【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~変化(前編)~

夜を迎えたエリウッド達。手近な街を見つけることができず、本日は野宿だ。

最近は野営地を築くのにも大分手慣れてきた。草を刈り、テントを張り、竈を作る。

そんな陣の中をふらつく足取りで歩くのはハングだった。

 

夕食もすみ、不寝番を除いて後は寝るだけといった時刻。

ハングは昼間から随分眠っていたので、いまいち寝る気にならずぶらぶらとしていた。

 

ハングは光に誘われるかのように野営地の真ん中にある焚火へと近づいて行った。

そこでは、エルクとウィルとニルスが焚き火を囲んで座っていた。

ゆらゆらと近づいてきたハングにエルクが目を丸くする。

 

「ハングさん、寝てなくていいんですか?」

「ん?まぁ、もう熱も無いからな」

 

ハングはひらひらと手を振って笑ってみせる。だが、ハングの目元には疲労が影を落としていた。熱は下がったが、体力を使い果たしたのは事実。実際、身体を動かすのも怠いのだが、どうにもじっとしてられなかった。

 

「また、リンディス様のことですか?」

 

ニルスが白湯を飲みながらそう言った。

それに対してハングは斜目でニルスを見やる。

 

「ニルスは占いまでできるようになったのか?」

「だって、ハングさんが悩むなんてそのことぐらいしかないもん」

 

そう言われては反論できないハングである。

なにせ、仲間達の前で今までどれだけ醜態をさらしてきたのか。

もう数えることもできない。

 

ハングは小さくため息を吐き、焚火に枯れ枝を放り込む。

そんなハングを見てウィルが弓の手入れをしていた手を休めて笑った。

 

「ハハハ、確かに。ハングっていつもなら即断即決だもんな。考え込んでうだうだしてたら、大概はリンディス様の話ってわけだ」

「ウィル、その弓珍しいな。長弓か?」

「えっ?これ?」

 

言われるがままに視線を手元に落としてくれたウィル。

だが、ハングの友人はそう簡単に誤魔化されてはくれなかった。

 

「ハングさん、話題の逸らし方が不自然すぎますよ」

「うるせぇ、エルク。自覚してるよ」

 

不貞腐れるハングと苦笑いするエルク。

そんな二人を見て、ウィルは自分が誘導されていたことを悟った。

 

「あっ、あぶねぇ・・・ハングの話術に乗せられるところだった」

「・・・お前は少しその単純な思考回路をなんとかしろよ」

「へへっ、単純なのが。俺の悪いとこであり、良いとこなんだよ」

「よく言う・・・」

 

ハングはニルスが差し出してくれた白湯に口をつけ、空を仰いだ。

ベルンの山が険しく、雨が多い。今日も生憎の曇天であった。

 

「喧嘩ですか?」

 

ニルスがそう言った。

 

「ん~・・・今回は違うかな」

「へぇ、珍しいですね」

「珍しいって・・・どういう意味だよ」

「だって、ハングさんとリンディス様の夫婦喧嘩は犬に喰わせられるぐらい数が多いって言ってたよ」

 

ニルスのその台詞にハングは鋭い視線で友人二人を睨みつけた。

 

「お、おい!ちげぇよ!俺じゃねぇ」

 

ウィルが慌てて否定する。

 

「僕でもありませんよ!」

 

エルクも手をあげて首を横に振った。

ハングはニルスへと視線を戻す。

 

「ニルス、それ誰から聞いた?」

「セーラさんから」

「エルク!お前じゃねぇか!!」

「ちょっと待ってくれ!!どうしてそうなるんだ!?」

 

冗談はさておき。

 

ハングが悩んでいたのはリンディスのこと。そして、誰かに相談しようと歩き回っていたのも事実であった。

そんな時、焚火の集いにまた一人参加者が現れた。

 

「・・・ハング、もう大丈夫なのか?」

「お、ラス。どうした?」

「・・・小腹がすいてな」

 

ラスが見せたのは木串に刺したパンだ。炙って食べる気なのだろう。

ハング達は腰を動かしてラスが座れる場所をあけた。

 

「・・・向こうで、リンが剣の打ち合いをしていたぞ」

「あいつ、今日もやってるのか」

 

病み上がりのハングには当然声はかかっていない。

それに、彼女は今は自分と顔を合わせたくないのではないかとハングは思っていた。

 

多分、相手はイサドラさんだ。

 

ハングとリンディスが喧嘩している間は彼女がリンディスの相手を務めてると聞いた。

 

「・・・また、喧嘩か?」

「違う。だいたいなんで皆すぐそこに飛びつく」

「・・・お前らの夫婦喧嘩は・・・」

「待て、ラス。それは誰から聞いた」

「・・・?皆言ってるぞ」

「・・・・・・・」

 

それは、それでどうなんだ。

ハングはため息を吐いた。

 

「違うのか?」

「まぁな、ちょっと昔の・・・」

 

『昔の出来事』

 

そう、言いかけてハングはそれは違うと思った。

 

「・・・いや、今の話か・・・」

 

皆の頭に疑問符が浮かぶ。

 

「特に、今回は俺に声をかける資格がないような気がしてさ」

 

そう言われ、ラスが答えにたどり着いた。

 

「・・・復讐か」

「ご名答だ」

 

ラスは炙ったパンを手に取り、囓る。その頬がわずかに緩んでいるのをみつけられたのはハングだけだったであろう。

 

ハングは話を続ける。

 

「俺の復讐はまだ続いていて。彼女の復讐はついさっき唐突に終わっちまったんだ」

 

そして、ハングは皆にワレスの一件を話した。

 

「なるほど、リンディス様の仇がね」

 

ウィルは唇を尖らせ、枯れ枝をそこに乗せる。

ふざけているようにも見えるが、これがウィルなりの考える仕草なのだ。

 

「俺は何も言えないだろ。というより、なんて言っていいか・・・」

「復讐・・・かぁ・・・」

 

ウィルがぼんやりとそう言った。

 

「俺はよくわかんないんだよな。仇がいなくなったから、それでいいんじゃないのか?」

「そう簡単にはいかねぇさ。あいつにとって、両親と一族の復讐は剣を極める目的の一つだったからな・・・」

 

ハングがそう言うと、ニルスが躊躇いがちに声をかけてきた。

 

「ハングさんも・・・そうなんだよね?」

「そうだな。ネルガルへの復讐が軍略を学ぶ理由だし、戦っていける理由でもある。だから、なんというかな・・・俺にはかける言葉がみつからなくてな。何を言っても寒々しく聞こえるだけだ」

 

ハングが『仇が死んで良かったな』だとか『これからは幸せに生きろ』だとか言えるわけもない。

それこそハングはそんな生き方を投げ打ってここにいる。目先の目標は今は少し変わったが、ハングの根本にはやはりそれがある。

 

「・・・リンが乗り越えるのを待つのか?」

 

ラスがそんなことを言い、ハングは頭をかいた。

 

「それがよくわからねぇ・・・あいつ、仇の話をしてから全然反応がなくてな・・・乗り越えようとしてんのか、塞ぎこんでんのか」

 

そんなハングにエルクが口を開いた。

 

「なるほど。リンディス様のことを信じきれないから、悩んでたわけですね」

「エルクって時々きつい言い方するよな」

 

だが、エルクの言うとおりである。

 

「ハングさんはどうして欲しいんですか?」

「・・・そりゃ・・・まぁ、仇がいねぇならそれにこしたことないし、その先の幸せを掴んで欲しいとは思う。とはいえ、そう簡単に割り切れるものでもない。まぁ、どうにもならないときは俺がなんとかするかと思ってるけど」

 

ハングは何気無くそう言った。

 

その途端、周りが驚いたように眼を見開いた。

 

「な、なんだよ・・・」

 

皆はそれぞれ顔を見合わせていたが、ウィルが代表するように口を開いた。

 

「・・・いや、今の台詞って・・・ようするにハングが・・・リンディス様を幸せにしてあげるってこと?」

「・・・・あ」

 

ハングはポカンと口を開いた。

 

今、ハングはなんと言った。

 

『幸せが掴めなかった時は俺がなんとかする』

 

それは当然、ウィルが言った通り、『自分がリンに幸せにする』という意味に要約できる。それを自覚した途端、ハングの頬は昼間に高熱でうなされた時のように熱くなっていった。

 

みるみる赤くなっていくハングを見て、エルクもラスもこらえきれずに噴き出した。

 

「いや、驚いた。もうそこまで話が進んでるんだね。おめでとうハングさん」

「いや、ちょっ、ちがっ、そうじゃなくて!」

「・・・末永く幸せにしてやれよ」

「そういう意味じゃねぇって言ってんだろ!!」

 

珍しくラスまでもが声をあげて笑う。

必死に否定するハングの肩にウィルが腕を乗せた。

 

「いや~リンディス様の幸せはハングが掴み取るのか~・・・あのハングが言うようになって俺は嬉しいぞ。昔はあんなに意地っ張りだったのに」

「うるせぇ!」

 

容赦なくウィルを投げ飛ばし、ハングは荒い息で仏頂面を作った。

そんなハングを見て皆は再び笑い声をあげた。

 

そんな中、ニルスがふと呟いた。

 

「でも、リンディス様が同じ気持ちだったらどうなんだろ?」

「え?どういう意味だよ、ニルス?」

「・・・だって、ハングさんの復讐はまだ終わってないんでしょ?リンディス様もハングさんに対して同じように幸せを願ってるなら、そのことをどう思ってるんだろう・・・って、あれ?僕、変なこと言った?」

 

焚き火の中で木が折れ、火の粉が舞う。

急に静まり返った野営地にどこからか馬の嗎が聞こえてくる。

 

ハングは胃袋に氷塊を放り込まれた気がしていた。

 

ハングは仇を失ったリンディス本人のことばかり考えていて、今の彼女から復讐を抱える自分がどう映っているのかなんて考えてもいなかった。

 

今まで、二人は似たような目標を持っていた。

だが、リンディスの復讐が終わった今、それは無視できない問題になっているような気がした。

 

「・・・俺は・・・」

 

何かを変える時期なのかもしれない。

ハングはそんなことを思っていた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ケントとセインは今日の最初の不寝番であった。

 

キアランから長いこと続く二人の関係。騎士として叙勲を受けている二人は態度に差はあれど、根っこのところは誠実だ。不寝番というキツい仕事も、時折ケントがセインを窘めることはあれど、真面目にやる。

 

だが、今日の二人はあまり身が入っていないようだった。

 

「・・・なぁ、相棒」

「なんだ?」

「どう思うよ」

 

ケントはすぐには答えなかった。セインが言いたいことはわかっている。

 

「・・・・どうもこうもない、と言いたいところだがな」

「まさか、あのワレス様が山賊団を一人で壊滅させるとはね」

 

ケントとセインもタラビル山賊団の壊滅に力を貸すことをリンディスに約束した。その約束も無くなったのだ。

それを、彼らはハングの口から聞いた。

 

「残念・・・なんて、言っちゃいかんしな」

「当たり前だ。リンディス様のお心を患わしていた事柄が一つ減ったのだ。我ら臣下はそれを喜ばなければならん」

「じゃあお前はリンディス様にお祝い申し上げる気か?」

「・・・・・・」

 

ケントは答えられなかった。

 

「まぁ、まだちゃんとお話しした訳じゃねぇし。様子見て言ってみるしかないよな」

「・・・そう・・・かもな」

「お、珍しいな。相棒が俺の言うことを素直に受け入れるなんて」

「勘違いするな。貴様が普段のような態度なら私はこのように同意してはいない」

「うへ、相変わらず固い頭してんな」

 

そんな時、二人の耳に言い争う声が聞こえてきた。

 

「いいって、悪いのは私なんだしさ」

「いいえ、謝るのは私の方よ」

「ちよっと、姉貴ってばもういいって!私がバカだったんだしさ、姉貴は何も悪くないよ!」

「そんなことないわ。悪いのは私よ!私が甘かったの!」

「だから、それが間違ってるんだって!勝手に飛び出した私が全部悪いに決まってるでしょ!」

 

言い争う内容が『お互いが自分が悪い』と言い張るという内容だが口論は口論だ。

ケントとセインは視線だけで会話し、その二人の仲裁に入ることにした。

 

「ああ!フィオーラさんとファリナさんではありませんか!!ここで会ったのも何かの縁!喧嘩などやめて向こうで私とダラガボも!!」

 

仲裁どころか暴走しだした相方を打ちのめし、ケントは改めて二人の間に入った。

 

「差しでがましいようですが、お二人共落ち着いてはいかがでしょう。声がとても響いております」

「あっ・・・」

「す、すみません」

「よかったら、お話を聞かせていただけますか。何か力になれるかもしれません」

「そ、そうです・・・我々が力に・・・」

 

息も絶え絶えになりつつあるセインもそう言った。

フィオーラはそんなセインを冷たく見捨て、軍務についている時のような堅い顔で言った。

 

「いえ、これは家族の問題ですから、お気になさらず」

 

そんな姉とケント達を見比べ、ファリナはおずおずと声をかけた。

 

「姉貴、この人達は?」

 

ファリナの疑問を受け、ケントが直立する。

 

「これは失礼、私は・・・」

 

だが、ケントが自己紹介をしようとした矢先にセインが復活した。

 

「わたくしはセインと申します!!セ・イ・ンです!!ファリナさん!」

「え!え?え!?ちょっ、姉貴、この人なに?」

 

突撃してこんばかりのセインにファリナは思わず姉の背に隠れる。そんな姿はどこかフロリーナに似ていて、やはり姉妹なんだなとケントは思った。

 

「あなたはお美しい!姉君のような見目麗しさの中に妹君のようなお淑やかさも秘め・・・それでいて、自分を見失っておらず・・・」

 

それでもなお詰め寄ろうとるセイン。

それを見て制裁が必要と判断したケントとフィオーラが動き出す。

 

「失礼、少々お待ちください」

「ファリナ・・・ちょっと、待っててね」

 

二人掛かりでセインを動けないようにし、ようやくケントは自分の名を名乗った。

 

「私はキアラン侯爵家に仕える騎士ケントだ。共に力を合わせて主君を勝利に導いて行こう」

「うわっ!」

 

ケントが手を差し出した直後、ファリナは眉間に皺を寄せて飛びのいた。

 

「ど、どうかしたのか?」

 

セインが女性に引かれてるのを見てきたのは数知れず。だが、自分が引かれたのは初めてだったケントだ。彼女の行為に傷つくより先に驚いてしまう。

 

「ケントさんって、もしかしてすっごい真面目でしょ。いわゆる堅物ってやつ」

「・・・よく人に言われるが」

 

主に相方に言われる。

 

「私、真面目な人って苦手なのよね。なんか息が詰まるっていうか、肩がこるっていうか」

「ファリナ!初対面の人に向かって何を言ってるの!」

「フィオーラ殿、自分は気にしておりませんから」

 

だが、フィオーラは妹を叱るのは姉の仕事だと言わんばかりにお説教を始めてしまう。

それに辟易しているファリナは口を尖らせて、明後日の方向を向いていた。

 

「ほらもう!こういうちっちゃなことでガミガミ言う。もうちょっと優しい言い方すればいいのに」

「ファリナ!あなたはいつもそうやって・・・」

「まぁまぁ・・・」

 

また声が大きくなりつつある2人の間にケントが入る。

 

「ファリナ殿・・・フィオーラ殿は君のためを思って叱っていると私は思う。いい姉さんじゃないか。少しは話を聞いてあげても・・・」

「あっ!やっぱり姉さんの肩を持った!!」

「あ、いや、そういうつもりではなく」

「ケントさんって姉さんと同じ匂いがする。私とは絶対馬が合わないタイプね」

「それは・・・なんというか・・・すまない」

「ファリナ!あなたはまた・・・」

「やばっ!ケントさん!背中貸して!」

「えっ、いや、ちょっ・・・」

 

ケントの背中に隠れるファリナ。それでも詰め寄ろうとするフィオーラ。2人に女性に挟まれてしどろもどろになるケント。

 

セインは半ば意識を失いながら、不思議な生き物を見るような目でケントを見ていた。

どんな相手でも自分の間合いを崩さないケントがファリナを相手にペースを崩されっぱなしである。

 

「これは・・まさか・・・」

 

顔を持ち上げ、腕に力をいれて起き上がろうとするセイン。だが、目線だけはケントから切らさない。

 

「ケントさん!ファリナを庇いだてするつもりですか!」

「いえ・・・そういうわけでは・・・」

「あっ!やっぱりケントさんは姉さんの味方するんだ!!」

「えっ・・・いや・・・だからそういうわけでは」

「違うんだったら、ちゃんと行動で示してください!ほらほら、ケントさん頑張って!」

 

ケントの背中を押して、姉に押し付けるファリナ。

その姿を見て、セインはガバリと顔をあげた。

 

「相棒に春が・・・!!」

 

その直後、バランスを崩したファリナの尻がセインの後頭部を直撃して彼の言葉は永遠に大地へと埋められることとなったのだった。


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