(74年末時点輸出承認ベ-ス)
民間輸出信用については,わが国は一般プラント,漁業協力及び船舶輸出に74年末現在輸出承認ベースで約8億ドルの延払輸出を行つている。⑥-1975 

※75年末では輸出承認ベースで約10億ドル(⑥-1976)



●現在のODAと異なり、有償援助は全てタイド、無償資金協力も「日本国の生産物と日本人の役務」とあり、この請求資金ビジネスでは、日本企業もおおいにうるおい、儲けただろうと想像します。

●全く謎なのが、無償資金援助の明細で、もう少し詳しいことを知りたいところです。対日焦付き債権4573万㌦、というのも具体的にはどういったものだったのか、わかりませんでした。

●かろうじてわかるものとして、浦項総合製鉄所に対する3080万㌦(約100億円)があります。浦項総合製鉄所への援助額はwiki
ポスコによると、「無償3080万㌦、有償4642万8千㌦、輸銀より5449万8千㌦」とあり、ソ-スはJICAの「韓国の高度経済成長に果たした円借款の役割(2004年 7月)The Institution for Industrial Policy Studies (IPS)」(wikiに記載当時はJBICに収められていたのか記載されたリンク先はJBIC)と記載されています。


このJICAの資料はなぜか英文です。なぜ日本語のものはないのでしょう。

それはさておき、wikiの数字は、外交青書(1969年)の「総合製鉄所建設計画に関する協力」の記述

1969年8月の第3回日韓定期閣僚会議において,韓国側は,総合製鉄所の建設をわが国の対韓経済協力における最優先計画として協力するよう日本側に要請してきた。~
日本側の資金協力は,7,370万ドルと見積られる日韓請求権・経済協力協定に基づく有償,無償の資金,および5,000万ドルを限度とする輸銀ベースの輸出延払融資により行なわれることが確認~


の数字とほぼ一致しますから、信頼できそうです。


この浦項総合製鉄所建設事業は、請求資金事業の中でも最大の資金援助が行われています。そもそもその計画もかなりずさんで、世界銀行からも批判されたほど問題があったにもかかわらず、日本の援助で実行されたものであるということです。

そのあたりの、胡散臭い話や米国との関係などが以下の論文に書かれていて、面白いです。


■韓国における日本の経済協力―浦項総合製鉄所建設を巡る日韓経済協力―
(現代社会文化研究no21 2001/8)
http://dspace.lib.niigata-u.ac.jp:8080/dspace/bitstream/10191/994/1/18..


1975年までの対韓援助は、請求権資金だけではありません。これとは別に、有償無償の米の援助、学校建設などに対する無償資金援助、技術援助はもちろん、1970年代に入ると請求権資金とは別の有償資金援助が始まっています。


直接投資 (FDI)も、1966~75年間に総計3.97億㌦ と同期間韓国のFDI誘致実施の61.7%を占めた(⑥)ということです。

また、日韓基本条約締結前の交渉中には、

第7次会談(1964(昭和39)年12・3~1965(昭和40)年6・22)
交渉中断後、日本漁船の拿捕が一時強化され、また日本の在韓商社の課税問題が起こり、交渉再開の機運は一時遠のいたかに見えた。
この間、韓国国内では食糧不足や物価高騰による国民生活の不安が高まり、これが反政府運動の一因とも見られた。日本政府は、交渉中の請求権解決のための経済協力とは別に原材料及び機械補修部品を対象とする総枠2,000万ドル、1年据置後4年払い、年利5.75%の延払信用を緊急経済協力として供与することとし、1964(昭和39)年12月の日韓往復書簡で正式に決定した。
国会から見た経済協力・ODA(7)~ 日韓基本条約、請求権・経済協力協定を中心に(その1)
立法と調査2008.4 No.279 p99

と、日本漁船が拿捕されたり、交渉が滞っているにもかかわらず、支援をしています。

⇒ つづき

日本の対韓国援助 日韓請求権・経済協力協定以外 

日本の対韓国支援 まとめ・・・(とりあえず)