「風評払拭CM」見送り騒動から考える
「福島の今」を伝えるためのテレビCMが、一部の局から放送を拒否されている──。
復興庁が風評払拭を目的として制作したCMが、今年2月に全国で放送されました(http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/20190207092638.html)。
ところが報道によると、「全国には放送を見送った民放局もある」ということが明らかになりました。中でも富山県では、県内に3社ある民放全てがこのCMの放映を見送ることにしたといいます。
その結果、福島県を除いた全国では富山県だけが「その地方の民放局全てが流さない判断をした“空白地帯”」となり、民放地上波でこのCMが全く流されないという、異例ともいえる事態となっています。
放送しない理由として、「北日本放送は『まだ苦しんでいる人たちがいる中で、その感情に配慮した』、富山テレビ放送は『復興は終わっておらず、避難者はまだいる。そうした人たちに配慮した』、チューリップテレビは『被災者の感情に配慮し、慎重になるべきと判断した』と説明。3局とも『社で独自に判断した』とした」(「北日本新聞」2019年2月14日、 http://webun.jp/item/7539990)と報道されています。
「まだ苦しんでいる人の感情に配慮」「被災者の感情に配慮」という理由からは、各放送局がCMのどの部分を問題点と考えているのか、具体的には伝わってきません。震災から8年にあたって「福島の今」を伝えること、いまだ残る風評や偏見の払拭に努めることが、なぜ不都合とされるのか──。
いまだに残る「誤解と偏見」
でも、震災でいっぱい死んだから、つらいけど、僕は生きると決めた。
みんな きらい”
これは震災から丸6年を迎える2017年3月、今からちょうど2年前のNHK「クローズアップ現代」〈震災6年 埋もれていた子どもたちの声 ~“原発避難いじめ”の実態〉にて報じられた、原発事故の後に避難先で受けてきたいじめについて、ある少年がつづった手記の一節です(http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3947/1.html)。
番組では、他にも生々しい事例が紹介されています。
・「下の子は別人になってしまった。人が怖くて、人と話すことも出来ず。
『自分はいなくなってもいい』とか、『もうどうなってもいい』とか。」
今回、全国いくつかのテレビ局から放送を見送られたCMは、このような被害を受けて復興庁が制作したものの一部でした。同じものはネット上でも公開されていますが、動画の中には、「誰かを傷つけないために」として、「放射線(放射能)がうつる」という誤解を直接取り上げているものもあります(https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg18429.html)。
震災から8年を迎えようとする今、福島では多くの人が日常の生活を取り戻した、あるいは取り戻しつつあります。もちろん課題はまだ残るものの、8年に及ぶ復興に向けての努力とその成果は、日々着実に積み重ねられ続けています。
福島から出荷されている農畜産物については、他の産地と変わらない安全性が何年も前から証明されており、その優れた味と品質から、海外への輸出量が震災前を上回る品目も増え始めました。特に果物は東南アジア諸国、日本酒はアメリカなど、海外でも強い人気を獲得しています(https://dancyu.jp/read/2019_00001168.php?fbclid=IwAR2tWMIyFL7Zqk-IATkm1siX07CU5jtboDhsc_Pta3jgtCqGYYPARCf45wQ)。
福島では幸いにして、放射線そのものによる健康被害が出るような被曝は起こっていません。原発事故を原因としたさまざまな被害は発生したものの、「東電福島第一原発事故による被曝由来でのガン増加は考えられない」との見解も、UNSCEAR(国連科学委員会)をはじめさまざまなところから出されています。
しかしながら、そうした「福島の今」はまだ十分に知られているとはいえず、国内外の一部では、誤解や偏見が根強く残っています。
原発事故後にはセンセーショナルに不安を煽る報道や、福島が危険であると言外に示す「ほのめかし」、科学的根拠に乏しい噂話などが溢れた一方で、そうした言説が虚偽あるいは杞憂であったこと、それらが引き起こしてきた二次的な被害については、広まり方が相対的に弱かったのではないでしょうか。
前述した「クローズアップ現代」のように、原発事故後に誤解や偏見がもたらした被害について、具体的に報道されたケースはむしろ珍しいといえます。