うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ 作:珍鎮
イベント会場からドーベルを連れ出した数分後。
俺たちはコンビニの中にあるイートインスペースで横並びに座り、スマホを眺めて時間を潰していた。
特別何かをする気力もなく、未だサイレンスとマンハッタンからのアプローチに内心狼狽している内は心に余裕も生まれないため、ドーベルに対して派手なアクションも起こせない。
「ツッキー、暇だしポッキーゲームでもする?」
「勘弁してくれ」
俺と違ってドーベルは派手なアクションを起こせるらしい。無法すぎる。
往来でポッキーゲームとか流石は漫画家だ。シチュ体験に余念がないね。
「……前はポッキーから言ってきたんだけど。ツッキーゲームしようって」
「逆になってる」
「ぁわ……」
もしや緊張してる? これがどうしてまた可愛い。
「てか冗談だし。真に受けすぎ」
「うるせーな。……ていうかベル。それ何を読んでるんだ?」
普通の恋人でもやらないような恥ずかしすぎる遊びのことは一旦置いといて、彼女がスマホに表示させている漫画らしき画面が気になったので質問した。
無理やりすぎる方向転換だがしょうがない。最近ちょっとドキドキし過ぎているので心臓に悪い事は避けたいのだ。今ベルちゃんとポッキーゲームしたらそのままお嫁さんにしてしまう。冗談とはいえ明るいうちからスケベな要求、恥を知れ。果てしないエロ女。俺にお似合い。
「普通の少女漫画だけど……読む?」
「いいのか」
「スマホ交換しよ。ツッキーは漫画アプリとか入れてないの」
「一応は入ってるが……」
稀に気になった漫画を買ったりはしているが、エログロだったり陰鬱だったりするものが大半だ。そういうものを好んでいるわけではなく、メジャーな漫画に手を出していないだけなのだが……とにかくドーベルには刺激が強すぎる気がする。
「あの、私って多分ツッキーよりいろんな漫画を読んでるよ。苦手なジャンルも特に無いし平気平気」
「そうか……? なら大丈夫か」
そう言って互いのスマホを交換し、少しばかり漫画を読み耽る時間が生まれた。
時折飲み物やお菓子に手を伸ばしつつ続きを追っていると、気がつけば三十分以上は経過していた。時間を忘れるとはこの事だろう。
大勢の人たちが盛り上がっているイベント中に何をしているんだろうとも一瞬考えたが、どうにも俺はこっちの方が性に合っているらしく、海の家にいた時よりよっぽど自分が安心している事実に気づいた。
大勢の美少女に囲まれて悪い気がしなかったわけではない。
マンハッタンやサイレンスから心を揺さぶられるようなアプローチを受けて、舞い上がらなかったわけでもない。
ただ、そんな特殊イベント染みた出来事の数々よりも、気心の知れた相手と一緒にただ時間を浪費することの方が俺の心は喜んでいた。
やよいのサポート、怪異の対処、別次元への渡航にイベントの裏方──思い返せばここ最近はずっと忙しなくて、ゆっくりできる時間が少なかった。
だからこそ身に染みる。
今隣にいるこの少女と過ごす、何でもない時間のありがたみを。
「最近の少女漫画って……結構攻めた描写が多いんだな」
「でしょー。まぁその作品はちょっとやり過ぎな気もするけどね。特に第八話とかほぼエロ漫画だし」
主人公である少女の内心のドキドキを煽るためとはいえ、相手の男が百戦錬磨すぎる気がしないでもない。恋人でもない女の子に壁ドンとか顎クイとか簡単にやってはダメですよ。
……人のこと言えないか。
ドーベルに対しては少女漫画のロールプレイというていで俺の方がバグった距離感のコミュニケーションを図ってしまっている。もう少し自重しよう。
「……?」
漫画で少しだけ引っかかる描写があり、つい首を傾げた。
前のページを読んでも、先を読み進めてもそれにまつわる言及が見受けられない。
「なぁ、尻尾ハグしたわけじゃあるまいし、ってどういう意味だ?」
「えっ──」
ウマ娘の主人公が照れている場面のことだ。
やむにやまれぬ事情で閉じ込められた体育倉庫の中でとあるイケメンと一夜を過ごし、翌日友人からその事を茶化されているのだが、件のイケメンとの仲を否定する際に“尻尾ハグ”という単語が登場した。
それまで作中で一度も言及されていない言葉であり、その後も特に意味が語られない謎の単語だ。
ニュアンス的に仲良しの相手同士で行うことなのだろうがいまいちピンとこない。
「……知ってて聞いてる?」
「は? ──あぁ、いや、いい。何となく察した」
ドーベルの反応で大体わかった。
卑猥とまではいかないが、ともかく特別な行為なのだろう。尻尾を触っただけでサンデーが起きた件といい、もしかすると尻尾の一部分が割とガチめなデリケートゾーンで、そういう部分同士を重ね合わせてハグをするという事だから……まぁ、多分そういうことだ。
「……ツッキー、ちょっとテーブルの下に手をおろして」
「こうか。……え、なに」
困惑したのも束の間。
見えないテーブルの下で、何やらモフモフな感触が手に広がった。
──尻尾だ。
十中八九、間違いなくドーベルの尻尾が俺の手に当たっている。
「……何やってんだよ」
「な、なんかちょっと、そこはかとな~くいけない事をしてる気分になるでしょ。コレ、そういう事……」
確かにインモラルな雰囲気を感じるというか、ヤバい事を隠れてやってる感は半端ない。
俺はよく知らないがウマ娘たちの中では尻尾で何かしらをするというのは共通してロマンチックだったりスケベな事だったりするんだろう、というのが一瞬で理解できた。セクハラはやめて下さらないかしら!?
「……」
「ひゃぅっ……♡!?」
試しに尻尾を握り返してみると小さい反応がドーベルの口から漏れた。やはりここはおいそれと触れていい部分では無かったようだ。サンデーには夢の境界で尻尾を触った事を後で謝っておこう。
「悪い、そんな反応をされるとは思ってなかった」
「いや絶対わざとでしょ今の……っ! もう、もうっ」
愚かな。ポコポコと叩いたところで無駄。元を辿れば尻尾を当ててきたのはお前だからな。誘い受けマゾの癖に生意気だぞ。いや、大生意気といったところか?
「……そろそろ戻るか。ベルは確か物販の方に顔を出すんだろ?」
「え、何で知ってんの」
「理事長秘書補佐代理権限でイベントの情報は全部知ってるからな」
「やば……」
適当に流されたが俺も気にせずゴミをまとめて捨て、コンビニの外へ出た。あと二時間すればイベントも幕引きだ。
バイクの後ろに跨り遠慮がちに俺の腹部に回したドーベルの手を握り、もう少し強く抱きつくように促した。
「ちゃんと掴まっとけよ、危ないから」
「う、うん」
それにしても背中に広がる感触が違法すぎる! 掴まれとは言ったが押し付けるな! この弾力新たまねぎ♡
「……ねぇ、ツッキー」
いかがなされた変態女。俺を惑わす可憐な女。
「イベントが終わったあとさ。この辺でお祭りがあるらしいんだけど……」
その話は小耳に挟んだ。
一般人からすればオフの人気ウマ娘を拝めるかもしれない絶好の機会で、生徒側はイベント後の打ち上げの感覚で浴衣などを着込んで遊びに行くといった、両者ともに夏の最後の思い出にするであろう大切な
ドーベルの言う“青春を望むウマ娘”たちは、これを機に男子との繋がりを得ようと何か行動するかもしれないし、それにチャンスを感じた一般男子諸君も何やかんやするかもしれない。
まぁ、イベントの事後処理で会場に残る俺には関係のない話だが。
仕事を引き受けるなりしてやよいを祭りに向かわせてやりたい気持ちはあるが、俺個人としてはどうせ行けないし行く意欲もない。俺の夏は大人たちとの話し合いで終わりというわけだ。
俺のことは気にしないで楽しんでくれ──と言いたいところだったが。
「……ズルいか。カフェとスズカにも言わなきゃ……」
後ろから小さな独り言が聞こえたせいで、それは喉から出る直前で留まってしまうのであった。
◆
気を利かせた大人たちのおかげで思いのほか早めに事後処理が片付いた。
先に駿川さんと一緒に祭りへ向かったやよいから『招集ッ!!』というメッセージが届き、俺も祭りへ赴くために駐車場に向かっている途中、ふと考えが浮かんだ。
自分、もしかしてモテているのではないだろうか──と。
立ち止まって冷静に今の状況を俯瞰してみると、自分がどれほど特異な立場に身を置いているのかが改めて実感できた。
基本的に普通の男子高校生だとファンという形以外でしか関われないほど、世間一般では高嶺の花とされる中央トレセン学園の女子複数人と面識を持ち、あまつさえ自宅に上げたり食事をしたりなど、どこからどう見ても親密で良好な友人関係を築けてしまっている。
異常な事態だ。近くに居すぎて忘れかけていたが、彼女たちの立場を考えれば昼時の山田のように話しかけること自体を躊躇して然るべき相手なのだ。
あの三人のレベルまでいくと、言ってしまえば下手な芸能人よりも知名度があり、俺が通っている高校でも話題に上がる事が多く、たくさんの生徒たちから憧れられている注目の的──そんな少女たちと友人関係にある。
そして何より、彼女たちに友人ではなく異性として見られている可能性が高い。
改めてそれが実感できてしまうメッセージを俺のスマホが受信したのだ。
≪もし時間があったら、秋川くんも一緒にお祭りを回らない?≫
≪お友だちの件でお礼をさせて頂きたいのですが、今から会えますか≫
≪ツッキー! おおぉお祭りでしかできないシチュを一緒に探したいんだけど暇!?≫
──明らかな三択。
提示されたソレはまるでギャルゲーの個別ルートを確定させるための選択肢の様な、これから先の未来を左右させるであろう重大な内容だった。
今回のイベントを機にあの三人と一層仲を深めた自覚はある。
サイレンスとマンハッタンからはほっぺにチューをかまされ、ドーベルからはまだあの二人からは許されてない大事な部分である尻尾を触れさせてもらえた。
ラインが同じだと感じる。
俺を主軸と見立てた場合、このメッセージを受信するまでが共通ルートで、ここから先がそれぞれのヒロインとの物語を始める個別ルートなのだと思った。
問題はこの世界はゲームでも何でもないのでセーブもロードも叶わない事なのだが──それよりも。
「……へへっ」
笑みがこぼれた。
たぶん結構邪悪というか、下卑た笑いと言ったほうが正しい。
もしゲームの主人公がこの立場にあったとすれば、きっと誠実に三人との関係性を考え、これからの行動についてシリアスに逡巡するところだろう。
だが、俺は選ばれし者でもなければ誠実な主役でもなく、ただの一介の男子高校生なのだ。
「はぁー……マジか」
二ヤついている。
気色わるい笑みだ。
喜ばない筈がない。
嬉しくないわけがない。我が社の未来も明るいぞ。
まるで美少女たちに自分を取り合われているような、それこそ本当に自分を恋愛物語の中心だと錯覚できてしまえるようなこの状況を前にして、真摯でいられるほど真面目ではない。
同級生たちよりも特別な位置に立っていて、優越感を感じないような綺麗な感性はしていないのだ。
間違いなく俺はこの状況を楽しんでいる。
本当に、心の底から、今この状況がとにかく楽しい。美人な友人を持ってワシは嬉しいよ。
「祭り……ここら辺だよな」
付近の駐車場にバイクを停め、恐らくは祭りの最中であろう方向へ向かって歩いていく。
まだ返事は返していない。
とりあえず一旦やよいと合流して事後処理の云々を伝えた後、駿川さんに彼女を任せてフリーになってから選択しようと決めている。
どうしようかな。
俺が選んでいい立場なのかな。
いつから俺はそんな大層な人間になったのだろうか。急に迫られても困ってしまう。はぁ、悩みどころだ──
「ハヅキ」
隣から声をかけられ、我に返った。
気がつけば目の前に電柱がある。危うく正面衝突するところだった。どうやら浮かれすぎて前も見えなくなっていたらしい。
「悪い、助かった」
「そうじゃなくて」
いつも無表情なサンデーが、遠くを見据えて少しだけ怪訝な表情をしている。何事だろうか。
「お祭りの場所、本当にここで合ってるの?」
「そのはず……だってやよいから位置情報が──」
そこまで口にして、ようやく自分も気がついた。
場所は間違っていない。スマホに送信された位置情報は間違いなくここだ。
違和感を感じたのはその場の空気。
ここでは大規模な夏祭りが開催されているはず──にもかかわらず
「……何だ?」
少し小走りで明るいほうへ向かって走っていく。
祭りといえば喧噪だ。騒がしいからこそ祭りと言える。
誰が流してるかも分からない音楽、何者かが叩いている太鼓の音、なによりも参加している人々の楽しそうな話し声など、それらが祭りの騒音を構成している。
だが、一つもそれが聞こえない。
もう祭りは終わってしまったのではないかと錯覚してしまうほど、周囲一帯が眠っているような静寂に包まれていた。
「やよい!」
探している人物を見つけた。本格的に出店が並び始める通りの少し手前の、自販機の前に彼女はいた。
駆け寄って声をかける。
「わり、少し遅れた。なんかめちゃくちゃ静かだけど……もしかしてもう終わったのか?」
声をかけた。自販機の商品を眺める彼女に、俺が誰だか分かるように横から声をかけた。
しかし何故か反応がない。
「やよい……?」
肩を揺すっても返事がない。
「おーい、どした。人混みで疲れたのか?」
ただの一言も返さない。
「……おいってば。何か言えって──」
痺れを切らして彼女の正面に回った。
顔を見た。
やよいだ。それは間違いない。
だが明らかに普段と雰囲気が異なって見えた。
それから無視できない部分が一つ。
「……目が、光ってる……?」
彼女の瞳がピンク色に染まっていて、何故だか薄く発光しているように見えた。
目が光るなんてあり得ない。少なくとも人間にはできない芸当だ。
そんな異常が発生している瞳が気になるものの、何より何度声をかけても反応しないやよいの様子が不可解だった。
「ハヅキ、向こうにも誰かいる」
サンデーが指差した先にいたのは、祭りにもかかわらずいつものスーツを着た駿川さんだ。蒸れない?
「駿川さん! なんかやよいの様子が……──駿川さん?」
気がついた。
彼女の瞳も光っている。
茫漠とした表情で、虚空を見つめたまま固まってしまっている。
「何なんだ……」
二人とも同じ状態で動けなくなっているこの状況は明らかにまともではない。
焦る心を深呼吸で落ち着かせつつ、一旦その場を後にし祭りの中心へと向かっていった。
「──」
異様な光景だった。
人混みに溢れかえっているはずの場所で誰も彼もが立ち止まり、やよいや駿川さんと同様に茫漠とした表情で心ここにあらずといった雰囲気だ。
鬱陶しいほどの数の眩い明かりと人が集まっているのに、まるで通夜のように静まり返っている。
明らかに普通ではない光景を目の当たりにして、思わず一歩後ずさってしまった。
「と、突然のホラー展開……サンデー、これって……」
「たぶん怪異の仕業。……でも、こんな規模は──あっ」
「……あれはマンハッタンさんか」
周囲を見渡したサンデーが見つけたのは、他の人たちと同様に固まってしまっているマンハッタンカフェだった。
「……ここまでの広範囲を支配域にして、耐性のあるカフェまで落とすなんて普通じゃない。あり得ない」
あり得ない、というのはどういう事だろうか。
「超常の存在はパワーを蓄えすぎると、基本的には体が耐え切れなくなって自壊する。街ひとつを覆ってしまえる程の力なんてなおさら──」
そこで一瞬、サンデーの言葉が詰まった。
そして何かを察したようにため息を吐き、俺の方を向く。
「……夢の境界で、何十年も概念の再構築をし続けた個体なら、あり得なくはない。でも、そんな危ない奴を案内人は外に出さない」
案内人、とはやよいの頭の上にいつもいる猫こと、あの先生のことで合ってるのだろうか。
「だから、多分私たちが利用された」
「利用……?」
「ハヅキが私を連れ戻そうとしたとき、そいつもカフェの夢のどこかに紛れ込んで、私たちと一緒に現実世界に出てきたんだと思う」
平たく言うと、めっちゃ強いから閉じこめられていたヤベー奴が、俺たちの後ろをこっそりついてきて脱獄した、という事か。
──マジで?
え、正気?
このタイミングで仕掛けてくるなんて頭おかしいのか。空気が読めないにも程があるだろ。
三択を迫られていた。
どういう結果になるにせよ、いよいよ俺のラブコメが始まろうとしていた。
そんな矢先にちょっかいかけてくるとか、どんだけタイミング悪いんだよ。
祭りが終わった後とかでならいくらでも相手したのに。これだから怪異は良識が無くて困る。
というかサンデーの言っていたことが本当なら、祭りに訪れた人たちが怪異に巻き込まれたのって、完全に俺のせいなんじゃ
「っ……? ──ッ! ハヅ──」
……
…………
サイレンスのメッセージに対して返事を返した。
分かった、そっちに行く、と。
きっと花火が上がる直前にでも告白されて、初々しいキスをして彼女との本格的な物語が動き始めるのだろうと、心の底から舞い上がっていた。
ただ、相手から告白を待つのはなんだか男らしくないと思って。
サイレンスが他の友人たちと別れたあと、二人で土手から花火を見上げながら俺は想いを告げた。
普通にOKされるだろうからその後はどういう言葉で場を繋げばいいかな、なんて呑気な事を考えながら。
『あの、ごめんなさい……そういうつもりじゃなかったの』
申し訳なさそうな顔をされた。
俺は、彼女の言葉の意味が理解できなかった。
『秋川くんの事は好きよ? その……もちろん、友達として』
友達として、好き。
サイレンススズカは俺に友愛を語った。
『……勘違いさせてごめんなさい。私、別に──』
瞬間、中学時代にトラウマを刻んだ呪いの言葉が脳裏に過った。
自分の心を守るために俺はすぐさま耳を塞いだ。
……
…………
マンハッタンのメッセージに対して返事を返した。
分かった、そっちに行く、と。
きっと人気のない場所で感謝の言葉と一緒に想いを告げられて、彼女との本格的な物語が動き始めるのだろうと、心の底から舞い上がっていた。
ただ、相手から告白を待つのはなんだか男らしくないと思って。
マンハッタンを他の友人たちのもとから連れ出したあと、誰もいない公園で緊張しながら俺は想いを告げた。
たぶんOKされるだろうからその後はどういう言葉で場を繋げばいいかな、なんて事を心の隅で考えながら。
『……申し訳ありません、葉月さん。きっと……私の行動があなたにそう思わせてしまったのですね』
申し訳なさそうな顔をされた。
俺は、彼女の言葉の意味が理解できなかった。
『もちろん……葉月さんのことは大切に思っています。あの子が視える、唯一のお友だちとして……」
友達として、大切。
マンハッタンカフェは俺に信頼を語った。
『……勘違いさせてごめんなさい。私は、別に──』
瞬間、中学時代にトラウマを刻んだ呪いの言葉が脳裏に過った。
それ以上の言葉は俺を壊しかねない。
自分の心を守るために俺はすぐさま耳を塞いだ。
……
…………
ドーベルのメッセージに対して返事を返した。
分かった、そっちに行く、と。
きっといろいろな場所を回りながら頃合いを見て想いを告げられて、彼女との本格的な物語が動き始めるのではないかと、期待と不安が半分だった。
ただ、相手から告白を待つのはなんだか男らしくないと思って。
ドーベルをメジロの同胞たちのもとから連れ出したあと、街が一望できる展望台で俺は想いを告げた。
結果が怖い。どうだろうか。
『え……ご、ごめん。ツッキーの事をそういう目で見たこと、無いかな……』
申し訳なさそうな顔をされた。
俺は、彼女の言葉の意味が理解できなかった。
『いやっ、その、大切な友達だとは思ってるよ! 漫画のことを相談できる相手だし、色々手伝ってもらえてるし、友達としてはもちろん好きだから!』
友達として、友達として、友達として。
メジロドーベルは俺を気の置けない友人としか思っていなかった。
『……勘違いさせてごめんなさい。アタシ、別に──』
瞬間、中学時代にトラウマを刻んだ呪いの言葉が脳裏に過った。
それ以上の言葉は俺を壊しかねない。
恐らくこれ以上は耐えられない。
自分の心を守るために俺はすぐさま耳を塞いだ。
どうしよう、困った。
困り果ててしまった。
どうやら全部勘違いだったらしい。
いろいろな言葉で自分を肯定し、ギャルゲーの主人公だ何だと盛り上がっていたが、全部が独りよがりな思い込みだったようだ。
彼女たちは高嶺の花だと、そう言ったのは俺自身だ。
男に困る事なんてないだろうしそもそも彼女たちの傍には俺の何十倍も彼女たちを理解している大人の男性がいる。
眼中に入らないのも当然だ。偶然顔見知りになっただけの、有象無象の中の一人にすぎない。
その事実が改めて実感できた。俺は最初から選べる立場の人間ではなかったのだ。
彼女たちがいつでも切り捨てられる、本当にただの友達の中の一人──
「ハヅキっ」
……。
…………?
「んっ、む」
唇に柔らかい感触。
目の前には誰かの顔。
程なくしてその顔が離れると同時に、俺は今サンデーにキスをされていた事に気がついた。
「っぷぁ。……ハヅキ、私が見える?」
「……あ、あぁ」
「良かった。いま、私の魂魄を少し削ってハヅキの中に流し込んだ。これで幻覚に惑わされる事は無いはず」
「幻覚……?」
俺は祭りがおこなわれている街の中心に立っていた。
周囲の人々は変わらず沈黙したまま固まっており、自分がこの場所に来てからほとんど動いていない事を察した。
……どうやら鏡花水月されてたらしい。まさか自分が催眠をかけられる側になるとは思わなんだ。オラっ、催眠解除!
「……助かった、ありがとなサンデー」
「いい。それより、まず敵を見つけないと」
その言葉を機に走り出し、街の中を駆けずり回ると、思いのほかすぐに見つかった。
「……いた。あいつだな」
真っ黒な人型の何かだ。電柱の上に座って佇んでいる。
喧嘩を売るためにそこら辺の小石をぶん投げて命中させると、格好つけて謎の怪異ぶってたアホはキレて俺を特殊フィールドに案内した。ここからはいつも通りレースで勝って、コイツに拳骨をくらわせてやるだけだが──
「サンデー。ユナイトして本気を出すとお前また夢の境界行きになるんだよな?」
「そう。だから六割くらいの力で走って。概念を再構築して、脚力は調整してあるから大丈夫」
「六割で勝てるのか……?」
「私より速い怪異は多分いないから平気」
どうやら足の速さに限って言えばサンデーが一番だったらしく、レースには安心して臨み、結果普通に勝った。
レース中また岩だの枝だの小鳥だのと妨害をくらってそこそこ怪我はしたものの、ドヤ顔出来るくらいには圧勝だった。
そのあと負けた悔しさで精神を平常に保てなくなった怪異は、溢れる力を制御できずに自壊し夢の境界へ飛ばされ、今回の一件は幕を閉じたのであった。
問題があるとすれば、やはり現実世界とは時間の流れが違う場所に身を置いていたせいで、戻った時には既に翌日の昼になっていた事だろうか。
やよいのもとへ赴く約束を破るどころか、あの三人からのメッセージにすら返事を返さないまま翌日になってしまった。もう終わりだ。
落ち込んだ気持ちでバイクを取りに戻り、コインパーキングの駐車料金がヤバい事になってるのを見てさらに落ち込みながら、俺はそのまま自宅へ戻っていくのだった。
◆
家に着き、敷きっぱなしだった布団の上に倒れ込んで瞼を閉じた。
地味に怪我をした箇所が痛み、白い布団に少しだけ血が滲んでしまったが、そんな事はどうでもいい。
あのクソ怪異は討伐したが、ヤツが見せてきた幻覚のことで俺の頭の中はいっぱいだ。
「はぁ……疲れた」
勘違いさせてごめんなさい、という言葉が忘れられない。
結果としてアレは幻覚だったわけだが彼女たちの気持ちを知らないのは本当なのだ。
俺のことが好きなんじゃねえのかという考えは非常に危険だ。無謀を勇気に変えてしまう。
昨日、あのまま彼女たち三人の中の誰かと過ごして、その中で告白しようものなら、あの幻覚と全く同じとは言わずとも似たような展開になったであろうことは想像に難くない。
幻覚で助かったが、俺の中にある淡い希望も砕け散った。きっと彼女たちは俺を恋愛対象としては見ていない。
それから。
「……もう家から出ないほうがいいんじゃないのかな、俺」
あの怪異は俺が夢の境界から連れてきてしまったようなものだ。
つまり俺が皆を巻き込んだ。
サンデーを助けたのは間違いなどではなかった。ただ、あの夢の世界で新妻ンハッタンカフェに見とれて他の存在の気配に気がつかなかった俺が悪い。
俺だけが狙われるならまだしも、大勢の人々や彼女たちが危険な目に遭うのなら──もう関わらないほうがいいのかもしれない。
しかし『危険な目に遭ってほしくないから関わらないでくれ』と言っても素直に聞いてくれる保証はない。
なので……そうだ、アレだ。
今からでもスゲェ性格が悪い奴になって、あの三人に嫌われよう。それでめっちゃ突き放そう。
そうすれば自然と彼女たちも本来あるべき自分たちの道に戻っていくはずだ。あまりにも名案。名探偵になるのも斯くやといった感じだぜ。
サンデーもマンハッタンカフェについていくだろうから、俺を守るという大変な任務も終えられる。何もかもがウィンウィンじゃないか。天才だ……。
「……ハヅキ」
どういう言葉であの三人を突き放そうか本格的に考えようとした辺りで、俺の隣で同じように横たわっていたサンデーに呼ばれた。何かな。
「ハヅキの考えは分かる。……あなたが決めた事なら、それでいいとも思う。私が口出しできる事ではないから」
ゴロンと彼女の方を向くと、サンデーもまた俺を見ていた。
カーテンを閉め切った暗い部屋の中で、横たわって向かい合いながら話す──妙な感覚だ。
「だから、私からは一つだけ」
俺はただ黙って聞くしかない。
「……夢の境界でカフェが見つけてくれた時、私はあの子にちゃんと必要とされていた事を知った。……カフェのことが大好きになった」
一拍置いて彼女は続ける。
「ハヅキが来てくれた時に、それは確信に変わった。ずっと一緒にいたいって、心の底からそう思った。たとえ迷惑をかけても、かけられても、何があっても一緒にいたいって。……ねぇ、ハヅキ」
少女の声音は無感情なものではなく、不安が混じっていた。
本当に言いたい事を飲み込んで、俺を慮って喋っている事は明白だ。
「もう一度だけでいいから、あの三人の気持ちを決めつけないで、よく考えてあげてほしい。……余計なアドバイスはもう、何も言わないから」
そう言って頬から手を離したサンデーは、反対側を向いて眠り始めてしまった。
俺は天井を見上げながら物思いに耽る。
よく考えろという彼女からの言葉に従って、俺は逡巡することにした。
──確かにドーベルたちから向けられている気持ちを決めつけてしまっていた節がある。
少し前は“きっと俺のことが好きだ”と。
そして今は“絶対に俺を好いてはいない”と。
何もかもそういう風にすぐ決めつけてしまう感覚に覚えがあった。これでは俺とやよいの教育方針に関して間違いなど無かったと思い込んでいた、秋川家の人間たちとまるで同じになってしまう。
これでは駄目だ。
冷静に振り返って現状を把握しよう。
──分からん。
小一時間ほど考えたが何も分からん。
サイレンスもマンハッタンもドーベルにも、益になる事と嫌われてもおかしくない事をそれぞれやらかしている。
走りの強みに気づいたとか、鍵を探したとか相棒を連れ帰ったとか、一緒になって漫画の資料集めをしただとか色々やったが、大前提にある解呪の儀式におけるセクハラが全てを帳消しにしてしまう可能性が高すぎる。
なんかもう、好きとか嫌いとかじゃなくて、何となく一緒にいる時間が多いだけな気がしてきた。てかそういうのを友達って言うんだよな。
サンデーの言葉で俺も自覚したことだが、たとえ迷惑をかけても一緒にいたいと思ってしまっている。危なくなったら命に代えても守るし、出来ることがあれば何でも手伝ってやりたい。
ただ一緒にいたい。それだけでよかった。
俺は浮かれて多くを望み過ぎたのだ。
山田のように、ただそこにいてくれたらそれだけで十二分に幸せだ。
友達でいよう。何が個別ルートだ。
幻覚を参考にするのもどうかと思うが、少なくとも友人としては認めてくれているのだ。
中央のスーパースターと友人関係でいられるなんて、それだけで凄い事だろう。それ以上を望むのはワガママというものだ。
「……はぁ。あ゛ァー……考え続けてたら眠くなってきた」
増幅された三大欲求の内、睡眠欲に勝てずサンデーは熟睡しており、彼女とユナイトしたことで同じ影響を受けた俺もマジでバチコリに眠い。ありえん睡魔だ。これに抗って俺にアドバイスをしてくれていたのか。スゲェぜサンキュー相棒いっぱい愛してる。
というわけで眠る事にした。
誰かに連絡を返すこともないまま、そのまま、微睡みの中へと沈んでいく。
自分がモテていると勘違いした状態であのウマ娘たちに会わなくてよかった。不幸中の幸いと言ったところか。
頭の中でグチャグチャになっていた思考の糸をようやっと解くことが出来たおかげなのか、最近ずっと感じていた心の中の不安が姿を現すことは終ぞ無く、そのまま睡魔に身を委ねるのであった。
◆
『先に帰ったなら連絡してよ葉月のアホ! 電話も通じなくて心配したんだから!』
「悪かったって……」
空が茜色に染まり始めた頃に目を覚ました。
電話でやよいを宥めつつ、カレンダーを眺めながらこれからどうするかを思案する。
『明日様子を見に行くから、ちゃんと家に居てね……?』
「え、マジで……」
『命令ッ!!』
「……はい」
電話終了。やよいが来るので部屋を後で掃除しておこう。
目下の課題は俺に呪いを押印した怪異こと、あのカラスだ。
あと数回レースをしてアイツの心を折ればこのオカルト染みた雰囲気からは一旦脱却することができる。
そもそもコレがあるから不安なのだ。
呪いの解呪だとかそういった
何より、俺のストレスが割とヤバい。怪異がマジでウザすぎる。
存在自体はこの世の理の一部だからしょうがないとして、積極的に俺の周囲を攻撃してくるのは勘弁してほしい。身も心も持たなくなってしまう。
素直にラブコメ……ではなく、普通の高校生活を送らせてほしい。
妨害で負った打撲が痛ぇんだよボケが。俺に仇なす怪異は心を折るだけじゃなく、弱ってるうちに先生に頼んで夢の境界に閉じ込めてもらうからな。カス共め。イけイけイけ無様に逝けッ!
「……はぁ、夏休みも終わりか」
布団の上で呟く。冷房つけっぱにしてたら寒くなったので膝に掛け布団をかけつつ、ふと横を見た。サンデーはまだ寝ているようだ。近くで見るとめっちゃ可愛いな……。
激動の夏だった。
何だかずっと忙しかったし、誰かの好感度を得るたびに怪我をしていたような気もする。おのれ怪異と言ったところ。
「…………どうしたもんかな」
それからサンデーが言っていた”三大欲求”の増幅にも悩まされている。
ぐっすりと眠り、起きてから食事を済ませたとなれば、残るは性欲のみ。
秋川の葉月君が絶賛スタンドアップ・ヴァンガードしている。サンデーに見られないよう掛け布団で隠しています。命の危機。
「どうしたもんかな……」
本当にどうしよう。
あまりにもムラムラする。
なんなら横になってるサンデーのスカートが若干捲れてて危ない。しっかりと絶対領域は発動されているが、ハッキリ見えないからこそ劣情を煽られてしまう。お前ふざけるなぽ。
「ん……?」
ピンポン、とインターホンが鳴った。
立ったまま立ち上がって顔を出すわけにはいかない為、とりあえずインターホンの受話器を取って応答する。
「はい。どちらさまですか」
『あっ、秋川くん……! よかった、もう帰ってたのね……』
「サイレンス……?」
聞こえてきたのはサイレンススズカの声だった。恐らく覗き窓を見ればドアの向こうに彼女がいる事だろう。
今考えるべきことではないが、頭の中に“勘違いさせてごめんなさい”と言われた時の映像が浮かんでしまった。ひん……。
『きっと怪異に襲われたのよね……? 怪我は? 絆創膏とか湿布とかいろいろ持って来たわ』
「あぁ、いや、なんつーか、別に大丈夫……」
明らかに焦った声音だ。俺の想像以上に心配させてしまっているようだ。怪我の具合を直接見なければ安心できないのかもしれない。その態度学園じゃ絶対見せるなよ? 俺のことが好きなメスだと看破されるからな。
てかそこまで俺を心配して……? 嬉しいよ。はい婚姻。
頭の中でくらいは結婚させてくれ。マジで優劣つけられないくらいお前らの事が好きなんだわ。
『……か、帰ったほうがいい……?』
ねーえー!
ズルじゃん!!!
せっかくこっちが心に区切り付けたばっかりなのに急接近するな! 嗜みを知れ。大和撫子ならば。
流石にここで追い返せるほど強い心は持っていない。
秋川の葉月君も掛け布団で隠しておけば大丈夫だろう。龍神雷神。
「……いや、暑い中来てくれてサンキュな。よかったら上がってくれ、鍵は開いてるから」
帰ってきてそのまま布団に倒れこんだので鍵を閉め忘れていたが、功を奏した。この状態で鍵を開けに行ったら激ヤバな状態での対面をしなければならないところだったぜ。
すぐさま布団の上に戻り、下半身を隠すように掛け布団をかけた。これでパーペキってわけ。
「お邪魔します……って、秋川くん……!? ちょ、その怪我……ッ!」
入ってくるや否や焦燥の表情で急接近。危ないッ!!!!!!!!!!!!
「あ、あぁ……目元の青アザか。見た目ほど痛くないから大丈夫だよ。後は大体擦り傷だし……」
「大丈夫なわけないじゃない! 布団にも血が滲んでるし……ちょっとここでジッとしてて。えぇと、まずは……」
テキパキと手当ての準備を進めていくサイレンス。いつの間に医療を勉強したのか、その手際の良さには目を見張るものがある。もしかして俺の為? これは驕り?
「もしもし、カフェさん? ……えぇ、帰ってきていたけど怪我が酷くて……うん、ドーベルも呼んで」
呼んではいけない。サイレンス一人ならまだ誤魔化せるかもしれないのに、監視の目が三つに増えたらいよいよ女子三人がいる部屋の中でヤバいものをヤバい状態にしたヤバい男になってしまう。勘弁してほしい。流石の僕も呆れ返るまでよ。
「ツッキー!」
「葉月さん……!」
──というわけで、数十分経たぬうちに三人が部屋の中に揃ってしまった。
話を聞いたかぎりでは、祭りにいた大半のひとは夢の内容を忘れるどころか、自分が幻覚を見せられていたという感覚すら覚えていなかったようだが、この三人は違ったらしい。
曰く、俺が何処かへ消えてしまう幻覚だった、と。
これ以上自分たちを怪異に巻き込まない為に、あえて自分たちを突き放して一人遠い地へ消えていく──そんな内容だったとの事で。
既視感があり過ぎたが、サンデーのおかげでもうそのラインは突破している俺からすれば『へぇ……』と気の抜けた返事がこぼれるくらいどうでもいい事だった。もう何があっても一緒にいてください。比翼連理。もしくはドスケベ夫婦。
「ぁ、秋川くん……!?」
「駄目です……いけません、葉月さんっ」
「アタシたち何があっても一緒にいるから! 一人で背負わないで、ツッキー!!」
俺のまるで元気が無いマヌケな返事が、彼女たちにはどうやら意味深なものに見えたらしく、三人とも一斉に俺の手を握って、これまた急接近してきた! よせッ!!!!! 風情がない。
察するに、俺とこの三人とで精神的な状況の乖離が見受けられる。
こっちからすれば怪我してる所にお見舞いに来てくれて嬉しいハッピーよろぴくねといった感じなのだが、ウマ娘三人はボロボロになった俺が何だか危うい決心をしているように見えてしまい大変に心境がシリアスに陥ってしまっているようだ。まぁ、俺も山田が一人で消えようとしてたら同じ風に心配すると思うのでこれはしょうがない。
友達として大切、という部分は幻覚ではなく本当だったらしい。ぐぅ、この真心は俺を喜ばすつもり? これぞ和。
「つ、ヅッキぃ……やだ、いかないでぇ……」
「ッ!? お、おい泣くなって……!」
何がいかないでだお前らのせいでイキそうだわボケが。そういうところ好きだよ。
ベルに泣かれた──が、俺の葉月君は相変わらずバベルの塔なのだ。近すぎる女子の匂いと柔らかい手で興奮がノンストップですよホント♡ 節操のない子! 素敵だね♡ 俺が俺でなくなる……っ!
「葉月さん……私たちはもう二度と、守られるだけの存在になったりはしません。絶対に……」
「う、うん」
「カフェさんの言う通り、私たちも一緒に闘う……! だから……っ!」
「わかった、わかったって……とりあえず一旦二人も落ち着いて……」
こんなに必死で感情が剥き出しになってる三人は見た事がない。幻覚の中の俺、どんだけ酷い言葉を放ったのだろうか。お仕置が必要だな。
にしても離れない。
ずっと手を握ったまま離れない。ウマ娘のパワーを考えると振りほどくことも叶わない。
山田……たすけて……!