【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
まだこの部隊に来て間もないヒース。
ハングが宿にこもってしまった状況では誰と過ごすもできないかとも思っていた。
そんな彼に声をかけてきたのはなんだかんだ話す機会の多かったケントだった。
「ヒース殿」
「ケントさん、今日は休暇ですよ、仰々しい敬称はいりません」
「ふむ、それもそうか・・・しかし、ハングにも昔同じことを言われたな」
「へぇ、あいつがね」
ヒースの知る昔のハングと今のハングには随分と差異がある。
だが、根本的なところはそうそう変わらない。
ヒースにとってはやはりハングはハングだ。
「おや・・・」
そんな、あてもなく観光をしていた二人だが、町の片隅の武器屋に見知った顔が入っていくのを見かけた。
少し気になって中を覗くと、ラスとギィというサカ二人組が武器を見にきていた。
せっかくの休みに仕事道具を求めにくるあたり、休暇を持て余す人種なのだな、とケントとヒースは思ってしまう。
そして、それはこの二人も同じであった。
ケントとヒースは興味深そうに武器屋の中へと入っていった。
そんな二人の足音に気づいてラスが振り返った。
「・・・・ケントか」
その言葉にギィもまた振り返る。
「うぉっ!ビックリした。いるなら声かけてくれよ」
「すまない、驚かせるつもりは無かった」
ケントは手近な槍を手にとってみる。
「ほう、鉄芯入りか・・・」
手に持つとずしりとくる重量を感じる。こうした槍は守りを重視した近衛兵がよく持つ槍だ。人によってはこちらを好む者もいるが、ケントは鉄芯を半分程まで入れている槍が好きだった。
「意外といいものがそろってるな」
同じように武器を物色していたヒースも槍を手に持ち、構えてみる。
重心の位置も申し分無かった。
「主人、これらはどこから仕入れているんですか?」
槍を戻しながらヒースが尋ねた。
「この町の職人は優秀ですからね。これぐらいの品でしたらそこらの鍛冶屋の親父に頼めばいくらでも作ってもらえますよ」
「・・・・本当か?」
食いついたのはラスだった。
ラスはしなりを確かめていた弓を戻し、店の主人に詰め寄った。
「・・・特注もできるか?」
「そうですね・・・堅物な人が多いですからね。こうして私達が仲介しておかないと、武器が出回らないぐらいですし」
「・・・・・・」
ラスは少し悩んだ後で、肩を落とした。
「・・・そうか」
一日の滞在では注文したところで、品を受け取ることはできない。
堅物の職人相手なら更に時間がかかることは請け合いだ。
「お客さん、旅の方ですね。残念ですが当店の品をお選びください」
「・・・そうしよう」
ラスはそのまま店の奥に消えてしまった。
そのラスの姿が見えなくなり、ぼそりとギィが呟いた
「ラスってなんか不思議だよな」
その台詞にヒースも同意する。
「俺もそう思う。傭兵・・・なのだろうが、彼には・・・なんというか・・・」
ギィと同じく傭兵あがりのヒースにもラスには感じるものがあるのだが、いま一つ言葉にできない。
それをケントが上手く言葉にした。
「頼れる・・・そう思わせる何かがある」
「あ、そんな感じだ!」
「それそれ!」
一年前も共に旅を共にしたケント。
最初はどうも信用の置けないと思っていた。
だが、いつの間にかケントはラスの援護ありきで先陣を切っている。
肩を並べてみると、ラスは驚くほどに他者と呼吸を合わせるのが得意だ。
上手く彼らを使ったハングの腕も確かにあるが、それはラス本人の援護能力を買っているからこそだ。
「サカの民はそういった訓練をしているのかい?」
ヒースがギィに話題を振ってみる。
「ん~・・・そんな特別なことはしてねぇけどさ・・・こう・・・風を感じるんだよ」
「風・・・ですか?」
ギィの答えにケントは覚えがあった。時折、リンディスが使う言葉だ。
「そうそう、他の人の風を感じてそれに合わせて動くって感じかな・・・上手く説明できねぇけど」
ギィは恥ずかしそうに頬をかく。
「いや、なんとなくわかった」
「そうか?ならいいけど」
ケント達は気を取り直して、武器屋を物色しだした。
「お!この剣いいな!重さもしっくりくるし。店主、これいくら?」
ギィが剣を手に取って興奮した様子で尋ねた。
「えと・・・これぐらい」
「えっ!!そんなに安いのか!?買った!」
「毎度ありがとうございます」
「店主、この槍だが・・・」
全員の目が活き活きとしだす。
今日は休暇だったはずだが、これはもはや職業病だろう。
そんな店に少し場違いな客が訪れた。
「あ、あの・・・」
「ん?」
その時、たまたま店の出入り口付近にいたヒースが振り返る。
そこには赤髪の女性が立っていた。
「あれ?君は確か・・・衛生兵の・・・」
「はい、プリシラと申します」
杖を専門に扱う彼女が油臭いこんな武器屋に訪れただけで十分に違和感があった。
ヒースはとりあえず、店の外で話を聞くことにした。
「どうしたんだい?」
「す、すみません・・・実は・・・」
小声でプリシラが呟いたが、それは周りの喧騒で掻き消えてしまう。
「えと、ごめん。聞き取れなかった」
「すみません、私・・・はぐ・・・」
どうもよく聞こえない。ヒースは少しかがみ、耳を近づけた。
少し顔が近くなってしまうが、この際我慢してもらうしかない。
「ごめん。もう一回」
「はい・・・私・・・はぐれてしまって・・・」
「はぐれた?」
ヒースが目を合わせると彼女はためらいがちに頷いた。
つまり・・・
「迷子か」
プリシラは顔を赤くして俯いてしまう。
それを見て自分が無神経なことを言ってしまったことに気がついたヒース。
「あ、すまない。他意はないんだ」
それはそれで助け舟になってない気もするが、ヒースにそれを気付くだけの余裕はなかった。
「しかし、参ったな・・・俺もこの町に詳しいわけじゃないし・・・」
「あの・・・セーラさんやレベッカさん達がこの辺りで買い物をしてるはずなんですが・・・」
つまりプリシラは皆との買い物の途中ではぐれたというわけだ。
ヒースはそれを聞き、一旦宿に戻ろうかという考えを改めた。
「そうか、なら大通りのほうへ行けば見つかるかもしれないな」
せっかく休暇に友人達と遊びに出てきたのに、迷子で宿に待機になって終わってしまうのはさすがに酷である。少し彼女の友人を探してみようとヒースは思った。どちらにせよ、彼女一人で見知らぬ街を歩くのは心細いであろう。
ヒースは武器屋の方を振り返った。
「ケント、すまないが俺はこの御嬢さんを送ってくる」
「ああ、大丈夫だ。私はギィとラスと共に周るとする」
「すまないな。せっかく誘ってもらったのに」
「構わんさ」
ケントには後で何か埋め合わせをしようとと考えながらヒースはプリシラと共に店を出た。
「それじゃあ行こうか。とりあえず君の連れに合流すればいいんだね」
「はい、お手数おかけします」
「気にしなくていい、僕らはもう同じ部隊の人間なんだから」
そして、ヒースはプリシラと共に大通りを目指して歩き出す。
「まだ名乗ってなかったな。俺はヒース、元竜騎士だ」
「うかがっています。ハングさんの旧友でしたよね」
「ああ、そっか。この部隊で俺の名を知らない奴はいないか」
謎の軍師の唯一の情報源は有名になる宿命だ。
そして、話題はやはりその『謎の軍師』のことになる。
「ハングさんは昔はどんな人だったんですか?」
「昔も今もそんなに変わらないかな。強いて言うなら、昔はもっと喋らなかったかな」
「へぇ~・・・」
ハングを話の肴にして、二人は『観光』を始めたのだった。
その頃、セーラ達の方ではいなくなったプリシラをどうすべきか話し合いが行われていた。
「ど、どうしよう・・・」と、フロリーナが呟く。
「一度宿に帰ってみませんか?プリシラさんが戻ってきてるかも」と、イサドラが一応提案してみる。
「戻ってきてなかったらどうすんのよ!それこそ時間の無駄じゃない!」と、セーラが息巻いた
「でも、これだけのものを持たせたまま探すのはさすがに」と、フィオーラがそう言って男性陣へと目を向けた。
視線の先にいるマシューやエルクは全身に様々な色の風呂敷包みを背負って疲れ切った顔をしていた。その中で唯一の例外がセインだ。
「気にしないでください!我らは貴方達の為なら石木と化して荷物を持ちましょう!!」
まだまだ元気がありそうなセイン。
マシューはその台詞を聞き、これ幸いと自分の荷物をセインに押し付けた。
「セインさんが石木になってくれるらしいんで、俺らの荷物もセインさんにお願いします」
「あ、僕も」
ニルスも便乗して荷物をセインの肩に乗せる。セインは少し冷や汗をかきながらも、満面の笑みを崩しはしなかった。
「さて、セインは放っといて、本当にどうしましょう」
目元に少し隈を作っているリンがそう言った。
町の中心部に設置された巨大な噴水。
彼女らの周りには大量の土産や服装品や装飾品が並び、随分と楽しんでいることがわかる。
ここから先に何が起こるかわからない今だからこそ、彼女らは散財していた。部隊に荷物の管理に定評のある行商人がいるので、多少高価なものでもためらいなく買えるのもその一因だ。
そんな彼女達がプリシラがいないのに気づいたのはついさっきだ。
一番目立つ場所に移動したものの、どうしたものか彼女は悩んでいた。
プリシラが戻ってくることに期待して宿に戻るのが最善なのかもしれないが、それはそれで困る。
買い物うんぬんではなく、別の問題がある。
女性陣の裏でセーラ、イサドラ、フィオーラがこそこそと話をしていた。
「どうしましょうか」
「とにかく、リンを絶対に宿に戻らせちゃだめよ」
「・・・ですよね」
彼女らが危惧してるのはリンのことだ。
せっかく気分転換に半ば無理やり町へと誘ったのに、ここで宿に戻ってはまるで意味がない。
そうでなくても、今朝方に問題の二人がばったり出くわした時で十分お腹いっぱいだ。
あれはあれで大変だった。
ハングから逃げて部屋に走りこんできたリンは逃げた自分に動揺するし、罪悪感に苛まれて泣き崩れるし、嫌われたかもと恐怖するしでおよそ平常心とはかけ離れていた。
そんな彼女をやっとの事で連れ出して、それなりに笑みも戻ってきたというのに今更宿に帰れるか。
と、彼女たちは目だけで会話する。
そしてセーラはマシューとエルクに目線で合図を送った。
彼らも状況は重々承知している。
「っつうわけで、俺らの荷物はセインさんに任せましたからね。俺とエルクで探してきますよ。宿にも一応顔出してみますし。皆さんは買い物を続けてください。これからは焼き菓子の方を周るんですよね?そんなに大きな町じゃないですから、プリシラさんを見つけたら合流します」
とりあえず、治安だけは抜群によい町なので急いで探す必要は無い。
もしかしたらどこかで大道芸人の見物でもしてるかもしれない。
「私も行きます。プリシラさんが心配ですし」
レベッカが機先を制するかのよううな速度でそう言った。
「わかりました。では三人で探しにいきましょう。皆さん、また後程」
そして、三人は一団から離れていく。
世話好きなリンが『私も行く』などと言い出す前に捜索隊を送り出せたのは僥倖といえた。
彼等の背中が人込みの中に消えるのを見送り、リン達は改めて買い物を再開することにした。
「さて、それじゃあ私たちも周りましょ。セイン、しっかり持ちなさいよ」
「はい!お任せください!あなた方の荷物はこのセインとニルスにお任せください」
「え?僕も?」
荷物持ちが減り。必然的に荷物の増えたニルス。そんな彼にリンが声をかけた。
「ニルス、少し持とうか?」
「いいよ、リンディス様に持たせたら・・・えと、ケントさんとかに合わせる顔がなくなっちゃう」
わずかな間があったのは『ハングさん』と言いかけたためだ。
ニルスでも今のリンの危うさはよくわかっている。
「お優しいリンディス様。その優しさをわずかばかりでもわたくしめに」
「セインは鍛えてるでしょ」
「そ、それはそうなんですが・・・これは・・・」
額に汗を流すセイン。砂漠が近いこの町の気温は比較的高い。
そんなセインにセーラが黄色い声をかけた。
「頑張って、セイン!この買い出しの是非はあんたの両肩にかかってるのよ!」
「はい!!頑張ります!!」
セーラの一言で持ち直したセイン。その単純ぶりにイサドラは苦笑いだ。
「それじゃ、あっちに行ってみましょ。マーカス様が太鼓判を押した焼き菓子屋ってのがあるらしいわ」
セーラに続いて、皆が移動する。
道を歩くだけで周りから客引きの声が入り、次々に試食を進められる。
この雰囲気は観光の町ならではだった。
「ここに何泊もしたら、太っちゃいそうね」
渡された菓子パンの一部をかじりながらリンがつぶやく。
「リンは平気だと思うよ」
休暇ということで『リンディス様』と呼ばなくていいフロリーナは随分と気軽に言ってのけた。
「フロリーナに言われたくはないわね。昔から全然体重が増えないんですもの」
子供の頃から、フロリーナに贅肉が付いているところを見たことがない。
「天馬騎士はそうそう体重を増やせませんから。フロリーナも随分気を使ってるんですよ」
「フィオーラ姉さんも?」
「私は・・・」
「お姉ちゃんはいくら食べてもお肉がつかないの」
「ええっ!!」
過度な反応をしたのはセーラだった。
「嘘でしょ?」
「あ、いえ・・・そんなことは・・・」
あっという間にやり玉にあがってしまうフィオーラ。
「わ、私は昔から訓練とかで忙しくしてたので必然的に・・・」
「私も稽古の日々でしたが、いくら食べてもということは・・・」
イサドラが羨ましそうな目を向ける。騎士はある程度の脂肪も維持しないと務まらないので、その辺の調整には時々苦労してきた。
「フィオーラ姉さん・・・ずるい・・・」
油断するとすぐにお腹や太腿に肉がついてしまうリンが呟くように言った。
このところ稽古が減っているので、特に気にしてるのだ。
「稽古・・・しなきゃな・・・」
リンがそう呟き、一瞬周囲の空気が固まった。
「今度、私がお相手しましょうか?」
「イサドラさんが?」
「ええ、これでも近衛兵の隊長です。お相手には申し分ないかと」
「・・・そうね、こちらからもお願いしていいかしら」
「はい、では今夜からでも」
セーラとフィオーラは一息ついた。
なんとか、あいつの名前が出る前に話がついた。
「あ、ここよここ。ここの蜂蜜を使った焼き菓子が最高においしいんですって」
店に入っていく女性陣を見送ってセインとニルスは同時に荷物を下ろした。
「なんか、蚊帳の外だね僕たち」
「ハッハッハ、この程度でへこたれていては男は務まらないぞ、ニルス」
「セインさんの男の基準ってどこにあるの?」
それでも、後で焼き菓子のおすそ分けが貰えそうなのでまんざらでもないニルスであった。