【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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22章~二つの絆(後編)~

「っと、感動の再開に浸ってても仕方ねぇ」

 

ハングはさほど時間をおかずにヒースの肩から体を離した。

 

「お前は投降しにきた。それでいいか?」

「ああ、異存はない」

 

ハングは袖で乱暴に涙をぬぐい、そしてはっきりした声で言った。

 

「俺はこの軍の軍師になった」

「軍師?ハングがかい?」

「細かいいきさつは後回し。とにかくここを防いでくれ」

「ああ、それなら従わない理由はない」

 

ハングはヒースに向けて拳を突き出した。ヒースもそれに応え、拳をぶつける。

 

「行くぞ」

「ああ」

 

そして、ハングは呆けている仲間にも声をかけた。

 

「お前らも、いいな。ここを通せばニニアン達の部屋まで一直線だ。確実に守りきるぞ!!」

 

ハングのよく通る声が皆の背筋を伸ばす。確かに呆けてる余裕はない。

 

「ヒース、出入り口を陣取れ、弓兵が来たら無理せず後退。ラガルト、援護してやれ」

 

ハングが適切に指示を飛ばす姿を見て、ヒースは苦笑した。

 

「随分とさまになってるな」

「あの後いろいろあってな」

 

ヒースがドラゴンに飛び乗り、出入り口へと移動した。

 

「エリウッド、リン。言いたいことはあるかもしれないが・・・」

「いや、僕は無いよ」

「そうか」

 

懐の大きい貴族だ。

 

「出入り口はしばらく俺とヒースに任せろ。体力が回復したら全員で城外の敵を蹴散らしながら回り込む。いいな!」

「ああ」

「リン、聞いてるか?」

「う、うん。大丈夫、外の敵を倒しながら回り込むのね」

「よし!」

 

ハングはマシューに傷薬を配らせ、そのまま出入り口に陣取るヒースに合流した。

 

「ハングと肩を並べるのも久々だ」

「並んでねぇだろ。俺にはもう相棒がいない」

「ドラゴンの魂は常に我らと共にある」

「ふん、古臭い言葉だ。槍借りるぞ」

 

ハングはヒースの持ち物から槍を盗み出し、それを構えた。

 

「知ってるだろうが、俺は足手まといだ。お前の援護に全力を注ぐ」

「もちろん、そのつもりだ」

 

ヒースが飛び出し、一撃離脱で出入り口に舞い戻る。

その退避の僅かな時間にハングの連続突きが叩き込まれる。

 

ハングがヒースの足を叩いただけで、ヒースが頭を下げる。その直後にヒースの頭上を矢が走り抜けた。

ハングが弓兵に目掛けて槍を投げつけた直後にはヒースが間合いをつめて確実に仕留める。

お互いに何も声をかけずとも、染み付いた動きを繰り返すように二人は動き回った。

 

二人の動きは完全に一致していた。

 

敵兵はその二人が出入り口で睨みをきかせた途端に浮き足立っている。

リンは二人のそんな動きを後ろから見ていた。

 

「・・・なんだろう・・・」

 

少し、胸のあたりがチクリとしていた。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

西側の敵を排除したハング達が回り込めば、側面と前面からの十字攻撃をくらい、ユバンズの傭兵部隊はあっさりと崩壊した。

 

もともと、一撃離脱に長けた部隊だ。相手を全滅させなければいけない状況ではその力を十分に発揮出来なかったようだ。

 

それに、新たな援軍の出現も大いに役に立った。

 

「まさか、お前と出会えるとは思わなかったぞ」

「・・・・俺もだ」

 

ハング達とは別に城の東側の別館を通って奇襲を仕掛けてくれた部隊があったのだ。

その中でハングは顔見知りを見つけていた。

 

「ラス、会えて嬉しいよ」

「・・・ああ」

 

一年前と変わらない姿のラス。相変わらず、語りに抑揚もなく、表情変化も乏しい。

だが、ハングには彼が喜んでることがわかった。

 

「どうしてここに?」

「お前達と別れた後も傭兵の日々だ」

 

必要最低限の言葉ですますラス。

 

「変わらないな、ラス」

 

ハングはそう思った。だが、ラスは違ったようだ。

 

「・・・お前は変わったな」

「そうか?」

 

ハングは自分の身なりを見てみるが、服装は一年前と大差無い。

 

「少し・・・柔くなったな」

「柔らかく?」

 

柔軟になったということだろうか?

 

「憑き物が落ちたような・・・そんな感じだ」

 

ハングは少しキョトンとしたが、すぐに照れ臭そうに頭をかいた。

 

「まぁ・・・いろいろあってな・・・昔みたく、ただ目的を果たす為だけに生きてないってとこか」

「・・・そうか」

 

わかりにくいがラスは笑ってくれたようだった。

それに答えるようにハングも笑う。

 

「・・・俺の手はいるか?」

「武器を持てるなら猫の手でも借りたいぐらいなんだ。力を貸してくれるか?」

「・・・わかった。後で傭兵契約を終わらせよう」

 

その時、伝令が損害報告にやってきてハングとラスはそこで別れた。

ラスが城の中に馬を連れて歩いていくと、そこではなんだか妙な騒がしさに包まれていた。

 

「ヒースさん、ハングとどういう関係なんだ?」

「逃亡兵と聞きました。どこでハング殿と・・・」

「ねぇ、ねぇ、ハングってどこ出身なの?」

 

竜騎士の格好をした青年が周囲から物凄い勢いで質問攻めにされていた。

なぜかその質問内容が本人のことではないのが、なんだか不思議な光景だった。

 

「ラス!?クトラ族のラスね!」

 

そんな時、ラスは聞き覚えのある声を聞いた。

 

「・・・リンか・・・」

 

ラスに驚きは少ない。

ハングがいたのだ、リンがいてもおかしくはない。

その理屈が正しいかどうかは別として、久しぶりなのは確かだった。

 

サカ特有の挨拶を交わし、ラスはこの部隊に入ったことを伝えた。

 

「そう、また一緒に戦ってくれるのね。ありがとう!!」

 

率直な感謝の言葉にラスが照れたのがリンにはわかった。

常人ではほとんど読み取れない変化だろうが、リンには関係ない。

 

「・・・それで、あれはなんだ?」

 

ラスが指差したのはさっきから起きている騒ぎだった。

 

「え!?じゃあハングさんはベルンにいたんですか?」

「元竜騎士・・・逃亡兵だったってこと?」

「死亡扱いだった!?どうしてそうなったんです!?」

 

そこではハングのことについて質問を受ける竜騎士がいた。

 

「ああ・・・あれは・・・ハングの過去を知る人・・・かな」

 

漠然としてるが、伝えたいことは伝わった。

一年前と変わらず、ハングは自分の過去を語って無い。

そこに、彼の詳しい過去を知る人が現れたのだ。

 

皆が餌に群がる野犬のようになるのは必然といえた。

 

ラスはさほど興味は無かったが、別のことが気になった。

 

「・・・お前は・・・聞きたいことはないのか?」

「・・・・・・」

 

目の前の女性がハングに今どんな感情を持っているかラスに知る術はない。

だが、ラスが知りうる限りでも二人の間には一定以上の繋がりがあった。

その彼女が彼等の話が聞こえるか聞こえないかのこの立ち位置にいるのが不思議だった。

 

「・・・・なんか・・・嫌なの・・・」

 

そして、リンは自分の胸の中心辺りをトンと叩いた。

 

「なんか・・・ここがね・・・嫌なのよ」

 

そのまま、リンは肉ごと抉る勢いでその場所を鷲掴みにした。

 

「・・・わかんないけど・・・嫌なの・・・」

 

困ったような顔をしているリン。ラスはその感情の名前を知っていた。

 

だが、何も言わなかった。そして、思うことは一つ。

 

後で一発殴っておいてもいいか・・・

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

戦の処理もひと段落ついた頃、ようやくオスティア侯ウーゼル様の到着となった。

ウーゼル様との会合にはエリウッド、リンディス、ヘクトルの三人によって行われた。

 

「生きておったか、我が弟よ!長く連絡の一つも、よこさぬからもうこの世にはいないかと・・・明日にでも葬式をだすところだったぞ」

 

感動の再会も冗談の一つから。エルバート様ほどではないにしろ、随分と親しみやすい領主様である。

 

「・・・悪かったよ。いろいろ忙しかったんだ」

 

ヘクトルはわずかに渋面を作ってそう返す。兄に頭が上がらない弟の絵はエリウッドには見慣れたものだった。

 

「・・・レイラからの報告で大体のことは聞いておる」

 

ウーゼルはエリウッドに向き合った。

 

「・・・エリウッド。エルバート殿のことは、わしも残念だ。すまない。何も力になれなかった」

 

それは真摯な言葉だった。だが、エリウッドはぞれだけで十分だ。

真実が別にあるとはいえ、エルバートがオスティア転覆を計った一団に所属したのは事実。

真実は自分の胸に秘めておけばいいことがらだと、エリウッドは割り切っていた。

それでも、オスティア領主にそう言って貰えたことはやはり大きかった。

 

「いえ・・・どうしようもなかったのです」

 

謝罪の言葉もそこそこにして、エリウッドは本題へと切り出した。

 

「・・・それよりも、ネルガルのことはご存知ですか?」

 

今度はウーゼルが渋面を作った。その表情はヘクトルと瓜二つだ。

 

「いや、報告されたことのみだ・・・1年前、突如として現れ。あっという間に【黒い牙】を掌握、そして、ラウス侯を抱きこみわがオスティアへの反乱を企てる・・・それだけだ」

 

そこまでは確かにレイラが持っていた情報に合致した。

そして、そこから先を伝えようとしてレイラは口を封じられた。

エリウッドは重い口を開き、真実を語った。

 

「・・・やつの狙いは・・・人竜戦役いなくなった【竜】を・・・もう一度、この大地に呼び戻そうとしているのです」

 

ウーゼルの目が見開かれる。

 

「そんなことができるのか?」

 

にわかには信じがたい。それでも、エリウッドがこの場で嘘や酔狂を語っているような人ではないことはウーゼルは知っていた。

 

「はい。詳しくお話しします」

 

そして、語りだしたエリウッド。

 

【魔の島】【竜の門】【エーギル】

目の前で確かに味わった【竜】の圧倒的な脅威。

 

度々、ヘクトルやリンディスに手伝ってもらいながら、エリウッドは最後まで自分の経験を語ったのだった。

 

そして、全てを聞き終えたとき、ウーゼルはこう言った。

 

「少し考える時間が欲しい」

 

エリウッド達はウーゼルを残し、部屋を後にする。そこにはハングが腰かけてニニアンと部屋の護衛のオズインを交えて談笑していた。

 

「どうだった?」

「さすがの兄上も考え込んじまった」

「だろうな・・・」

 

ハングは立ち上がってマントの埃を払った。

 

「なんでも即断即決が兄上の信条だったのに。こんなこと・・・初めてだ」

「・・・反乱騒ぎから一転して人類の危機なんだもの。目の当たりにした私たちでも・・・信じられないのだから」

 

リンはハングを見て、胸に小さな痛みが走った気がしたが、なんとか無視した。

 

「でも・・・そいつは残念なことに現実だ。放っておけば、取り返しがつかなくなる」

 

ハングがそう言うと、ヘクトルが疲れたように自分の希望を言ってみた。

 

「本来なら、大陸中の国々が手を結んで人竜戦役のやり直し!ってところなんだが・・・」

 

その続きをエリウッドが引き取る。

 

「肝心の【竜】の存在が見えなくば・・・どこの国も信用しないだろうな」

 

エリウッドの言葉の方が現実的だ。これまた残念な現実だ。

 

「【竜】が来てからじゃきっと手遅れね・・・」

「【竜】が来て、七日以内に全ての国がまとまれば可能だろうけどな」

 

それは絶望的な期限だ。

 

「今のうちに止めるしかないんだ・・・それは、この危機を知る僕らにしかできない」

「だろうな。それ以外にないだろう」

「おう!」

「そうね」

 

結論が出た。いや、それは最初から出ていた。

問題はそれを受け入れるかどうかだっただけだ。

 

「そうと決まれば、兄上に報告だ。行こうぜ二人とも!」

 

ヘクトルは今しがた出てきた部屋に舞い戻っていく。

それを見送り、エリウッドはハング達を振り返った。

 

「ハング、ニニアン。やっぱり、二人も一緒に来てくれないか?」

「は、はい・・・」

 

ニニアンは二つ返事だったが、やはりハングは少し困ったような顔をした。

 

「今後、どういうふうに動くのが一番なのかはハングが理解している。ハングがいてくれるた方がいい」

「・・・わかったよ、わかった。行けばいいんだろ」

「ありがとう」

 

そして、部屋に入ったハング。ヘクトルが既に説明を終えていたようで、ウーゼル様は結論を出しているようだった。

 

渋々といった感じで部屋に入ってきたハングに、ヘクトルが『待ってたぜ』といった視線を向けてきたのが無性に腹立たしい。

 

「話は聞いた・・・おまえたちだけにまかせるのは本意ではないが、それ以外に策はないとちょうど考えていたところだ。不肖の弟はともかく、エリウッド、リンディス・・・君たちの決意は変わらないのだな?」

 

ウーゼルは入ってきた二人にそう声をかけた。

 

「はい、覚悟はできています」

「私も・・・人まかせにして変化を待っているだけというのは・・・性に合わないので」

 

そして、次にウーゼルの視線が向いたのはエリウッドの後ろにいたハングだった。

 

「そして君がハング殿か。弟たちが世話になった」

 

『殿』という敬称。

騎士達からは度々言われるが、こんな目上の人に言われるとどうもこそばゆい感じがした。

 

「・・・君も、この者たちとともに苦難に立ち向かうことを選ぶというのか?」

「ここまで首を突っ込んで今更背を向けるつもりはありません」

 

もちろん、それだけでは無い。

いくらそちらが大事とはいえ、ハングは復讐を諦めたわけではないのだ。

 

「・・・そうか。では、もう何も言わん。できるかぎりの協力はする・・・がんばってくれ」

 

『がんばってくれ』

 

そこには、言葉しかかけられないウーゼルの悔しさが込められていた。

エリウッド達は真剣な顔で頷いた。ウーゼルの言外の意味はしっかりとエリウッド達に通じていた。

 

ウーゼルは一度咳払いをして空気を切り替え、もう一人の入室者に声をかけた。

 

「・・・それから、その少女が先ほどの話に出てきた子か?」

「ああ、ニニアンだ」

「・・・は、はじめましてオスティア侯さま・・・」

 

ニニアンは少々どもりながらそう言った。それでも、人見知りする彼女にとっては上出来だろう。

 

「・・・では、君に聞きたい。ネルガルが今、どこにいるかわかるだろうか?」

 

決して威圧的にならず、聞くものを安心させる声音でウーゼルは尋ねた。

 

「はい。とても遠いけれど・・・東に・・・気配を感じます」

「東・・・」

 

リンは一瞬ハングに視線を送る。

 

「次の狙いは、ベルンってことか」

 

そんな視線に気づかずヘクトルが結論を出した。

 

「それは・・・まずいな。ベルンは軍事大国だ。ネルガルに抱き込まれては・・・どうしようもない」

 

渋い顔のウーゼルにニニアンが言った。

 

「・・・まだ少し、時があります。あの人の気は・・・まだとても弱っています・・・今のうちに・・・なにか手を・・・・」

「ネルガル自身が動き出すには時間がかかるってことか?でも、何をすれば・・・」

 

エリウッドの問いにはヘクトルが答えた。

 

「とりあえずベルンに行くしかないか?」

 

ハングに話が振られ、彼は少し考え込む。

そのハングの答えを待たずに先に声をかけたのはウーゼルだった。

 

「・・・時間があるのなら行き先は、キガナだ」

「キガナ?ベルンとは正反対だぜ!?」

 

キガナとはオスティアの南西にあるナバタ半島の入り口にある町だ。

 

「ナバタ砂漠に向かえ・・・」

 

『砂漠』

 

昼は灼熱、夜は極寒。一滴の水も無い不毛の大地。

ナバタ半島にはナバタ砂漠と呼ばれる広大な砂砂漠が広がっている

 

「ナバタ砂漠で助けが得られるかもしれん」

「どういうことですか?」

 

その質問はハングから発せられた。

それに対するウーゼルの答えはこうだった。

 

「そこで、生きた伝説に会ってくるのだ」

「生きた・・・伝説?」

 

ハング達の疑問符にウーゼルは真剣に頷いたのだった。


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