【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
リンは夢を見ていた。それが夢だと思うのは現実でないことを理解しているからだ。
リンは使い慣れたゲルの中にいた。
ゲルとはサカの民が使う移動式の住居のことだ。
そのゲルはリンがまだ族長の娘であった頃に使っていたものだった。
リンは最初『あの夢』かと思った。
家族がいて部族の仲間がいる『あの夢』
楽しくて、暖かくて、幸せで。
そして、目が覚めた時に待っているのは静かで孤独なゲルの中。
泣きながら夢から目を覚ますことになる『あの夢』。
だが、リンが見たのは別の夢だった。
「おう、リンディス。今日は随分ゆくっり眠ってたな」
聞き慣れた声がする。
ベットから身を起こすと、ゲルの片隅で剣の手入れをする男性がいた。
「どうした?泣きそうな顔して、また変な夢でも見てたのか?」
サカの民族装束に身を包み、癖のある黒い髪を無造作に束ねている男性。
「ったく、こっち来いよリンディス。さっきデール作ったから、朝飯にしよう」
デールとは肉をパンで包んだ料理。サカの民がよく作る食事だ。
「今回は自信作だ。味見もすませてる。安心して食ってくれ」
そして、弾けたように彼は笑った。
今よりも少しだけ顔が大人びたハングがそこにいた。
「・・・・これは・・・夢よね・・・」
夢に違いない。
夢に決まっている。
だって、こんなことはあり得ない。
私達はナバタ砂漠に入ったはずだし、ゲルなんて持ってない。
第一ハングは自分のことを『リンディス』とは呼ばないのだ。
「本当にどうしたんだ、リンディス?どっか悪いのか?」
心配したハングが近づいてきた。
ベットに体を乗せて、リンの顔を覗き込む。
その時、リンの鼻にハングの匂いが流れ込んだ。
少し埃っぽい土の匂い。
夢だとわかっているのに、やけに現実感があるのは多分この匂いのせいだ。本当にハングがそこにいるような気がする。
「夢よ・・・これは、夢よ・・・」
自分に言い聞かせてないと、どうにかなってしまいそうだ。
何がどうなってしまうのかはわからないが、とにかくこれはまずい気がした。
リンが慌ててベットに手をつくと、そこにはハングの古ぼけたマントが皺になって置いてあった。それは、リンと同じベットでハングが寝ていた証拠。リンは自分の顔に一気に血が登ったのを自覚した。
そんなリンに向けてハングが手を伸ばす。
「んー・・・熱は無いな・・・でも、少し顔赤いか?」
いつの間にかハングの右手がリンのうなじにまわっており、ハングの額がリンのおでこに触れていた。
目の前にハングの顔がある。彼のまつげの一本一本が鮮明に見える距離にまで2人の顔が近づいていた。
そのあまりの距離にリンの心臓は爆発しそうだった。
「病気じゃなさそうだが・・・リンディス?大丈夫か?」
間近でそう言われ、リンディスはさすがに耐えられなかった。
「ど、どうして、私をリンディスって呼んでるのよ!?」
夢の中で怒鳴る。絶対に寝言になっていると思ったが、そんなこと言ってられなかった。
「は?」
「だ、だから・・・なんで・・・私を・・・いつもは『リン』って・・・」
「何言ってんだ?」
心底不思議そうにハングは答えた。
「家族だけの時はいつも『リンディス』って呼んでるだろうが」
「か、かか、家族!?」
「もしかして結婚前の夢でも見てたのか?」
「けっ、けっこん・・・・」
本当に心臓が破裂したかと思った。
私とハングが・・・結婚・・・
そんなこと・・・
あり得ない・・・のだろうか・・・
「寝ぼけてるのか?それとも、誓いの口づけをもう一回やりたいのか?」
「ば、バカ!!!」
「はっはっはっ、冗談だよ。そんだけ元気なら大丈夫そうだな」
快活に笑い飛ばして、ハングはリンから離れていった。
「あ・・・」
離れていくハング。その途端、今度は胸が締め付けられるように痛んだ。
欲しかったぬいぐるみが目の前で買われてしまったようなそんな気分。
その原因もわからずにリンは俯いてしまった。
なんなんだ・・・この夢は・・・
「あ、そうだ、リンディス」
「え?」
顔を上げた瞬間、何かが口を塞いだ。
先程以上の至近距離にハングの顔がある。
何が起きたのか理解した時には既にハングは離れていた。
「な、ななななな何を!!」
「何って、誓いの口づけはご所望じゃないみたいだったからな。『おはよう』の挨拶で口づけをしてみた」
ハングは悪戯好きの子供のように笑っていた。
リンは思わず張り手を振りかぶる。
その拍子に目が覚めた。
目を見開き、見知らぬ天井が目に映る。
慌てて上体を起こすと何かが身体から滑り落ちた。
「よう、気が付いたみたいだな」
声のしたほうを向く。そこには若い頃のハングが部屋の隅で背中を壁に預けて座り込んでいた。
こっちのハングが正しい姿なのだ。
さっきのは夢だ。夢なのだ。
リンは何度も自分に言い聞かせ、深呼吸を繰り返す。
リンはいまだ全力疾走を続ける鼓動を無視して、今いる部屋を確認する。
リンが気が付いた場所は砂の敷き詰められた正方形の部屋だ。
出入り口は見当たらず、右手の壁には拳の痕がいくつか残っている。
おそらくハングが道を作ろうとした痕跡だろう。
そうだ、これが現実だ。
気がついた場所はどうでもいい。とにかく、今のこの時間こそが現実なのだ。
リンはその時になってようやく、自分にかけられていたのがハングのマントだと気が付いた。
リンはこっそりとそのマントの匂いをかいでみる。
少し埃っぽい大地の匂い。
あんな夢を見たのは間違いなくこれが原因だった。
「・・・・・」
夢の内容を思い出し、リンの胸は再び高鳴った。
さっきの夢があまりにも生々しすぎたのだ。
あんなのを見せられて、何とも思わないわけがなかった。
私が・・・ハングと・・・
『大丈夫か?リンディス?』
声が聞こえた気がして思わず顔をあげる。
だが、ハングはさっきと同じ姿勢のままだった。
その横顔はいつものハングだ。
「そういや・・・・」
ハングが喋る。リンはその声が幻聴か現実か一瞬わからなかった。
それほどまでに、最近のリンは幻聴が多かった。
ハングは続ける。
「こうやって・・・二人になるのって随分と久しぶり・・・かな・・・」
「そう・・・かな・・・」
「ああ・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
沈黙が訪れる。それは圧力となって二人の肩にのしかかった。
ハングは苛立たしげに顔をしかめる。
リンはその圧力に屈して顔をさげてしまう。
その俯いたリンの手元にはハングの皺くちゃなマントが乗っていた。
どうしてこうなったんだろ・・・
ハングとは今まで長い時間を一緒に過ごしてきた。軽口を叩きあって、共に笑って、苦しんで、隣に立って歩いてきた。
それなのに、今となってはどんなことを話せば良いのかもわからない。
口を開こうと思っても、どこからか気持ちがこみ上がってきてしまって言葉を飲み込んでいく。
どうしてだろう・・・なんで・・・
2人の間の重苦しい沈黙。
それに先に耐えられなくまったのはハングの方だった。
「そうイや・・・んっ、んん!!」
声が裏返ってしまうハング。それを咳払いでごまかし、改めて続ける。
「そういや。随分と楽しい夢でも見てたのか?」
その瞬間、リンはビクリと身体を震わせた。
「わ、私何か言ってた!?」
「聞き取れるもんは無かったけど・・・なんか随分と楽しそうだったからさ・・・」
「ああ・・・やっぱり!」
これでも、リンだって女の子だ。
ハングに寝言を聞かれたと思うと恥ずかしくて仕方がなかった。
「忘れて・・・」
「え・・・あ、でもなんか・・・可愛かった・・・ぞ?」
「忘れてぇ!!じゃないと、何発か脳天にお見舞いしてでも記憶飛ばすわよ」
「忘れました。何も覚えていません」
リンの一撃を何発か貰ったら前後の記憶が飛ぶことはまれにある。ハングは素早く頭を下げた。
「・・・」
「・・・」
ふと、また沈黙がおりる。
だが、不思議とさっきのような圧力は無くなっていた。
その間合いは心地よく、そして感じ慣れた会話の呼吸だった。
「っくく・・・」
「ふふ・・・」
どちらともなく、二人が笑い出す。
「くっかはははははは」
「ふふふふ、ぁはははは」
それは、腹の中の何かを吹き飛ばすような笑い声。
聞いてる方が幸せになりそうな、そんな笑いだった。
「はぁ・・・なんか、久々に笑った」
「私も」
そしてリンはようやくハングとまともに目を合わせることができた。
さっきの夢のおかげだろうとリンは思っていた。
夢とはいえ、随分と現実感があった夢だ。
あの中であそこまで過激なことを乗り越えた直後ではハングと話すぐらいなんてことはなかった。
「それで、体調は平気か?」
「うん、今は随分といいわ」
今この瞬間によくなった。そんな感じだった。
ハングと普通に会話できる。それが今はこんなにもうれしい。体調が悪いわけがなかった。
不安とか焦燥感とか寂しさとか、今まで心の奥を濁らせていた淀みがどこかに流れ出していく。
「そうか・・・よかった」
ハングが笑った。
それはいつも弾けたようなものではなく、本当に優しそうな柔らかい、幸せそうな笑顔だった。
「あ・・・・」
その瞬間、リンの中で夢の内容が脳裏を駆け抜けた。
その笑みは忘れようもない。
その笑顔はハングと口づけした時、彼が浮かべていた笑顔に瓜二つだった。
リンは自分の唇に指で触れてみる。
匂いは感じてもあれはただの夢。さすがに口づけの感触はなかった。
してみたいな・・・
自然と視線がハングの口元の方へと注がれる。
「・・・って!え!?」
自然と浮かんできた願望にリンは驚きの声をあげた。
今、自分は何を考えた?
何をして欲しいって思った?
急に声をあげたリン。
「どうかしたか?」
気遣うようなハング。
その一声で体が熱くなる。
だが、それは制御のきかないものではなく、体の奥底を宙に浮かせるようなそんな気分を味合わせてくる。
「リン?」
ハングの声はもうリンの耳に届いていなかった。
リンの中では自分の感情と願望が溢れかえっていた。
血液が全身をめぐる。頭の中がのぼせたように火照っていく。
自分は今何を望んだ?どんな未来を期待した?
昔から欲しかったものはなんだったっけ?
その答えが一つの言葉に収束していく。
「おい?大丈夫か?」
「・・・・・・・」
ああ・・・そうだったんだ・・・・
リンは笑ってしまいそうだった。
私は・・・こんなことで悩んでいたのか・・・
「リン?」
「うんん、なんでもない」
リンはハングのマントを手に立ち上がった。
そこから漂う匂いを感じながら、リンは部屋を横切ってハングへと手渡した。
「これ、ありがとう」
「俺は・・・何もしてねぇよ」
ハングは怪訝な顔をしてそれを受け取った。
今まで散々避けられ続けてきたのだ。
それが急に態度を戻されたのではこんな顔にもなるというものだった。
リンはそんなハングを見て、クスリと笑った。
そして、リンはそのままハングの隣に腰かけた。
「・・・・お、おい」
狼狽えたようなハング。リンはその声を無視してハングの肩へと軽く身を寄せる。
半月ぶりぐらいに触れたハングの体温は汗が冷え、とても心地よい温度だった。
やっぱり・・・そうなんだ・・・
自分はハングの旧友に激しく嫉妬した。
ハングを見ると落ち着かなかった。
顔を見るだけで恥ずかしくなった。
そして、こうやって傍にいることで自分の心臓が強い鼓動をみせることが何よりの証拠だった。
ようやく答えが見つかったのだ。
満足そうに目を閉じているリンを見下ろし、ハングは天井を仰ぎ見る。
「ったく・・・最近、逃げられてばっかだと思ったら・・・今度はこれか?」
ハングは呆れたように、それでいて嬉しそうに言った。
「ごめんなさい・・・」
「謝るってことは、問題は解決したのか?」
「うん」
ハングは身体の中の空気を吐き出すかのように大きなため息を吐きだした。
寄り掛かったハングの筋肉が瞬時に弛緩していく。壁に寄り掛かったハングの背中がズルズルと滑り落ちていった。
そんなハングの顔には強い疲労の色が浮かんでいた。
「ハング・・・ごめんなさい・・・私の身勝手で・・・」
「まったくだ・・・でも、まぁ・・・もういいや・・・」
ハングとしても言いたいことはあった。文句や説教の一つでもかましてやろうかとも思っていた。
だが、こうして彼女が隣に座って、何気ない会話をしているとそんな気持ちもどこかへと流れ出ていってしまった。
ハングは眠りに落ちる直前のように疲れ果てた笑顔を浮かべた。
「それで、これからは今まで通りに接していいのか?」
「・・・うん」
「だったらいい・・・神は天に、人は地に、世は全てこともなし、だ」
「え?」
「お前もエリミーヌ教の聖書ぐらいは一度読んどけ」
ハングはそう言ってリンの頭を軽く小突いた。
惚れた弱みだよな・・・
ハングはそんなことを思い、自嘲するように笑った。
ハングは寄りかかりぎみのリンを自分の体重で押し返す。
触れた肩がとても暖かかった。
その時、すぐそばの壁が振動で揺れた。
ハング達は素早く剣を抜きながら立ち上がる。それとほぼ同時に部屋の壁の一部が崩れ去る。
そこから顔を出したのはマシューであった。
「おや、ハングさん。こんなとこにいましたか」
「よう、マシュー。お早い到着だな」
ハングは警戒心を解き、剣を鞘にしまった。
「あれ?もしかして、お邪魔でした?リンディス様」
「いいえ、ちょうど今終わったところよ」
「へぇ~・・・終わったところ・・・」
「マシュー、なんでそこで俺を見る」
「いいえ~なんでもありません。それより、ハングさん仕事がありますよ」
マシューの後ろから金属がぶつかり合う戦闘の騒音が聞こえてきていた。
「わかってるよ。リン、平気か?」
「ええ、今日は絶好調よ」
「んじゃ、行くか。マシュー、戦局は走りながら教えろ」
「了解です!」
リンが放たれた矢のごとく部屋から飛び出していく。
「ハングさん、顔がにやけてますよ」
「うるせぇ、いいだろ別に」
否定しないハング。その背中を見ながら、マシューは喉の奥で必死に笑いをこらえていた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
その後、ハングが戦闘に参加した途端、彼らは流れるようにこの空間を制圧していった。
だが、例の【魔封じの者】はハング達の目の前で転移魔法で消え失せてしまった。
「取り逃がしたか・・・」
ハングはその転移魔法の痕跡をなぞる。
行き先を悟らせない高位の転移魔法。
「やはり、【魔の島】で出会った者と同一でしょうか?」
隣ではカナスもその魔法を調べていた。
ハングは「さあな」と言って、立ち上がった。
「俺は今回、初めてあいつを見たけどな・・・あれは人間か?」
ハングが問うた先はエリウッドだ。
「人の形はしていたが・・・僕はそうは思えなかった」
「同感だ」
目深に被ったフードの下には頭部があったのかもしれないし、顔もあったように見えた。
だが、あれが本当に人なのかはと問われればハングは首を縦に触れなかった。
【魔封じの者】には生きている気配というのがまるでなかった。
暗殺者が自分の気配を消すのとは違う。
奴は気配そのものが世界から欠失しているような感覚だった。
お互い結論が出ない中、静かな声が二人の間を駆け抜けた。
「あれは・・・禁じられた者」
詩のような言の葉。それを唄ったのはニニアンだった。
「自然の理を曲げる・・・者」
謳うニニアン。彼女はどこも見ていなかった。焦点の合わない目で、ただ言葉を紡いでいた。
「ニニアン?」
エリウッドが呼ぶとニニアンは夢から覚めたように我に返った。
「・・・え、あ。エリウッド様・・・わたし・・・」
その時だった。
「おーい!エリウッド、終わったのか!?」
「・・・あ、ヘクトル」
部屋に入ってきたヘクトルに二人の注意が向く。
「だったら、さっさとここを出ようぜ。できるだけ早く、できれば今すぐな!」
二人の前に現れたヘクトルは汗だくだった。戦闘を終えた直後なので汗をかいてるのはいいのだが、どうもその汗に冷や汗が混じっているような気がした。
「何、慌ててんだ?」
「あ、慌ててねぇ!と、とにかく、逃げ場がねぇと・・・」
「ヘクトル!!ここにいたのね!?」
今度はリンが飛び込んできた。
「ま、待て!リンディス!てめぇは誤解してる!!」
「御託は後で聞くわ!とにかく、今は一撃浴びせないと私の気が済まないの!!」
「だ、だからって真剣取り出すんじゃねぇよ!!」
早い段階で危険を察知したハングとエリウッドはニニアンを連れて部屋の隅へ避難していた。
「何があったんだ?」
ハングはそうエリウッドに尋ねた。
「ヘクトルがフロリーナに襲いかかっていたんだよ」
「へぇ・・・なるほど」
「驚かないのかい?」
「いや、ヘクトルならいつかやると思っていた」
「コラぁ!!ハング!てめぇ、聞こえてんぞ!!」
「私の前で余所見とはいい度胸してるじゃない!!」
ヘクトルの悲鳴に近い叫びを聞き流し、ハングは冷静に状況を分析した。
「しかし、リンの耳に入るの早すぎないか?戦闘が終わったのはさっきだぞ」
「・・・私が教えました」
エリウッドの隣でニニアンがぼそりと言った。
そちらを見たハングは自分の体が強張るのを感じた。
今のニニアンは目が据わり、口を真一文字に閉じ、氷山のような冷気を放っていた。
ハングはニニアンが怒っているところを初めて見た。
ニニアンとフロリーナの仲が良いのは知っていたが、ここまで怒るとは予想外だ。
静かに怒る女性程恐いものはない。
今後は気をつけることを胸に刻んだハングだった。
「だ、だからそれは誤解・・・・って、危ねぇ!!」
「チッ」
「おい!キアランの公女が舌打ちなんかすんな!」
「女性を襲うオスティア侯弟に言われたく無いわ!!」
いつものように仲良く喧嘩する2人を眺めていたハング達。
そんな時、パントとホークアイが部屋の中央を避けてエリウッド達のところにやってきた。
「出口が見つかった。早くここから出よう。【生きた伝説】がお待ちかねだ」
「はい」
ハング達は剣が振り回される場所を避けて部屋を出る。
歩きながら、エリウッドはハングに声をかけた。
「それよりハング」
「ん?」
「リンディスと仲直りできたのかい?」
リンディスが元気になったのを見ると結果は良好だというのはわかるのだが、過程を知りたいと思うのは彼の好奇心だ。
「もともと喧嘩なんてしてるつもりは無かったけどな」
「それは、ハング一人で決めていいことじゃないだろ?」
「ごもっとも」
いつだって、喧嘩するには二人以上の頭数がいる。
「それで?」
「仲直りは・・・まぁ、できたと思うんだけどよ。いまいち俺が何をしでかして、何を許してもらったのかがさっぱりわからねぇ。だいたい今回の話は・・・」
笑顔で愚痴をこぼすハングを横目に、エリウッドは楽しそうに笑った。
後方から聞こえるヘクトルの悲鳴を環境音楽にして、ハング達は地下空間を後にした。